イッセー兄ちゃんが堕天使を殴り飛ばした。
それはいい。凄くいい。
でも僕は一つ、気になることがあった。
それは、イッセー兄ちゃんが使った【破撃ノ拳打・龍】。あれは絶対、ブラッドアーツだった。
しかも、兄ちゃんの籠手が発したあの光。あれを僕はよく知っている。
あれは、血の力だ。
血の力の発現時に、体から溢れる光。
なぜ、ゴッドイーターでもない、ましてや偏食因子すら持たないイッセー兄ちゃんが血の力に目覚めたのかは解らない。
でも、今はどうでも良い。
今はただ、あの堕天使を倒せたことだけを理解しておこう。そちらの方が、重要なんだから。
「お…………っと」
体の力が抜けて、僕は後ろに倒れていく。
「…頑張ったね、ハルト。カッコ良かったよ」
でも、後ろから小猫ちゃんが抱き付いて、僕を支える。
「よかった…………無事だったんだね、小猫ちゃん」
「…うん」
一通りの会話がすむと、涙がまた零れてくる。
さっきも泣いた。戦ってる時も泣いていたはずだ。
それなのに、僕の涙は止まることも、枯れることも知らないように、次から次へと溢れてくる。
嫌だなぁ…………もう泣きたくなんか無いのに。
「…いいんだよ。泣いても。痛かったね、辛かったね。…………悲しいね」
優しい、慈愛に満ちた小猫ちゃんの言葉が、僕の心に染み込んでくる。
「うん……うん…………」
涙が止まらない。
僕は、友達を守れなかった。
言葉は通じなかったし、年齢も、好きな食べ物も、あの人の事は殆ど分からなかったけど、あの人は、あの
仇は討った。
でも、それで彼女が帰ってくることなんて無いんだ。
「部長、連れてきましたわ」
いつのまにか来ていた姫島先輩が、同じくいつのまにか来ていたグレモリー先輩の前に、レイナーレを
「ありがとう、朱乃。起こして貰えるかしら」
「はい」
グレモリー先輩の頼みに、姫島先輩は空中に水の塊を作り、それをレイナーレの顔面に叩きつけた。
…………姫島先輩、怒ってる?
「ゴホッ、ゴホッ!」
「ごきげんよう、堕天使レイナーレ」
「リアス・グレモリー…………」
「久しぶりね。早速だけど、あなたのお仲間の二人…………ドーナシークとカラワーナと言ったかしら? あの二人なら来ないわ」
グレモリー先輩が事も無げに言ったその言葉に、一瞬理解できなかったのかレイナーレは固まり、次いで顔色を蒼白へと変える。
「う、嘘よ…………」
すると、先輩は懐から二枚の羽根を取りだし、レイナーレに渡す。
「これが彼女たちの羽根よ。あなたならわかるでしょう?」
「そんな…………」
「そこそこ手強かったけれど、所詮は下級堕天使。しかも一人は手負い。2対2で負ける方が難しいわ」
グレモリー先輩はニッコリと笑顔を向ける。
けれど、その目は笑っておらず、侮蔑と怒りに満ちていた。
「さて、堕天使レイナーレ。私が何を言いたいか、わかる?」
「え?」
羽根から視線を先輩に戻す堕天使。
そして視線を戻した瞬間、彼女は固まる。
なぜなら、
「消えて貰うわ、堕天使レイナーレ」
グレモリー先輩の体から、これまで見たことがないくらいの魔力が吹き出ていたからだ。
魔力で髪は踊り、周囲は紅のオーラで照らされる。
「もちろん、その
「い、嫌よ! わ、私は、私はこれで、あの方々に……アザゼル様とシェムハザ様に―――――」
彼女の言葉に構わず、先輩は右手をかざす。
レイナーレは焦るように辺りを見回し、イッセー兄ちゃんを見ると、途端にその足元にすがり付くように這いつくばり、媚びたような声を出す。
「イッセーくん! 私を助けて!」
―――――は?
