ここ8年くらいまともに風邪を引いたことのない無駄に頑丈な自分が恨めしい……………。
買い出し組として、グレモリー先輩、ゼノヴィアさん、イッセー兄ちゃん、木場先輩の四人が出掛け、残りの姫島先輩、小猫ちゃん、アーシアさんの三人がお母さんのお手伝いとして台所へ向かって早数分。
その間僕が一人だったのかというと、案外そういうわけでもなく、台所へ向かった三人が数分おきに交互に様子を身に来てくれた。
ちなみにお母さんは一度も来ていない。おい母親。
「ぷはぁ」
水分補給にと小猫ちゃんから渡されたスポーツ飲料『水瓶座』を飲みながら、枕元に手を伸ばす。
そこに置いてあったのは、青と白のカラーリングがなされた、某
僕はそれを手に取り、スイッチを入れてベッドに寝転ぶ。
表示された画面には、知る人ぞ知る名作。ポポ○クロイスのポスター。
これを見るたび、なんでアニメ化もされたのに知名度低いんだろう、と思ってしまう。
スタート画面からメニュー画面へと移動し、そこからメモリーカードのデータを確認する。
「………やっぱり無いかぁ」
探したのはゴッドイーターのセーブデータ。
ソフトの方は前に部屋をひっくり返す勢いで探したが結局見つからず、部屋を散らかして怒られた。
そして今回はダメ元でデータの方も探してみたが、案の定見つかることは無かった。
「なんなんだろうなぁ、これ」
ゲームをしていた記憶はある。コードネームやキャラネーム、キャラデザを思い出すことができるレベルで。
けど、そのゲームは存在していないと言う。ゲームショップやネットでも探してみたけど、それでも見つからない。
おまけに、僕自身がゴッドイーターとなり、ゲーム内のスキル、装備を手にいれてしまった。流石に容姿は違うけども。
なにより一番不思議なのは、誰もそれを、それこそ僕自身でさえ、最優先で考えるべき事項としていないことだ。
あったはずなのに無くなったゲーム。この世には(多分)存在しない武器と能力。
本来なら皆から警戒され、僕はもっと理由を探求しなくちゃいけないはず。
それなのに、今こうして考えているにも関わらず、それをしようと言う気が起きず、他人事のように考えている。
これは、まるで……………――――、
「…めっ」
何か大事な事に気付きかけた瞬間、目の前に掲げていたゲーム機を何者かに取られてしまう。
「あ、小猫ちゃん………」
取り上げた相手の方へ視線を向けると、ゲーム機を右手でもって、ちょっと怒ったような顔をした小猫ちゃんが腰に手を当ててこちらを見ていた。
「…病人なんだから、ゲームしちゃ、ダメ」
「えー」
「…めっ」
「あらやだ可愛い………じゃなくて! 暇なんだよう、小猫さぁん」
めっ、とか久々に聞いたなぁ、とか考えながら、小猫ちゃんに向けていた視線を天井に向ける。
「…え、かかわいっ!?」
「あーあ、風邪もアーシアさんの
天井の木目を数えながらそうぼやく。
さっきちょっと試して貰ったんだけど、どうやらアーシアさんの《
「ねー、小猫ちゃん」
そう言ってもう一度彼女に目を向けると、何故か顔を真っ赤に染めてあぅあぅ言っている姿が。
「どしたの?」
「…な、なんでもっ、ない」
所々噛み噛みになりながら答える小猫ちゃんに、僕は理由が分からず首を傾げる。
「…(風邪は仙術ならもしかしたら………ううん、私はあの力に頼らないって決めたの。だから……………でも、姉様ならきっと…………だめ、それこそダメ。きっとハルトを取られちゃう)」
「小猫ちゃん?」
「…ううん、何でもない。それより、もう行くね? 身に来ただけだし」
「あ、うん」
「…じゃあ、また後で」
小猫ちゃんが僕の部屋から出ていくのを見送った後、結局することもなくて暇になった僕は、もう一度眠ることにした。
……………夜眠れるかなぁ?
