すっかり日も暮れ、月明かりが照らす中、僕たちは教会の入り口まで来ていた。
僕たちは顔を見合わせ、無言で頷く。
覚悟はとうにできている。
あとはあの人を、アルジェントさんを救い出すだけだ。
入り口を潜り、一気に聖堂まで駆け抜ける。
僕は平気だけど、三人は少し不快そうな顔をしている。まあ、捨てられてて堕天使の巣窟とは言え、曲がりなりにも教会なんだ。悪魔の三人には少しキツイのかもしれない。
「あれは…………」
ふと、上を見上げたイッセー兄ちゃんがポツリと呟く。
つられて僕達が上を見上げると、そこには首を破壊された磔の聖人像が。
「神への反逆、って言う皮肉の意味なんだろうね」
木場先輩がそれを見て考察する。
「…不気味な静けさ」
小猫ちゃんが辺りを警戒しながら拳を握りこむ。
確かに、妙に静かだ。
こういう潜入の経験はないけれど、四人も一気に異物が入り込んだんだ。気付かれていてもおかしくはない。なのに…………。
「なんで、誰も出てこねぇんだ?」
イッセー兄ちゃんが、不審げな声音で辺りを警戒しながら言う。
すると突然、聖堂内に拍手の音が鳴り響く。
奥の物陰から、口元にイヤらしい笑みを湛えた人物が表れる。
「ハイハイハーイ、ごっ注目ー! やぁやぁご対面! 再会だねぇ! 感動的だねぇ! みんな大好きフリード神父ちゃんの登場だよ!」
あれは…………。
「フリード!」
ああ、そうか。
あの日、僕がなんの役にも立たなかった日、あの死体を作った張本人か。
「おお!? いやはは! まさか名前を覚えられてる? 僕ちん大人気? あ、さっき自分で名乗ったっけ? あらら、俺っちったらうっかりさん! テヘペロ!」
フリードとか言う神父は、常に笑顔だ。
だけどその笑顔は、アルジェントさんみたいな優しいものでも、姫島先輩みたいな綺麗な物でもない。
胸糞の悪い笑みだ。
「んー、俺としては? 二度と会う悪魔はいない予定だったんですよぉ! え? なんでってそりゃあお兄さん聞いてくださいよ! ほらほら、俺ちゃんめちゃくそ強いでしょ? だからさ、基本悪魔は初見バッタリエンカウントからの瞬殺チョンパッパだったわけですよ。 出会って刻んで死体にキスしてグッドバイ! 悪魔だからバッドバイ? それが俺様のエクソシスト生活でした! でもでもぉ、そんなスンバラスィ僕さまの人生計画は、君らのせいでハチャメチャ街道まっしぐら! ダメだよねぇ? 人間、諦めたら終わりだよね? え? 人間じゃないからわからない? そうだよね! だって悪魔だもの! 一人人間混じっちゃってるけどさ! だからさ! ムカ着火なわけで! 死ねと思うわけよ! だから死ね! つーか氏ね? いいから死んじまえよ! このクソでクズでゲロ臭ぇ腐れ悪魔どもがよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
饒舌に僕らには理解できない言葉を口にして、神父は一気に激昂する。
…………まあ、僕英語は得意じゃないから、あの神父が何を言ってたのかなんてわからないんだけどね。
でも、みんなの様子を見る限り、知る必要もないみたいだし、そもそも知る意味もない。知りたくもない。
神父フリードは懐から銃と柄だけの剣を取り出す。
そして、柄だけの剣に、光の刃が出現する。
きっと普段の僕なら、その時点でライトセイバーだのビームサーベルだのとテンションを上げたはずだろう。
でも、今はそれどころじゃないんだ。
「兄ちゃん! 僕は言葉がわからないけど、兄ちゃん達ならわかるんだよね!? 聞き出して!」
「わかってるさ! おい! アーシアはどこだ!」
すると、神父はそれにアッサリと答える。
「んっんー? そこの祭壇下に隠し通路があるんで、そこから行けたり行けなかったり! あ、いっけねゲロっちまった! まいっか! どうせてめえらここで死ぬし! うひゃひゃ!」
今のをイッセー兄ちゃんに通訳してもらい、祭壇の所へ行こうとするが…………、
「ハル!」
イッセー兄ちゃんの声に反応して、横に転がる。
瞬間、僕がさっきまでいたところへ光の銃弾がいくつも撃ち込まれる。
「行かせなーいよー! だってそれが僕の使命! 大天使…………あ、違った、堕天使からの偉大なる使命なり! ってね! だから行かせないよ! あ、でも、逝ってはいいよ! 俺ってばやっさすぃー!!」
「…………だから、なに言ってるかわかんないんだってば」
神父が僕に刃を降り下ろす。
細い刀身だ。正直、神機の一振りで砕けてしまえそうだ。
――――間に合えば、の話だが。
姿勢が悪かった。横に跳んで転がった状態じゃ、受け止められる物も受け止めきれない。
でも、
「神結くん!」
木場先輩がその光の剣を受け止める。
今、僕たちは一人じゃないんだ!
