ある日の陽もとっぷり暮れた放課後。
今日はお父さんが飲み会で、お母さんが自治会に参加してるからね。遅くまで外出オッケーってね。
そんなわけで、僕は部室に来ていた。
というか、最近はもうここに入り浸っているくらいだ。
この間の化け物討伐以降、目に見えて悪魔恐怖症が緩和されていってる気がする。
あ、でも多分、オカ研以外の悪魔に出会ったらわからないかも。
そして、今の僕は何をしているかと言えば。
「…もぐもぐ」
「羊羮おいしーね、小猫ちゃん」
「…うん。おいしい」
小猫ちゃんと並んでソファーで羊羮を食べていた。
「粗茶ですわ、二人とも」
「あ、どもです」
「…ありがとうございます」
最近なんだか優しくなった姫島先輩が淹れてくれた緑茶を飲んで一息。
やっぱり羊羮には暑くて苦いお茶が一番だよ。異論は認める。あ、ホットミルクもありだね。
そしてまたモグモグと羊羮を食べる僕たち。
「…………朱乃」
「はい、なんですか部長?」
「あの二人を見ていてなんだか凄く癒されるのは私だけかしら?」
「………うふふ、そんなことありませんわ、部長」
「そうですね。あの二人はもう、この部のマスコット的存在ですから」
「やっぱりあなた達もそう思うのね」
なんか向こうでグレモリー先輩や姫島先輩、木場先輩達がなにか話してるけど、何の話だろう?
「…は、ハルト」
「ん?」
「…ハルトが食べてる栗羊羮、私にも一口頂戴」
「うん、いいよ? あ、じゃあ小猫ちゃんが食べてる抹茶羊羮一口ちょーだい」
「…い、いいよ」
僕は、手元にある羊羮を一切れフォークに突き刺して、小猫ちゃんの目の前まで持っていく。
「はい、あーん」
「…………え?」
あれ? どうしたんだろ? 小猫ちゃんが固まった。て言うか顔赤い。
え? なに? 僕なんかした!? あ! そうか! このフォーク僕の使いかけじゃんか!
「ああ、ご、ゴメン小猫ちゃん! やっぱり使いかけのフォークっていやだよね!?」
「…ぱくっ」
「あっ」
しかし、慌てる僕を余所に、フリーズから解放された小猫ちゃんは、なんの躊躇いもなく羊羮を口に入れた。
「……………ハルトと間接キス…………あーんとのコンボ…………」
「え? 小猫ちゃん、今なんて?」
声が小さいのと、口に物が入っていたせいで声がくぐもっててよく聞こえなかったよ。
すると、今度は小猫ちゃんが自分のフォークに羊羮を刺してこっちに向ける。
「…おかえし。ハルト、あーん」
「…………こ、これは…………」
やられる側になって漸く理解した。
そうか、これは凄く恥ずかしいぞ! しかも小猫ちゃんの朱に染まった表情も相まって、なんだこの破壊力!
なるほど、これが悪魔のリーサルウェポンか。
「…あーん」
いや、小猫ちゃんゴメンって。さっきのは謝るから、これは無しにしない?
「…あーん」
ダメだ! これは何がなんでもやってのける人の目だ!
む、むぅ…………恥ずかしいけど、先にやったのは僕だしなぁ…………。
「…………あむ」
「…良くできました」
僕が諦めてかぶりつくと、小猫ちゃんは嬉しそうな声音と笑顔でそう言って来た。
しかし小猫ちゃんて、無表情そうにみえて、結構表情豊かなんだよなぁ…………。
なのにどうして学校の皆は無表情だなんて言ってるのだろうか?
「…ハルト、もう一個頂戴?」
小猫ちゃんがクイクイ、と僕の袖を引いてお願いしてくる。
―――なんだろう。可愛いんだけど、それ以前にこう、なんか既視感が…………。
「…ハルト?」
ああ、そうか思い出した。
猫の小猫だ。
アイツも僕のお菓子をよくこんな風におねだりしてたなぁ…………。
なんか小猫ちゃんに餌付けしてる気分。
「ううん、何でもないよ。はい、あーん」
「あーん、ですわ」
「…っ!?!?」
「あ、姫島先輩」
僕が出した羊羮は、横から顔を出した姫島先輩が食べてしまい、小猫ちゃんは、なんと言うか、悔しさとか、お菓子を取られた怒りとかでよく解らない表情をしていた。
「…酷いです、朱乃さん」
「うふふ、二人だけで世界作っちゃって、なんだか妬けちゃいますわぁ」
あの、僕を置いて行きなり二人でコソコソと内緒話は酷くないですか?
しかも僕の方を二人でチラチラと見ながら。
凄く気になる。
と、そこでいきなり。
「イッセー!!」
グレモリー先輩が兄ちゃんの名前を呼びながら立ち上がる。
それに続くように、皆の顔が険しくなる。
なにごと?
「…ハルトはここにいて。すぐ帰って来るから」
「ちょっと待ってよ! いったい何事!?」
僕が回りに説明を求めると、グレモリー先輩が口を開く。
「イッセーに持たせていた魔方陣から信号が届いたの。SOS用の魔方陣から、ね」
SOS!?
それってヤバイやつなんじゃない!?
「待って! 僕もいく!」
「いけませんわ。危険ですもの」
姫島先輩が僕をここに留めようとする。
「でもイッセー兄ちゃんが危ないんでしょ!?」
「…ハルトも危ない」
「そんなこと言ったら、小猫ちゃんや皆だって危ないんじゃないの?」
「大丈夫よ、ハルト。私たちは悪魔だもの」
「でも、悪魔のイッセー兄ちゃんが危ないんでしょ?」
「そ、それは…………」
グレモリー先輩が押し黙ったのを見て、僕は強引に魔方陣の仲に入る。
「はぁ…………仕方ないわ。今は非常時だもの。朱乃、小猫。彼を両側からら掴んで! 悪魔じゃないから、単独では魔力がうまく行使できないわ!」
先輩の指示に従い、二人が僕の腕に自分の腕を絡めてくる。
あの、
そんな、何となく締まらない心持ちで、僕は魔方陣の光に包まれていった。
この光の向こうにある惨状を予想することもなく。