「きゅう…………」
「ハル!」
恐怖で意識が遠退く。
いつもなら、僕はこれで気を失っていただろう。
でも、
「…………ふりゃ!」
「耐えた!?」
今も恐ろしくて、怖くて仕方がないけど、でも、ここで気を失ったら意味がないんだ!
僕は決めたんだ、変わってやるって。
もう皆を怖がりたくないから、自分に嫌気を感じたくないから、だから僕は、ここで気を失ってはいけない。
足はこれ以上ない位に震えてて、今にも神機を取り落としそうだけど、僕は前を見つめる。
敵を、見据える。
すると、僕の両肩に手が置かれる。
「…大丈夫だよ、ハルト。私達が付いてるから」
「そうですわ。ここには、皆がいますのよ?」
小猫ちゃんと姫島先輩が、優しい笑顔を僕に向けながら、そう言って来る。
―――うん、わかった。
そう頷き返すと、二人は安心したように、僕から手を離し、前を向く。
その視線の先では、グレモリー先輩とはぐれ悪魔が言葉を交わしていた。
「その紅の髪のように、お前の身を鮮血で染め上げてやるわぁぁぁ!」
「悪役ほど洒落のきいたセリフを吐くものね。祐斗!」
「はい!」
グレモリー先輩の呼び掛けに、木場先輩が飛び出す。
正直、速すぎて殆ど見えなかった。木場先輩の姿が霞んで見えたくらいだ。
「ハァッ!」
いつのまにか木場先輩の手に握られていた長剣の銀閃が走る。
そして、その光景に遅れて、金属と金属を打ち合わせるような音が何度も響く。
「くっ!? 部長、コイツ、物凄く硬いです。まるで全身が金属のような硬さです」
「そう。なら小猫、朱乃!」
「…はい」
「はいですわ」
今度は、僕の隣にいた小猫ちゃんが駆け出し、姫島先輩が歩を進める。
「…斬れないなら、砕けろ。えいっ」
何とも力みの無い言動とは裏腹に、小猫ちゃんの鋭い踏み込みから放たれた一撃は、その矮小さからは想像もできない轟音を響かせて、化け物を吹き飛ばす。
「…ハルトに良いところ、見せるんだから」
何か小猫ちゃんが言っているようだけど、何て言ってるかは聞き取れなかった。
だって声ちっちゃいし…………。
「あらあら、張り切ってますわね、小猫ちゃんったら。これは私も、良いところ見せなくてはいけませんね」
姫島先輩が手を上に翳す。
瞬間、眩い閃光とともに雷が化け物に直撃した。
化け物は激しく痙攣し、体から煙を上げる。
………ちょっとどころじゃないくらいグロい。
「あらあら、まだ元気そうね? まだまだ行けそうですわ」
再び雷が化け物を襲い、感電させる。
「うふふふふふふ」
姫島先輩は笑っている。それはもう、本当に愉しそうに。
「ひぃっ!?」
あまりの恐ろしさに、僕は悲鳴を上げる。あの人やっぱり怖いよ。
「…………大丈夫よ、ハルト。朱乃は身内には優しいから。あなたのこと気に入ってるみたいだし、甘えたらきっと優しく抱き締めてくれるわ。多分」
グレモリー先輩、最後の一言で台無しだよぉ…………。
姫島先輩、ホントはオカ研じゃなくて、愉悦部なんじゃ無いのだろうか…………。
「
所々黒焦げになりながらも、化け物は魔力を放出して姫島先輩の雷を消し飛ばす。
「【
化け物が魔方陣を構築して、僕たちに反撃をしてくる。
…………いや、一応ちゃんとした技なんだろうけどさ、それはないわー。
だってさ、おっぱいもんで乳首に魔方陣だして、そのまま乳首から攻撃してくるんだもん。
なんか色々と、おかしい攻撃だなぁ。
「のぉうわ!?」
だけど、やっぱり【
意外と強力な酸だ。
「きゃぁ!!」
僕たちは何とか避けられたが―――僕は小猫ちゃんに、兄ちゃんはグレモリー先輩抱えられて、だけど―――、姫島先輩は近くにいたために少し反応が遅れて、右足に少し酸がかかり、火傷してしまう。
「朱乃!」
「姫島先輩!!」
僕とグレモリー先輩の声が重なる。
「まずは貴様から溶けて消えろぉ!」
化け物が両手を構えると、先程と同じ魔方陣が構築される。ただし、大きさはさっきの倍以上だ。
「まずいわ! あけn――「姫島先輩ッ!」え?」
気がつけば僕は駆け出していた。
