ハイスクールG×E   作:フリムン

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第20話

 

 ――――夢を見た。

 

 ――――夢を見ている。

 

 ――――夢を彷徨っている。

 

 

 何もない無限の中を。

 

 何にでもなる夢幻の中を。

 

 

 ここはどこ?

 

 なんで僕はここにいるの?

 

 

 声が響く。

 

『戦いが怖いのか、主よ』

 

 うん、怖い。すごく怖い。

 

『死を恐れますか、主君』

 

 死は嫌だ。味方も、敵も。

 

『なぜ怖いのですか、我が君』

 

 それは僕が臆病だからだ。

 だから血が怖い。痛いのが怖い。戦いが怖い。

 

 余りに自分が役立たずで、皆の足枷で、本当に腹が立つ。

 

『そうか。主は自分の弱さが嫌いか』

 

 うん。

 

『だからこそ、主君は我らを呼んだのでしょう?』

 

 ああ、そうだったね。

 

『だったら、何を怖れますか』

 

 どういうこと?

 

『我らは主が、そなた自身が望み、欲した力』

『主君が願い、手を伸ばした力』

『故に妾達は、その手を取った』

 

 僕が、望んで手を伸ばした?

 

『恐れる必要はない。そなたの苦しみは』

『我らが全て喰い尽くしてしまいましょう』

『だから、恐れる事などありませぬ』

 

 王が、騎士が、女王が、僕を包み込む。

 

 守るように、慰めるように、

 

 

 

 

 

 ―――――喰い尽くすように。

 

 

 

 

 

『さあ、手を伸ばせ』

『そこに主君の求めた(全て)がある』

『そう、破壊(妾達)の全てが』

 

 その力があれば、もう何も怖くないかな?

 

『恐怖など、とうに喰い尽くした』

 

 僕は強くなれるかな?

 

『弱さなど、力で塗りつぶせば良いのです』

 

 僕は皆を守れるかな?

 

『敵対する全てを(破壊)してしまえば』

 

 

 そうか。

 僕の望む全てが、そこにあるんだね。

 

 なら僕は手を伸ばすよ。

 

 

 もう、臆病なのは嫌だから。

 

 もう、皆の足を引っ張りたく無いから。

 

 そして、あの優しいシスターを、救いたいから。

 

 

 

 

 

 

「だから僕はまた、君達に手を伸ばすよ」

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 夢を見ていた。

 

 どんな内容かは朧気だけれど、何をすべきかは分かった。

 

 

 

 

「――――皆を、守れるくらいに強く」

 

 

 

 

 なるんだ。

 なりたい、ではなく、なる。

 

 それが、僕の願いで、望みなんだ。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 アルジェントさんを救えなかった次の日、僕は学校を休んだ。

 

 僕は大丈夫だって言ったけれど、小猫ちゃんや姫島先輩、それにその二人に説得された両親に、無理やり休まれた。

 

「暇だなぁ…………」

 

 ぶっちゃけ、今の現状はそれに限る。

 

 

『強くなる。心も、体も』

 

 

 そう決意はした。

 目標も決まった。

 

 けれど、何をすれば良いのかはまだ分からない。

 

 

 でも、とりあえず今は、じっとしてられない。

 

 

「………外に出ようか」

 

 

 天気も良いし、散歩でもすれば、気も紛らわせられるだろうし。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「…………ハル、お前なにしてんだこんな時間に」

「…………イッセー兄ちゃんこそ」

 

 公園に行くと、そこで黄昏ているイッセー兄ちゃんに出会った。

 言葉を交わしながら、僕は兄ちゃんの横に腰を下ろす。

 

「助けられなかったなぁ、ハル」

「うん…………」

 

 兄ちゃんの言葉に頷きながら、息を吐いて空を見上げる。

 空には雲一つ無く、暖かい春の陽光が辺りを照らしている。

 沈んだ気分なのに、気持ちいいと思える天気だ。

 

「助けられなかった。僕が足を引っ張ったから…………」

「それはもう良いって。言ったろ? お前が悪いんじゃないんだって」

「でも、僕が…………」

「ていっ!」

「あだ!」

 

 次から次へと弱音が出てくる僕の頭を、イッセー兄ちゃんが軽くはたく。

 

「いつまでもうじうじ悩んでんなよ。自分が弱くて嫌なのは、俺も同じだ」

「イッセー兄ちゃんも?」

「そうさ。神器(セイクリッド・ギア)の効果も良く分かんないし、力も弱いし、正直、お前に嫉妬もしたくらいだ」

「…………」

「でもな、俺は諦めねぇ」

「え?」

「たとえどんなに実力さが絶望的でも、俺は諦めねぇ。何がなんでも、アーシアを助ける。そう決めたんだ」

「…………やっぱりカッコいいね、兄ちゃんは」

 

 ホントに、この人は、こう言うところでカッコ良くて、そして僕は、兄ちゃんのそんなところに憧れたんだ。

 

 憧れた人が諦めてないんだ。僕もうじうじしてられないな。

 

「そんなこと無いさ。俺はカッコ良くなんかねぇよ」

 

 そう言ってイッセー兄ちゃんが腰を上げたとき、僕の視界に見知った金髪が写り込んだ。

 

 

 …………全く。噂をすれば影、って誰が考えたんだろうね。的を射すぎているよ。まさか外人にも有効だとは。

 

 

「アルジェントさん…………」

「え? アーシア?」

「あ。…………イッセーさん、ハルトさん」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 今日は楽しかった。

 

 ハンバーガーショップではアーシアがバーガーを買えずに困惑したり、ハルトが信じられない量を購入したり(俺の奢りだった。泣きたい)、アーシアがバーガーの食べ方が分からずにアウアウ言ったり、ハルトが大量のバーガーをペロリと平らげたり。

