フリードが、己の腹部を突き刺す聖剣とコカビエルの顔を交互に見る。
「…………おい……………なん、だよ、これは……………」
「貴様は良くやったよ。見事だ。お陰でこうも簡単に6本手に入れることができたのだからな。
だが、統合さえしてしまえば、これを壊そうとする貴様はただただ邪魔なだけでな」
「なんだ、と……………ごふっ!」
「だから貴様はもう、用済みだ」
フリードの胸を蹴り飛ばし、その反動で腹から剣を抜く。
飛ばされたフリードは、地面へと仰向けで倒れ、そこから血が広がっていく。
「こか、びえる……………っ! きさまぁ!」
口から血を流し、激しい憎悪の眼差しを向けながらフリードが叫ぶ。
「ふざけるなよ、てめぇ………ごぼっ……はぁ、はぁ………約束はどうした………俺との約束はどうしたんだよ、コカビエル!」
あれだけの傷を負い、血を大量に流しながらも、彼は立ち上がる。
その光景を見ていた俺たちは、あまりに唐突で衝撃的な展開に唖然とし、ただただ見ていた。
フリードの問いを聞いたコカビエルは、その口元に邪悪な弧を作り、こう言い放った。
「約束? なんのことかね?」
あまりに白々しく、堂々と、奴はそう言った。
まるでそんなものなど、ハナから存在していないかのように。
「んだよ………それ…………どういう意味だ、それは!」
「どういう意味もなにも、フリード、すべてはコカビエル様のご計画のうち。
あの聖剣計画その物も、貴様に教えた嘘も、全て」
「なっ……………」
バルパーが無慈悲にそう告げると、フリードの顔が絶望に染まる。
信じていた者に裏切られ、拠り所だった物が偽りだったと知り、その心が音を立て始める。
「じゃあ…………じゃあなにか!? あの聖剣計画も! あの施設も! 全部全部、
「正確には、私とコカビエル様の、だがな」
「だったら、俺が今までやって来たことはなんだったんだよ! 教会に反逆して! 悪魔ぶっ殺して! あんたの命令に従ってた、俺はいったいなんなんだよ! コカビエル!!」
「さてな。だが、実に面白い道化であったよ、フリード」
「―――――――ッ!!」
その途端、フリードが咆哮を上げる。
喀血しながら、血の混じった涙を流しながら、怨嗟と憤怒の慟哭を。
そして、次の瞬間フリードは跳躍し、光の剣でコカビエルを斬りつける。
が、それはコカビエルの表面を撫でるだけで、傷を付けることは叶わなかった。
「バカめ。その剣の光は誰の物だ? 私に私の光が効くわけ無いだろう!」
上から振り下ろされた聖剣をフリードは光の剣で防ごうとするが、それはいとも容易く破られ、右肩から袈裟懸けに切り裂かれ、地面へと叩き落とされた。
「フリード!」
◆◇◆◇◆◇◆
「……くそ………が……………」
怨嗟の声を漏らしながら、痛む体に力を入れて立ち上がろうとするが、それは叶わず、自分の体だと言うのに、全く動く気配が無い。
骨はあちこちが砕け、傷口からは血が流れ、意識が少しずつ遠のき始める。
死ぬのか。
不意にそう悟った。
復讐も果たせず、聖剣も壊せず、無駄な殺しと狂気を積み重ねた自分の人生が、ここで終わると。
「…………ふざけんな」
掠れた声を絞り出す。
そんなこと、赦される訳がない。
何もできずに死ぬことなど、許されるものか。
俺は、なんの為にここまで罪を重ねてきた?
なんの為に、ここまで血を浴びてきた?
なんの為に、ここまで屍を踏み越えてきた?
全部全部、この時の為だろうが!
ここに辿り着く為だろうが!
ここまで来て死ねるかよ! ようやくたどり着いて、易々と地獄に堕ちてたまるかよ!
なら立てよ、フリード! てめえは、幾つもの命と言葉を踏みにじってきたじゃないか! この時のために!
かつて切り捨てた司教が言った。
「お前の心は、復讐の闇に囚われている」と。
だからどうした。それが俺の生き様だ。
かつて惨殺した悪魔が囁いた。
「お前の復讐を私が果たしてやる。だから我が眷属となれ」
俺は、人間のままで復讐を果たす!
かつて犯した天使は謳った。
「復讐に囚われるのは悲しいことです。復讐からは何も生まれません」
そんなことはとうに聞き飽きた。これだけが俺の生きる道だ。
かつて見殺しにした聖女が語った。
「あなたの心が今にも壊れそうで、悲しくなる」
黙れ。心など最早どうでもいい。壊れるなら壊れてしまえ。
そうやって、何度も何度も何度も何度も殺して、屍を重ねて、血の海を渡り、そうして、俺は……………っ!
