ハイスクールG×E   作:フリムン

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第19話

 

「庇ってくれた女の子目の前にして、逃げらんねぇよな!」

 

 俺は、明かに俺より強いであろう神父を前に、戦う構えをとった。

 

 例え【兵士(最弱)】でも、一矢報いることができるかもしれない。

 

「え? え? マジ? マジ? 俺と戦うの? 死んじゃうよ? 苦しんで死んじゃうよ?」

 

 なんて、神父は楽しそうに笑いながら不気味な事を言ってくる。 

 

 くそ、怖ぇ。足が震えやがる。

 

 だけど、アーシアの前でカッコ悪いところは、見せられねぇな!

 

 俺が拳を握り直し、神父が飛び出すその瞬間、床が紅く輝き出した。

 

「何事さ?」

 

 疑問を口に出す神父の足元を光が走る。紅い光は、徐々にとある形を作っていく。

 

 これは…………グレモリー眷属の魔方陣だ!

 

 俺がその陣を理解した瞬間、光が爆発するように輝きを瞬間的に増した。

 

 光が収まった時、そこには見慣れた人達の姿があった。

 

「兵藤くん、助けに来たよ」

 

 木場がイケメンスマイルを送ってくる。

 

「…ッ! ハルト、見ちゃダメ」

 

 木場の後ろから小猫ちゃんが顔を出し、壁に縫い付けられた死体を見た瞬間、血相を変えて後ろに声をかける。

 

 って、ハル!? アイツも来たのかよ!?

 

「どうしたの? いったい何が……………………え?」

 

 小猫ちゃんの静止も空しく、ハルはひょこっと横から顔を出し、そして一瞬で顔を青ざめさせる。

 

「うっぐ…………」

 

 そしてすぐさま口許を押さえ、部屋の外まで駆けていく。

 ハルの姿が見えなくなってすぐ、アイツの苦しそうな声と、水っぽい何かが落ちる音が響く。

 

 あれは、吐いたな。

 

 小猫ちゃんと朱乃さんが心配そうにハルのところへ向かうと、それを見ていた神父が、楽しそうに俺に問いかけてくる。

 

「おんやぁ? ね、ね、悪魔くん。今のは人間かなぁ?」

「…………そうだよ」

「ぎゃはは! 悪魔と人間が一緒とか! うんうん、決定けってーい! あのガキも一緒にお仕置きしちゃうぞ!」

 

 …………なんだと?

 

「しっかし、だっさいねぇ! この程度で吐いちゃうなんてさ!」

 

 そう言いながら、神父は死体を蹴りあげる。

 

「てめぇ!」

「おおっと怒るなよ悪魔くん。なんたって、コイツが僕ちんにブッ殺されちゃったのは、君たちのせいなんだぜぇ!」

「………俺達のせいだと!?」

「さっきもいったろ? 馬鹿なのかな? 悪魔に関わる人間も、お仕置きだってさ!」

 

 だ、か、らぁ。

 

 と、神父はクネクネ動きながら、気味の悪い声音で言葉をつなぐ。

 

「あのガキんちょもしっかりちゃっかり殺っちゃうよ! ってね!」

 

 光の剣と銃を構えながら、神父が斬りかかってくる。

 

 しかし、降り下ろされた刃が俺に届くことは無かった。

 

「およ?」

 

 突如として、その剣の刃が消滅した。

 

「随分と私のかわいい下僕をかわいがってくれたようね?」

 

 怒気を含む冷たい声が聞こえ、後ろを振り向くとそこには、右手を前に翳し、髪を溢れる魔力で揺らしながら立っている部長がいた。

 

「はいはい、かわいがってあげましたよぉ。本当は全身くまなく予定でござんしたが、どうにも邪魔が入りまして、それは夢幻となってしましたぁ」

 

 神父は、なんとも腹立たしい声音で、まるでこちらを小バカにするように笑っている。

 

「そんでそんで、できうることなら、さっきのゲロゲロ臭いガキんちょも微塵切りいっちゃおうかなってさぁ…………わっひゃ!」

 

 ふざけたことを抜かす神父めがけて、三つの飛来物。

 

 家具に、雷撃に、黒い魔力。

 しかしそれらは、神父が何かを床に叩きつけて出来た光の膜のような物に阻まれた。

 

「あひゃひゃ! あっぶねー! 結界が無かったら即死だった! ってか! ひゃひゃひゃ!」

「…ハルトに手を出したら、許さない」

「そんなことをすれば貴方、死ぬだけでは足りないですわよ?」

 

 ドアの向こうから、怒った声音と表情の小猫ちゃんと朱乃さんが出てくる。

 

 その二人に挟まれるように、青い顔をしたハルが歩いてくる。

 

「部長、ここに接近する堕天使の気配がありましたわ。そこの外道を野放しにするのは口惜しいですが、ハルトくんとイッセーくんがこの状態です。退くのが得策かと」

「…………そうね。皆、帰還するわよ!」

「ひゃは! そう簡単に逃がしましぇんよぉ!!」

「させるか!」

 

 朱乃さんが魔方陣を構築し始めた時に、神父が新しい光の刃を作って斬りかかってくるが、木場がそれを受け止める。

 

