「木場先輩、大丈夫かなぁ」
土砂降りの雨と夕暮れで、既に夜のように暗くなった町中を、僕とイッセー兄ちゃんは木場先輩の傘を持って歩いていく。
「まあ、悪魔だし、雨に濡れても風邪は引かんだろ」
「いや、そこじゃなくて」
「あ、そこの角を左らしいぞ…………確かに、最近の木場、なんかおかしかったな」
兄ちゃんが、木場先輩ん家の住所が書かれたメモを見ながら同意する。
最初は僕だけで行こうとしたんだけど、イッセー兄ちゃんを始めとしたアラガミ含む全員に「一人で行くな掘られるぞ」と止められてしまった。掘られるって、なんの事だろう?
「兄ちゃん、何か心当たりある?」
「んー……」
問うと、兄ちゃんは顎に手を当てて考え込む。するとしばらくして「あれか?」と、何か思い出したように顔を上げる。
「なにさ」
「いや、この間、みんなが俺ん家に集まった日があったろ?」
「あぁ、うん。僕が家の用事で来られない日にみんなで集まってどんちゃん騒ぎして楽しんでたあの日ね」
「………拗ねてる?」
「拗ねてない。で? その日がどうしたのさ」
「あの時な、木場の奴、俺のアルバム見てからあんな感じになったんだよ」
「そのアルバムになんかあったの?」
「ああ、実はな……………」
そこまで聞いたとき、僕ら意識を会話から別の物へと切り替えなければならなくなった。
「兄ちゃん、聞いた? 今の」
「ああ、ハッキリとな」
僕らが聞いた音。
それは金属と金属がぶつかり合い、擦れ、そして砕ける音。
本来なら聞きなれない音だけど、ここ最近で聞きなれてしまった音は、微かだけど、確かに僕らの耳に届いた。
「木場の奴、誰かと戦ってるのか!」
その音とは、剣戟のそれだった。
そして、こんな町中でそんな音が響くなんて、尋常ならざる事態が起きていると言うことだ。
「急ごう、兄ちゃん! 木場先輩もだけど、なにより無関係な人達が巻き込まれたら大変だよ!」
「わかってる! 行くぞ!」
僕らは濡れるのもお構いなしに、傘を畳んで全力で駆け出した。
◆◆◆◆◆◆
「かっひゃひゃひゃ!! やっぱすげぇなぁ! 速ぇなぁ! 【
僕らが音の元へ駆け付けた場所に誰の姿もなく、ただひたすら、剣戟の音だけが辺りに響いていた。
「っ! 神機!」
「
その音と光景で状況を察した僕と兄ちゃんは、それぞれの武器を、僕は黒い腕輪と神機、兄ちゃんは左手に赤い籠手を出現させて辺りを警戒する。
絶え間なく響いていた剣戟の音が唐突に止み、僕らの目の前に剣を構えて対峙する二人の姿が。
「イッセーくん!? ハルトくん!?」
「ややっ!? やぁやぁ君たちは、あのときのクソ悪魔なイッセーくんとクソガキくんじゃぁないですかー!」
二人がこちらを認識し、それぞれがそれぞれの反応をする。
「フリード・セルゼン!!」
「そうだよイッセーくん! みんな大好きフリードちゃんだよ! ってか! ひゃひゃひゃ!」
………うわぁ、この前は言葉が通じなかったけど、分かったら分かったで、相当めんどくさいな、この人。
「フリード! お前のあの速さはなんだ! なぜ【
確かにそうだ。【
なのに、目の前のあいつは、さっきまでそんな速さの木場先輩と打ちあっていた。
それはつまり、それほどの速度が出せると言うことだ。
「んっんー、なあなあ木場ちゃん! 普通そう聞かれて答える敵とかいると思う!? いるよね! 説明がやたら長い漫画とかラノベとか! そして僕は語りたい盛りの自慢野郎! だから教えちゃう! だってその方が面白いもんね! ついでだから余計なことも教えちゃうよ! いい!? いい!? 行くよ!」
ホント、うるさい人だ。
木場先輩もイッセー兄ちゃんも、うんざりしたような顔で相手を見つめている。
「まずな、オレっち有能だから、この間上司になったとある組織のすんげー偉い人がな、『貴様に任務を与える』とか言ってな! 似てた? ねぇ今の似てた!?」
知らんがな。
「んでな、その人の命令と力で、チャチャイのチェイ! ってこの辺りに防音と人避けの結界張って、この町に赴任してしたエクソシストをぬっ殺してチョンバラリンしたあとに! そいつが持ってた武器をスナック………あ、間違えたスナッチしてからよ、さっきまであそこの家で試し切りしてたのよ!」
『Bloody Booster!! The Encourage!! Blood Arts Operation!!』
「【ドラゴンショット】!!」
「ブラッドアーツ! 【IE伍式・照射】!」
