ご意見をくださった方々、ありがとうございました!
祭壇下の階段を下り奥へ続く通路を抜けた僕達の前に、巨大な扉が現れる。
「いいかい兵藤くん、神結くん。ここから先は恐らく、敵の真っ只中だ。覚悟はいい?」
木場先輩のその言葉に、僕たちは力強く頷く。
「わかった、じゃあ、行くよ――――」
イッセー兄ちゃんと木場先輩が扉に手をかけると、その扉が勝手に開く。
「いらっしゃい。悪魔に化け物の皆さん」
開け放たれた扉の向こうから、堕天使レイナーレが言葉をかけてくる。
部屋中には、神父とおぼしき格好の人達が沢山いて、その部屋の奥に、僕達は十字架に磔にされている少女を見つける。
「アーシア!」
「アルジェントさん!」
僕達の呼び掛けに、俯いてグッタリしていた彼女は顔を上げる。
「…………イッセーさん? ハルトさん?」
その声は酷く弱々しくて、今にも消え入りそうだった。
「ああ、助けに来たぜ、アーシア!」
イッセー兄ちゃんが笑いかけながらそう言うと、アルジェントさんは涙を流す。
しかし、そんな空気も、レイナーレが壊してしまう。
「感動のご対面だけど、遅かったわね。いま、儀式が終わるところよ」
突然、アルジェントさん体から光が溢れる。
同時に、彼女の苦しそうな悲鳴が聞こえる。
「なにを!?」
僕らが駆け寄ろうとすると、神父達が道を塞ぐが、小猫ちゃん達が僕達の道を切り開く。
それでも少し時間が掛かり、アルジェントさんの下へ行く頃には、彼女から大きな光が飛び出していた。
それを、レイナーレが手に掴む。
「これよ、これだわ! これこそが、私が長年欲していた力!
レイナーレの表情は、歓喜と狂喜と、恍惚に彩られていた。
対して、その光を抜き取られたアルジェントさんは、グッタリと気を失い、顔を青ざめさせていた。
………………………………。
「……………………何をした」
ポツリと、僕はそう呟く。
アルジェントさんから出てきた光。そしてそれを取り込んだレイナーレから出た光。
その二つはどちらも淡い緑の光で…………――――。
「今、アルジェントさんに何をした」
だけど、僕の声は届かない。
レイナーレは今、歓喜の感情にうち震え、周りが目に入っていないのだ。
だから僕は、声を張り上げた。
「今彼女に何をしたのかって訊いているんだ! 堕天使!!!」
跳び上がり、斬りつける。
だけど、空中を戦場とする彼女には、僕の剣は届かなかった。
「何って、
「どういう意味だ」
「だって、あなた方がどんなに頑張って助けても、その子、死ぬわよ?」
「なん…………っ!?」
「
…………つまり、なにか?
こいつは今、アルジェントから
そして、それを抜き取られた人は、必ず死ぬ、と?
なんだそれは。
ふざけるな。
「レイナーレェェェエエ!!」
イッセー兄ちゃんの怒号が響く。
「二人とも! 一度上に上がってくれ! 守りまながらじゃ分が悪い!」
木場先輩が神父を斬り払いながら呼び掛け、小猫ちゃんと道を作る。
イッセー兄ちゃんがアルジェントさんを抱き上げ、僕に目配せをして走り出す。
僕もそれに無言でついて行った。
◆◆◆◆◆◆
「アーシア! アーシアはもう自由なんだ! 俺達といつでも遊べるようになるんだ!」
イッセー兄ちゃんが、長椅子に横たえたアルジェントさんの手を握り、必死に呼び掛けている。
僕は唇を噛みながら、ただひたすら、彼女の手を握りしめることしかできない。
「………私、少しの間だけでも、友達ができて…………本当に、幸せでした…………」
僕には、彼女が何て言ってるのかわからない。こんなことなら、もっと英語を勉強しておけば良かった。
でも、言葉は通じなくても、彼女が何を言いたいのか、何となく、わかる。わかってしまう。
そして同時に、彼女が助からないことも。
「な、なに言ってんだよ! そんなこと言うなよ、アーシア! これから俺たちは、もっと沢山遊んで、笑って、楽しく過ごすんだよ! どこにだって連れていってやるさ! ゲーセンも、カラオケも、ボウリングだって! 他にもあるぞ! もっと沢山の事を、俺たちはするんだよ! アーシア! 俺たちは三人でさ!」
イッセー兄ちゃんも泣いていた。
きっと、気づいたのだろう。
彼女の命の灯火が、すでに消え始めていることを。そしてそれを今、全力で否定しようとしている。
「俺らはダチだ! ずっとずっと、友達なんだ! ああ、松田や元浜にも紹介しなくちゃ! これからアーシアは幸せになるんだよ! 沢山の人に囲まれて、笑顔で過ごすべきなんだ!」
「…………きっと、この国で生まれて、イッセーさんや、ハルトさんと、同じ……学校に行けたら…………」
「なら行こうぜ! 一緒の学校に行くんだよ! 日本語なら、俺たちが教えてやる!」
アルジェントさんの手が、僕とイッセー兄ちゃんの頬を撫でる。
「…………もう、前が見えませんけど…………私のために、私なんかの為に、泣いてくれてる…………あぁ、もう、何も……」
その手が、ゆっくりと落ちていく。
「…………ありがとう…………幸せでした…………」
――――――それが、彼女の最期の言葉だった。
ゆっくりだったから、僕にも聞き取れた。
何が、ありがとうだ。
何が、幸せだ。
結局救えなかった! 死なせてしまった!
守るって、助けるって、そう決意したばっかりなのに! なのに、僕はッ!!
イッセー兄ちゃんは、泣きながら空に、天に叫んでいる。
悪魔なのに、神様に救いを求めて。
「滑稽ね。悪魔が神に救いを祈るなんて」
嘲る声が聞こえる。
堕天使が、地下から上がってくる。
「見てごらんなさい? 下であの騎士につけられた傷なんだけどね?」
その傷口にレイナーレが手をかざすと、淡い緑の光が放たれ、傷を塞いでいく。
――――おい。
「見て? 素敵でしょう? どんな傷も癒してしまう、美しい光。なんて素晴らしい
――――なんで、なんでお前がそれを使う。
「…………返せよ」
声が震えた。
「嫌よ。これは私の物なのだから」
認められるものか。
「ふざけるな………ふざけるなよ! それはお前みたいな腐れ外道が使っていい光じゃない!」
語気が荒れる。怒りで、視界が真っ赤に染まる。
「返せよ! それはアルジェントさんの光だ! 優しいアルジェントさんの、優しい光だ!
それをお前が使うな! お前が汚すな! その光を、あの人に返せよ、レイナーレェェェエエ!!」
こいつだけは許せない。赦しちゃいけない。
僕はもう、僕達はもう、怒りを抑えきれない。
「薄汚い化け物が、私の名を呼ぶんじゃない!」
光が降り注ぐ。
僕とイッセー兄ちゃんを貫こうとする、優しくない光。
アルジェントさんのそれとは、比べ物にならないくらい、汚い光。
「邪魔だ!」
神機を横薙ぎに一閃し、光を消し去る。
憎い。
こいつが、憎い!
『ならば手を伸ばせ』
『恐怖などとうに喰い尽くした』
『あとは、敵を破壊するだけ』
うん、わかってるよ。
僕がこいつを、
「―――スキル【剣聖】発動」
僕は、力を振るう事を躊躇わない!