イッセー兄ちゃんが眷属になって幾日かたったある日、兄ちゃんが僕に質問してくる。
「なあ、ハル」
「なに? イッセー兄ちゃん」
「思ったんだけどよ、お前のあの怖がり方、ちょっと異常だぞ? なんであんなに怖がるんだ?」
イッセー兄ちゃんのその質問に、部室中にいる皆の視線が僕に集中する。
そう、僕はあの後、結局なし崩し的に部活に所属することになった。
まだ悪魔は怖いけれど、優しくしてくれる皆の事は好きだから、なるべくこの部室に来て、少しでも早く馴れるように努力している。
そんなとき、イッセー兄ちゃんの質問が来たんだ。
「そうね。確かに気になるわ」
「ホラー映画のトラウマってだけにしては、異常なくらいだったしね」
グレモリー先輩と木場先輩も便乗してくる。
怖がる理由か…………。
うん、今なら信じて貰えると思うな。
「あれは確かね、まだ猫の方の小猫を拾う前だったかなぁ…………――――」
▲▽▲▽▲▽▲
そのころに僕さ、傷だらけの女の人を助けたことあるんだ。確か、顔はあんまり覚えて無いけど、黒い着物を着た綺麗な人を。
まあ、助けたって言っても、子供の僕にできる事なんて、秘密基地を隠れ場所として提供して、食べ物とか絆創膏を持って行ってお話しするだけなんだけどね。
それでも、感謝されたのは覚えてる。
え? 秘密基地? ほらあそこだよイッセー兄ちゃん。小学校の近くにある雑木林。あそこに僕と兄ちゃんと元浜先輩達の四人で作ってたでしょ?
でもね、今なら分かる。あの女の人、多分悪魔だったんだよ。
そして、何かに追われてた。
だからね、一緒にいる僕も悪魔に襲われたんだ。
凄く怖かった。
僕は殺されかけたし、実際、女の人が助けてくれなかったら僕、死んでたかも知れない。
しかも襲われたのがさ、イッセー兄ちゃんとホラー映画を見た後だったんだ。
だから、その時の恐怖が残っててさ。
怖かったんだ、ホントに。
僕に襲いかかってくる炎、雷、氷、それ以外にも、沢山の
助けてくれた女の人には悪いけど、僕はその人も怖かったんだ。
だって、その人が何かした瞬間、辺りが真っ赤になったんだもん。
今、整理しながら話してるし、皆がいるから落ち着いて話していられるけど、本当は僕、今でもこの記憶は怖いんだ。
だからあの時、僕は取り乱したし、女の人に多分、酷いことを言ったんだと思う。
でもね、後で振り返って見るとさ、その人、僕に泣きながら謝ってたんだ。
詳しいことは覚えて無いけど、ひたすらに「ゴメンね」って。それだけは、しっかりと記憶に焼き付いてる。
そしてその次の日から、僕はその女の人に会わなくなったんだ。
ううん。会わなくなったと言うより、会えなくなった、かな。
次の日、僕が秘密基地に言ったら、どこにもいなくてさ、書き置きがあったんだ。
綺麗な字でさ、「ゴメンなさい」って一言だけ。
▲▽▲▽▲▽▲
「だから、僕にとって悪魔は今でも怖い存在だけど、そのきっかけになった出来事は、後悔でもあるんだ」
「…後悔?」
「うん、そうだよ小猫ちゃん。あの人は僕を助けてくれた。それなのに僕はあの人に酷いことを言って傷付けてしまった、後悔の記憶」
僕が語り終えると、部室内に重い沈黙が訪れる。
「…でも、その人は追われてたんでしょ? だったら、ハルトはそれに巻き込まれたんだから、その人のせいとも言えるんじゃない?」
「そういう事じゃないんだ、小猫ちゃん」
小猫ちゃんの言葉に、僕は否定を返す。
「その人のこと、僕大好きだったんだ」
「…――――ッ!」
「今思えば、アレが初恋だったのかもしれない。僕はそんな人に、酷いことを言った。そんな後悔なんだよ」
「…そう」
僕にとって、この記憶はとても複雑な物だ。
凄く怖くて、切なくて、悲しい記憶。
誰にも信じてもらえないから、これまでずっと抱え込んでいた記憶。
僕は今、それを初めて他人に話した。
それだけでなんだか、身軽になった気がした。
これで少しは、この恐怖症も、マシになるかな?
◆◇◆◇◆◇◆
姉様だ。
今のハルトの話に出てきた女の人、それは多分、
まったく。
姉妹揃って同じ人に、同じように救われるなんて、なんて似た者姉妹なんだろうか。
姉様の事は嫌いだし苦手だけど、やっぱり家族なんだなって思ってしまう。
―――姉様は、ハルトのこと、どう思っているのかな?
もし姉様と再会したらハルトは、どんな反応をするのかな?
顔は覚えてないってハルトは言っていた。でもきっと、もう一度会えばハルトは思い出す。
だって、姉様はハルトにとって初恋の相手だから。
もし、もしそうなったとき、私はどうするんだろう。
怖いな。
姉様とハルトが再会するのが。ハルトに、私の気持ちを伝えるのが。
ねぇ、ハルト。
ううん、ご主人様。
もし私が、あなたの
喜んでくれる? それとも怖がる?
あなたに救われた二匹の猫は、
今はまだ勇気が無くて伝えきれないけれど、いつか、いつの日かあなたに伝えます。
本当の事を。
私の想いを。
だから、待っててね、ハルト。
姉様には、負けないんだから。
猫は餌付けされて懐く。
姉妹揃って餌付けされていた事実。
そしてちゃっかり彼女にもフラグを建てている辺り、流石オリ主。
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