殆ど無意識に小猫ちゃんの腕から抜け出し、無我夢中で姫島先輩のもとまで駆け寄る。
「死ね! 雷撃の小娘ぇぇ! 【
「さ、せ、る、かぁぁぁあ!!」
僕が姫島先輩の前に飛び出した瞬間、大量の酸が砲弾のように襲いかかってくる。
例え神機の装甲を展開しても、本来なら間に合わないはずだった。
もし間に合ったとしても、僕の装甲はシールドで、後ろへダメージが通るはずだった。
だけど、
僕の神機は、握れば握るほど、その神機の情報が頭に入ってくる。
何ができるのか、何をすべきなのか。
だから、わかるんだ。
今のこの、絶望的な状況を切り抜ける為の方法が。
脳裏に声が響く。
――――
――――【穴熊】
体が動く。
何かに導かれるように、確信を持って。
発動したのはスキル。
それも、防御系最強のスキル。そうだ、これは僕がゲームで使っていたスキルじゃないか。
凄まじい衝撃が装甲を襲うが、僕らには一切のダメージは通らない。
【穴熊】に含まれているスキルたちが、すべてのダメージを無効化していく。
「ば、バカな! 無傷だとぉぉぉ! 人間めぇぇぇ!」
化け物は、先程の攻撃が効かなかった事に驚愕し、今度は僕から潰そうとしてくる。
「逃げて、ハルトくん!」
姫島先輩の悲鳴に近い声が聞こえる。
でも、そういうわけには行かないんだ。
「大丈夫ですよ、姫島先輩。僕だって、戦えるんですから」
神機を構えると、神機を握る両手に脈動を感じる。
まるで、獲物を目の前にした獣のように。
「行くよ、神機! 喰い千切れ、【
神機は形を変え、化け物に食らい付く。
相手はアラガミじゃないけど、神機が教えてくれる。
僕は悪魔や堕天使のような超常を喰らうことで、
「リンクバースト、発動!」
限界を超えられるのだと!
体を光が包み込む。力が溢れる。
――――同時に、少しだけ、お腹が満たされたような感覚が訪れる。
「小賢しぃぃぃい!」
その質量を持って押し潰さんと走ってくる化け物を前に、僕は一つの構えを取る。
それは、ゲームで『ゼロスタンス』と呼ばれていた構え。
「ブラッドアーツ発動」
イメージするのは、神速。
すれ違いざまに切りつける、あの技。
「切り刻まれろ。【疾風ノ太刀・鉄】!」
化け物が刻まれる。
『
「ぎゃぁぁぁぁあ!」
「これで
1歩、僕は踏み込んだ。
剣の切っ先を相手に向け、力を溜める。
刀身に纏うのは、金色のオーラ。
「穿ち砕け! 【轟破ノ太刀・金】!!!」
直後、響くのは轟音。
突き出した剣は、化け物よ腹を突き破り、化け物部分と人型部分を切り離した。
よって、断末魔の叫び声を上げる。
それを見ながら、僕は
「だめ押しだけど、返すよ」
そして打ち出したのは、先程食らった、酸の【アラガミバレッド】…………いや、悪魔だから【イーヴィルバレッド】とでも名付けようか。
そしてついに、化け物、はぐれ悪魔バイザーは、この世界から完全に消滅したのだった。
◆◆◆◆◆
バイザーが完全に消滅したのを見届けた僕は、その場で尻餅を付く。
正直、アドレナリンが出てたから戦えたけど、もうヘトヘトだ。
戦うのは怖いけど、もしかしたら、これからもこんな闘いがあるのかも知れない。だったら、この慢性的な体力不足をどうにかしなくちゃな。
「ハルトくん!」
いきなり、後ろから抱き付かれる。
なんかデシャヴ。
「ありがとうございますわ、助けてくれて」
やっぱり姫島先輩か。
「いえ、無事で何よりです。足、大丈夫ですか?」
「ええ、このくらいなら。本当に、ありがと う……………カッコ良かったですわよ、ハルトくん」
そんなこと耳元で言わないでください。
凄くこっ恥ずかしいです。
「…ハルト、デレデレしないで」
痛い痛い痛い!! 小猫ちゃん耳引っ張らないでよ取れちゃうって!
これで少しは、皆の事、怖くなくなったかな?
うん、なくなったかも。
敵強化【小】とか言いつつ、バイザーが結構強化されてましたすみません。
それと、オリジナル技まで出しちゃいました…………。
朱乃さん、陥落。