「ぐぅ……………っ!」
ふらつく体を、剣を杖にして痛みに歯を食い縛りながら立ち上がらせる。
だが、体のダメージは気合いでどうにかできるレベルを越え、もはや歩くことはおろか、立つことですらやっとだ。
「………まだ立つのか。流石だなフリード」
コカビエルが、俺の目の前に降り立つ。
そして奴は、俺の頭上に剣を構える。
クソが! 結局俺は、こんなところで!
「うおおおお! 【破撃ノ蹴打・竜】!!」
「【
「ぬぅ!?」
だが、次の瞬間、コカビエルは咄嗟にガードし、後ろに吹き飛ばされた。
「……………おま、えら」
それを成したのは、先程まで俺と相対していた兵藤一誠と木場祐斗だった。
「なんで…………」
「君と僕らの利害が一致したからだ、フリード・セルゼン」
「そう言うこった。行くぞ木場!」
「ああ!」
木場祐斗がそっけなくそう答え、兵藤一誠とともにコカビエルへと向き直る。
と、その時、何か暖かいものが腹の刺し傷に触れた。
「こんな………なんて酷い傷……………」
「アーシア、ちゃん」
かつて俺が虐げ、騙し、殺そうとした相手が、その原因となった
「わ、わたしは、あなたが苦手です、フリードさん」
俺の傷を暖かな光で癒しながら、アーシアがそう語る。
「怖くて、イッセーさんたちと敵対してて……………」
「なら、何故」
聞くと、アーシアは顔を戦場へと向ける。そこには、コカビエルと、グレモリーの眷属達が激戦を繰り広げていた。
ただ、まだ意識を失っているのか、あの小僧や、聖剣を奪われた教会の二人は見当たらない。
その光景を見ながら、こちらを向かずアーシアは答える。
「人が傷つくのが、嫌だからです」
「……………」
「誰かが私の前で傷ついて、血を流すのが嫌だからです。たとえそれが、さっきまで敵対してた人だとしても」
「………けっ、相変わらずのお人好しだ」
そう言って、アーシアの手をどけて、前へと進む
「ま、待ってください! まだ傷口は!」
「血は止まった。それで十分だ」
「でも!」
「黙れ。俺はそう言う無償の善意が死ぬほど嫌いなんだよ」
一歩を踏み出す。
正直、どうすればいいのか分からない。俺の持つ光の剣はあいつには効かない。
それどころか、イッセーたち悪魔の攻撃すら殆ど効いていない。
どうすれば……………。
「ふん、コバエが良くあがく。まぁいい、バルパー、アレを」
「はっ」
通じない攻撃を何度も繰り返し、未だ倒れない俺たちを見て、コカビエルがつまらなそうに息を吐く。
そして、奴がバルパーから手渡されて俺たちに見せたのは、見覚えのある、白い結晶。
「―――因子結晶!」
「因子結晶?」
俺の言葉に、近くにいた木場祐斗が反応する。
「そうだとも、グレモリーの【
これは、被験体から抽出し凝縮した聖剣の因子の結晶だ。
我々はこの技術を作り出すことで、人工の聖剣使いを産み出すことに成功した」
木場の、息を飲む音が聞こえた。
「それを作るために………そんなちっぽけな結晶を産み出すためだけに、一体お前らは、どれだけの命を踏みにじってきた!!」
声を荒らげて、コカビエルへと食いかかるが、それをコカビエルは鼻で笑い、いい放つ。
「知らんよ、そんな些細な事など」
「貴様……っ!!」
「だが、貴様の事は覚えているぞ、木場祐斗。我々は、貴様のお陰でこの技術を見つけたのだからな」
「どういう意味だ」
剣を周囲に産み出しながら、木場が静かに、怒気の声で問いかける。
すると、コカビエルとバルパーは、殆ど同時に笑い出す。
「貴様が処分から逃れたあの日、我々は焦ったよ。被験体が逃れたとなれば、ともすれば教会の耳にこの施設のことが漏れるかも知れないと」
「故に儂らは、お前を探し回った。だが、結局は見つからず、施設に戻った時の事だった。
そこで儂らはあることに気づいたのだよ」
「それは、因子の流出」
コカビエルとバルパーが交互に語っていく。誇らしげに、邪悪な笑みを浮かべて。
「普段はすぐに焼却処分する死体から、聖剣にも似た気配を持つ白いエネルギー。私はすぐにこれが因子だと気付いた。
そしてそのエネルギーから作り出したのが、この結晶だ」
つまりだな、と笑顔をさらに邪悪に歪ませながら、コカビエルが嗤う。
「喜べよ木場祐斗! 貴様の同胞はここに
「そん、な……………」
「だから例を言う。貴様が逃げなければ、我々がこれに気付くのはもっと遅れていただろうからな!
