ハイスクールG×E   作:フリムン

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第56話

 

 フリードが、己の腹部を突き刺す聖剣とコカビエルの顔を交互に見る。

 

「…………おい……………なん、だよ、これは……………」

「貴様は良くやったよ。見事だ。お陰でこうも簡単に6本手に入れることができたのだからな。

 だが、統合さえしてしまえば、これを壊そうとする貴様はただただ邪魔なだけでな」

「なんだ、と……………ごふっ!」 

「だから貴様はもう、用済みだ」

 

 フリードの胸を蹴り飛ばし、その反動で腹から剣を抜く。

 

 飛ばされたフリードは、地面へと仰向けで倒れ、そこから血が広がっていく。

 

「こか、びえる……………っ! きさまぁ!」

 

 口から血を流し、激しい憎悪の眼差しを向けながらフリードが叫ぶ。

 

「ふざけるなよ、てめぇ………ごぼっ……はぁ、はぁ………約束はどうした………俺との約束はどうしたんだよ、コカビエル!」

 

 あれだけの傷を負い、血を大量に流しながらも、彼は立ち上がる。

 その光景を見ていた俺たちは、あまりに唐突で衝撃的な展開に唖然とし、ただただ見ていた。

 

 フリードの問いを聞いたコカビエルは、その口元に邪悪な弧を作り、こう言い放った。

 

「約束? なんのことかね?」

 

 あまりに白々しく、堂々と、奴はそう言った。

 まるでそんなものなど、ハナから存在していないかのように。

 

「んだよ………それ…………どういう意味だ、それは!」

「どういう意味もなにも、フリード、すべてはコカビエル様のご計画のうち。

 あの聖剣計画その物も、貴様に教えた嘘も、全て」

「なっ……………」

 

 バルパーが無慈悲にそう告げると、フリードの顔が絶望に染まる。

 信じていた者に裏切られ、拠り所だった物が偽りだったと知り、その心が音を立て始める。

 

「じゃあ…………じゃあなにか!? あの聖剣計画も! あの施設も! 全部全部、堕天使(あんたら)の仕業なのかよ!」

「正確には、私とコカビエル様の、だがな」

「だったら、俺が今までやって来たことはなんだったんだよ! 教会に反逆して! 悪魔ぶっ殺して! あんたの命令に従ってた、俺はいったいなんなんだよ! コカビエル!!」

「さてな。だが、実に面白い道化であったよ、フリード」

「―――――――ッ!!」

 

 その途端、フリードが咆哮を上げる。

 喀血しながら、血の混じった涙を流しながら、怨嗟と憤怒の慟哭を。

 

 

 そして、次の瞬間フリードは跳躍し、光の剣でコカビエルを斬りつける。

 が、それはコカビエルの表面を撫でるだけで、傷を付けることは叶わなかった。

 

「バカめ。その剣の光は誰の物だ? 私に私の光が効くわけ無いだろう!」

 

 上から振り下ろされた聖剣をフリードは光の剣で防ごうとするが、それはいとも容易く破られ、右肩から袈裟懸けに切り裂かれ、地面へと叩き落とされた。

 

「フリード!」

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「……くそ………が……………」

 

 怨嗟の声を漏らしながら、痛む体に力を入れて立ち上がろうとするが、それは叶わず、自分の体だと言うのに、全く動く気配が無い。

 

 骨はあちこちが砕け、傷口からは血が流れ、意識が少しずつ遠のき始める。

 

 

 

 死ぬのか。

 

 

 

 不意にそう悟った。

 復讐も果たせず、聖剣も壊せず、無駄な殺しと狂気を積み重ねた自分の人生が、ここで終わると。

 

 

「…………ふざけんな」

 

 掠れた声を絞り出す。

 

 そんなこと、赦される訳がない。

 何もできずに死ぬことなど、許されるものか。

 

 

 俺は、なんの為にここまで罪を重ねてきた?

 なんの為に、ここまで血を浴びてきた?

