「くそっ! くそっ! なんだってこんなことに!」
俺、兵藤一誠は現在、四方から命を狙われていた。
「うぉぉぉぉ!! 野郎共! 狙うは兵藤一誠のみ! タマを潰せぇぇぇ!!」
「ふざけんなぁぁぁあ!!」
種目はドッジボール。
そしてジャンルは部活対抗戦。
「くっ、ちょこまかと、逃げるなぁ!」
「逃げるわアホンダラ! 死ぬわ!」
「死ね!」
ドッジボール。直訳すれば「球避け」
そして現在の俺はまさにドッジボールをしているわけだが、そのドッジボールで俺は今命の危険を感じている。
理由は簡単だ。
その理由を述べる前に諸君、一つ聞きたい。
幼少期、正確には小学校の高学年辺りくらい。
その頃体育や休み時間などにドッジボールをしたことは無いだろうか? もしやったことがあるのなら覚えがあるかもしれない。
いつの時代も、どの世代も、相手の身体能力に限らず、男子は女子に手加減をしなければならない、という不文律を。
そしてこんな覚えは無いだろうか? ドッジボールにおいて女子に当ててしまったり、女子に人気の男子に当ててしまった時のあの気まずさを。買ってしまった顰蹙の居心地の悪さを。
故に男子は女子や女子に人気の男子を狙わずに、その他の男子を狙い、女子は男子だろうと女子だろうと構わずに本気で投げてくる。
今現在、俺に起きている現状は、つまりそういうことである。
「兵藤さえ潰せば、たとえ負けようとも勝てるんだ! いいか!? 試合に負けても勝負に勝つんだよ!」
部長―――狗王学園の二大お姉さまの一人。大人気の学園マドンナ。当てられない
朱乃さん―――部長と同じ二大お姉さまの一人。清楚な学園アイドル。当てられない。
アーシア―――二年生No.1の癒し系天然美少女。しかも金髪。当てられない。
小猫ちゃん―――学園のマスコット。そのおみ足で踏まれたい。当てられない。
木場―――イケメン死すべし慈悲はない。ってやると女子の顰蹙を買う。当てられない
そしてハルト―――小猫ちゃんとならぶ学園マスコット。男子なのに男でも守りたくなる。当てたら可哀想。
以上の事から導き出される結論は、
兵藤一誠―――羨ましい羨ましい裏山死。なぜこいつがおにゃのこだらけの天国に入れたのか謎だ。理由はわからんがまぁとりあえず狙え、当てろ。
という、悲しい消去法であった。
「殺せぇぇぇぇ!!」
「死ねぇ!」
「アーシアたんのために!」
「yes!! ロリータ! no!! タッチ!! ショタもあり!」
「狙い撃つぜ!」
「いいぞー! もっとやれ! 兄ちゃんに当てろー!」
くっ、ギャラリーからもヤジが飛んできやがる……………って、
「おいテメ、ハル! どっちの味方だぁ!!」
「面白い方」
「即答か!!」
と、俺とハルがそんなやり取りをしている間に、アーシアが投げたボールが向こうに取られてしまう。
ボールを取った奴(確か野球部エース)は俺とハルと木場をそれぞれ見て、暫しの逡巡の後、
「く……う、恨まれてもいい! イケメン氏ねぇぇぇ!!」
よっぽどイケメンに恨みがあるのか、女子のブーイングを受けながらも、そいつは木場を狙ってボールを投げる。
しかし、ボールを投げられた当の木場は、それに気づいていないのか、ボケッと空を仰ぎ見ていた。
「危ない! 木場先輩!」
瞬間、俺の隣にいたハルトが駆け出した。直後、腕を引っ張られる感覚があった――――――っ!?