それから僕たちはしばらく戦っていたが、この神父、凄く強い。
剣の技量や射撃能力もそうだが、何より周りを見極める力に長けているんだと思う。
まず、高速の剣戟で、木場先輩以外を近づけさせず、不意打ちで小猫ちゃんが投げたら長椅子を切らずに反らし、スナイパーで狙いを澄ましていた僕に撃ち抜かせ、その物陰から出てきて木場先輩を切りつける。
強いという事もあるが、何より戦いが巧い。
素人目に見ても、そう思ってしまう力量だ。
と、そこへ、
「プロモーション! 【
へっ、捕まえたぜ!」
神父と同じように物陰を利用したイッセー兄ちゃんが、神父の腕を掴む。
「ぶっ飛べクソが!」
そんな言葉とともに、イッセー兄ちゃんの籠手の着いた拳が、神父の顔面に突き刺さる。
結果、神父は吹き飛び、壁に激突する。
「あのときは良くもアーシアを殴ってくれたな、クソ野郎。一発殴れてざまぁみろだ」
けれど、その神父はよろよろと立ち上がる。
服が所々破け、体もすすだらけだが、特に目立った外傷は無い。
「あーっぶね危ねぇ。このボタンを押すと一時的に光の結界が発生する装置が無ければ即死だった! 説明乙!」
何か仕掛けがあるみたいだけど、今のを防ぐとは…………恐ろしい反応速度だ。
だけど一度足を止めたんだ。もう逃がさないよ。
僕達四人が、神父を取り囲む。
すると神父は苦笑いを浮かべる。
「あー…………あー、これは、あれかなぁ? 絶体絶命黒ひげ危機一髪! スペシャルピンチってやつ? うわマジご勘弁! 悪魔を殺すのは良いけど、悪魔に殺されるのはやーよ! というわけで退散します! 悪魔チョンパッパできないのが心残りだけど!」
「…………僕達がキミを逃がすと思うのかい?」
「そんじゃまグッドバイ!」
木場先輩がそう言うにも関わらず、神父は床に何かを投げつける。
瞬間、辺りを目が開けられないくらいの眩しい光が照した。
目眩まし!?
少し視力が回復した頃には、その神父の姿はなかった。
どこからか声だけが聞こえてくる。
「そこの雑魚悪魔の…………イッセー君って言ったっけ? 俺、君にフォーリンラブ! 絶対にぶっ殺すから! あとそこの言葉通じてないっぽい人間の小僧も、イケメンも、ガキも! とりあえずお前ら全員、今度はブッコロだから! 覚えとけよ! やん、俺ってば三下捨て台詞ー! ほんじゃ、ばいちゃ!」
そんな、良くわからない言葉を残して神父はこの場から消えた。
「くそ、逃げられた!」
「それよりもイッセー兄ちゃん、今はアルジェントさんを!」
「わかってる! 行くぞ、皆!」
僕たちは頷き合い、祭壇の隠し通路へと向かった。
この下に、アルジェントさんがいるんだ。
待ってて。今、行くからね!
一人で文字数の大半を稼いじゃった松おk…………フリードくん。
やべぇ、書いてて楽しかった。