「お前だけは、お前だけは絶対に、
血が滾る。血が沸き立つ。
怒りで鼓動が速くなる。
「ブラットアーツ! 【無想ノ太刀・黒】!」
刀身を黒いオーラが纏う。
この力は禁忌と呼ばれた力だ。だからこそ、今はその強さが頼もしい。
「ああああ!!」
踏み込み、斬りつける。鈍い轟音とともに振り下ろされた刃は避けられたものの、その余波でレイナーレは空中でバランスを崩す。
「な、何よ、その馬鹿げた威力は!?」
今の一振りで、恍惚の表情だったレイナーレの顔が、一瞬で青ざめる。
まだだ。
この刃は、一度動きを止めない限り続くんだ。
飛び上がって斬りつける。
「ふ、ふん。空中じゃたいしたこと無いわね!」
届かない。
なら、重ねればいい。
無理? 不可能?
そんなものは知ったことか。
そんなもので止められるほど、僕は落ち着いていられないんだ!
「【韋駄天】【飛天車】!」
「なにっ!? くっ!」
二つの、いや、無想ノ太刀も含めて、三つのブラットアーツが重ねがけされた攻撃が、レイナーレを襲う。
「きゃあぁぁぁあ!!」
咄嗟に光の槍で防御した彼女だが、当然、それはあえなく打ち砕かれ、地に落ちる。
「まだだ!」
足りないんだ、これだけじゃ!
まだ、僕の怒りは、激情は治まらない!
もっと強く、もっと激しく!
【無想ノ太刀・黒】の効果はまだ続いている。
――――ブラッドアーツ発動、
――――発動、
――――発動、
――――発動!
「【無尽ノ太刀・蒼】!【ソニックキャリバー】!【アークキャリバー】!【朧月】!!」
合計、五つの重ねがけ。
結果、言葉では言い表せないくらいの力強さが、体の奥から沸き上がってくる。
同時に、自覚できるほどの体への負担がかかる。
血管が膨れ上がる。
鼓動が大きく速くなる。
血が逆流するような吐き気に襲われる。
口から血が零れ、今にも倒れてしまいそうだ。
―――――でも、それでも!
「お前を斬らなきゃ、気が済まないんだよ、レイナーレ!!」
剣を振るう。
光が砕ける。
剣を振るう。
黒い羽根が舞い散る。
剣を振るう。
血飛沫が僕を濡らす。
体が悲鳴を上げる。骨が軋み、皮膚が裂けて血が飛び散る。
レイナーレも必死に抵抗するが、僕の剣には敵わない。
「おおおおおおお!!!」
喀血しながら叫び、大きく斬り上げた。
下から上へと走った刃は、レイナーレの体を切り裂いて吹き飛ばす。
「いやぁ、いやぁぁぁ…………」
血だらけになって地に伏したレイナーレが、泣きながら這うように僕から逃げていく。
指輪から放たれる光も、心なしか弱く、傷を治すに至っていない。
「……………………」
僕はそれを、冷めた思考で見下す。
ああ、なんて哀れで、醜くて、無様な生き物なのだろうか。
体は血まみれだ。
返り血と、内側から破けた皮膚から流れてくる血で、僕の体は真っ赤だ。
息は荒く、足元がふらつく。
それでも僕は、歩を進める。
トドメを、刺すために。
殺すために。
「ブラッド……アーツ………発、動」
息も絶え絶えだ。声も掠れている。
「いや、いや! 来ないで! 化け物ぉ!」
トドメの一撃は、先程の連撃のフィニッシュ技。
「…………【斬てつ…………っ!?」
だけど、その技が放たれることは無かった。
「がふっ…………!?」
口から、大量の血が溢れて、膝を付く。
――――ああ、体の限界か。
血が抜けて、少し冷静になった思考が、そう判断する。
思えば、あそこまで無茶をする必要なんか無かった。 多分、一つの
それでも止まれなかった。止まりたくなかった。
そうでもしなければ、この思いは、この
神機を取り落とし、うつ伏せに倒れ込む。
おいおい、何やってんだよ僕。
立てよ。ほら、立って神機を取れよ。
まだやるべき事は残ってるんだ。だからほら、立てよ…………立てよ!!
「ぐ、ぅぅぅ…………」
どんなに自分を鼓吹しようとも、口から漏れるのは呻き声のみ。
体はおろか、指の一本すら動かない。
それを見たレイナーレは、体を起こし、僕を笑う。
「は、はははははっ! 無様ね! たかが人間ごときが、力を付けた程度で調子に乗って、この至高の堕天使に刃向かったからそうなるのよ! 哀れね、
僕を指差し、先程の怯えを捨て去って、彼女は僕を見下す。
「無様にのたうち回って死になさい!