 

 所変わってゲーセンでは俺とハルのレーシングゲームの三番勝負が始まったり(なんとか勝てた)、アーシアがもぐら叩きでアウアウ言いながら必死になったり、クレーンゲームで俺が何度か失敗しながらぬいぐるみを取ったり。

 

 そして最後は、三人で写真を取った。

 

 アーシアを真ん中に挟んで、三人で取った写真はきっと、俺達の大切な宝物になるだろうな。

 

 自然に、そう思えた。

 

 

 

 

 

「アーシア、俺達はもう友達だ」

 

 ふとしたことからアーシアの神器(セイクリッド・ギア)の力と、なぜ彼女がここに来たのか、その顛末を聞くことになった俺達は、彼女の手を取り、そう言った。

 

「イッセーさん?」

「俺も、ハルも、アーシアの友達だ。だから、絶対にアーシアを助けてみせる」

 

 俺がそう言い切ると、ハルも拙くて辿々しい英語を使って同意する。

 

「…………それは、悪魔の契約としてですか」

「そんなわけあるか! 俺達は今日、目一杯遊んだだろ? だったらもう友達なんだ。悪魔とか人間とか神様とか関係なく! 話したい時に話して、遊びたい時に遊ぶ! 俺達は、今日からそう言う友達なんだ、な?」

 

 ハルも、それに頷く。アーシアの言葉はわからないだろうけど、ハルだって、アーシアを友達だって思ってるんだ。

 

 

 アーシアの双眸から、涙が零れ落ちた。

 

 

 ああ、本当に楽しかった。誰かさんのせいで軽く破産しかけたけど、それでも、とても楽しかったんだ。

 

 

 

 

 

 ――――夕麻ちゃん(堕天使)が現れるまでは。

 

 

 

 

 

 ちょうど、ハルがトイレに席を立った時の事だった。

 

「悪魔と友達? はっ、笑わせないでもらえるかしら? お腹が捩れてしまうわ」

 

 そんな、冷たい声と笑い声が聞こえた。

 

「ゆ、夕麻ちゃん…………」

 

 俺の驚いた声音に、彼女は興味深そうな視線を向けて、クスクスと笑う。

 

「へぇ、生き返ったの? 良かったわね、あなたの主様は胸が大きいわよ?」

 

 その小馬鹿にしたような声は、あの可愛らしい夕麻ちゃんのものではなく、大人っぽく妖艶さを感じさせるものだった。

 

「……レイナーレさま…………」

 

 アーシアが夕麻ちゃんをそう読んだ。

 

 レイナーレ? あぁ、そうか。

 忘れてた。いや、忘れようとしていた。

 

 天野夕麻(初めての恋人)は堕天使だった。

 

 なるほど、彼女の本当の名はレイナーレか。

 堕天使レイナーレ。俺を殺した張本人。

 

「………堕天使が何の用だ?」

「は、汚らわしい下級悪魔が、気安く話しかけないでちょうだいな」

 

 向けられた視線は、先程の興味深そうな物ではなく、侮蔑したような、見下したような視線だ。

 

「アーシア、戻ってきなさい? 逃げても無駄なのだから」

 

 逃げる? どういうことだ?

 

「嫌、です…………。私は、もうあそこへは戻りたくありません…………人を殺すような、場所へは…………」

「そんなこと言わないでちょうだい。これでもかなり探したのよ? ほら、帰りましょう?」

 

 俺はとっさに、震えているアーシアの前に立つ。

 それを見たレイナーレは、心底めんどくさそうな顔をする。

 

「じゃましないで貰えるかしら、イッセーくん。また殺すわよ?」

「やれるもんならやってみろ! 来い! セイクリッド・ギア!」

 

 啖呵を切り、俺は左手に赤い籠手を装着する。

 だがレイナーレは、俺の籠手を見て哄笑を上げる。 

 

 なんでも、俺の神器(セイクリッド・ギア)はありふれた、どこにでもある物らしい。

 

「だけど、今はそれだけで十分だ! 動きやがれ、俺の神器(セイクリッド・ギア)!」

 

『Boost!!』

 

 よし、これで!

 

 力が強化されて、俺は踏み込む。

 だが、

 

「無駄よ。あなたがいくら強化されても、私には決して届かない」

 

 俺の両足に、光の槍が突き刺さる。

 

「が!?」

「イッセーさん!?」

 

 駆け寄ってきたアーシアの光が、俺の足を包み込み癒していく。

 

 倒れ伏した俺に槍の切っ先を向けながら、レイナーレは冷たくいい放つ。

 

「アーシア。その悪魔を殺されたくなかったら、私と共に戻りなさい?」

「うるせぇ! お、お前なんか!」

「わかりました」

「アーシア!」

 

 足の治療を一通り終えたアーシアが、レイナーレの元へ歩いていく。

 

「イッセーさん。今日一日、ありがとうございます。ハルトさんにも、そう伝えておいて下さい」

 

 ふざけんなよ! だからなんでそんな、そんな悲しそうに笑うんだよ!

 俺は、そんな顔が見たくないから!

 

 だが、俺のそんな内心も知らず、アーシアはレイナーレの翼に包まれる。

 

 

 

「ふふふ、ごきげんよう、イッセーくん。次生まれるときは、もうちょっとましに生きなさいな」

 

 

 そう言って、レイナーレは槍を振りかざす。

 

 

「そんな! レイナーレさま、お話が違うではありませんか!」

「黙りなさい。悪魔は滅するべきなのよ」

 

 アーシアの慌てた言葉に、堕天使は冷たい声で答える。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、光の槍が降り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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