「……ト…………………ハルト」
誰かが僕を呼ぶ声がする。
その声に導かれるように、暗闇に沈んだ僕の意識が少しずつ浮上する。
「………ん」
浮上した朧気な意識が僕の瞼を持ち上げ、周囲を確認する。
そこで、目の端に写ったのは白色。
小柄で、綺麗な真っ白で、猫みたいな…………
「こ、ねこ?」
かつて家で飼っていた白猫の名を呼ぶ。
「帰って、来てたの」
あの時の癖で、小猫を抱き寄せる。昔はこうやって一緒に寝たもんだ。
…………ん? なんか、猫にしては大きくないか?
「…は、ハルト……いきなり、そんな…………」
腕の中の猫(と思っているもの)が身じろぎをする。て言うか今の声、ものすごーく聞き覚えがあるような?
「…………………………………………」
そこまで考えて、朧気だった意識が覚醒し始める。
同時に、脳内も高速で動き出す。主にパニック面で。
お、おお落ち着け、coolだ! koolになるんだ前ばr………神結ハルト! ま、まずは状況の整理!
Q1.ここはどこだ?
A.僕の部屋だ。
おーけいおーけい、把握したぞぅ。
Q2.僕は何で寝てた?
A.戦いで負けて気を失ってた。
うんうん、徐々に思い出してきたぞぅ。
Q3.さて、腕のなかで抱えてるのは誰でしょう?
A.………………………………小猫ちゃんです。
マジかあたやも19#7@pm※◎※△★●▽!!!
…………えへへ、ちょっと発狂しちゃった☆!
「ごめんなさい小猫ちゃん! ちょっとお詫びに飛び降りてきます!」
僕がすぐに手を離し、すぐさま窓枠に手をかけ足を乗せた瞬間、後ろから抱き止められる。
「……ハルト………ハルトぉ…………ぐずっ」
う、うえええ!?!? 泣いた!? なんで!? 僕が抱き締めたから!? そうなんだな! それしかない!
「…良かった…………無事で良かった…………っ!」
湿った声でキツく抱き着きながら、僕の背中に顔を埋める小猫ちゃんは、震えていた。
しばらくして、背中になにかじんわりとした温かみが広がっていく。
「あ、えっと…………小猫ちゃん?」
相当強い力で、なおかつ僕には負担にならないよう器用に抱き締められているせいで、僕は後ろを向くことができず、困惑したまま小猫ちゃんに声をかける。
「…無茶、しないでよ」
「ご、ごめん」
「あんまり、怪我しないで…………」
「う、うん」
その問答が終わると、彼女は僕を離し、自分のところを向かせる。
意識が覚醒して初めて見た彼女の顔は、目は涙で濡れて赤く、頬も怒ったのか少し朱に染まっていた。
そして少し膨れっ面である。
…………なにこの可愛い生き物。
「……なに?」
ずっと見ていたためか、彼女は怪訝そうな顔で僕に理由を問いかける。
「ううん、何でもない。ただ、小猫ちゃんの分かりやすい表情って、なんか可愛いなぁって」
「………ッ! …………ッ!」
「痛たたたたた!」
突然、顔を片手で隠しながら僕の脇腹を抓る小猫ちゃん。痛いです。
「あらあら、小猫ちゃんったら」
不意に部屋の扉が開き、入ってきたのは姫島先輩。
「よかったですわ、ハルトくんが元気になって」
優しく微笑むその姿はまさに天女。あるいは慈母と言った方がしっくり来るかもしれない。
「…むぅ、朱乃先輩」
それを見てなぜかむくれる小猫ちゃん。
って待って? なんでこの二人が僕んちにいるの?
その質問を皮切りに、僕が気を失ってる間の出来事を聞かされた。
ゲームには敗北し、グレモリー先輩の結婚が決まったこと。
イッセー兄ちゃんもまだ目を覚ましていないこと。
今日、結婚式があること。
「え? でも僕人間ですよ?」
「魔王ルシファー様からのお誘いですの。妹の友人だから、と」
そっか…………。
「イッセー兄ちゃんは?」
「…目覚めれば多分、来るはず」
「そう………」
辛いだろうな、イッセー兄ちゃん。
俯いた僕の思考を断ち切るように、姫島先輩が手を叩く。
「さ、準備しましょうか。ハルトくんのスーツはこちらで用意しましたわ」
言った姫島先輩の手にはいつの間にか黒のスーツが。
それを受け取り、部屋に残ろうとする二人を(特に姫島先輩)追い出して着替え始める。
むぅ、ネクタイは自分で結ぶ奴か………中学は金具で止めるやつだったから、絞め方が解らないや。
「あの~」
とりあえずネクタイ以外の着替えを済ませて、部屋からでる。
「ネクタイってどうやって絞めるんですか?」
「あらあら、私にまかせて」
尋ねると、姫島先輩は僕からネクタイを受け取り、結び始める。
「あれ? 先輩、小猫ちゃんは?」
「御手洗いですわ」
…………そういえば、この二人どうやって家に入ったんだろう?
