…………数日間、この山で修行して、わかった事がある。
というよりも、前々から気づいてはいたんだ。ただそれを、俺が認めたくなかっただけで。
俺には、木場のような剣の才能がない。
小猫ちゃんのような格闘技の技量がない。
アーシアのような魔力の素質がない。
ハルのような、特殊能力の素養がない。
剣は握ったこともない。
喧嘩だってしたことない。
魔力なんか妄想の中だけの話だった。
でも、『血の力』は違う。
あれは俺だけの力だ。皆に目覚めるかも知れないけど、『鼓舞』の力は俺だけの力だ。
なのに、上手くいかない。上手く使えない。
『血の力』も『ブラッドアーツ』も。
ハルは懇切丁寧に教えてくれる。
今だってようやく、発動確率が3割ってところだ。
正直、それだけ教えてくれるのに、上手く使えない自分が恨めしい。
恨めしくて、恥ずかしい。
俺は弱い。
この中の誰よりも、弱くて、役立たずで。
―――――こんなんで、俺は戦えるのだろうか。
◆◇◆◇◆◇◆
ドアが閉まる音で、目が覚めた。
隣を見てみると、右隣のベッドで寝ていたイッセー兄ちゃんの姿が見当たらない。
左隣のベッドでは、木場先輩がスヤスヤと眠っている。
僕が視線を向けたのと同時に、木場先輩が布団の中で身じろぎし、口を開く。
「うーん………そこはダメだよ、イッセーくん…………」
………………………………。
僕、寝ぼけてるのかな?
とんでもなくえげつない寝言が聞こえた気がした。
『主逃げろ』
『主君逃げて下さい! 超逃げて下さい!』
『我が君と木場祐人……ふふ……………………ハッ!? 我が君やっぱり逃げて!』
う、うん。
一瞬サリエルから不吉な物を感じたけど、そうするよ。
僕の中の神様達に従い、そそくさと音を立てないように忍び足で部屋をあとにする。
その際、
「…………ハルトきゅん」
なんて声は聞こえてない。
聞こえてないったら聞こえてない。
『あの男、いつか喰い殺してくれようか』
「ま、まぁまぁ、落ち着いてマルドゥーク」
いざとなったら頼むからさ。
しかし、夜の山荘って暗いなぁ。
悪魔の皆は夜目が聞くらしいけど、ゴッドイーターは悪魔ほど聞かないらしい。
なんか…………オバケとか出そう。
「俺、部長のこと、部長として好きですよ」
ぶふぉ!?
び、ビックリした! 二つの意味でビックリしたぁ!
いきなり暗がりから声が聞こえてきたのと、その言葉の内容がなんとも。
そそくさとリビングのドア前にいき、そこにしゃがみこんで、隙間からそっと中を覗き見る。
「グレモリー家のこととか、悪魔社会とかよく分からないし、けど俺にとってリアス部長はリアスであって…………えーと、何と言うか、俺はいつもの部長が一番です」
僕は凄い現場を目撃したのかもしれない。
あの台詞はまさに愛の告白そのもので、そのときの兄ちゃんの顔が、真面目モードのそれで。
うん、これ以上は見てちゃいけない気がする。
そう思って僕が踵を返しながら立ち上がった瞬間、僕の視界が真っ暗になる。
「!?!? んーーー!!」
そして同時に訪れる息苦しさ。
なに!? なにごと!? 何度か感じたことのある感触だけど!!
「あらあら、自分から飛び込んで来るなんて」
「……………」
声と無言の圧力が僕に届いたと同時に、後頭部から前方へ締め付ける力が強くなり、脇腹が強くつねられる。
「
「んっ……うふふ、積極的ね」
「…早く離して下さい」
今度は後ろから引っ張られる事により、僕の視界が開けた。
目の前にいたのは姫島先輩だ。なんか顔が赤い。
後ろで僕を引っ張ったのは小猫ちゃん。無表情の不機嫌オーラが怖い。
ん? って今のもしかして僕、姫島先輩の胸に顔を埋めてた?
「ご、ごめんなさい!!」
できるだけ声を殺したまま、僕は姫島先輩に謝る。
「気にしなくていいわ」
うう、そう言ってくれるとありがたいです。
というか、小猫ちゃん。いつまで僕は君にホールドされ続けるの?
「…うるさい」
ぐぇぇ…………。
痛い痛い! アバラ折れる!