◆◆◆◆◆◆
「ハルトさん、起きてますか?」
そんな囁くような声と、ゆっくりと扉を開ける音で目が覚める。
時計を見ると、そんなに時間は経っていないようだ。精々15分程度だろう。
このくらいの音で目覚めるってことはやはり、眠りが浅かったらしい。
「ん、おはようアーシアさん」
「あ、起こしちゃいました?」
「ううん、もう起きそうだったし、大丈夫」
「それなら良かったです」
僕の返答に、安心したように笑ったアーシアさんは、そのまま僕の枕元までやって来て、僕のおでこに触れる。
「大分熱が下がって来ましたね。体調はどうですか?」
「最初のような吐き気はもう無いかな。まだダルいですけど」
「そうですか。お粥と野菜スープがあるんですけど、食欲の方は………」
その質問には、僕の口から返答が出ることは無かった。お粥と聞いた瞬間、その日ほとんど何も口にしていなかった僕の胃袋が、猛烈に自己主張を始め、盛大に「くぅぅ………」という音を鳴らした。
「ふふ、わかりました、持ってきますね」
そう言って笑ったアーシアさんが、一旦部屋を出る。
それを見計らい、僕は一言漏らす。
「そうかあれが聖母か」
悪魔だけど。
ナース服を着てたら完璧だった。異論は認めない。
そこでもう一度部屋がノックされる。
返事をすると、扉が開けられ、入ってきたのは三人だった。
「うふふ、丹精込めて作りましたわ、ハルトくん。召し上がれ」
「…アーシア先輩に教えてもらいながら作ったの。だから多分美味しいと思う」
「はい、良くできてましたよ小猫ちゃん」
三人はそれぞれに笑顔を浮かべながら僕のベッドの両サイドに座る。
お粥を持った姫島先輩が右隣に、野菜スープの入った深皿を持った小猫ちゃんとアーシアさんが左隣に座る。
そして姫島先輩と小猫ちゃんがおもむろに匙とレンゲでお粥とスープを掬い、ふーふーと冷やした後、ずいっと僕の目の前に差し出す。
「「はい、召し上がれ」」
そして見事にハモらせるのだった。
「「……………」」
瞬間、僕は二人の間に火花が散るのを幻視した。
「あら小猫ちゃん。スープだと零れないかしら?」
「…いきなり固形物だとお腹がビックリします。だからスープからです」
「お粥だから大丈夫よ」
「…でも重たいです」
「………
「………いいえ
あ、あれ? おかしいな? 着込んでる筈なのに寒気がするよ? 風邪のせい? でも冷や汗が止まらない……………に、兄ちゃん! 早く帰ってきて!
「あ、あの、お二人とも?」
匙とレンゲを差し出したままの二人を見て、
「少し、落ちついt……」
「あらあら、私は落ち着いてますわよ、うふふ」
「…アーシア先輩、これは譲れない戦いなんです」
「あぅ………」
なんてことだ。あのアーシアさんが負けるだなんて……………。
アーシアさんを撃破した二人は、笑顔で僕にそれぞれの料理を差し出す。どちらも零れやすい代物の筈なのに一滴すら零れないその見事な静止は驚嘆に値する……………等という現実逃避も虚しく、僕の胃がマッハでヤバくなってきた。
これどっちか選んだら後々怖いやつじゃんかぁ!
どうする!? 逃げるか……………!?
いいや否! 断じて否! それは僕のために料理を作ってくれた二人に対する侮辱。最悪の悪手!
