ハイスクールG×E   作:フリムン

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今回主人公の出番はありません。悪しからず。


第38話

 

 走る、走る、走る。

 

「プロモーション! 【女王(クイーン)】!」

 

 校舎に入り高らかに叫ぶことで、俺の体に力がみなぎる。

 

 駆け上がる、駆け上がる、駆け上がる。

 

 屋上に向けて、俺は階段を駆け上がる。

 体力は殆ど残っていない。立ち止まれば倒れそうだ。今だって、震える足を無理やり動かしてる。気を抜けばきっと転んでしまうんだろう。

 

 それでも立たなきゃいけない。向かわなければならない。

 

 朱乃さんも、木場も、小猫ちゃんも、ハルも、皆やられてしまった。

 だから今、部長を守れるのは俺だけなんだ。俺が残ってしまったから、俺が守るんだ!

 

 

 何度も転びながら、それでも上を目指し、対に辿り着いたその扉を、勢いよく開け放つ。

 

「部長ォォオッ! 兵藤一誠、ただいま参上しましたッ!」

 

 張り上げた声は少し掠れている。呼吸も荒い。

 だけど幸い、掠り傷程度のダメージしか受けていない俺の気力は、いつも以上にみなぎっている。

 

「ふん、来たか。ドラゴンの小僧」

「申し訳ありません、お兄様。逃してしまいました」

「構わん。だがお前は下がっておけ」

「はい」

 

 ライザー兄妹が言葉を交わすなか、俺は部長とアーシアの元へ駆け寄る。

 

「すみません、部長……俺以外、皆…………」

「あなたが謝る必要は無いわ、イッセー」

「無事で良かったです、イッセーさん」

 

 そんなやり取りを交わし、俺はライザーを見据える。

 向こうも、俺を見下すような目付きでこっちを見ている。

 そんな奴に向かって、俺は左手の籠手を突き出しながら叫ぶ。

 

「俺がお前をぶちのめす!」

「ほぅ?」

 

 ライザーは片眉のみを上げて、ニヤリと笑う。

 

「お前ごとき転生したての下級悪魔が、純血であり上級悪魔であるこの俺に勝負を挑むと?」

「ああ、そうだ!」

「………くっくくく、あっはははははは!!」

 

 俺の返答を聞いたライザーはいきなり、腹を抱えて大声で笑う。

 

「はははははっ! そりゃいい! 冗談としては傑作だぞ、小僧!」

「なんだと!」

「おいおい、リアス。お前んとこの【兵士(ポーン)】は少し、ここが足りてないんじゃねぇか?」

 

 嘲るように笑いながら、ライザーは自分の頭を人差し指でつつく。

 

「うるせぇ! 行くぞ、ライザー!」

 

 拳を握りしめ、ライザーに殴りかかる。

 

「ライザー『様』だ、下級悪魔」

 

 だが、俺の攻撃は、冷たい声音でそう言ったライザーに片手で防がれてしまう。

 

 くそっ! 倍加がたりねぇ!

 

『Boost!!』

「お?」

「うらぁ!」

 

 俺の考えに答えるように倍加の音声が響き、俺に力を与える。

 その与えられた力を使って、俺の拳を握るライザーの手を弾く。

 

 そのまま、攻撃モーションに入る。

 

『Blood Arts Operation!!』

「食らえ! 【ドラゴンショット】!」

 

 放たれた極大のエネルギーは、ライザーをも呑み込みそうな大きさで、俺にとっての全力の一撃だ。

 

 しかし、山の一角ですら消し飛ばした俺のその攻撃を前にして尚、奴は顔色ひとつ変えず、微動だにしない。

 

 そして、

 

「赤龍帝と言えども、所詮は下級の転生悪魔か」

 

 そんな失望の声と共に弾き飛ばされる(・・・・・・・)

 

「この程度の攻撃に、不死の力はおろか、不死鳥の炎を使うことすら勿体無い」

 

 何でもないという口調で、奴は自らの左手の甲を擦る。恐らく、その手で弾いたのだろう。

 どこかに着弾したらしい【ドラゴンショット】が爆発した音が辺りに響き渡る。

 

「魔力の量からして延び白も少ない。体格から見て肉弾戦の素養もない。正直、何でお前なんかに神器(それ)が宿ったのか不思議な位だぜ」

 

 涼しげな表情で言い放たれる言葉を受けて、俺の脳裏には『絶望』の二文字が浮かび上がる。

 けどすぐに首を振って振り払い、ほどけた拳を再び握り込む。

 

「まだだ! おおおおおお!!」

 

 そう自分を叱咤し、俺は奴の下へ駆け出す。

 

『Blood Arts Operation!!』

 

 籠手からそんな音声が響き、赤い光が放たれる。

 拳を引き、狙いを定める。

 

「【破撃ノ拳打・龍】!」

 

 鋭く力の限り踏み込む。

 思い出すのは、小猫ちゃんとの修行で教わった、パンチの繰り出し方。

 

 突き出す拳と引く拳は、背中が紐と滑車で繋がっているイメージで同時に動かす。

 踏み込む足の親指が内側に来るように大地を踏み、その勢いを殺さないまま腰をひねり、力を上半身に伝える。

 そして当てるのは、人差し指と中指の頭、つまり『拳頭』のみ!

