なんだろうか。最近、体の様子がおかしいんだ。
いや、調子はいいんだ。むしろこれ以上に無いくらい調子が良い。
走れば疲れない上に、多分50m走れば四秒くらいは出せそうな速度だし、助走を付けない垂直跳びで1m近くは飛べるし。
力加減を間違えると手に持ってるものまで壊してしまいそうだ。この力でイッセー兄ちゃんにパンチ噛ますのを堪えた僕を褒めて欲しい。フツーに死んじゃう。
これでも何かおかしいんだけど、それ以上にお腹が空くんだ。
どれだけご飯を沢山食べても、1、2時間後には凄い空腹感が襲ってきて、このままじゃ餓死してしまいそうになるくらい。
今のところガムや飴玉を口に入れておくと、なんとか誤魔化せるんだけど、これがいつまで持つかは判らない。
…………僕の体、いったいどうしちゃったんだろう。
ああそれと、喜ばしいんだけど、なんだか素直に喜びたくない情報が一つ。
―――イッセー兄ちゃんに彼女ができました。
…………爆ぜろリア充。ぺっ!
なんでも、相手から告白されたらしく、この前僕や元浜先輩、松田先輩に見せつけていた。
だから、
『この子が俺の彼女、天野夕麻ちゃん』
『え? UMAちゃん?』
なんて、その人に失礼な返答をしてしまうくらい僕たちは現実を直視できなかった。
なんであんな変態が、あんな可愛い人と付き合えるんだよ。神様は理不尽だ。
…………まあでも、所々格好いい人だから、あのUM…………失礼、天野さんも、きっとそういうところに惹かれたんだろうな。
うん、そう考えると納得。応援しよう。
さて、お腹も空いたし、欲しい物も買ったから帰ろうか。どこに姫島先輩が潜んでいるとも限らないし。
…………最近、変に意識しすぎている気がする。自意識過剰なのかな、僕。
◆◆◆◆◆◆
…………結局、鬼ごっこが始まってしまった。くそう、なんであんなに目敏いんだ。確かに僕が先に見つけたけどさ。でもちゃんと隠れたし…………。
しかし凄かった。美人って、休日のデパートでも目立つんだね。
しかも大声で名前を呼ぶもんだから、周囲の視線が痛かった…………。
だがしかーし! 最近の僕を侮っては行けない! お腹は空くけど、体の調子はすこぶる良いんだ。いくら姫島先輩が男子顔負けの運動能力を誇っていても、今の僕に追い付けるはずが無いのだよ!
―――グゥゥゥウ…………。
あ、お腹空いて死にそう。
口に何が入れなきゃ…………あ、駄目だ。ガムも飴玉ももう残ってないや。買い忘れてた。
どうしよう…………そういえば、この近くに公園があったっけ。水でも飲めば少しは落ち着くはず。
…………あれ? なんだろう? なんか、視界がぼやけて………………………………
◆◇◆◇◆◇◆
俺、兵藤一誠は、ついさっきまでこの十六年の人生の中でもっとも幸せな時間を過ごしていた。
可愛くて明るくて、そして何よりおっぱいの大きな、生まれて初めての彼女、天野夕麻ちゃんとデートをしていたんだから。
楽しかったなぁ。買い物したり食事したり。
ありきたりだけど、精一杯考えた俺なりの最高なデートだった。
『だった』と、なぜ過去形なのか? それは今、目の前の夕麻ちゃんが、夕麻ちゃんじゃなくなっているから。
姿も服装も夕麻ちゃんだけど、言動と、何よりその背中から生えている黒い翼が、夕麻ちゃんが人間ではないことを如実に物語っていた。
「夕麻…………ちゃん?」
正直、まだ理解できていない。
だって、彼女の口から「死んで」なんて言葉が出てくるなんて…………。
「楽しかったわ。あなたと過ごしたわずかな日々。初々しい子供のままごとに付き合えた感じだった」
冷たい声音で、冷笑を浮かべながら、妖艶に彼女は言った。
彼女は手に光を集める。
その光は、重たい音を響かせながら、形を作っていく。その形は槍のようで。
「バイバイ、イッセーくん」
そしてそれを、彼女は降り下ろした―――――。
だが、
『グルギャァァァアアアア!!!』
そんな、獣のような声を上げる、黒い人影によって、その光は『補食』された。
「そんな! 私の光が! 何者!?」
補食したのは、黒い人影。
そう、黒だ。それも、絵の具のような黒ではない。どこか生物的で、生々しい、焦茶に近い黒。
その黒が、人の体の右半分を覆っている。
そして、人間の部分を残す左側は―――――。
「―――ハル?」
俺のよく知る、大切な弟分が、まるで腹を空かせて獲物を見つけた獣のように俺達を見ている。
『オナカ…………スイタ…………タベモノ、ヲ…………タベモノォォォオオオ!!!』
そう叫びながら、血走った目でハルは俺達に襲いかかってきた。
ハル、どうしちまったんだよ、お前!
…………さて、このあとどうしようか(ぇ