ミルたん無双
ふと思う。
よく漫画の効果音で『ゴゴゴゴゴゴゴ』と言う物があるけど、実際に現実で、そんな効果音が使われそうな場面にいくつ出会えるのだろうか、と。
漫画では圧倒的な威圧感や殺気を放ち、それを主人公達が感知した時に表現されることが多い。
威圧感。
凄み、風格、迫力と同義語。意味は周りを圧倒する存在感。
今、僕らは動けないでいる。まるで動くことを禁じられ、一本の木になってしまったかのように、足は地面に根を張り、腕は枝のように固くなり、胴すらも動かすことができない。
僕だけでなく、ここにいる皆。
いや、一人だけ、僕らの中に例外がいた。
「にょ」
と、謎の鳴き声と共に片手を上げる巨大なネコミミUMA。
「久しぶりだな、ミルたん!」
少しひきつっているけれど、それでも笑顔を向けて片手を上げる僕らの兄ちゃん。
どうやら目の前のUMAの名前はミルタンと言うらしい。
と、そこで兄ちゃんが僕らを振り向き、その生命体を紹介する。
「かr……んんっ、彼女はミルたん。魔法少女に憧れる繊細な乙女だ。ミルは片仮名、たんは平仮名な」
「……………」
つっこみたい。色々とすごくツッコミを入れたい。
でも声が出ないんだよぉ! なんだよミルたんって!
男の娘? あ、違うそうか、
そしてこれで魔法少女!? 身に纏うピンクと白のゴスロリがはち切れんばかりに膨れ上がった大胸筋と、8つを越えて割れる腹筋、僕の胴体ほどもある脚筋とそれより少し細い腕筋。
……………絶対前衛でしょこの人。………人、だよね?
「違うにょ! ミルたんは魔法少女に憧れてるんじゃなくて、魔法少女を目指してるんだにょ! この間も魔法に成功したんだにょ!」
そこでさらっと爆弾発言。
結果、流石の歴戦、教会組の二人が体の自由を取り戻す。
「ど、独学で魔法の行使に成功したですって!?」
「そ、そんなことが……………いや、まさか先ほどまでの金縛りはもしや………」
「いや、多分それは違うわよゼノヴィア。
………そ、それで、どんな魔法を?」
恐る恐る、その魔法の内容を訊ねるイリナさん。
すると、自分の言ったことが信じてもらえて嬉しいのか、ミルたんは輝くような笑みを浮かべた。
そしてその笑顔は、あり得ないはずなのに、純真無垢な天使を彷彿とさせるものだった。
「ミルたんが使えるようになった魔法はにょ、闇のクリーチャーに対抗する攻撃魔法と防御魔法なんだにょ」
「なんだと!?」
「攻撃魔法は手に持った物が消える消滅の魔法。防御魔法は、体を固くしてあらゆる攻撃を跳ね返す鉄壁の魔法なんだにょ」
「消滅魔法!?」
魔法や魔力に関しては全くの門外漢である僕には、名前からして強そうだな、と言う感想しか抱けなかったが、教会組や木場先輩はその発言に目を見開く。
「独学我流で消滅魔法を手に入れるなんて…………」
「いや、もしかしたらイリナ、彼……彼女? とにかくコイツは幾千幾万もの戦場を切り抜けた歴戦の戦士なのかも知れないぞ」
「な、なるほど、つまりあの格好は戦闘服なのね!」
肩を寄せあい、顔を青ざめさせながらヒソヒソと会話を交わす二人。
ゴスロリネコミミで戦場を渡り歩く魔法戦士……………。
その言葉で僕の脳裏には、幾多もの鉛弾、砲弾、魔法、そして魑魅魍魎の化け物が行き交う戦場を、その手に持った木の枝サイズの魔法のステッキを持ったミルたんが悠々と歩き、笑顔と破壊と絶望を振り撒きながら敵を蹂躙していく姿が描かれる。
なにその世紀末。怖いよ。
「今から皆に、それを見せるにょ」
「え?」
「友好の証だにょ。イッセーにょには既に見せてあるにょ」
その言葉に、僕ら全員の視線が兄ちゃんに集中する。
「大丈夫、俺達に危害は加わらないから。……………俺達には」
なんで今そこ2回言った!? 大事な事なの!?
