明後日は、ライザーとの試合。
そして今日は、修行の最終日。
緊張のためか、目が冴えてしまった私は、バルコニーから空を眺めていた。
ここは山奥で光が少ないから、星がよく見える。
こうやって月明かりの下にいると、数日前のあの日、イッセーが私を真っ直ぐ見つめてくれた日を思い出す。
彼は強くなる。
今は弱くても、彼のポテンシャルは計り知れないものがある。
「あ……」
物音と共に、後ろから声が聞こえた。
「あら、ハルトじゃない。眠れないの?」
そこにいたのは、イッセーの弟分であるハルトだった。
思えば、彼も不思議な子だ。
神機と呼ばれる奇妙な武器を駆使し、堕天使を下した。
それだけじゃなく、『血の力』と呼ばれる、これまで見たことも聞いたことも、文献にすら乗っていないような力を使う彼。
そして、あの時私を助けてくれた恩人でもある。
――――そして、小猫と朱乃の想い人。
朱乃は隠しているようだけど、幼馴染みの私に隠し通せるとでも?
「あの、お邪魔でした?」
「ふふ、そんなことないわ。ほら、こっちいらっしゃい」
そう言って、私が座っている側の対面にある椅子を指差す。
そこに座った彼と、しばらく無言で星空を見上げる。
「綺麗な星空ですね」
「素敵でしょ?
そしてまた訪れる沈黙。
お互いに何も言わないけれど、この沈黙はなんだか心地いい。
「ねえ、グレモリー先輩」
唐突に、彼が私を呼ぶ。
「なにかしら?」
彼は、まだ空を見上げている。
「先輩は、なんのために戦うんですか? 何を思って、戦場に立つんですか?」
投げ掛けられたのは問い。
問われたのは、戦う理由。
「先輩がフェニックスさんとの婚約を破談にするためにこの試合をするのは理解しています。
だから僕は、この試合への理由は問いません。僕が聞いてるのは、これから先、どんな想いをもって戦いに臨むのか、それを聞きたいんです」
視線は空に向けたまま、彼は言う。
「これから先…………」
正直、考えたことも無かった。
精々、グレモリーの名に恥じないゲームをすることくらいしか。
だから、彼への答えに少し詰まってしまった。
すると彼は、視線をこちらに向ける。
その顔は、少し申し訳なさそうに笑っていた。
「すみません。なら質問を変えます
先輩は、何を目指すんですか? 何を目指して、どう在りたいんですか?」
今度は、目標と在り方を問われた。
「私は、王になりたい」
それにはハッキリと答えることができた。
「王に?」
「ええ。私はキングよ。皆のキング。そして部長でもあり、上級悪魔でもある」
私の言葉を、彼は黙って聞いている。
「私は、皆の王でありたい。皆の支えでありたい。皆の、道標でありたい。
まだまだ未熟だし、何をすればいいのかも解らないけれど、私はそう在りたい」
言葉にして、自分で確認して、そして新たに決意する。
そう、私は皆の主なのだから。
彼らは、イッセーを除く彼らは皆一様に、凄惨な過去を持っている。
自身の血に忌避感をもつ女王。
肉親への不信感を抱く戦車。
聖剣に激しい憎悪を燃やす騎士。
虐げられ捨てられ、自信を無くした僧侶。
彼らはきっと、未だ救いを求めているはずだ。
だから私は、私の下僕達の支えになりたい。
仲間を想い、共に泣き、笑い、そして共に歩んでいく。
「それが私の歩みたい王道であり、目指す場所よ」
彼の目を見て真っ直ぐと言い切る。
すると彼は、
「やっぱり、先輩は優しいんですね」
と、そう言って笑った。
「先輩。これから先、何があっても絶対に、その想いだけは失わないで下さい。
その想いがあなたの、力になる」
それだけ言うと、彼はその場から立ち上がる。
「もう遅いですし、僕は寝ます。お休みなさい」
「ええ、お休みなさい」
一礼し、踵を返した彼は、ドアに手を触れる直前、何かを思い出したかのようにこちらを振り向く。
「言い忘れてました。