……………ほら、これをくれてやる。記念すべき第一因子結晶だ、受けとれ」
そう言って投げ捨てられた因子は、コロコロと地面を転がり、木場の靴に当たる。
誰もが声を出せずにいた。
木場祐斗がその因子を手に取り、咽び泣くように崩れ落ちても、奴ら以外、誰も。
奴らの語りはまだ続く。
先程よりも楽しそうに、愉快そうに、邪悪に嗤いながら。
「そこから我々はさらにあることに気付いてな、さらに研究を続けた」
木場祐斗以外の全員が顔を上げる。
「なぁ、フリード。貴様にくれてやった因子の調子はどうだ?」
「どういう……………っ、まさか!」
このタイミングで聞いてくると言うことは―――っ!
「ほう、流石に察しがいいな。
そう、まず我々が手につけたのは、因子との相性だ。いかんせん、他者の因子だ。拒絶反応が起こって死なれては目も当てられない」
「そして見つけ出したのだよ、因子の安定した与え方を」
バルパーの言葉にコカビエルがうなずき、指を二本伸ばす。
「一つは赤ん坊の因子。
何者にも染まっていない、無垢な魂に宿る因子は、誰にでも適合する。
恐らく教会は、この方法で与えているのだろうよ。無論、殺すことは無いだろうが」
「……………なら、もう一度は……」
声が、少し震える。
喉になにかが詰まったように息がし難い。
「我々はとある法則を見つけてな。
それは、因子の持ち主の意識、自我……………いや、記憶と言うべきか。
それが、他者へ入ることを拒絶するのだ。故に、赤ん坊は誰にでも使える」
なら、なら、もう一つは、まさか………本当に……っ!
「そしてもう一つの方法は―――――」
「やめろ………やめてくれ……………嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッ!」
「―――――――
瞬間、すべてを理解した俺の思考が、真っ白に染まる。
「私が貴様を連れていった施設があったろう? そこで貴様は私の望み通りに、あの子供達と親しくなってくれた! 貴様に与えた因子は、驚くほどにしっくり来ただろう? なんら違和感無く自分に溶け込んだだろう? つまりはそう言うことなのだよ、フリード!」
嗤う。絶望した俺を見ながら、高らかに、嗤う。
「子供達を殺すときのあれは見ものだったぞ! どいつもこいつも、皆一様に貴様の名を呼ぶのだ。助けてと、名を呼んで、祈りながら、血反吐を吐いて死んでいったよ!」
見てもいないのに、その光景が目に浮かぶ。
メアリーが、ジョンが、ユージーンが、セレスが………あの施設で、いつも俺にまとわりついていたガキ達が、あの毒ガスで苦しみながら、俺の名を呼ぶ。
「あ……ぁぁあ………ああああ……………」
「一人、また一人と絶命し、絶望が広がっていくなかで、一人だけ、皆を励ましながら希望を持ち続けてたのがいたな……………名は何と言ったか?」
「被験No.4hop2e………キャサリンです」
「だそうだ」
そして、心が折れた。
「ぁぁあああああああああああああッッ!!」
心が折れたのに、怒りに燃える。
憎しみに染め上げられる。
「コカビエルぅぅううう!!」
光の剣を片手に、また走り出す。
『お兄ちゃん!』
アイツの声が甦る。
『そんなところで寝てたら風邪引くよ?』
施設内では一番の年長で、みんなの姉貴分だった、お節介焼きの女の子の声が。
『ガキんちょじゃないよ! 私にはキャサリンって名前があるもん!』
めちゃくちゃマセてて、お姉さんぶろうとして失敗して、みんなに笑われる。
毎日楽しそうだった。
『ロクデナシじゃないよ! お兄ちゃんは凄いもん! 私たちに色んな事教えてくれるし、優しいし、強いもん!』
キャサリン。キャシー。
結局、どちらの名でも呼んでやれず。
『いってらっしゃい! フリードお兄ちゃん!』
お帰りと、言わせて上げられなかった。
帰ってやれなかった……………っ!
「殺す、殺す殺す殺す、殺す!」
飛び上がり切りつけるも、結果はやはり先程と同じ。
けれども、何度も何度も斬りつける。
憤怒のままに、絶望のままに。
「…………ふん、結局、絶望してもこの程度か。やはり人間はつまらんな」
至極めんどくさそうに言ったコカビエルは、そのまま聖剣を振り上げ、今度は俺を両断すべく、力を込めて降り下ろす。
そして、俺は―――――――。
いつも自分のすんでる地域だけ雪が積もらなくてゴルァってなる。
せっかく沖縄から出てきたんだから、積雪を見てみたいと願うフリムンでした