ハイスクールG×E   作:フリムン

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第50話

 

「それで、遺憾ながら僕らは協定を結んだ訳だけど、まさか情報の共有はしない、なんて言わないよね?」

 

 優雅に紅茶を一口飲んだ木場先輩は、挑発的な笑みを浮かべてゼノヴィアさん達に問いかける。

 

「無論だとも。だが、今回の首謀者が堕天使と言うところまではわかっているが、その名前までは特定できなかった」

「なら協力者は?」

「こちらはわかっている。皆殺しの大司教バルパー・ガリレイと、はぐれエクソシストのフリード・セルゼンだ」

「なるほど」

 

 そう頷いた木場先輩の顔には、笑顔が浮かんでいた。でもそれは、いつもの爽やかな物じゃなくて、底冷えするような、憎悪と歓喜に溢れた笑顔。

 

「先輩」

「ん? なんだいハルトくん」

「先輩、この戦いで死のう、なんて考えて無いですよね?」

「っ、何を」

「何となく思ったんです。責任感の強い先輩だから、今回の件でグレモリー先輩に迷惑がかかるからって、無茶なことしそうで」

 

 確かな理由は無い。でもそう思うんだ。

 自分が暴走すればグレモリー先輩に迷惑がかかる。だったら自分が『はぐれ』になって殺されれば、その心配は無くなる、なんて考えてそうで。

 

「……………大丈夫、そんなことはしないさ」

「約束ですよ? 僕は嫌ですからね、部員の誰かが欠けるなんて」

 

 誰にもいなくなって欲しくない。

 これは僕の偽らざる本心だ。誰かが死ぬのも、誰かが泣くのも、僕は見たくない。

 

 

 

 ――――もう二度と、大切な人を失いたくないから。

 

 

 

 …………ん? 二度と? 変だな、僕は誰かを失った事なんて無い筈なのに。

 

「…私も、祐斗先輩にいなくなって欲しくないです」

 

 小猫ちゃんも、木場先輩の袖にすがりつく。

 

「…誰かがいなくなるのは、悲しいです。……………独りは、寂しいです。だから、居なくならないで」

 

 小猫ちゃんが悲しそうな表情を浮かべる。

 そしてそれは、決して作り物ではなく、小猫ちゃんが心の底から嘆願していることだってわかる表情だった。

 

 木場先輩は、困惑しながらも笑って小猫ちゃんの頭に手を置いた。

 

「大丈夫だよ、小猫ちゃん。僕はいなくならない。たとえどんな罰を受けたとしても、君達の思いに答えてみせるさ。だから手伝ってくれ。

 エクスカリバーを倒すのをさ」

 

 そう言って、先輩はいつもの爽やかな笑顔を浮かべたのだった。

 

 

「あのー………」

 

 僕らオカ研組が喜んでおると、横から控えめな声が上がる。

 みんなが顔を向けると、そこにはなんだか肩身の狭そうな匙先輩がちょこんと手を上げていた。

 

「どうした、匙?」

「どうしたじゃねぇよ兵藤。俺、全くの部外者だから話の流れがわかんねぇの! 何がどうなって木場とどう関係してんの!?」

「はぁ……………」

「ため息つくな! え? これ妥当な質問だよね!?」

 

 兄ちゃんと匙先輩のやり取りはしばらく続いたが、木場先輩が紅茶を飲んで発した言葉で、みんなが静かになった。

 

「少し話そうか。イッセーくん達も、少ししか知らないだろうからね」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 そうして語られたのは、『聖剣計画』と呼ばれたおぞましい実験内容だった。

 

 因子を持った少年少女。

 苦痛を伴う非人道的な実験。

 子供達の将来の夢、希望。

 

 彼ら彼女らはいつもいつも楽しそうに語ったと言う。

 いつかは立派なエクソシストになって、みんなを守るんだとか、司祭になるんだとか、お嫁さんになりたいなとか、はたまた、教会とは関係の無い、パティシエやパイロットになりたいと言う子までいたらしい。

 

 けれども奪われた。

 けれども殺された。

 

 聖剣の為に。そのためだけに。

 

 因子が聖剣を持つまでに届かなかったからと言う理由で。

 

「撒かれた毒ガスにもがき苦しみながら、みんなが僕に言ったんだ。まだ毒ガスの影響が薄くて、立っていられた僕に」

 

 ――――あなたは逃げて。そして生きて、と。

 

「なんとか逃げ出せたけど、絶望的だった。苦しくて寒くて、血反吐を何度も吐いたけど、僕は歩き続けた。皆の為に、皆の願いの為に。

 神様は助けてくれなかった。何度も願ったのに、何度も祈ったのに」

 

 そう語る先輩の顔は悲しみに染まっていて、膝に置かれた拳は強く握り込まれている。今でも悲しい記憶なのだろう。

 

「だから僕は憎んだ。教会を、神様を、そして元凶である、聖剣を」

 

 先輩は自分の右手を見つめ、その後強く握りしめて、自嘲気味に笑う。

 

「そうして僕の神器(セイクリッド・ギア)は目覚めた。

 ふふ、皮肉なものだね。聖剣を憎んで憎んで、その果てに手にしたのが悪魔としての生と、魔剣の力だなんてさ。あの頃目指していたものと、全くの正反対じゃないか」

「…後悔、してます?」

「後悔なんかするものか、小猫ちゃん。僕は悪魔になったからこそ、皆に出会えた。魔剣を手にしたからこそ、悪魔になれた。喜びこそすれ、後悔なんかするはずも無いじゃないか」

 

 不安げな小猫ちゃんの頭に手をのせて、木場先輩はハッキリと言い切った。

 