ならば、僕の取るべき行動は……………っ、
「い、いただきます!」
「あら」
「…あっ」
覚悟を決めた僕は、二つを同時に咥える。
少し冷めたとは言え、熱々のお粥とスープだ。おまけに匙とレンゲという、二つを咥えるのは形的に難しい二つ。
結論。死ぬ。
「もがっ!? ………んがごご………んぐ、ぷぁ………はぁ、はぁ、熱かった……………」
ゴッドイーターじゃなかったら舌を火傷していたところだった。
「だ、大丈夫ですかハルトさん!」
「…はい、水」
「うふふ、食べてくれるのは嬉しいけれど、ムチャはダメよ?」
「うぅ、はい……」
アーシアさんの癒しの光を受けながら、小猫ちゃんが差し出してくれたスポーツドリンクを飲みつつ、姫島先輩から頭を撫でられつつ軽いお叱りを受ける。
そのあと、姫島先輩はおもむろに頭を下げた。
「私たちの方こそごめんなさいね。無理強いさせちゃって」
「い、いえ、そんなこと…………」
僕が慌てて頭を振りながら答えると、姫島先輩は小猫ちゃんの方を向き、妥協案を唱える。
「という訳で小猫ちゃん。交互に行きましょう」
「…わかりました」
◆◆◆◆◆◆
「はい、あーん、ですわ」
「あむ、むぐむぐ………ひ、姫島先輩、いつまでこれを……………」
「あらあら、全部食べるまで、に決まってますわ。ね、小猫ちゃん」
「…はい、朱乃さん。ハルト、あーん」
左から出された匙に乗せられたお粥を食べ、次に右から出されるレンゲのスープを飲む。
それを繰り返してかれこれ10分ほど。
それぞれの器の中身はそこそこ減ったが、まだまだ残っている。
「いや、あの、自分食べられます、から……………」
「はい、あーんですわ」
「いや、だから」
「あーん、ですわ」
「………はい」
僕のささやかな抵抗も虚しく、結局押し負けた僕がおとなしく口を開けると、程よく冷まされたお粥が入れられる。
先輩曰く、このお粥は『トマトお粥』と言うものらしく、塩分とトマトの酸味が互いに旨味を引き出し、さらにトマトのリコピンが風邪にどうたらこうたら……………あんま良く覚えてないけど、体に良いのは覚えてる。
「…ハルト」
「あむ」
次に、小猫ちゃんからのスープ。コンソメに刻んだ野菜や生姜などを入れた、アーシアさん直伝の養生野菜スープ。生姜だけでなく、胡椒やベーコンもマッチしていて、とても美味しい上に、体がポカポカと芯から暖まって来る。
「どうかしら、私たちの料理は?」
「とっても美味しいです。僕なんかには勿体無いくらいに」
「…そんなことない。ハルトのお陰で私たちはあの戦いを切り抜けられたもの。お礼くらいさせて」
そう言って、小猫ちゃんは器を横のテーブルに置き、手を握る。
「そうですわ。あなたに自覚が無くとも、あなたが私たちに与えてくれたものは、沢山あるんですのよ?」
姫島先輩も、僕の頬に手を添えて微笑む。
……………僕、そんなにお礼をされるような事をしたのだろうか?
確かに僕は、皆を守るために戦った。皆が傷つくのを見たくなくて。悲しませたくなくて。でも、僕だって皆から助けられてばかりで……………
なんて、ほんの少しネガティブになってしまうが、それを遮るように、
「ただいまー!」
と言う兄ちゃんの声と、扉の開く音、そして皆がぞろぞろと部屋に入ってくる音でかき消された。
「よう、見ろよハル、この、くだ………も、の………を……っ!?」
手にもった袋から、果物が詰め合わされた篭を取り出した兄ちゃんは、僕の方を見た瞬間、膝から崩れ落ちた。
ちなみに、その時落ちた果物は木場先輩が地面につく前に回収していた。
「び、美少女に両サイド挟まれのあーん、だと……………っ!? なんて事だ………ぐふっ、オレが体調を崩す度に毎回妄想する夢のシチュエーションではないか………っ!!」
「む、その光景は知っているぞ! ……………ん? だがそれは男同士でやるものでは無いのか? アイカが貸してくれた『びーえる本』とやらにはそう描いてあったぞ」
兄ちゃんが吐血した。なんか知らないけど、悔しそうに吐血した。
そしてゼノヴィアさん、その道はいけない。行っちゃいけない道だよ!?