 

 

 修行の間、何度も繰り返した動きを脳内と体を使って再現する。

 【破撃ノ拳打・龍】は、堕天使ですらも一撃で吹き飛ばした拳だ。それに加えて修行の成果を重ねれば―――!! 

 

 

「言っただろう? お前ごときじゃ、俺には届かんと」

 

 

 鋭く放った拳はしかし、いとも容易く、片手で受け止められてしまう。

 

「くっ!」

「逃がさん!」

 

 すぐさま離脱しようとした俺の左手を、ライザーは右手で掴み込む。

 それだけで、俺はこの場から動けなくなってしまう。

 

 なんて馬鹿力だ!

 

「は、離せ! ―――ぶっ!?」

 

 一瞬、何が起きたのか解らなかった。少しして、痛みと共に何が起きたのか理解した。

 

 殴られたんだ、と。

 

「小僧、調子に乗るなよ?」

 

 左手を掴む力が強くなる。籠手越しでも分かるほどの力だ。

 

「俺とお前では、生まれも!」

 

 顔を殴られる。

 口内が切れたのか、鉄の味が広がる。

 

「育ちも!」

 

 腹を蹴られる。

 体が浮き、息が止まる。

 

「血筋も!」

 

 持ち上げられ、地面に叩きつけられる。

 骨が砕ける音がした。

 

「年季も!」

 

 止めと言わんばかりに、顔を蹴られる。

 もう、意識も朧気だ。

 

「何もかもが違うんだよ! 小僧!」

 

 そして最後には上空に投げられる。

 その軌道上にあった貯水タンクにぶち当たり、貫通し、水を撒き散らす。

 

 そんな俺を見ながら、ライザーは右手に炎を宿す。

 

「特別にくれてやる! 【不死鳥の(フェニックス)――――】」

「もう止めて!」

 

 突如、そんな金切り声が辺りに響き渡る。

 俺が声の主を確認するよりも早く、柔らかい何かに抱き止められる。

 

 

投了(リザイン)、するわ」

 

 部長の声は震えていた。

 声だけじゃない。体も、震えていた。

 

「ぶ、ちょ…………」 

「もう、もういいのよ、イッセー」

 

 ダメだ。

 そんなのダメだ!

 

 そう叫びたい。叫んで、アイツをぶっとばしたい。

 なのに、声がでない。体が動かない。

 

「私の、負けよ」

 

 

 

 ―――――ああ。

 

 

 

 ―――――負けた。

 

 

 俺が弱いから、何もできなかったから、負けた。

 

 泣かせてしまった。守れなかった。

 そんな顔を見たく無かった。

 あなたの涙なんか、見たくなかった。

 

 

 

 もう誰かの涙なんか見たくなかった。

 誰も泣かせないって誓ったのに。

 それなのに、俺は――――…………。

 

 

 

 

 

 部長の泣き顔を見ながら、悔しさと自らへの怒りを抱きながら、俺の意識は暗闇へと落ちていった。

 

 

 

《力を、欲するか? 相棒》

 

 

 最後にそんな声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「リアス、俺は先に冥界に帰ってる。行くぞレイヴェル」

「はい、お兄様」

 

 俺はそれだけをリアスに告げ、踵を返す。

 そこで不意に、後ろから声をかけられる。

 

「お兄様、その左手…………」

「あん?」

 

 レイヴェルに言われて左手を見てみれば、

 

「お兄様の左手が、震えてる?」

 

 俺の手が、まるで力が入らないかのように小刻みに震えていた。

 

「もしや、彼の攻撃を弾いたときに?」

 

 そんな言葉を聞き、一瞬そうなのかと考えるが、すぐに首を降る。

 

「まさか。殴りすぎたんだよ」

 

 そうに決まってるとも。

 

 そう結論つけた俺は、右手を炎に纏わせて傷を癒したのだった。

 

 

 

 

「…………まさか、な」

 

 

 

 

 




自分で書いといてアレですけど、とりあえず一言。

「ライザーえぐいなぁ」


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