ハイスクールG×E   作:フリムン

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第48話

 

「最初に言っておくが、私は貴様が人間だからと言って、手加減する気は毛頭ないからな」

 

 校庭に下り、僕と向き合うと開口一番、彼女はそう言って来た。

 

「望むところだね」

 

 僕らの隣でも、木場先輩とイリナさんが互いの剣を手に向かい合っている。

 

「んー、私としてはイッセーくんと戦いたかったんだけどねぇ。ま、君も聖剣には思うところがあるみたいだね」

「そんな御託はどうでもいい。始めるよ」

 

 二人のやり取りを一瞥したゼノヴィアさんは、こちらに剣を向けながら笑みを浮かべる。

 

「さて、君も武器を取りたまえ。それくらいは待ってやろう」

「そうかい。………来い! 神機!」

『主よ、蹴散らすぞ!』

『あのような小娘など、妾たちにかかれば』

『恐れるに足りません!』

 

 剣形態のままの神機を見た教会組二人は、少し物珍しそうな表情で、神機見つめている。

 

「おもしろい形の武器ね? 見たことないわ」

「それが貴様の神器(セイクリッド・ギア)か。まぁ、聖剣には敵うまい」

 

 ……………って言われてるけど?

 

『ふん、なにも知らぬ小娘が』

『さぁ主君! 行きましょうぞ!』

『我が君に勝利を!』

 

 互いに剣を構えて向かい合う。

 剣と剣で戦うのはこれが初めてだ。試合のような、なんのセーフティも無いこの状況じゃ、下手をすればただじゃ済まないのかもしれない。

 

 けれども、心に迷いは無かった。

 あるのはただの怒り。大切な友達を侮辱された怒り、大切な友達を泣かされた怒り。結局、彼女の涙を止めてあげられなかった怒り。

 

 空気が緊張する。張りつめた糸のように、静かな水面のように。

 さっきまで、僕を必死に呼んでいたアーシアさんの声も聞こえない。

 この空気に気圧されて黙ったのか、それとも単に僕の耳に入っていないのか。

 

 

 沈黙を終わらせるように、ゼノヴィアさんが声を張り上げる。

 

「では行くぞ、神結ハルト! 懺悔の用意はできたか!」

「そっちこそ、アーシアさんに謝る準備はできたかな!」

 

 動き出したのは同時。

 

 飛び上がったゼノヴィアさんが上から、走り出した僕が下から、同時に剣を振るう。

 

 と、ゼノヴィアさんが唐突に、その口に笑みを浮かべる。

 

「悉くを砕け!【破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)】!!」

「っ!?」

 

 剣と剣が触れ合った瞬間、爆音が響いた。

 僕を中心に地面はひび割れ、抉れる。

 

 そんな剣を受け止めた僕には、予想だにしなかった衝撃が襲いかかる。

 

「ぐぅ……ブラッドアーツ! 【斬鉄】! っらぁ!!」

 

 その衝撃をしたに逃がしながら、なんとかブラッドアーツで対応する。

 

『主! 無事か!?』

 

 そっちこそ! 大丈夫!? マルドゥーク!

 

『なんのこれしき! いくらでも打ち合って見せようぞ!』

 

「………今の一撃を食らって無事とはな。予想以上の硬さだな、その剣」

「それは、誉められてるのかな?」

「それでどうかな? エクスカリバーの威力は?」

「へんっ、大したこと無いね、聖剣って」

「ふん、神の加護も受けられないような異教徒が! 舐めた口を聞くな!」

 

 あれくらいの挑発に乗るなんて、沸点の低い人だ。……………僕も人のこと言えないけどさ。

 

『神の加護を受けていない、か……………』

 

 どしたの? マルドゥーク?

 

「はぁ!」

「くっ!」

 

『この娘が言うように、神の加護とやらが勝敗に関わってくると言うのであれば……………クククッ』

『それこそ、この娘に勝ち目などありませぬ』

 

「ええぃ、ちょこまかと!」

「【ソニック・キャリバー】!」

「くっ!」

 

 ………それは、どういう意味さ?