 なんの為に、ここまで屍を踏み越えてきた?

 

 全部全部、この時の為だろうが!

 

 ここに辿り着く為だろうが!

 

 ここまで来て死ねるかよ! ようやくたどり着いて、易々と地獄に堕ちてたまるかよ!

 

 

 なら立てよ、フリード! てめえは、幾つもの命と言葉を踏みにじってきたじゃないか! この時のために!

 

 

 かつて切り捨てた司教が言った。

「お前の心は、復讐の闇に囚われている」と。

 

 だからどうした。それが俺の生き様だ。

 

 

 かつて惨殺した悪魔が囁いた。

「お前の復讐を私が果たしてやる。だから我が眷属となれ」

 

 俺は、人間のままで復讐を果たす!

 

 

 かつて犯した天使は謳った。

「復讐に囚われるのは悲しいことです。復讐からは何も生まれません」

 

 そんなことはとうに聞き飽きた。これだけが俺の生きる道だ。

 

 

 かつて見殺しにした聖女が語った。

「あなたの心が今にも壊れそうで、悲しくなる」

 

 黙れ。心など最早どうでもいい。壊れるなら壊れてしまえ。

 

 

 

 

 そうやって、何度も何度も何度も何度も殺して、屍を重ねて、血の海を渡り、そうして、俺は……………っ!

 

 

 

 

「ぐぅ……………っ!」

 

 

 ふらつく体を、剣を杖にして痛みに歯を食い縛りながら立ち上がらせる。

 

 だが、体のダメージは気合いでどうにかできるレベルを越え、もはや歩くことはおろか、立つことですらやっとだ。

 

「………まだ立つのか。流石だなフリード」

 

 コカビエルが、俺の目の前に降り立つ。

 そして奴は、俺の頭上に剣を構える。

 

 クソが! 結局俺は、こんなところで!

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおお! 【破撃ノ蹴打・竜】!!」

「【魔剣創造(ソードバース)】!」

「ぬぅ!?」

 

 だが、次の瞬間、コカビエルは咄嗟にガードし、後ろに吹き飛ばされた。

 

「……………おま、えら」

 

 それを成したのは、先程まで俺と相対していた兵藤一誠と木場祐斗だった。

 

「なんで…………」

「君と僕らの利害が一致したからだ、フリード・セルゼン」

「そう言うこった。行くぞ木場!」

「ああ!」

 

 木場祐斗がそっけなくそう答え、兵藤一誠とともにコカビエルへと向き直る。

 

 と、その時、何か暖かいものが腹の刺し傷に触れた。

 

「こんな………なんて酷い傷……………」

「アーシア、ちゃん」

 

 かつて俺が虐げ、騙し、殺そうとした相手が、その原因となった神器(セイクリッド・ギア)で、俺を治療していく。

 

「わ、わたしは、あなたが苦手です、フリードさん」

 

 俺の傷を暖かな光で癒しながら、アーシアがそう語る。

 

「怖くて、イッセーさんたちと敵対してて……………」

「なら、何故」

 

 聞くと、アーシアは顔を戦場へと向ける。そこには、コカビエルと、グレモリーの眷属達が激戦を繰り広げていた。

 

 ただ、まだ意識を失っているのか、あの小僧や、聖剣を奪われた教会の二人は見当たらない。

 

 

 その光景を見ながら、こちらを向かずアーシアは答える。

 

 

「人が傷つくのが、嫌だからです」

「……………」

「誰かが私の前で傷ついて、血を流すのが嫌だからです。たとえそれが、さっきまで敵対してた人だとしても」

「………けっ、相変わらずのお人好しだ」

 

 そう言って、アーシアの手をどけて、前へと進む

 

「ま、待ってください! まだ傷口は!」

「血は止まった。それで十分だ」

「でも!」

「黙れ。俺はそう言う無償の善意が死ぬほど嫌いなんだよ」

 

 