「この悪魔が私を殺そうとするの! 私、あなたの事が好きよ、愛してる! だから、一緒にこの悪魔を倒しましょう!」
――――――こいつ。
僕は無言で歩き出し、神機を頭上に構える。
――――――どうしてこいつは、ここまで僕を怒らせる。
しかし、振り上げた神機を降り下ろすことは無かった。
「やめなさい、ハルト。あなたが手を汚す必要は無いわ」
「部長、俺もう限界っす…………。お願いします」
イッセー兄ちゃんがそう言った瞬間、レイナーレは顔を絶望に染める。
「私のかわいい下僕に近寄るな、ゲスが。消し飛べ」
グレモリー先輩の手から放たれた魔力の一撃は、堕天使を跡形もなく吹き飛ばし、教会に黒い羽が舞い散った。
◆◆◆◆◆◆◆
「さぁ、この指輪をアーシア・アルジェントさんに返しましょうか」
レイナーレが死んだ後、回収した
「で、でも、アーシアは、もう…………」
そうだ。
確かに神器は取り返せた。でも、それで彼女が生き返ることなんか無いんだ…………。
「イッセー、これがなんだかわかる?」
落ち込む僕らにグレモリー先輩が見せたのは、赤いチェスの駒。
グレモリー先輩の【
「これで、この子を悪魔として転生させるわ」
「ほ、本当ですか、部長!」
「…………この子の回復能力、私が欲しいと思ったの。だから別に、この子の為じゃないわ」
…………んー? なんぞ今のツンデレは。
するとグレモリー先輩は僕の視線に気がついたのか、恥ずかしそうに咳払いをした。
「んん! それとイッセー。突然で悪いけど、あなたの神器についていくつか分かった事があるわ」
「へ? 俺の神器って、ありふれた物なんじゃ?」
「私も最初はそう思ったわ。けど、それじゃあなたの駒の数が割りに合わないのよね」
「駒の数?」
何でも、イッセー兄ちゃんは【
そして、ありふれた神器でそのポテンシャルは出せず、イッセー兄ちゃん本人にも、そのポテンシャルを見いだせなかったんだと。
うん、軽くdisられたね、兄ちゃん。
「イッセー、あなたの神器は、神すらも滅せる道具…………つまり【
マジで? 兄ちゃん神さま殺せるの?
何それチート? しかもなんかデザインカッコいい。
「名前を【
…………それともう一つ。兄ちゃんは血の力を手に入れている。
まあ、それはまた今度の機会にだね。
今は、アルジェントさんが最優先だ。
「グレモリー先輩」
「わかってるわ。この話は一旦ここまでね」
そう言って、グレモリー先輩は駒をアルジェントさんの胸の上に置く。
途端、駒から紅い光が発せられ、アルジェントさんの体を包み込んだ。
「蘇りなさい。私の新たな眷属として」
先輩のその言葉に呼応して、より一層強くなった光と共に、駒はアルジェントさんの中に沈み込んでいく。
同時に、彼女の神器も光となって、体に入っていった。
それは、紅と緑の光が入り乱れる、どこか幻想的な光景で、僕たちは無意識に息を飲んだ。
―――――これで、アルジェントさんは…………。
光が全て収まると少しして、アルジェントさんの瞼が持ち上がる。
「あれ?」
ちょっと気の抜けた、彼女の声が聞こえる。
それになにより…………
「アーシア!」
「アルジェントさん!」
「……イッセーさん、ハルトさん、私はいったい…………」
なにより、そう、言葉が解るんだ。彼女の。
僕たちは無意識に、彼女の体を抱き締めた。
「よかった…………うん、本当によかった!」
「は、ハルトさん…………言葉が…………」
アルジェントさんの声も震えている。
だんだん、頭も状況に追い付いて来たのだろう。嗚咽も聞こえ始める。
僕とイッセー兄ちゃんはアルジェントさんから体を離し、互いに顔を見合わせる。
そして、
「帰ろう、アーシア」
「僕たちと一緒に」
彼女に手を伸ばした。
さっきは届かなくて、掴めなかった手を、今ここで、僕たちは伸ばしたんだ。
「……………………はいっ!」
そしてその手を、彼女は泣きながら嬉しそうに取ったのだった。
日に日にクオリティが下がっていってるような気がする…………どうしよう。