第27話
「…………なんだろう、変な夢を見たような気がする」
思い出せそうで、思い出せなさそうで、何となく思い出しちゃいけないような夢だった。
おもに身の危険的な理由で。
「今何時…………って、まだ五時過ぎじゃないか」
目覚ましのセットは六時半。対して、時計の短針は五をほんの少しだけ過ぎ、長針は一と二の間くらい。
「うーん……でももう目が覚めちゃったし…………暇だし…………」
流石に朝からゲームをするのは気が引ける。
って言うかお母さんに見つかったら怒られる。それだけは勘弁願いたい。
「たまには散歩でもするかな」
この時期の早朝の空気は、たとえ住宅街でも中々心地が良い。
うん、そう考えるとちょっとワクワクしてきた。
僕はぱぱっと着替えを済まし、部屋を出る。
「そういえば、イッセー兄ちゃん、特訓してるって言ってたな…………ちょっと冷やかしに行こうっと」
グレモリー先輩曰く、イッセー兄ちゃんの
…………いや、良く考えてみたら、それ普通じゃない? 兄ちゃんの能力に関わらずさ。
「場所は…………確か公園だっけ?」
ま、とりあえず行ってみよう。
◆◆◆◆◆
散歩がてら公園を目指す中、僕は思考の海に沈む。
考えるのは先日の事だ。
「血の力、か…………」
それは、イッセー兄ちゃんが目覚めた力。本来なら、ゴッドイーター、それも、ブラッドしか使えない特殊な能力。
なぜ偏食因子すら持たないイッセー兄ちゃんがそれを得たのか。
考えられる要因としては、兄ちゃんが悪魔であったこと。そして多分、
「僕の『喚起』かなぁ…………?」
僕はゲームの装備を引き継いだ。ゲームの装備ということはつまり、主人公の装備だ。
そして、ブラッドアーツが使えるってことは、僕も血の力に目覚めているという証。
ということは、僕が仲間の覚醒を促す『喚起』の力を引き継いでいてもおかしくはない。
「予想としては、この世界で偏食因子に当たるものが悪魔の細胞か、駒か、それに準ずるなにかで、目覚めたきっかけは多分、十中八九僕の『喚起』…………と」
うーん、あのときはイッセー兄ちゃん感情が高ぶってたってのもあるんだろう。
「あれ? もしかしてこれ、皆にも目覚める可能性があるってこと?」
イッセー兄ちゃんの
…………悪魔だから目覚めるのか、それともあの籠手だから目覚めたのか、はたまた、人間以上の強さなら皆目覚めるのか…………。
「あー、ダメだ。わかんない。頭破裂しそう」
まぁこれは追々考えるとして、問題はイッセー兄ちゃんがなんの力に目覚めたか、だ。
これに関してはあらかた予想は付いてる。
多分、『鼓吹』か、それに準ずる何か…………。
あのとき、籠手の音声はなんて言っていたかなぁ。
えっと、『じ、自演カレー時』?
なんじゃそら。
んーと、『ジェンカレッジ』? 違うな。『ジエンドカレー』? すごく辛そうだ…………。『ジ…エンカレージ』?
あ、わかった! ジってあれか! ザか! The!
んで、あとは『炎カレー時』を検索っと。頼んだ、
『エンカレージ 英語 意味』っと。
あれ? 出ない。
なら、『エンカレッジ 英語 意味』は…………よし、出た。
………なるほど、『Encourage』、意味は励ます、鼓舞。
『鼓舞』、かぁ…………。イッセー兄ちゃんにピッタリだ。
と、考え事してたら公園に着いちゃった。とりあえず今ここまでにしておこう。
「ん? あれは…………」
◆◇◆◇◆◇◆
「あ、いたいた、おーい!」
腕立て伏せの姿勢のまま、そんな声が聞こえた方へ顔を上げると、
「あぅ!」
と思いっきりすっ転ぶ金髪シスター(悪魔)と、それを見て慌てる弟分がいた。
◆◆◆◆◆◆
「お茶です、イッセーさん」
「あ、ああ、ありがとう、アーシア」
アーシアから手渡されたお茶を飲みながら、一息着くと、ハルがタオルを渡してくる。
「最近毎日こんなことしてるの?」
「そうだなぁ…………最近ちょっとメニュー量が増えたかも」
渡されたタオルで汗を吹きながらそう答え、ふと、思い付いたことを言ってみる。
「なあハル。お前も一緒にトレーニングするか?」
「え、やだよめんどくさい」
即答か!
「でもハルト? あなたも鍛えた方が良いわよ?」
部長からもそう提案されたハルは、今度はしばし考え込む。
「なら、イッセー兄ちゃんが僕と同じくらいになったら始めます」
「え?」
「ハルト、それはどういう…………」
曰く、神機の影響で、身体能力がかなり強化されて、むしろ今は手加減の練習中なんだそうだ。
実際、俺がやったメニューをやらせて見たところ、息を切らすどころか、汗一つかかずにこなして見せやがった。
「これのおかげで、体育の時間が一番大変になっちゃったんですよね」
くっそコイツ、俺が体作りで苦労してるってのに…………おいコラ、そのドヤ顔やめろ。
と、そんな俺達のやり取りを見ていた部長が、ふと立ち上がる。
「ん? どうしたんですか? 部長?」
「いえ、そろそろ丁度良い時間だなって」
「丁度いい?」
なんの話だ?
「もう荷物が届いている頃だろうし」
◆◇◆◇◆◇◆
グレモリー先輩に引き連れられて、僕も兄ちゃんの家に行くことになった。
そこで僕が見たのは…………。
「………こ、これはいったい」
イッセー兄ちゃんが驚愕している。まあそれもそうだろう。
だって、玄関先に何も書かれていない段ボールが積み重なっているんだもん。
「あの、部長、これは………?」
「これ? アーシアの荷物よ」
…………へ?
「え?」
「アーシアの荷物!?」
僕の驚愕の声と、兄ちゃんのそれが出たのは同時だった。
そんな僕ら、特にイッセー兄ちゃんを狙って、追い討ちの一言が言い放たれる。
「そうよ。今日からアーシアはあなたの家に住むの」
「えええええええ!?」
イッセー兄ちゃんのそんな叫びに、アーシアさんは顔を赤くして恥ずかしそうに言う。
「ふ、不束者ですが、よろしくお願いします、イッセーさん!」
…………………………………………。
あれ?
なんか今、変な感じがした。
こう、胸がモヤモヤするような…………。
なんだろう、この感じ。
少し、ヤな感じだな、これ。
二巻が始まったのは良いんですけど…………あぁぁぁ、テストが…………レポートが…………演劇部の本番が…………。
心労がマッハでござる(´・ω・`)