「消滅魔法には二つあるにょ。一つは掌に触れたものを消滅させる静かな消滅【
同志いるんだ……………世紀末かよ。
「イッセーにょ、始めるにょ。あれあるにょ?」
「おう。任せろ」
そう言って、兄ちゃんはその場を離れる。
あれってなんだろう?
そう思っていると、兄ちゃんはすぐに戻ってきた。手には三つの空き缶(スチール)、そしてどこから持ってきたのか、ドラム缶二つを乗せた台車。
「これくらいで言いか?」
「十分だにょ」
ミルたんにスチール缶三つを手渡す兄ちゃん。
凄い、ミルたんが持つと缶三つでも全然余裕ある!
「じゃあまずは【
「凄いんだぜ、ミルたんの消滅魔法。いろんな意味で」
兄ちゃんがそう言って虚ろに笑う。
あ、あれもう諦めて受け入れた顔だ。僕知ってる。死んだ魚の目って言うんだよね。
突如、この公園を圧倒的な気配が包み込む。
発生源はもちろん目の前の
コォォォォ、と言う呼吸と共に全身の筋肉が膨張し、ミチミチと言う音が鳴る。
「消滅魔法……………」
その口から発せられた声は、先ほどまでの裏声ではなく、それこそ魔王やそれに類するラスボスが発する声そのものだった。
ちょっと前にトイレ行ってて良かったよ。うん、ホントに。
「……………【
クワッと目が見開かれ、彼女が叫ぶ。
同時に空き缶を乗せた右手を握り込む。
それから数秒後、唐突にミルたんが大きく息を吐く。
「ふぅ、成功したにょ」
言って、僕らに見せるように開いたその右手には―――――
――――何もなかった。
『……………………』
僕らに沈黙が訪れる。しかしそれは、呆れや気まずさのそれではなく、絶句ゆえの沈黙だった。
「……………え? 魔法?」
「魔法だにょ」
「え、でも今握り潰しt………」
「魔法だにょ」
「アッハイ」
匙先輩の疑問はもっともで、しかしミルたんは頑なに魔法だと言い切る。
「次も見せるにょ」
そう言って、ドラム缶を片手で二つ持ち上げ、積み重ねるミルたん。
それを見て兄ちゃんが後ずさる。
「……………あれ、中に砂とか砂利が入ってんだぜ、一杯まで」
『…………………………』
もう驚かない。もうここまで来たら意地でも驚いてやるもんか。
足ガクブルしてるけど大丈夫、問題ない。
再び訪れる圧倒的な気配。
そして重苦しい呼吸と、膨張する筋肉の音。
「消滅魔法……………【
豪ッ。
まさにそんな音だった。
力強く踏み込み、下からアッパースウィングされた魔法のステッキは、狙いを違う事なく正確にドラム缶に吸い込まれ、そして振り抜かれる。
結果はご覧の通り、ミルたんが踏み込んだ地面は陥没し、ステッキがフルスウィングされた地面は抉り取られ、ドラム缶は案の定、その姿を消していた。
「ふぃー、やりきったにょ」
とてもいい笑顔で額を拭う仕草をするミルたん。
と、そこで辺りを見回して、その惨状に気付き肩を落とす。
「にょー、お師匠ならもっと綺麗に出来るのに……………」
師匠!? これより上がいるの!?
