「目を醒ますとそこは地獄だった」
「のっけからなに言ってんだお前」
目を覚ました僕の第一声に、イッセー兄ちゃんがそんなことを言ってくる。
「目は覚めたかしら? 神結悠斗くん」
心配そうに優しくそう声をかけて来るグレモリー先輩。
しかし僕は知っている。
彼女は悪魔(本物)だ。
「…………」
僕は無言でイッセー兄ちゃんの後ろに隠れる。
「あら? 嫌われてしまったかしら?」
「あー、いえ、ただ単にコイツ、滅法怖がりなんで、この部屋の雰囲気が怖いそうです」
イッセー兄ちゃんが代わりにそう答えるけど、違う、違うよ兄ちゃん。
そんな風にイッセー兄ちゃんの後に隠れている僕を見て、グレモリー先輩が困ったように笑う。
「…かわいい」
ふと、後ろからそんな声が聞こえた。
………大丈夫。ビックリしたけど、今度は大丈夫。
跳ね上がる心臓を落ち着けて、後ろを振り返る。
するとそこには、黙々と羊羹を食べながら僕を見つめる白髪の少女が一人。
可哀想に。
確かに、身近に悪魔がいる生活は辛そうだなぁ…………。
「…なんか失礼なことを考えてる?」
そこで、僕たちのやり取りを見た姫島先輩が、声をかける。
「あらあら、やっぱり同じ一年生同士、気が合うのかしら?」
「え? 高校生!?」
…………殴られた。
いや、確かに僕が悪いんだけどさ。ごめんなさい。
「えっと、ごめんなさい。一年の神結悠斗です」
「…―――ッ! そ、そう。同じく一年の、塔城小猫。よろしく」
あれ? なんかぎこちないな。まだ怒ってるのかなぁ…………うう。
ん? 小猫?
「…どうしたの?」
「いやぁ、なんか昔飼ってた飼い猫と同じ名前でさ、ちょっとビックリしただけだよ」
「あら、ハルトくん、猫を飼っていた事が?」
僕の言葉に、姫島先輩が質問してくる。しかしその視線は何故か塔城さんに向けられている。
「そうなんですよ、姫島先輩。昔、コイツん家に毛並みの綺麗な白猫がいて、コイツにスゴい懐いてたんですよ」
イッセー兄ちゃんがそう答える。
………なんで塔城さんが朱くなってんの?
でも、
「違うよ、イッセー兄ちゃん。アレは多分、懐いてたとかじゃなかったと思うよ。いつの間にかいなくなってたし」
猫ってのは気ままで自由な生き物だからさ。人には懐かないって言うし。
…………元気にしてるかな、アイツ。
「…違う」
「え?」
「…きっとその猫は、あなたの事大好き」
「……はは、なんで塔城さんが答えるのさ」
気を使ってくれたのかな? 優しい女の子だ。
ストレスとか大変だろうけど、応援してるからね。
「…小猫」
「ん?」
「…名前、小猫。名前で呼んで。私もハルトって呼ぶから」
塔城さんから、そんな提案が出される。
まあ、一年生同士だから仲良くしようって事なのかな?
「うん、わかったよ、小猫ちゃん」
「…う、うん。よろしく、ハルト」
まあこの部活には入んないけどね!
◆◇◆◇◆◇◆
―――カミユイハルト。
私のご主人様。私の、大好きな人。
彼は昔、私を助けてくれた。
姉様が殺した悪魔の関係者達に、復讐として襲われて、傷付いて、ボロボロになりながら、私は何とかこの町まで逃げてきた。
体は痛くて、心は寂しくて、心身ともにボロボロで、もう、自分の命すら諦めかけていたとき、私は彼に救われた。
傷の手当てをしてくれて、温かいご飯をくれて、優しく撫でてくれた。
本当にボロボロだった私は、それだけで恋に落ちた。
その時はまだ幼かったし、今では自分でも、本当に単純な理由だなって思う。
でも、それでも、私は彼が大好きだった。
いや、過去形なんかじゃない。今でも大好きだ。忘れるわけがない。
ご飯をくれた。優しく撫でてくれた。
―――そして、何より、
彼と過ごす日々は楽しくて、幸せで、ずっとこんな日々が続けば良いと思ってた。
思って、しまっていた。
なんて馬鹿なんだろうと思う。
私は賞金首の妹で、私自身も追われる身なのに。その家が心地よすぎて、彼の隣が暖かすぎて、私はそれを失念してしまっていた。
だから、私は家を出た。
誰にも気付かれないように、皆が寝静まった夜に、コッソリと。
彼に危害が及ばないように。彼の家族を危険に晒さないように。
辛かった。悲しかった。寂しかった。怖かった。
それらの想いで胸が張り裂けそうで、それでも私は逃げ続けた。
なるべく彼から遠ざかる為に。奴らの目を、彼らに向けないために。
そして
リアス部長にであって、悪魔になって、そして、追っ手もいなくなった。
そして、今度は、彼に再会した。
会いたくて愛しくて、だけども彼は人の姿をした私を知らなくて会えなかった彼に、私は今日、ここで、再会した。
同じ学校にいるのは知っていた。同じ学年だと言うことも知っていた。
だけど勇気がなかった。
だから感謝しよう。
悪魔だけど、神様に。
悪魔だから、魔王様に。
眷族だから、部長に。
ありがとうございます。
私にチャンスをくれて。
もう一度、彼に会わせてくれて。
だけど、私って、そんなに子供っぽく見えるのかな?
怒るよ?
小猫ちゃんのこの圧倒的ヒロイン感。
いやヒロインだけどさ。