『…………待っていろ主。今すぐ具現化して、そこの小娘どもを喰い散らしてやる!』
『姫島朱乃と言いましたか? 先程のは妾の仕事ぞ。滅してくれる』
君らなんか今日物騒だね!?
『お、王! 女王! お気を確かに!』
あ、頑張れカムラン。二人を止めて!
『お二方が手を汚す必要などありませぬ! ここは拙者が!』
カムラン、お前もか。
「そ、それで、二人はなんでここに?」
「…ハルトがいるから」
「たまたまですわ」
…………小猫ちゃん、微妙に答えになってないよ。
「そ、それじゃ戻りましょうか」
正直いって、もう眠気が限界に近い。
その時、姫島先輩がこんなことを言った。
「あの二人、素敵ですわね」
うん、確かに。
あんな風に、真っ直ぐ好きって誰かに伝えるのは凄いと思う。
「いつか私たちも、あんな風に言われてみたいですわ。ね? 小猫ちゃん?」
「……なんで私に振るんですか」
姫島先輩の言葉に、小猫ちゃんはプイッと顔を背けてしまう。
好き、ね。
「僕、二人のこと好きですよ?」
「「え?」」
もちろん他にも、イッセー兄ちゃんもアーシアさんもグレモリー先輩も、ちょっと身の危険を感じるけど、木場先輩も。
オカ研の皆が大好きだ。
「………は、ハルト…………」
「ん?」
あれ? なんか二人とも顔が少し赤い?
「どしたの? 二人とも顔が赤いけど」
「な、なんでもありませんわ! さ、さぁ、部屋に戻りましょうか」
どこか慌てたような二人に背を押されて、僕は寝室へと戻って行った。
「ふふふ、ハルトくん…………」
「ひっ!? な、なんだ、寝言か」
◆◇◆◇◆◇◆
翌朝、なんか朱乃さんと小猫ちゃんの機嫌が良かった。
ハルのカレーを少し多めにしてたり、お菓子を分けてあげてたり。
ハルはそれに無邪気に喜んでた。
朝食後、いつもなら修行に入るのに、今日は一旦皆集められた。
なんでも、経過を見るために、これまで使用禁止だった《
「イッセー、あなたに自信をあげるわ」
そう言って、部長は模擬戦開始の合図を告げた。
合図が出た瞬間、木場の姿が掻き消えたが、その直後、俺の目の端が何かを捉え、無意識に体がその方向へ防御姿勢をとる。
「っ!?」
その防御は見事成功し、木場は驚きに目を見開く。
「イッセー! 魔力の攻撃を放ってみなさい! 神器を発現したときと同じく、自分の最強を思い浮かべながら!」
魔力の攻撃?
部長の言葉に従い、俺は辛うじて作り出せる米粒サイズの魔力球を手のひらに作り出す。
すると、
『Bloody Booster!! The Encourage!!』
と、籠手が赤く輝きだし、
『Blood Arts Operation!!』
技名が脳内に浮かんだ。
「【ドラゴン・ショット】!!」
次の瞬間、俺は度肝を抜かれた。
ほんの小さな魔力球から放たれた魔力は、そのサイズからは考えられないような極太のビームとなって、山を吹き飛ばした。
「なにあれ? ブラスト?」
そんな呆然としたハルの呟きが聞こえる。
だが、驚いてるのはこっちだ。
なんだあれ!? ビビったー。
もしかして俺の攻撃、神器と血の力が合わされば凄まじい事になる?
「イッセー。あなたは確かに、この中じゃ一番弱いわ」
「は、はい」
「けど、それは神器を発動していない状態でのこと」
部長は先程吹っ飛んだ山の方を指差す。
「さっきの一撃を見たでしょう? 確かに速度こそまだ速くはないわ。けれど、あれが当たって無事でいられる存在は、そういないでしょうね」
マジっすか!? や、確かに凄まじい威力でしたけど。
「基礎体力も魔力操作も血の力も、あなたは少しずつだけど成長しているわ。
知ってる? 『一の才能より百の努力』。たしかにあなたの成長速度は他の人よりも遅いのかもしれない。
けれど、それでもあなたは確実に強くなっていってる。それを忘れないで」
部長はそう力強く俺に語りかける。
「それに、私の『
そう言って俺に微笑みかけた部長の笑顔が、何よりの励みになった。
よーし、やってやる!
待ってろよ、種蒔き焼鳥! ブッ飛ばしてやる!
ドラゴンショットがまさかのBA化。