走る、走る、走る。
「プロモーション! 【
校舎に入り高らかに叫ぶことで、俺の体に力がみなぎる。
駆け上がる、駆け上がる、駆け上がる。
屋上に向けて、俺は階段を駆け上がる。
体力は殆ど残っていない。立ち止まれば倒れそうだ。今だって、震える足を無理やり動かしてる。気を抜けばきっと転んでしまうんだろう。
それでも立たなきゃいけない。向かわなければならない。
朱乃さんも、木場も、小猫ちゃんも、ハルも、皆やられてしまった。
だから今、部長を守れるのは俺だけなんだ。俺が残ってしまったから、俺が守るんだ!
何度も転びながら、それでも上を目指し、対に辿り着いたその扉を、勢いよく開け放つ。
「部長ォォオッ! 兵藤一誠、ただいま参上しましたッ!」
張り上げた声は少し掠れている。呼吸も荒い。
だけど幸い、掠り傷程度のダメージしか受けていない俺の気力は、いつも以上にみなぎっている。
「ふん、来たか。ドラゴンの小僧」
「申し訳ありません、お兄様。逃してしまいました」
「構わん。だがお前は下がっておけ」
「はい」
ライザー兄妹が言葉を交わすなか、俺は部長とアーシアの元へ駆け寄る。
「すみません、部長……俺以外、皆…………」
「あなたが謝る必要は無いわ、イッセー」
「無事で良かったです、イッセーさん」
そんなやり取りを交わし、俺はライザーを見据える。
向こうも、俺を見下すような目付きでこっちを見ている。
そんな奴に向かって、俺は左手の籠手を突き出しながら叫ぶ。
「俺がお前をぶちのめす!」
「ほぅ?」
ライザーは片眉のみを上げて、ニヤリと笑う。
「お前ごとき転生したての下級悪魔が、純血であり上級悪魔であるこの俺に勝負を挑むと?」
「ああ、そうだ!」
「………くっくくく、あっはははははは!!」
俺の返答を聞いたライザーはいきなり、腹を抱えて大声で笑う。
「はははははっ! そりゃいい! 冗談としては傑作だぞ、小僧!」
「なんだと!」
「おいおい、リアス。お前んとこの【
嘲るように笑いながら、ライザーは自分の頭を人差し指でつつく。
「うるせぇ! 行くぞ、ライザー!」
拳を握りしめ、ライザーに殴りかかる。
「ライザー『様』だ、下級悪魔」
だが、俺の攻撃は、冷たい声音でそう言ったライザーに片手で防がれてしまう。
くそっ! 倍加がたりねぇ!
『Boost!!』
「お?」
「うらぁ!」
俺の考えに答えるように倍加の音声が響き、俺に力を与える。
その与えられた力を使って、俺の拳を握るライザーの手を弾く。
そのまま、攻撃モーションに入る。
『Blood Arts Operation!!』
「食らえ! 【ドラゴンショット】!」
放たれた極大のエネルギーは、ライザーをも呑み込みそうな大きさで、俺にとっての全力の一撃だ。
しかし、山の一角ですら消し飛ばした俺のその攻撃を前にして尚、奴は顔色ひとつ変えず、微動だにしない。
そして、
「赤龍帝と言えども、所詮は下級の転生悪魔か」
そんな失望の声と共に
「この程度の攻撃に、不死の力はおろか、不死鳥の炎を使うことすら勿体無い」
何でもないという口調で、奴は自らの左手の甲を擦る。恐らく、その手で弾いたのだろう。
どこかに着弾したらしい【ドラゴンショット】が爆発した音が辺りに響き渡る。
「魔力の量からして延び白も少ない。体格から見て肉弾戦の素養もない。正直、何でお前なんかに
涼しげな表情で言い放たれる言葉を受けて、俺の脳裏には『絶望』の二文字が浮かび上がる。
けどすぐに首を振って振り払い、ほどけた拳を再び握り込む。
「まだだ! おおおおおお!!」
そう自分を叱咤し、俺は奴の下へ駆け出す。
『Blood Arts Operation!!』
籠手からそんな音声が響き、赤い光が放たれる。
拳を引き、狙いを定める。
「【破撃ノ拳打・龍】!」
鋭く力の限り踏み込む。
思い出すのは、小猫ちゃんとの修行で教わった、パンチの繰り出し方。
突き出す拳と引く拳は、背中が紐と滑車で繋がっているイメージで同時に動かす。
踏み込む足の親指が内側に来るように大地を踏み、その勢いを殺さないまま腰をひねり、力を上半身に伝える。
そして当てるのは、人差し指と中指の頭、つまり『拳頭』のみ!