 

『主君、あなたが今使っている武器はなんでしょうか?』

 

 神機だね。

 

『妾たちは、なんでありましょう』

 

 アラガミ、だね……………あ、そう言うことか。

 

『如何にも! 我輩たちはアラガミなり!』

『厳密に神とは言えなくとも、その名に神話の名を』

『その総称に神の文字を持つ!』

『故に我輩は、我らは主を守ろう!』

『主君の加護となろう!』

『なぜなら妾達は!』

 

『『『神にあらぬ神! アラガミなのだから!』』』

 

『たかだか一神のみの加護を受ける者に、主が負ける訳がない』

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 なんなんだ、この男は。

 

 悪魔でもないのに、悪魔と一緒にいて、魔女を魔女と呼んだだけで怒り、そして私たちを、教会を侮辱した。

 

 悪魔を癒せる力が神の望みだと? ふざけるな。神と悪魔は相容れぬ存在。

 なればこそ、神が悪魔を癒す訳がないのだ。神の愛は決して、悪魔と堕天使に向けられる物では無いのだから。

 

 それなのにこの男はそれを否定した。

 

 なにが優しさだ。悪魔に優しさなどいらぬ。悪魔は人を惑わす悪だ。私が出会ってきた悪魔は総じてそんな奴らばかりだった。

 

 

 けれどもこいつは、それすらも否定するのだろう。

 

 

 ああ、イライラする。

 

 なんだってこんなにイライラするのだろうか?

 攻撃が当たらないから? 奴の神器(武器)が壊れないから?

 

 違う…………と思う。

 けど、ならばなんなんだ、この苛立ちは?

 

 

「【波濤斬り】!」

「くっ!」

 

 

 強い。

 見た目からは想像できない強さだ。

 

 神の祝福も、加護も受けていない癖に、なぜ聖剣に耐えられる? 【破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)】だぞ? 今まで壊せなかった物は無いはずなのに。

 

「小賢しい! ああ、小賢しい!」

「そんな闇雲に振り回す剣で、僕に当たると思わないでよね!」

「調子に乗るなよ、異教徒が!」

 

 鍔競り合う。競り合えてしまう。

 壊れない。壊せない。

 

 まるで剣に意識があって、壊れることを拒否しているように。

 

 

 そもそも、あの神器(セイクリッド・ギア)はいったいなんなんだ? あの形といい、あの不可思議な技といい、聞いたことが無い。

 

「【落花ノ太刀・紅】!」

「ちぃっ!」

 

 赤く伸びた刀身の降り下ろしを喰らい、その威力を殺すためにバックステップで距離を取る。

 思った以上に吹き飛ばされてしまった。

 

 だが、この程度の距離なら!

 

 

 直後、私が認識したのは、まるで銃器の発砲音のような音と、何かが当たって幹が砕け倒れる木の姿だった。

 

「なっ………」

「ち、腕を狙ったんだけどなぁ。外したや」

 

 神結ハルトの方を向くと、奴は片膝をついて、自分の武器をこちらに向けている。

 その武器の先端からは、硝煙のような煙が上がっている。

 

 ……………発砲した? あの剣が?

 

 いや、違う。

 形が変わっている。あれは剣じゃない。

 

「銃、だと?」

 

 呆然とする私をよそに、奴はなんでもないかのように、照準を私に向けてくる。

 

「くそっ!」

 

 とっさに横に飛ぶと、先程まで私の右足があった場所に風穴が穿たれる。

 

 だが、第三射を許すほど、私は甘くはない。

 あの姿勢、あの音からして、あの銃は恐らくスナイパーライフルか、それに類する単発特化のハズだ。

 

 たとえリロードが早かったとしても、あの長さならば懐に入りさえすれば……………

 

「もらった!」

 

 案の定、リロードはできても、至近距離は狙えないようで、一瞬だけ奴の動きが止まる。

 

 すぐさま剣の状態に戻した反応の早さには感嘆するが、それでも、この距離は貰ったも同然だ。

 