「部長! アーシアも!」

「無理よ! 元々この魔方陣で転移出来たのは悪魔だけ! それを無理やり、人間一人分を追加したの! これ以上は無理だわ!」

「そんな!」

 

 俺はアーシアを振り返る。重なった視線に、彼女はにっこりと笑うだけだ。

 

 その瞳に、涙を湛えながら。

 

「アーシア!」

「イッセーさん。また、会いましょう」

 

 やめろよ、そんな悲痛な声で、笑うなよ。

 

「アルジェントさん!」

 

 ハルも、アーシアを呼び掛ける。

 

「ハルトさんも、また会いましょう。言葉は通じないけれど、また、いつか」

 

 それがこの場での最後の会話だった。

 魔方陣が輝き出す。

 

「祐斗! 急ぎなさい!」

 

 部長が呼ぶと木場は瞬間移動とも呼べる速度で、俺達の隣に降り立つ。

 

「逃がすかって!」

 

 神父が追ってくるが、それは小猫ちゃんが投げたソファーによって防がれる。

 

 神父によってソファーが切り裂かれる光景を見ることもなく、俺達は部室へ転移していた。

 

 部室へ戻った俺は、初めて行った転移の感覚を感じることもなく、ただ彼女の、最後の笑顔を思い出していた。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 あそこから帰ってきて、僕はソファーの上で、姫島先輩に膝枕をされて横になっていた。

 

 姫島先輩が、心配そうに優しく頭を撫でてくれるが、正直、まだ気分は優れない。

 

 

 

 ――――人間の、惨殺死体。

 

 

 

 あんなものを見たのは初めてだ。むしろ、あそこまで悪意をもって殺されることの方が珍しいのでは無いのだろうか。

 

 堕天使を初めて斬った時や、バイザーを斬ったときも、少なからず血を出していた。

 ましてやバイザーに至っては、あの死体のように胴体と下半身が切り離されていた。

 

 いや、されていた、と言うか、切り離した。

 僕が、自分の手で。

 

 

 

 ……………………っ。

 

 

 

 その時の光景が、感触が、今ごろになって生々しく甦って来る。

 そしてそれが、さっきの光景と重なって、再び僕を苛む。

 

 

 なんで僕は平気だったんだろう。

 

 なんで僕は、命を奪っておいて、平然としていられたんだろう。

 

 

 

 

 ――――どうして皆は、平気そうなんだろう?

 

 

 

 

 悪魔だから? 人間じゃないから?

 

 

 

 ……………………。

 

 

 

 今、僕は自分を殴りたくなった。

 皆を怖いと、恐ろしいと、忌まわしいと思ってしまった僕を殴りたい。

 

 

 皆だって怖いのかもしれない。もしかしたら、慣れてしまったのかもしれない。

 

 なんせ、あんな化け物討伐を何度かしている程なのだから。

 

 

「部長! 俺はあのアーシアって子を!」

「無理よ。どうやって救うつもり? 彼女は堕天使側よ。私達とは相容れない存在同士なの。彼女を救うって事は、堕天使を敵に回すことになるの。

 そうなったら、私達は戦わなければならない。

 

 …………堕天使に目を付けられている、ハルトまでも」

「っ!!」

 

 

 向こうでは、イッセー兄ちゃんと、グレモリー先輩が言い争っていた。

 

 

 

 

 あの時、僕がちゃんと動けていたら、皆の足を引っ張らずにいたら、変わっていただろうか?

 あの神父を倒して、アルジェントさんを助けられていただろうか。

 

 …………倒す? 倒すって、どうするの? ゲームや漫画みたいに、相手が負けを認めれば終わり? まさか。

 

 じゃあ、殺すのか。

 

「………うっぐ」

「大丈夫? ハルトくん」

「…………めん」

「え?」

「ごめん、なさい…………イッセー兄ちゃん」

「ハル?」

 

 僕の絞り出した言葉にも皆が視線を向ける。

 

「ごめん、なさい…………足引っ張っちゃって、何もできなくて…………ぐずっ、僕が、ぼぐが、行きだいっで、自分で言っだのび……あじ()引っばっで…………迷惑かけで、ごべんなざい…………」

 

 涙で息がつまる。

 

 悔しい。悲しい。

 

 人の死が怖くて、戦うのが怖くて、戦えなくて、情けなくて。

 

 その僕の臆病さすべてが、恨めしい。

 

ぼぐ()ぼぐ()、誰かが、びど()が死んでるのがごわぐで(怖くて)、だがらびんな()めいばぐ(迷惑)になっちゃっで、ごべんなざいぃぃ…………」

 

 

 泣いた。

 

 あれだけ止められたのに、調子に乗ってでしゃばって、挙げ句皆の足を引っ張って、アルジェントさんを救えなくて。

 

 そんなことをした僕が泣くのは卑怯だって知ってる。わかってる。

 

 でも、僕は泣いた。泣いてしまった。

 

 

 

 嫌いだ。こんな泣き虫な僕が。

 嫌いだ。こんな臆病な僕が。

 嫌いだ。こんな卑怯な僕が。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――強く、なりたいなぁ。

 

 

 

 

 

 




正直、なんの心構えも無く耐性の無い人が、惨殺死体なんか見た日にはあんな感じになると思うのです。

すみません。また少々オリジナル技が出てしまいました。


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