修行の間、何度も繰り返した動きを脳内と体を使って再現する。
【破撃ノ拳打・龍】は、堕天使ですらも一撃で吹き飛ばした拳だ。それに加えて修行の成果を重ねれば―――!!
「言っただろう? お前ごときじゃ、俺には届かんと」
鋭く放った拳はしかし、いとも容易く、片手で受け止められてしまう。
「くっ!」
「逃がさん!」
すぐさま離脱しようとした俺の左手を、ライザーは右手で掴み込む。
それだけで、俺はこの場から動けなくなってしまう。
なんて馬鹿力だ!
「は、離せ! ―――ぶっ!?」
一瞬、何が起きたのか解らなかった。少しして、痛みと共に何が起きたのか理解した。
殴られたんだ、と。
「小僧、調子に乗るなよ?」
左手を掴む力が強くなる。籠手越しでも分かるほどの力だ。
「俺とお前では、生まれも!」
顔を殴られる。
口内が切れたのか、鉄の味が広がる。
「育ちも!」
腹を蹴られる。
体が浮き、息が止まる。
「血筋も!」
持ち上げられ、地面に叩きつけられる。
骨が砕ける音がした。
「年季も!」
止めと言わんばかりに、顔を蹴られる。
もう、意識も朧気だ。
「何もかもが違うんだよ! 小僧!」
そして最後には上空に投げられる。
その軌道上にあった貯水タンクにぶち当たり、貫通し、水を撒き散らす。
そんな俺を見ながら、ライザーは右手に炎を宿す。
「特別にくれてやる! 【
「もう止めて!」
突如、そんな金切り声が辺りに響き渡る。
俺が声の主を確認するよりも早く、柔らかい何かに抱き止められる。
「
部長の声は震えていた。
声だけじゃない。体も、震えていた。
「ぶ、ちょ…………」
「もう、もういいのよ、イッセー」
ダメだ。
そんなのダメだ!
そう叫びたい。叫んで、アイツをぶっとばしたい。
なのに、声がでない。体が動かない。
「私の、負けよ」
―――――ああ。
―――――負けた。
俺が弱いから、何もできなかったから、負けた。
泣かせてしまった。守れなかった。
そんな顔を見たく無かった。
あなたの涙なんか、見たくなかった。
もう誰かの涙なんか見たくなかった。
誰も泣かせないって誓ったのに。
それなのに、俺は――――…………。
部長の泣き顔を見ながら、悔しさと自らへの怒りを抱きながら、俺の意識は暗闇へと落ちていった。
《力を、欲するか? 相棒》
最後にそんな声が聞こえた気がした。
◆◇◆◇◆◇◆
「リアス、俺は先に冥界に帰ってる。行くぞレイヴェル」
「はい、お兄様」
俺はそれだけをリアスに告げ、踵を返す。
そこで不意に、後ろから声をかけられる。
「お兄様、その左手…………」
「あん?」
レイヴェルに言われて左手を見てみれば、
「お兄様の左手が、震えてる?」
俺の手が、まるで力が入らないかのように小刻みに震えていた。
「もしや、彼の攻撃を弾いたときに?」
そんな言葉を聞き、一瞬そうなのかと考えるが、すぐに首を降る。
「まさか。殴りすぎたんだよ」
そうに決まってるとも。
そう結論つけた俺は、右手を炎に纏わせて傷を癒したのだった。
「…………まさか、な」
自分で書いといてアレですけど、とりあえず一言。
「ライザーえぐいなぁ」