響いたのは、なんとも言えない直撃音。
続いて衝撃。
最後に、これまでの戦いの中でもっとも辛い痛み。
「………っ! ………っ!」
声にならない悲鳴が漏れる。
「あれ? ハルトき……くん?」
俺やハルの存在に今気がついたのか、木場はそんな間抜けた声を出す。
「大丈夫? 木場先輩? …………ふぅ、イッセー兄ちゃんが………いや、イッセーシールドが無かったら即死だった」
「は、ハルてめぇ………覚え、て、ろ……………」
俺の股間を見事に抉ったボールは地に落ち、周囲の大歓声を聞きながら、俺はそこで意識を失った。
◆◇◆◇◆◇◆
球技大会が終ると同時に、元々雨模様だった空から、ついに雨が降り始め、今や土砂降りだ。
雨が部室の窓を叩く心地のいい音のなか、部室内にパンッと、乾いた音が響いた。
「目は覚めたかしら? 祐斗」
音の原因は、グレモリー先輩が木場先輩の頬をひっぱたいたから。
グレモリー先輩は少し怒りを滲ませた声と眼差して木場先輩を見つめている。
「祐斗、あなた最近変よ?」
「申し訳ありません。少し調子が悪かったようです」
丁寧な言葉使いでそう答える木場先輩だけど、その口調はどこか面倒臭そうに答えていた。
「木場、お前マジでどうしたんだよ?」
イッセー兄ちゃんの質問に、僕も便乗してウンウン、頷くが、それを見た木場先輩はすぐに僕らに背を向けて、
「何でもないよ」
と答えた。
その言葉や態度はどこか不機嫌で、拒絶されたように感じてしまった。
だから僕は、何の考えもなしに部屋から出ていこうとする先輩の手を取った。
「何でもなくないよ! だって木場先輩、いつも通りじゃないもん!」
いつもは確かに奇抜な行動の多い人だし、ちょっと身の危険を感じる視線を送って来るけど、それでも皆に優しくて、何でもそつなくこなす頼もしい先輩だ。
そんな人が今日みたいなことになって、心配しない訳がない。
「だから、何でも無いってば」
「ううん、そんなことない。見ればわかるよ。先輩、なにか悩んでるの?」
その言葉に一瞬動きを止めた先輩は、僕の手を振り払い振り向いて、
「だから!! 君には関係ないって言ってるだろ!! しつこいんだよ!!」
そう、怒鳴られた。
普段、声を荒らげる事のない先輩だからこそ、その形相と怒声に僕は身を竦めた。
他の皆も驚いたように身を竦め、固まっていた。
「……………失礼します」
そう言って部屋を出ていく木場先輩を、僕らは無言で見送ることしかできなかった。
◆◇◆◇◆◇◆
降りしきる雨のなかを、僕はその身を濡らしながら歩いていく。
「――――最低だ」
最低だ最低だ最低だ!
僕はなんてことをしてしまったんだ! いくら苛立っていたからって、よりにもよってあの子に怒鳴り散らしてしまうなんて!
感情の制御はできていると思ってた。望みの抑制もできていると思ってた。
けど、この様はなんだ!
大恩のある部長に対して失礼な態度をとって、僕を案じてくれたイッセーくんの言葉を拒絶して、引き留めようとしてくれたあの子の手を振り払って、挙げ句には怒鳴り散らしてしまうなんて!
ふと、そこまで考えて僕はあることに気がついた。
「ああ、そうか。やっぱり、僕は………」
エクスカリバーに、復讐したいんだ。
それを目的として悪魔になったはずだった。
その為だけに生きているはずだった。
その為ならば、誰とも関わらずに生きていこうとまで、思っていたはずだった。
けど、皆と出会って、彼と出会って、いろんな人と関わって、言葉を交わして、いつの間にか僕は、目的を忘れかけていた。
だってあそこは、あまりにも暖かくって、優しくって、居心地が良かったから。
そんなもの、僕には許されないはずなのに。求めてはいけないモノなのに。
「ああ、馬鹿だ僕は。本当に、大馬鹿だ」
歩くのを止めて壁にもたれ掛かる。
こんなずぶ濡れだ。雨宿りしても意味がないだろう。
「そうだ、僕はこんなことをしている場合じゃないんだ」
皆の、同士の恨みを晴らすまで、僕は―――――
「おんやぁ? おひさじゃないの! くそ悪魔っち!」
不意に、そう声をかけられた。
こんな近くに来るまで気配を感じられないなんて、気が抜けていた。
だが、僕の知っている人物で、敵味方問わずこんな言葉使いな奴を、僕は一人しか知らない。
「………フリード・セルゼン」
苛立ちと共に顔をあげると、気味の悪い笑みを張り付けたはぐれエクソシストが、そこにいた。
この間久しぶりに小説情報の評価の部分を見るとですね、
なんとまぁ対照的な形をしてやがることで。
見てちょっと笑っちゃいました。