「雷の魔剣よ! 迸れ!」
最後の言葉を聞いた瞬間、僕らは一斉に攻撃を放った。
「この、外道が!!」
僕らの思いを代弁して、イッセー兄ちゃんが怒鳴る。
その言葉に対して、煙の向こうからふざけた調子の声が響いてくる。
「おいおいおい、勘違いしちゃやーよ? オレちゃん、なんでもない人間は殺さないよ? 僕っちがヌッコロすんのは、悪魔と接触したわぁーるい悪人と! 教会側のわぁーるい偽善者だけよ? どぅーゆぅーあんだすたん?」
その台詞と共に煙の向こう側から歩いていきたフリード・ゼルセンは、気味の悪い笑顔を浮かべながら、僕らに指を突きつける。
それも、無傷で。
「無傷!?」
「あの攻撃で?」
あり得ない。あの攻撃は、たとえ彼がもつ光の結界すらも打ち破る威力だったハズだ。
それを受けて無傷? どころか、あの結界を使ったような跡もないなんて。
「気を付けて、二人とも」
驚きに動きを止めた僕達に、木場先輩が鋭い口調で警戒を促してくる。
「木場、何か知ってるのか!?」
「あれは…………」
そこで一度、先輩は何かを躊躇うように口ごもったが、一つ息を吐くと、今度はしっかりとした言葉で、僕らに答えを返した。
「あれは、聖剣だよ」
「聖剣!? それってあれでしょ? ゲームとか漫画に出てくるエクスカリバーとかバルムンクとかヴォーパルソードとか!」
「………多分、ヴォーパルソードは聖剣じゃないんじゃないかなぁ?」
聖剣………実在したんだ。
いや、悪魔とか堕天使が実在する時点で不思議じゃ無いんだけどさ。
「御名答おめでとう! そのとぉーり! 今この手にある、ふつくしいまでに美しい剣こそが! 聖剣の中の聖剣! 知名度ナンバーワン! エクスカリバーでございます!」
「エクス、カリバー………」
「そしてこれは、砕けたエクスカリバーから作られた、【
その時、僕の横から風が一陣過ぎ去って行った。
僕がそう認識した次の瞬間、フリードが僕の視界から消え、甲高い剣戟が再び響き渡る。
「先輩!!」
「見つけたぞ…………やっと見つけたぞ! エクスカリバー!」
「お、おう!? な、なに怒ってのさ! 木場っちゃん!」
「黙れ! 今は貴様の声を聞くことすら煩わしい!」
姿は見えずとも、その声音や、普段あの先輩が使わないような荒々しい言葉使いに、僕と兄ちゃんは顔を見合わせる。
「に、兄ちゃん! 先輩は一体…………」
「俺にもわかんねぇよ! ………でも、あの木場があそこまで激昂するなんて、なんかあったんだろうな。くそ! 援護したくても、これじゃ近づけねえ!」
結局、駆け付けた意味も虚しく、僕らは何もできずにいた。
「それを寄越せ、フリード・セルゼン!」
「やだね! そもそもお前じゃ使えねぇーだろがぃ!!」
「使わないさ、壊すんだよ! それこそが僕の生きる道なのだから!」
「……っ! へっ、だが断るね!」
高速で動く彼らを目で追うことはできない。けど、その言葉はなぜかハッキリと、僕らの耳に届いてくる。
「そうか………だから木場の奴、聖剣を見てから様子がおかしかったのか」
その会話を最後に、しばらくは無言で剣戟が続いたが、
「んっんー、時間切れっぽいでござる! 遅れたら上司様にぶっ殺されちまうぜ! 血が舞ってぶっ殺され血舞うぜ! ってーな訳で、そんならばいちゃ!」
突然、光が炸裂し、辺りを白く染め上げる。
「閃光弾か!」
しまった! あいつ、逃げるときいつもこれ使ってたんだった!
「まて、フリード・ゼルセン! まて……まてよ、フリードぉぉぉぉぉお!!」
一向に止む気配の無い大粒の雨が容赦なく体を打ち続けるなか、木場先輩の叫び声のみが、静かな闇夜に響いていた。
◆◇◆◇◆◇◆
「聖剣を壊す、か…………」
俺は左手に持っているエクスカリバーを見下ろす。
「どうかしたか、フリードよ?」
「いえいえー、なんでもありませんよ、コカビエル様ー。ただ、これすんげー性能だなぁっと思っただけですはい」
「ふっ、そうか。期待しているぞ、フリード・セルゼン。我々の目的“エクスカリバーの破壊"を達成するには、お前の力が必要なのだ、聖剣の担い手よ」
「ひゃは、担い手といっても、人工的な物ですけどねぇ」
そうだ、俺は復讐するんだ。
天使に、悪魔に、
そして聖剣に。
聖剣計画なんてふざけた計画のせいで死んでいったあいつらの為にも、俺は、絶対に――――
―――――エクスカリバーを、ぶっ壊す。
おいおい、どーしたよフリードちゃん。
どうしてそうなった←戦犯