 一歩を踏み出す。

 正直、どうすればいいのか分からない。俺の持つ光の剣はあいつには効かない。

 それどころか、イッセーたち悪魔の攻撃すら殆ど効いていない。

 

 どうすれば……………。

 

 

 

 

 

「ふん、コバエが良くあがく。まぁいい、バルパー、アレを」

「はっ」

 

 

 

 

 通じない攻撃を何度も繰り返し、未だ倒れない俺たちを見て、コカビエルがつまらなそうに息を吐く。

 

 そして、奴がバルパーから手渡されて俺たちに見せたのは、見覚えのある、白い結晶。

 

 

「―――因子結晶!」

「因子結晶?」

 

 俺の言葉に、近くにいた木場祐斗が反応する。

 

「そうだとも、グレモリーの【騎士(ナイト)】。

 これは、被験体から抽出し凝縮した聖剣の因子の結晶だ。

 我々はこの技術を作り出すことで、人工の聖剣使いを産み出すことに成功した」

 

 木場の、息を飲む音が聞こえた。

 

「それを作るために………そんなちっぽけな結晶を産み出すためだけに、一体お前らは、どれだけの命を踏みにじってきた!!」

 

 声を荒らげて、コカビエルへと食いかかるが、それをコカビエルは鼻で笑い、いい放つ。

 

「知らんよ、そんな些細な事など」

「貴様……っ!!」

「だが、貴様の事は覚えているぞ、木場祐斗。我々は、貴様のお陰でこの技術を見つけたのだからな」

「どういう意味だ」

 

 剣を周囲に産み出しながら、木場が静かに、怒気の声で問いかける。

 すると、コカビエルとバルパーは、殆ど同時に笑い出す。

 

「貴様が処分から逃れたあの日、我々は焦ったよ。被験体が逃れたとなれば、ともすれば教会の耳にこの施設のことが漏れるかも知れないと」

「故に儂らは、お前を探し回った。だが、結局は見つからず、施設に戻った時の事だった。

 そこで儂らはあることに気づいたのだよ」

「それは、因子の流出」

 

 コカビエルとバルパーが交互に語っていく。誇らしげに、邪悪な笑みを浮かべて。

 

「普段はすぐに焼却処分する死体から、聖剣にも似た気配を持つ白いエネルギー。私はすぐにこれが因子だと気付いた。

 そしてそのエネルギーから作り出したのが、この結晶だ」

 

 つまりだな、と笑顔をさらに邪悪に歪ませながら、コカビエルが嗤う。

 

「喜べよ木場祐斗! 貴様の同胞はここに()()ぞ! 貴様の同胞から作り出したのがこの結晶が、第一の因子結晶なのだよ!」

「そん、な……………」

「だから例を言う。貴様が逃げなければ、我々がこれに気付くのはもっと遅れていただろうからな!

 

 ……………ほら、これをくれてやる。記念すべき第一因子結晶だ、受けとれ」

 

 そう言って投げ捨てられた因子は、コロコロと地面を転がり、木場の靴に当たる。

 

 誰もが声を出せずにいた。

 木場祐斗がその因子を手に取り、咽び泣くように崩れ落ちても、奴ら以外、誰も。

 

 

 奴らの語りはまだ続く。

 先程よりも楽しそうに、愉快そうに、邪悪に嗤いながら。

 

 

「そこから我々はさらにあることに気付いてな、さらに研究を続けた」

 

 

 木場祐斗以外の全員が顔を上げる。

 

「なぁ、フリード。貴様にくれてやった因子の調子はどうだ?」

「どういう……………っ、まさか!」

 

 このタイミングで聞いてくると言うことは―――っ!