「師匠は凄いんだにょ。といっても、ミルたんはまだ同志の中では下っ端だけどにょ」
もはや誰も動くことができなかった。
いやむしろ、動いていいのかすらもわからなかった。
だって怖いんだもの。
なんか隣で小猫ちゃんがブツブツ言ってるけど、あんまり聞き取れない。
「…ネコミミ? 同族? いや、認めたくない………でもあの能力があればもっと強く……………」
「あー、皆? 大丈夫か?」
この中で唯一動けるであろうイッセー兄ちゃんが僕らに声をかける。
「あ、ああ大丈夫だ、兵藤」
「む、無論だとも」
匙先輩とゼノヴィアさんがなんとか口を開き、動き出す。
それを皮切りに、僕を含む皆がようやく動き出す。と言うか僕が一番最後だったりする。
◆◆◆◆◆◆
「さて、挨拶も済んだところで本題なんだけどさミルたん」
当然と言うか自明の理と言うか、ミルたんと直接やり取りするのはイッセー兄ちゃんとなった。
「最近、この辺で変な奴を見なかったか? たとえば白い髪の外国人とか」
「にょーん……………」
兄ちゃんの質問に、ミルたんは顎に小指を当てて考え込む。
驚くほど似合っていない。
「白い髪の外国人………見てないにょ」
「そうか」
がっくりと肩を落とす兄ちゃん。そんな兄ちゃんに、ミルたんが、でも、と言葉を繋ぐ。
「怪しい人達なら何人か見かけたにょ」
「マジか!」
にょ、と頷く魔法少女ミルたん。
「最近だと今日、なんかお慈悲をー、って叫んでる不審者が二人いたにょ」
「「うぐっ!」」
イリナさんとゼノヴィアさんが胸を押さえる。
って言うかあんたらかよ!
「そ、それ以外は?」
「にょーん……………あ」
「どうした?」
「そういえば、最近変な気配を持つ奴がいたにょ」
「気配!?」
え、なにこのネコミミさん。気配とかわかんの?
「例えミルたんのような下っ端でも、魔法少女を目指す者なら皆気配位はわからないと生きていけないにょ」
なにその修羅の世界。怖すぎる。
「ど、どんな気配だった?」
「んー、なんか、悪魔さん達とは違った気配だったにょ。なんと言うか、神聖で邪悪、見たいな感じにょ」
その言葉に一番に反応したのはやはり、教会組だった。
「堕天使ね」
「ああ、間違いなく」
「ミルたん、それはどの辺で感じた?」
「あっちだにょ」
そう言って指差したのは、町外れの山の上。
「あそこで修行してる時に気配を感じたんだにょ」
曰く、触れず動かず呼気のみで岩を砕く攻撃魔法の修行中にそれを感じたらしい。
「にょ?」
不意に、ミルたんのネコミミがピクリと動く。
あれ? 飾りじゃないのそれ?
「皆、ちょっと伏せるにょ。早く」
僕らにそう告げたミルたんは、おもむろに立ち上がり、魔法の準備を始める。
「コォォォォ……防御魔法【
ミルたんがそう叫んだ瞬間、公園一体にキィンと、金属と金属が強くぶつかる音が響き渡った。
「なぁぁぁあ!?!?」
瞬間、悲鳴が響き渡る。
「ヒビ! ヒビ入った!? なにこれ堅ぁ!?」
その声は、ここしばらくで聞き慣れてしまった物であり、そして初めて聞いた声音だった。
「フリード!?」
声の主はフリード・セルゼン。
なにかとやりあうことが多い、白髪のはぐれエクソシスト。
「ちょ、イッセーくん、なにこの人…………人、か? 人だよな? スッゲー堅いんだけど!? エクスカリバーにヒビ入ったんだけど!?」
……………え?
『え?』
僕らの声が重なる。
え? 入ったの? ヒビが? 聖剣に?
……………ミルたん怖っ!
