さあ、やって来ました《駒王学園》!
右も左もどこを見ても女子ばかり! ここは、天国か? いいや、ここが桃源郷だ。
まずは右を見る。
そこには女子がいる。
続いて左を見る。
そこにも女子がいる。
今度は後ろを見る。
やっぱり女子がいる。
最後に正面を見る。
そこには《変態》兵藤一誠の姿が。
………………………………。
「フンッ!!」
「痛ぁ!? なんで今殴られたし!?」
「うるさいよイッセー兄ちゃん。このおっぱい変態が」
目の前のこの変態は兵藤一誠。僕の幼馴染みにして、僕の人生最大の汚点である。
「お前、日に日になんか俺に対する手癖と悪口が酷くなってないか?」
「理由が知りたいならまずは自分の胸に聞いてみてよ」
この変態のせいで、いったい僕がどれだけの被害を被って来たことか…………。
一緒に帰るのを見られただけで悠斗×一誠なんて噂されるは、元浜先輩と松田先輩に話しかけられるだけで男女から敬遠されるわ、なんかもう、もう…………
あ、思い出したら段々腹立ってきた。シバキ倒そう。
「お、おいハル? その握り拳はいったいなんだ?」
「気にしなくていいよ? 少しシバキ倒すだけだから。大丈夫、痛みは一週間くらいだし」
「長ぇよ!?」
あ、くそ逃げられた。なんて無駄に逃げ足の早い人だ。
………まあ、でも。
「元気そうで、何よりだよ」
癪だが、本当に癪だが、あの人は僕の恩人なんだ。
それに、あの変態的言動さえ抜きにすれば、とてもいい人なのだ。
熱血漢というか、人情に篤いというか、そういう人なんだ、イッセー兄ちゃんは。
子供のころ、苛められていた僕のために上級生に喧嘩を売ったり、溺れている子供のために川に飛び込んだり。
ホント、そういうのをもっと全面に出せばモテると思うんだよね、あの人は。
もしくは、ああいう言動を受け入れてくれる人が現れるか。
……………………無理かな? 無理そうだな。
◆◆◆◆◆◆◆◆
あんまり早く来すぎたもんで、入学式までまだ時間は結構ある。
誰かとしゃべって時間を潰そうにも、同じ中学の連中は殆どいないかまだ来てないし、イッセー兄ちゃんには逃げられてしまったし…………。
と言うわけで、僕は今この高校の敷地内を絶賛探索中。てかこの学校、地味に広い。さすが私立。
「うわ、林とかあんのかよ。スゲーな」
そして、その林の中にそびえ立つ、一つの建物。
ちょっと不気味。
「…………よし、戻ろう」
別に怖い訳じゃないんだ。ただちょっと幽霊とかオカルト系の話が苦手なだけなんだ。怖い訳じゃないよ?
踵を返す前に、もう一度その建物を見上げる。多分、授業で使われない限り、もうここには来ないだろう。
だって怖…………くないし!
見上げた先には一つの窓があった。
――――あそこから幽霊と見えたらヤだなぁ…………。
そんなことを思ったからだろうか。いきなり後ろから声をかけられる。
「あの」
「うぇっひゃあい!」
思いきり飛び上がった。20㎝位は飛んだ気がする。
「あらあら、驚かせてしまったかしら? うふふ、ごめんなさいね?」
後ろにいたのは、この高校の制服を着た、長い黒髪にタレ目が印象的な、優しそうで美人なお姉さん。
多分この人先輩だ。
「あなた、一年生よね? どうしたのかしら? こんなところで」
「入学式までまだ時間があったので、あちこち見てたんですよ」
「そう。なにか面白いもの見つかった?」
「いえ、特には…………あ、この建物ってなんですか? ずいぶんと古いですけど、旧校舎とかです?」
「ええ、ここは旧校舎。今は使われなくなって、オカルト研究会が占領しているわ」
オカルト研究会…………そう聞くだけで、僕の危機回避センサーがけたましい音を鳴り響かせる。
あと目の前の先輩からも。
「うふふ、そういえば自己紹介がまだだったわね。私は姫島朱乃。三年生よ」
「どうもです。僕は神結悠斗です」
「よろしくね、ハルトくん。ところで私、ここのオカルト研究会の副部長をやっているんだけど…………」
「失礼しましたー!!」
はると は にげだした !
当たり前だ。あの流れは絶対に勧誘する流れだった。誰が入るものか、あんな恐ろしい場所!
オカルトは嫌いだ! 幽霊も嫌いだ! だって怖いもん!! 夜トイレに行けなくなっちゃう!!
ここまで来れば大丈夫のハズだ。
うん決めた。もう決めた。僕は絶対オカルト研究会になんか入らない。
絶対にだからな!!
◆◇◆◇◆◇◆
うふふふふ、可愛い一年生ですこと。
神結悠斗くん、といったかしら? 最後の年にいい後輩ができそうですわね…………ふふ。
それに、嫌らしい視線を向けてこないのも好感が持てますし、何よりあの表情。なんというか、そこはかとなく保護欲を掻き立てられるあの感じ…………。
なんとしてでも我が部に入れたいものですわ。
「…鼻歌。朱乃先輩、なんだか機嫌が良いですね」
小猫ちゃんにそう言われるまで、私は自分が鼻歌を歌っていることに気づかなかった。
「ええ、なんとしてでも我が部に入れたいものですわ、彼」
「あら、朱乃が男子に興味を持つなんて、どういう風の吹き回し?」
今度は私の幼馴染みの親友であり、私の主であるリアスが少し笑いながらからかうように言ってくる。
「心外ねリアス。私は別に男嫌いな訳ではないのよ?」
「…それで朱乃先輩。その人の名前はなんて言うんですか?」
私の袖をくいくいと引っ張りながら、小猫ちゃんが訪ねてくる。
「確か、神結悠斗と言っていたわ」
その時、その名前を聞いた小猫ちゃんが一瞬固まった気がした。