しかし、そんな状況を意にも介さぬ人が二人。
「…はい、あーん」
「うふふ、ほら、ハルトくん」
「え? いや、え? この状況でも続けるの!?」
「食べ終わるまで、ですわ」
ちょ、待って、人いるから恥ずかしいんだけど!?
しかも皆出ていくどころか温かい目でこっちを見てるんですけど!?
何この羞恥プレイ!? だ、誰かー! へるぷみー!
◆◇◆◇◆◇◆
「あの子の看病かぁ………私もしたいにゃあ……………」
昼下がりの住宅街、その中の公園でふと、隣の痴女………おっと、失礼。色ボケ黒猫がそんなことをぼやきだす。
「ちょっとアーサー? 今失礼なこと考えたにゃ? 痴女とか色ボケとか」
「いえいえ、そんなことありませんとも。デリカシー皆無の美猴ならまだしも」
エスパーかこの黒猫は。仙術は極めると心まで読めるのだろうか。
「おうおう、そこで俺に喧嘩売るたぁいい度胸だなアーサー。買うぞ?」
「止めてください美猴さん。そんなことしたら隠密の意味が無いじゃないですか。それと、美猴さん? 黒歌姉さまは痴女なんかじゃありません! ちゃんと身持ちの固い歴とした処j……」
「にゃー! にゃー! ありがとルフェイ! だからシャラップ!」
「つか痴女つったの俺じゃねぇよ!」
はぁ、まったく、彼女たちは本当に騒がしい。まぁ、その騒がしさが好きで彼らともにいるのだから。
それより、
「もうすぐリーダーが到着するそうです。皆さん、いきますよ」
いまだ言い合いを続ける彼らに声をかけ、私はコルブランドで空間に裂け目を作る。
「グリゴリの施設から直接『向こう』に行くそうなので、そこで合流しますよ」
その言葉に、言い合いを止めた三人は、三様の反応を見せる。
愛妹は好奇心に顔を綻ばせ、猿は好戦的に笑みを浮かべ、猫はどこか名残惜しそうに後ろを振り返っていた。
「彼に会いたいのですか、黒歌?」
「あ、会いたいと言うかなんと言うか……………」
私にそう言われた彼女は、一瞬肩を竦め、どこか気まずそうにそんなことを言う。
つい、ため息が溢れる。
彼と彼女の馴れ初めと言うか、出会いを知っている(と言うか聞かされた)私達からすれば、それは微笑ましい光景であり、だからつい、こう言ったのも仕方ないことだろう。
「リーダーには私から伝えておきます。お行きなさい」
「にゃ?」
一瞬、呆けた顔をする黒歌。
普段見られないようなその表情に、つい苦笑してしまう。
ルフェイも美猴も、言葉は無いが、その表情は私と同じものだった。
「あ、ありがとうにゃ。行ってくる!」
顔を赤らめながらお礼を言った彼女は、踵を返すと同時に黒猫へと変化し、そのまま走り去る。
それを見送った私達は、ため息と共に互いに見合わせ、開いた裂け目へと入っていった。
「これが、命短し恋せよ乙女ってやつですか」
「あいつは長生きするけどな」
「そんなこと言ってると、初代さま呼びますよ」
「何で!?」
そしてまさかのアーサー視点。どうしてこうなった。
しかし、最近ダメだ、筆が乗らねぇ……………。やっぱプロットを作ってないのがダメなのだろうか? 脳内整理だけじゃ限界があると言うのか……………。
プロット作ろ。
■以下雑談
そういえば、ゴッドイーターリザレクション、再開しました。
今ならたまにインフォの方にいます。主に夜とか。
呼び掛け文が『のこじん掘りじゃぁぁあ!』とかそんな感じの事書いてあったらそれはだいたい僕です。見かけたらよろしくです。