光が降り注ぐ。僕を殺すために。
それでも、光を放つレイナーレ自身は近づいてこない。多分、僕が怖いんだ。
全く、なんでこいつは学習しないのか。
今まで、自分が投げた光が、誰かを殺した所なんて見たことあるのだろうか?
少なくとも、僕は見たことがない。
だから僕はこんな光、
『Boost!!』
「うおおおおおおお!!」
ちっとも怖くなんか無い。
だって、
『Boost!!』
「しゃらぁ!!」
兄ちゃんが、僕の
「頑張ったな、ハル。美味しいところ持ってく様で悪いけどさ、あとは俺に任せてくれ」
「…………もちろんさ、イッセー兄ちゃん」
僕の目の前には今、優しいヒーローが立っていた。
◆◇◆◇◆◇◆
アーシアが死んで、俺は絶望に打ちひしがれた。
あのアーシアが、あの優しい少女が、こうも呆気なく死んだ。
その事実を、俺は自分の死以上に受け入れられなかった。
「アーシア? おい、アーシア起きろよ?」
だから、呼び掛けた。何度も何度も。
終いには、自分が悪魔だと言うのも忘れて、ひたすら神様ってのに願った。
だけど、神様は答えて暮れない。答えるはずもない。
後ろで、ハルの怒号が聞こえた。
何かを破壊する音も、レイナーレの驚愕の声も、聞き取れた。
ハルの語気が荒い。
あれは知っている。ハルがあんな口調になるのは、本気で怒った時だ。本気で怒って、周りが見えなくなって、自分の体を後回しにしてでも、自分の激情を相手にぶつけるときの声だ。
――――それは、ダメだ。
昔、こうなった時のハルは、自分が傷だらけなのも構わずに、喧嘩の相手を殴っていた。
相手が泣いても、自分の体が限界になっても、だ。
「ハル…………っ!」
案の定、ハルは倒れた。
レイナーレを追い詰めて、追い詰めて、そしてトドメの前に、ハルは倒れる。
それを傷だらけのレイナーレが笑い、ハルを殺そうとする。
―――――やらせるもんか。
―――――こんな事で、弟までも殺されてなるものか。
―――――俺の
―――――
―――――だったら応えろよ。俺の心に、俺の、
「なあ、
籠手の宝玉から光が溢れる。
アーシアのような優しい光ではない。
レイナーレのような、醜い光でもない。
ハルのような、荒ぶる光でもない。
力強くて、頼もしい光だ。
『Dragon Booster!! Bloody Reinforce!!』
赤い光。
血のような、炎のような、赤い光が溢れ出す。
駆け出す。
拳を横に薙ぎ払う。
『Bloody Booster!! The Encourage!!』
体のそこから溢れる光が辺りを照らし、俺に力を与える。
俺自身が、『鼓舞』されていく。
これで、俺はようやくこいつを殴り飛ばせる。
俺から
たとえ元恋人だろうと、躊躇う理由は無い!
「い、いや!」
多少治ったらしい翼を羽ばたかせて、レイナーレは今にも飛び立とうとする。
「逃がすかよ、バカ」
掴んだ腕には、驚くほどに力が無く、弱々しい。
俺は一気に引き寄せる。
「私は、至高の!」
「知るかよ! 吹っ飛べ、クソ堕天使!」
『Blood Arts Operation!!』
籠手から発せられるその音声と共に、とある技名が頭に浮かぶ。
「【破撃ノ拳打・龍】!!」
赤い光が、拳を覆い尽くす。そしてその光は、龍の形をしていた。
「おのれぇぇぇぇ!! 下級悪魔がぁぁぁぁぁ!!」
その龍を纏った左拳を、レイナーレの顔面に鋭く打ち込んだ。
一瞬、本気で好きになっていた夕麻ちゃんの顔が頭に浮かんだ。
「おおおおおおおおおお!!!!」
でも、俺はそれを振り払うように拳を振り抜いた。
打ち抜かれたレイナーレは大きくぶっ飛び、壁を突き抜けて行った。
「はぁ、はぁ…………っ!」
息は切れ、肩で息をする俺の肩に、手が置かれる。
振り向くとそこには、剣を杖にしたハルが立っていた。
俺たちは互いに目を合わせ頷くと、拳を打ち合わせる。
そして、
「「ざまーみろ」」
声を合わせて、そう言った。
「…………仇は討ったよ、アルジェントさん」
空を見上げて、ポツリと、ハルがそう呟いた。
でも、アーシアはもう二度と、俺達には笑いかけてくれないんだ…………。
涙が、俺達の頬を伝った。
ゲームと区別と言うか、差別化をするために、イッセーの視点では『鼓舞』と描写しました。誤字ではありません。
…………それと、ブラッドアーツって綴りは『Blood Arts』で良いんですかね? ちょっと不安です。わかる方がいらっしゃれば、どうか教えてください。