「ハルトさんっ!」

 

 魔女の悲痛な叫び声が聞こえるが、もう遅い。

 

 このまま振り抜けば、この聖剣が奴の上半身ごと持っていくだろう。

 まぁもちろん寸止めくらいはするが。

 

 

 

 

「サリエル!」

「なにっ!?」

 

 

 

 しかし、勝利を確信したのは一瞬の事だった。

 

 金属と金属のぶつかる甲高い音が響いたと思うと、気がつけば私の剣はまたしても止められていた。

 

 

 ……………まるで白銀の蝶のような、大きな盾に。

 

 

 まさか、盾にもなれるとは。

 

 ふと、顔を見上げる。

 その瞬間、私の背中になんとも言えない怖気が走る。

 

 なぜならその顔は、嗤っていたのだから。

 

 この距離に入った私を嘲るように。獲物を捉えた餓えた狩人のように。

 

「……ブラッドアーツ【IE零式――――」

 

 奴の剣の前、私と奴の間に、バレーボールサイズの光の球が浮かび上がる。

 

 

 

 マズい。

 本能が警鐘をならす。

 

 これはマズい。危ない。殺される。

 

 この男は、私を、殺s――――――

 

 

 

「―――ざ……っ!?」

「ハルトさん!!」

 

 そんな奴を止めたのは、驚くことに魔女アーシアだった。

 

 私が散々扱き下ろし、罵倒し、蔑んだ相手が私を助ける。

 なぜだ? 私は恨まれているハズなのに。

 

 

 直面した死への恐怖と、魔女の不可解な行動への疑問で、私の体は動くことを止め、その場にへたり込む。

 

「ダメですハルトさん! 殺しちゃダメです!」

「アーシア、さん?」

「お願いです………私の為に、私なんかの為に、ハルトさんが誰かを傷つけるなんて、そんなのダメです……………」

 

 

 泣いていた。

 その魔女は、私を殺すなと、誰かを傷付けるなと、泣いていた。

 

「なんなんだ、お前らは……………」

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 途中から、僕は意識がありながらも、無意識に行動していた。

 アラガミ三人の力が流れ込んできて、体が凄く軽くなって……………それと、少しお腹が空いていて。

 

 多分、アーシアさんが止めてくれなかったら、僕は目の前のこの人を殺してしまっていたのだろう。

 

 アーシアさんが泣いている。

 

 私なんかの為に人を傷付けるなと。その手を汚すなと。

 

「私なんか、なんてそんなこと言わないでよ、アーシアさん。そんなこと言われたら、僕が悲しくなっちゃう」

「ハルト、さん?」

 

 僕の腕にすがり付いて泣いているアーシアさんの頭を撫でる。

 

 周りに視線を配ると、隣の戦いは終わっていて、何故か木場先輩の姿が見えないし、小猫ちゃんとイリナさんの服がビリビリに破けている。

 

 

 ……………あとで兄ちゃんには説教だな。

 

 

「アーシアさんが、私なんかって自分を下卑したら、僕が怒った意味が無くなっちゃうじゃないか。まぁ、確かにやりすぎだったとは思うけどさ」

「………一つ、聞きたい」

 

 座り込んでいたはずのゼノヴィアさんがいつのまにか立ち上がり、僕の方を見つめながら声をかけてきた。

 

「なに?」

「お前はどうして…………どうしてその女のためにそこまで怒れる? 情愛の深いグレモリー眷属ならまだしも、お前は人間じゃないか」

 

 なんだ、そんなことか。

 あまりに滑稽な質問に、ついつい笑みが溢れる。

 

「な、なにが可笑しい!」

「だって、あんまりにも愚問だったから」

「愚問だと?」

 

 ああ、愚問だとも。

 だって――――

 

 

「大切な友達を侮辱されて泣かされて、怒らない理由なんてある?」

「――――――」

 

 

 だから怒った。だから戦った。

 

 アーシアさんは大切な友達だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――僕の、一番大切な。

 

 

 

 

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