 僕らの間に、沈黙が漂う。

 

 皆、教会組の二人ですら、沈痛な面持ちで俯いていた。

 

 そんな沈黙を破るように、僕の隣からすすり泣く声が聞こえてくる。

 音の出所は、イッセー兄ちゃんを跨いで向こう側。匙先輩からだった。

 

「木場ぁぁぁぁぁあ!!」

 

 突然そう叫び声を上げた匙先輩は、ガシッと木場先輩の肩を掴むと前後に揺らしながら泣き叫ぶ。

 

「辛かったな……っ! 辛かったろう! チクショウ、俺はお前の事を誤解してたぜ! ただのいけすかねぇ爽やかイケメンで、顔で世の中なんだって巧くいってきた甘ちゃんだとばかり……………」

 

 鼻水と涙で顔を汚しながら、本音を撒き散らす匙先輩。

 

「………え? 僕、そんな風に思われてたの?」

「俺は今、モーレツに同情している! そして憤っている! ああ酷い話だ!」

 

 肩に組ついて暑苦しく泣き喚く匙先輩に、流石の木場先輩も困惑気味のようだ。

 

「最初俺は、この話を降りよう思ってた! だが気が変わったぜ! 俺はやる! やってやる! ああ、会長の制裁を敢えて受けよう! それでも俺は、お前に協力してやる! 聖剣をぶっ壊す? 上等じゃねぇか!」

「あ、ありがとう、匙くん」

「礼なんて要らねぇやい! 俺がやりたいからやるんだ! それと、俺の事は元士郎って呼んでくれよな!」

 

 おんおんと泣き叫ぶ匙先輩。

 

 熱いのは嫌いじゃないし、協力者が増えたのも嬉しいことなんだけど……………

 

「お、おい匙、あんまり大声で騒ぐな! 周りに迷惑だろ!?」

 

 いや、兄ちゃん、もうこれ時既に手遅れだと僕思うの。

 

 だってさっきから、正確には匙先輩が大声で叫んだ辺りから、男の人(多分店長さん)がこっちめっちゃ見てるもん!

 なにあの笑顔!? 怖いよ! 怒ったときの姫島先輩の笑顔以上にの怖いや!!

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 結局追い出されました。

 

 あの店長さんが僕らに向かって「お客さま」と営業スマイル(阿修羅)で声をかけてきた時は、その場にいた僕ら全員の動きが止まったのだもの。

 

 僕は恐らく、あれ以上のプレッシャーを感じることはこれから先無いだろう。

 あれは、これまでの何よりも恐怖を感じたね。危うくトラウマになりかけた。

 

「す、すまん、皆」

 

 自分が原因だとわかっている匙先輩は、先程から肩を落としてショボくれている。

 

「いいって、気にすんなよ匙。これから俺たちは共犯者だ。仲良くやろうぜ」

 

 そんな先輩を慰めるように兄ちゃんが声をかけ、肩を叩く。

 

 そこへ、イリナさんが兄ちゃんへ声をかける

 

「ところでイッセーくん」

「あん?」

「エクスカリバーを探すって、なにか手がかりとかあるの? 闇雲に探すってのは、なにかと効率悪いしさ」

 

 そう言われてみれば、確かにそういうのは必要だ。

 しかし、どうしたものか……………

 

「フリードなら、悪魔がいればどこにでも来そうなモンだけどな。だけど堕天使は……………あっ」

「どうした兵藤一誠。なにか思い付いたのか?」

「い、いや、なんでもねぇ」

「えー、気になるわね! なになに? 何思いついたの? イッセーくん」

「とりあえず言ってみろよ兵藤」

 

 なにかを思い付いたらしい兄ちゃんが声を漏らし、その後咄嗟に誤魔化すが、皆がそれに食い付いたため、兄ちゃんは頬を掻きながらその案を口にする。

 

「いやね、俺の知り合い………ってかお得意様なんだけどさ、そういうファンタジックな物に詳しいと言うか、鋭い人がいるんだよ。その人に頼んで見ようかなー、なんてさ」

「イッセーくん。そのお得意様と言うのは、やはり人間かい?」

「ああ、そうだよ木場。だから止めようかなって」

「そうだね。一般人を巻き込むのは……………」

 

 一般人は巻き込めない。そういう理由で案を脚下使用とした木場先輩とイッセー兄ちゃんだったが、そんな二人に待ったをかける人物が一人。

 

 

 ゼノヴィアさんだ。

 

 

「待て、その人物に詳細を教えず、目撃情報だけを聞くってのはどうだ?」

「ゼノヴィア?」

「そういうのに鋭いのだろう? ならばもしかしたら、と言う事もある」

「あ、そっか、どこかでそういうのを見たのかもってことね?」

「そういうことだ」

 

 教会組二人が提案したそれは、情報だけを聞き出し、巻き込まない。

 つまり聞き取り調査をすると言う事だった。

 

「なるほど………そういう事なら、ちょっと待ってろ、電話してみる」

 

 

 

 

 そうして兄ちゃんが電話をかけて数分後、どうやら了承が取れたらしく、近くの公園で待ち合わせることになった。

 

「じゃあ今から会いに行くけど、皆驚かないでくれよ? 繊細なコだから」

「…女の子ですか?」

 

 小猫ちゃんがそう訪ねると、兄ちゃんの動きが止まる。

 

 その後、空を見たり手元を見たりを繰り返した後、どこか歯切れ悪くこういった。

 

 

 

 

 

 

「いや、そうじゃなくて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ――――――繊細な漢の娘だ」

 

 

 

 

 

 




次回! 奴が来るぞ………っ!!
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