プロローグ
―――熱い。
まるで右腕が灼かれているように、凄まじい熱さが覆い尽くす。
―――痛い。
もはや痛い、等という言葉では言い表せない痛みが、全身を突き刺す。
「は――――ッ!」
息が漏れる。
僕の目には今、四つの異形が写っている。
―――気高き、白狼の王。
―――誇りある、鋼の騎士。
―――妖艶な、魔女の女王。
―――そして、形を持っていない、黒いナニカ。
その四つが、今僕を見下ろしている。
品定めするように、僕を見ている。
『これが、新しき主か』
白狼が、厳かにそう呟く。
『そのようです』
それに騎士が答え、
『あらあら、可愛いご主人様ですこと』
魔女が、妖艶に嗤う。
『そなたはどう思う? 《紡ぎ手》よ』
白狼が問いかけるのは、黒いナニカ。
《紡ぎ手》と呼ばれたそれは、その問いに呼応して蠢く。
声は聞こえなかった。
だが、彼らには届いたのだろう。蠢きを何らかの返答とし、頷く。
『では我ら、《紡ぎ手》と
『汝を我らが王とし』
『ここに、忠節の意を表しましょう』
《紡ぎ手》を中心とし、白狼、騎士、魔女が僕を取り囲む。
『我らはそなたが望んだ物』
『汝が夢見て、憧れた物』
『あなたの願いを叶える物』
囁くように、歌うように、言い聞かせるように、彼らは言葉を紡ぐ。
僕が望んだ物。
―――それは力だ。ありきたりだけども、誰かを守れる力。
僕が憧れた物。
―――それは武器だ。神にも届き、そして神をも下せる強い武器。
僕が願った物。
―――それは超常殺しだ。僕の目の前で、僕の憧れを奪っていった超常を、この手で殺すこと。
体は依然熱くて痛くて、今にも気を失ってしまいそうで、狂ってしまいそうだけど。
それでも今、僕の中にある
大切を奪われた憤怒。
大切を失った悲哀。
憧れを手に入れる歓喜。
『そなたに問おう』
『汝は、力を欲するか?』
『それとも、恐れを抱く?』
「――ぼ、くは…………」
『その身を憤怒に染めるか?』
『その心を悲哀に沈めるか?』
『その全てを歓喜に委ねる?』
憤怒はある。
恩人で大切な、兄貴分を目の前で殺された。だから同時に、悲哀もある。
そして、憧れである力を得られる歓喜もある。
―――だったら、僕はどうする?
今、僕は三つの激情を抱いていて、それなのに頭はいたって冷静だ。
冷静だからこそ考えろ。
確かに僕は力に憧れた。でも、それで力に溺れるのは愚かなことだって、僕は知っている。実感は無いけれど、僕はそれを様々な物語で知った。
目の前で、恩人の兄貴分が血を流して倒れている。僕を助けるために、目の前の黒い超常に殺された。
そして今、僕が見ているものは、白狼でも、騎士でも、魔女でも、ナニカでもない。
今見ているものは、超常同士の戦い。
イッセー兄ちゃんを殺した、憎い黒。
そして、殺されたことに涙し、今なお僕を守ってくれている優しい紅。
黒の数は四。鴉のような翼をひろげ、空から光を撃っている。
対する紅は一人。僕とイッセー兄ちゃんを守りながら、必死に戦っている。
僕はどうしたい?
もう一度、自分に問いかける。
僕は、仇を討ちたい。
僕は、誰かが傷つくのが嫌だ。
僕は、優しい紅を助けたい。
僕は、そうだ、僕は彼女を、グレモリー先輩を助けたい!!
だから、僕に―――――ッ!