いや、うちの親の事だから、何回か面識のある姫島先輩なら通すだろうけど、小猫ちゃんは…………。
そんな疑問を持ったとき、下の会から声が聞こえてくる。
―――いやぁ、まさかハルにあんな可愛い彼女が二人もいるなんてな。
―――そうねぇ。でもあなた? 日本は一夫一妻制よ?
―――む、それは困ったな。ま、なんとかなるだろ! はははは!
―――そうね、ふふふふっ。
―――――――ハルトは考えるのを止めた。
ダメだあの親! 早くなんとかしないと!
「うふふ、できましたわ」
気がつくと、僕のネクタイを結び終わった姫島先輩が、なんだか上機嫌で笑っていた。
「あの、どうしたんですか?」
「うふふふふ、男の人のネクタイを結ぶなんて、まるで夫婦見たいじゃないですか」
「ぶふっ!? ふ、ふう……っ!?」
いきなり何を言い出すんだこの人は!
「あら、私ってかなりの優良物件だと思うのですが? こう見えて、料理裁縫掃除は得意ですのよ?」
「いや、それは割りと見た目通りでお似合いですけども!」
と、そこで僕は後ろから気配を感じた。
……こ、これは………殺気!?
「…朱乃先輩、こんなことしてる場合じゃないです。早く行きましょう。ばかハルト」
怒りを声に滲ませながら、小猫ちゃんが僕らを促す。最後になぜか怒られたけど。
部屋の中で姫島先輩が書いた魔方陣の上に乗って、光に包まれ始めた時、隣からポツリと、言葉が聞こえた。
「私だって、料理できるもん」
「え、なんて?」
あんまりにも小さすぎて、何を言ってるかまでは聞き取れなかったけど。
そしてなぜか拗ねられた。ごめん。
そうそう、冥界に行くのにグレモリー家御用達の、というかグレモリー家所有の電車に乗ったんだけど、なんか凄かった。
言葉にできないくらいに凄かった。
だって! 窓から見える次元の狭間って所に、とっても大きな赤いドラゴンが見えたんだもん!
これが冥界では普通なのかなって思ったけど、皆驚いてたから、結構珍しい光景ではあるんだね。
確か、グレモリー先輩が言うには、最強のドラゴンなんだって。
名前は確か………あ、アポ……アポなんとかドラゴンだってさ!
そのドラゴンがこっちを見たときは皆ビックリしてた。
その時、気のせいかも知れないけど僕、あのドラゴンと目が合った気がしたんだ。だから手を降ってみたら、なんか驚いたように見えたんだけど…………ま、気のせいだよね。
カッコ良かったなぁ。また見たいなぁ。
◆◇◆◇◆◇◆
ハルトが目を覚ました。
最初、メディカルルームに運ばれてきた彼は傷だらけで、私たちの誰よりもボロボロだった。
それも当然で、私や祐斗先輩が一撃でやられた攻撃を何度もその小さな体に受けて、それでなおかつ、あんなまさに力の激流と呼ぶべき光の翼を使ったんだ。無事な訳がない。
でも、目覚めた。
それだけでも嬉しかったのに、
「こ、ねこ?」
目覚めてすぐに、私の名前を呼んだ。
いつも見たいな『小猫ちゃん』ではなく、かつてのように『小猫』と。
しかも、それに加えて、彼はあろうことか私の腕を取り、引き倒し、抱き締めたのだ。
それはまるで、かつて私がここの飼い猫だったときに、彼がよくやっていた事。
彼はいつも、私を抱き締めて眠っていた。
最初は苦しかったけど、彼の温もりが心地よくて、いつの間にか私もそれが好きになっていた。
けどそれは猫の時の話。
今のこの姿でいきなりそんなことをされたら、当然というかなんというか、私は硬直してしまった。
彼の体温を感じるだけで顔は熱くなるし、鼓動を聞くだけで心臓は高鳴るし、寝息を聞くと、尻尾や耳が出そうになる。
そして頭を撫でられると、ちょっとここでは表現するのが憚られる大事な部分が大変なことになりかける。
卑怯だ、こんなの。
しかも、私の事、可愛いって。
もう一回言おう。
卑怯だ、こんなの。
それなのに、ハルトは朱乃先輩にデレデレするし…………私だって家事くらいちゃんとできるんだからね! ばかハルト。
それにしても、どうしてあのドラゴン、【
何となくだけど、なにかを探しているような感じだった。
しかも、ハルトが無邪気に手を降ると、なんだか驚いたように動きを止めた。
もしかして…………グレートレッドは、ハルトを見ていた?
でも、なんで?
山口県の『おっぱい条例』なる素晴らしい響きの条例、知ってます?
初めてこの条例の存在を知ったときはビックリしました。
日本人すげぇ。色んな意味で。