 

「ほう、流石に察しがいいな。

 そう、まず我々が手につけたのは、因子との相性だ。いかんせん、他者の因子だ。拒絶反応が起こって死なれては目も当てられない」

「そして見つけ出したのだよ、因子の安定した与え方を」

 

 バルパーの言葉にコカビエルがうなずき、指を二本伸ばす。

 

「一つは赤ん坊の因子。

 

 何者にも染まっていない、無垢な魂に宿る因子は、誰にでも適合する。

 恐らく教会は、この方法で与えているのだろうよ。無論、殺すことは無いだろうが」

「……………なら、もう一度は……」

 

 声が、少し震える。

 喉になにかが詰まったように息がし難い。

 

「我々はとある法則を見つけてな。

 それは、因子の持ち主の意識、自我……………いや、記憶と言うべきか。

 それが、他者へ入ることを拒絶するのだ。故に、赤ん坊は誰にでも使える」

 

 なら、なら、もう一つは、まさか………本当に……っ!

 

「そしてもう一つの方法は―――――」

 

「やめろ………やめてくれ……………嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――()()()()()()()()()()だ」

 

 

 瞬間、すべてを理解した俺の思考が、真っ白に染まる。

 

「私が貴様を連れていった施設があったろう? そこで貴様は私の望み通りに、あの子供達と親しくなってくれた! 貴様に与えた因子は、驚くほどにしっくり来ただろう? なんら違和感無く自分に溶け込んだだろう? つまりはそう言うことなのだよ、フリード!」

 

 嗤う。絶望した俺を見ながら、高らかに、嗤う。

 

「子供達を殺すときのあれは見ものだったぞ! どいつもこいつも、皆一様に貴様の名を呼ぶのだ。助けてと、名を呼んで、祈りながら、血反吐を吐いて死んでいったよ!」

 

 

 見てもいないのに、その光景が目に浮かぶ。

 

 メアリーが、ジョンが、ユージーンが、セレスが………あの施設で、いつも俺にまとわりついていたガキ達が、あの毒ガスで苦しみながら、俺の名を呼ぶ。

 

 

「あ……ぁぁあ………ああああ……………」

 

 

「一人、また一人と絶命し、絶望が広がっていくなかで、一人だけ、皆を励ましながら希望を持ち続けてたのがいたな……………名は何と言ったか?」

「被験No.4hop2e………キャサリンです」

「だそうだ」

 

 

 そして、心が折れた。

 

 

 

「ぁぁあああああああああああああッッ!!」

 

 

 

 心が折れたのに、怒りに燃える。

 憎しみに染め上げられる。

 

 

「コカビエルぅぅううう!!」

 

 

 光の剣を片手に、また走り出す。

 

 

 

 

 

 

『お兄ちゃん!』

 

 

 アイツの声が甦る。

 

 

『そんなところで寝てたら風邪引くよ?』

 

 

 施設内では一番の年長で、みんなの姉貴分だった、お節介焼きの女の子の声が。

 

 

『ガキんちょじゃないよ! 私にはキャサリンって名前があるもん!』

 

 

 めちゃくちゃマセてて、お姉さんぶろうとして失敗して、みんなに笑われる。

 毎日楽しそうだった。

 

 

『ロクデナシじゃないよ! お兄ちゃんは凄いもん! 私たちに色んな事教えてくれるし、優しいし、強いもん!』

 

 

 キャサリン。キャシー。

 結局、どちらの名でも呼んでやれず。

 

 

『いってらっしゃい! フリードお兄ちゃん!』

 

 

 お帰りと、言わせて上げられなかった。

 帰ってやれなかった……………っ!

 

 

 

 

「殺す、殺す殺す殺す、殺す!」

 

 飛び上がり切りつけるも、結果はやはり先程と同じ。

 けれども、何度も何度も斬りつける。

 

 憤怒のままに、絶望のままに。

 

 

「…………ふん、結局、絶望してもこの程度か。やはり人間はつまらんな」

 

 至極めんどくさそうに言ったコカビエルは、そのまま聖剣を振り上げ、今度は俺を両断すべく、力を込めて降り下ろす。

 

 

 

 

 

 そして、俺は―――――――。

 

 

 

 




いつも自分のすんでる地域だけ雪が積もらなくてゴルァってなる。

せっかく沖縄から出てきたんだから、積雪を見てみたいと願うフリムンでした
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