「ノォォォオ! 何をやっておるフリード! なぜ聖剣にヒビが入っているのだ!」
そこへ、もうひとつの嗄れた悲鳴が。
「俺じゃねぇ! 俺は悪くねぇ!」
「砕けたら儂らがあの方に殺されるんだぞ!」
「わかってるよ! でもよバルパーじいさん!」
「やかましいいくぞ! 逃げるんじゃ! あれに手を出してはならんぞ! いや、ホントマジで!」
フリード。バルパー。
その名前に反応したのが三人。
それはもちろん言うまでもなく、木場先輩、ゼノヴィアさん、イリナさんだ。
「ま、まてフリード・セルゼン! バルパー・ガリレイ!」
とっさにゼノヴィアさんが名を叫ぶが、呼ばれた二人は既に、と言うかおじいさんの方はフリードの襟を掴み逃げに徹しようとしていた。
「く、逃がさん!」
しかし時既に遅く、フリードの聖剣、
「イッセーにょ、イッセーにょ」
「どうした? ミルたん」
「あいつら、なんだにょ?」
「んー、悪者だな」
「っ!!」
その次の光景を目視できた存在は、恐らくここには存在しないだろう。
一陣の突風が吹いたと思った瞬間、僕らの近くにいたはずのミルたんがいなくなっていた。
あの巨体が、一瞬にして、だ。
『えー……………』
その光景に僕らは、何度目ともわからないその声を上げるのだった。
あ、悲鳴が聞こえる。
◆◆◆◆◆◆
「ごめんなさい、逃げられたにょ」
『嘘ぉ!?』
申し訳なさそうに頭を下げるミルたんに、僕らの声が重なった。
この時ばかりは、あのフリードに拍手を送りたくなる僕らだったのは、恐らくきっと言うまでも無いだろう。
◆◇◆◇◆◇◆
ふふふ、もう少しだ。もう少しで私の野望が叶う。
聖剣を作り、世界へ宣戦布告をする、私の野望が……………
「ふふふ、はははは、ふふふはははははは……………げぼらぁ!?」
◆◇◆◇◆◇◆
「ぜぃ、ぜぃ、ぜぃ、た、ただいま戻りました、コカビエル………さ……………ま………」
「し、死ぬかと思ったぜ…………我ながら良く逃げ切れたもんだな……………警察万歳、通報ありがとう住民の皆さん」
儂らは命からがら、ボロ雑巾のようになってアジトまで帰ってきた。
ここまで来れば安全だろう。多分。
と、そこで儂は違和感に気付く。
「おい、フリード」
「あん?」
「コカビエル様はどこだ?」
「知らねぇよんなこと」
おかしい。あの方は今日はどこにもいく予定など無かったはずだが……………ん?
考え込む儂の視界の隅に、黒い羽根が写る。
「羽根? …………これはコカビエル様の? しかしなぜこんなところに……………」
堕天使の羽は、滅多に抜けるものではない。
それも、幹部になればなるほど、抜けにくくなっていく。
「お、おい! バルパーのじいさん!」
突然、フリードが大声で儂の名を呼ぶ。
「なんだフリード、うるさいぞ」
「こ、これを見ろ……………」
そう言ってフリードが指差す先に目を向けると、
そこには、
血塗れで 倒れる 一人の 男性が。
「コカビエル様ぁぁぁあああ!?!?!」
倒れるコカビエル様の横には、大きくひしゃげ、中から砂やら砂利やらコンクリートが零れているドラム缶が二つ転がっていた。
「いったい、誰がこんなむごい事を……………」
その言葉と共に、私は膝を突くのだった。
「あ、まだ生きてる」
「なに!?」
この前こんな夢を見ました
「汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
「呼ばれたから来たにょ。キャスターミルたん、頑張るにょ」ゴゴゴ
「え? キャスター? バーサーカーとかモンクとかじゃなくて?」
「キャスターだにょ。魔法少女だにょ」ゴゴゴ
「 」
第四次にしろ五次にしろ外道の多いキャスターのマスターと他の陣営オワタ(笑)
そんで良く考えて見たらミルたんの声優三宅さんだからもう瀬戸花の瀬戸豪三郎です本当にありがとうございました。