――――先輩。あなたの目覚めは、もうすぐです。僕が保証しますよ」
それだけ言うと、今度こそ彼は部屋の中に戻って行った。
――…………。
「目覚めって、血の力のこと?」
そう一人ごちて、私はもう一度、空を見上げた。
◆◇◆◇◆◇◆
決戦当日。
部室にはすでにフルメンバーが揃っていた。
今日から授業に復帰したわけだけど、昨日までの欠席はなんか『オカ研の合宿』という、訳のわからない理由で公欠扱いになってた。
…………なんだよオカルト研究の合宿って。それで申請が受理される辺り、さすが悪魔ぱぅあ~。
さて、話を戻して、僕らは今、銀髪メイドことグレイフィアさんから説明を受けていた。
「開始時間になりましたら、こちらの魔方陣から戦闘フィールドへと転送されます。フィールドは異空間に作られた専用の世界なので、どんなに派手に暴れても構いません。使い捨てですので」
おおぅ、なんか大がかりだなぁ。
悪魔って凄い。間違えた、しゅごい。
「今回のレーティングゲームは非公式ではありますが、グレモリー、フェニックスご両家の皆様が観戦されており、さらに、魔王ルシファー様も拝見されております。くれぐれも、お忘れなきようお願いします」
魔王!? 悪魔のトップじゃん!
なんでこんな非公式試合なんか見に来るのさ!
「そう、お兄さまも…………」
え? お兄さん? グレモリー先輩の?
「あの、今部長が魔王さまのことをお兄さまって言ったような気がしたんですが…………」
兄ちゃんが恐る恐る手を挙げながら質問する。
「そうだよ、イッセーくん。魔王サーゼクス・ルシファー様は、部長のお兄様だよ」
「「ええええええ!?」」
僕と兄ちゃんの驚きの声が重なる。
こ、これが所謂さすおにか!
「で、でもグレモリー先輩とは苗字が……」
「ええ、ルシファーとは言わば役職名のようなもの。ですから、魔王に選出された方は、ファミリーネームとして、魔王の名を名乗るのですわ」
僕の質問に、姫島先輩が丁寧に答えてくれる。
へぇー、悪魔社会も複雑だなぁ。
「それでは皆様、時間になりました。ご武運を」
グレイフィアさんがお辞儀をすると同時に、僕らの足元の魔方陣から光が発せられる。
視界が完全に光に包まれる瞬間、グレイフィアさんの声が聞こえてきた。
「完膚なきまでに叩きのめしなさい、リアス」
それは、先程までの堅苦しいメイドの口調ではなく、まるで家族に投げ掛ける姉のような口調だった。
その直後、視界の光は消え、目の前のグレイフィアさんがいなくなると、グレモリー先輩が呟くように答えた。
「わかってるわ、義姉さん」
…………え? 姉さん? 姉妹なの?
どうやら、彼女の呟きは僕にしか聞こえていなかったらしく、僕の疑問がおいてけぼりなまま、ゲームが開始されたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆
彼らを見送り、お辞儀から姿勢を戻した銀髪のメイドは、そのまま別の部屋に移動する。
移動した先の部屋には、紅の髪を持つ男が、興味深そうに画面を見つめていた。
「サーゼクスさま」
「おつかれ、グレイフィア。それで、彼はどうだった?」
「お嬢様のおっしゃった通り、
「ただ?」
「なにか人間ではない…………そう、神やそれに類する存在に近い気配を感じました」
「…………それは、彼が神の一柱、あるいは血族かもしれない、ということかい?」
「いえ、そうでないのです。半神や憑喪神のような、その魂に刻まれているような気配ではなく、混じり物のような気配でした」
「つまり、後付けされたような神性だったと?」
「はい」
「なるほど、どうやら、予想以上に興味深い人間のようだね、彼は」
彼はその視線をもう一度画面へ向けた。
「リーアには悪いけど、僕は彼を観察するとしよう」
そう言って、彼は微笑みをその口許に浮かべるのだった。
なんだこの最後の黒幕感。
あ、黒幕じゃないですよ?