先ほど、書いていてボツになったけど、どこかで使えそうだから残しておいた話が間違って上げられていたようです。
読んでしまった方には盛大なネタバレがあったような気もしますが、どうかお目こぼしいただけたら幸いです。
申し訳ありませんでした
『ふぇぇぇぇぇぇえん!!』
甲高い絶叫が、旧校舎に響き渡る。
「……………何事?」
アザゼルが来たその日の夜、精神的に疲労困憊して帰って、漸く眠りに着ける、といった瞬間にかかってきた呼び出しの電話。
流石に慣れてきたとは言え、寝る直前の呼び出しに、僕は少々不機嫌な声音で隣のイッセー兄ちゃんに尋ねる。
「いやぁ、それがなぁ……………かくかくしかじかで」
「まるまるさんかく、なるほどね」
兄ちゃんの説明に納得し、自分で淹れたお茶を啜る。
しかし、話を聞くにギャスパーくんの事情はかなり厄介だ。アーシアさんや木場先輩、朱乃さんの事情も酷く不快で憤りを抱かずにはいられない物ではあったし、ギャスパーくんのそれも同じなのだけど……
「名門ゆえの家庭事情か…………」
僕やイッセー兄ちゃんのような、ついこの前まで平凡な一般人をやっていた身からすると、そういったお家騒動は遥か遠い世界の事に感じてしまう。
唯一関わったといえるグレモリー先輩の婚約騒ぎも、何だかんだ言ってグレモリー先輩のお家は僕らの味方だったし、結構簡単に収まったと思う。
けど、ギャスパーくんのはきっとそんな簡単じゃない。
「ねぇ、イッセー、ハルト」
そんな考えたってどうしようもならない事に思考を捕らわれていると、グレモリー先輩が僕らに声をかける。
「もし、時間を止められたら貴方たちは、どんな気分?」
「………少し、怖いですね」
悲しげな表情で訊ねられたその質問に、兄ちゃんは少し躊躇いながらも、誤魔化さずに答える。
僕は、どうなんだろう?
正直言って、あまり彼に恐怖は抱いてない。
けれどもそれはきっと、彼がグレモリー眷属の一員だから。
グレモリー先輩の見込んだ人が扱う力に、僕は多分恐怖なんて抱かない。
「だけど、もしギャスパーくんが僕らの仲間じゃなくて、無関係の状態だったなら……………多分僕も警戒すると思います」
時を停めるということはつまり、世界の概念に干渉する絶大な力だ。様々な現象を起こすオラクル細胞だって、物理的な破壊をもってしか世界に干渉できなかったというのに、あの
そしてそれが日々成長していると言うのなら、尚更人は彼を恐れ、離れていくのだろう。
『ぼ、僕は、こんな
声を荒らげて泣き叫ぶギャスパーくんの感情は悲痛で、一人がいいと嘯く言葉は寂しそうで。
彼は一度命を落としたらしい。
家を終われ、ヴァンパイアハンターに襲われ、その果ての餓死。
その話を聞いたときのゼノヴィアさんは昼間の事を恥じ、深く反省していた。
仕事があるために行かなければならないが、後日改めて謝罪すると言っていた。
「この子をまた引きこもらせてしまうなんて……………私は【
グレモリー先輩が自嘲して笑う。
「部長、サーゼクス様との打ち合わせがこれからあるんですよね?」
そんな先輩に、兄ちゃんが声をかける。
「あとは俺たちに任せて下さい!」
兄ちゃんの申し出に、先輩は少し躊躇ったような間を開け、そして折れた。
「ええ、任せるわ…」
「折角できた男の後輩ですから!」
「同じく、同級生ですし」
「………ふふ、ありがとう、二人とも」
微笑んだ先輩は、名残惜しそうに扉を見つめ、部室から出ていった。
それを見送った僕らは互いに顔を見合わせ、言葉を交わすことなく頷きあい扉の前に座り込む。
「お前が出てくるまで、俺らはここを動かねえ!」
兄ちゃんが腕を組んで鼻を鳴らしながら言う。
さて、持久戦と行こうか。
……………と一時間が経過する。
むぅ、流石に強情だ。
やっぱり、黙ってるだけじゃダメなんだよな、きっと。
「ねえ、ギャスパーくん」
突然声を書けたからか、扉の向こうでビクッとした気配を感じる。
「ギャスパーくんは、怖い? その
『……………』
反応は無いが、構わず語りかける。
「僕にはね、神機っていう、よく分からない力があるんだ。神話に生きたあのコカビエルやアザゼルですら知り得ない、本当に未知の力」
右腕を握り混む。どこまで伝わるか分からないけど、きっとこうやって本音を晒せば、きっと伝わってくれるはず。
「兄ちゃんだって最強の龍が宿って、しかも左腕を捧げてる。
僕らはね、別に特別な物を持ってないし、過酷な過去を過ごしていた訳でもないんだ。それなのにこうやってここにいるし、苦しい戦いだって体験してきた」
隣では兄ちゃんも頷いている。
「怖かった……ううん、正直言うとね、今でも怖い。
僕は元々怖がりで、初めて皆が悪魔だと知ったときは大声で泣き叫んで、みっともないことしたんだ。
それに、この力だって怖い。
誰も知らなくて、僕だけが使い方を知っていて……………使ってると時々、知らない感情が僕を埋め尽くす」
これは、初めて口にする想いだ。兄ちゃんも驚いた顔をしている。
「力を使う度に、その感情は強くなって行って、酷く怖くなる。
けどね、きっと僕はこの力を使い続けるんだ」
『どう、して………? 怖いなら、使わなければ良いじゃないか。知らない感情を抱いて、戦って、それで大切なものを失ったら……………』
「失わせねぇ」
返ってきた質問に、僕でなく兄ちゃんが答える。
「俺はバカだしさ、ハルトの言った事も、その悩みもわかんねぇけどよ、それでもこれだけは言える。
俺は、いや、
自信たっぷりに答えた兄ちゃんは、ギャスパーくんに語りかけると同時に僕の頭に手を置いてグリグリと撫で付ける。
『なんで、何でそんなに自信たっぷりに言えるんですか! それで死んじゃったら、どうするんですか!』
「それで死なねぇようにするために、眷属全員で支え合うんだ」
「まあ、僕は眷属じゃないんだけどね」
「それでもだよ」
「わかってるって」
支え合う。それはきっと、この眷属の一番の強みだと僕は思う。
『………強いんですね、二人は』
「「
力なく発せられた彼の言葉に、僕らは同時に返す。
「強かったらきっと、僕らはここにはいない」
「一人で強かったら多分、俺たちは一人で戦って、そんで多分一人で死んでた」
『え?』
「俺たちは全員揃ってやっと、誰かを守れる」
「グレモリー眷属は支え合うチームなんだ。皆、補い合う力を持ってて、足りないところを全員でカバーする」
「そうやって俺たちは戦って、生き抜いて、守ってきたんだ」
『……………でも、僕は』
すすり泣く声が聞こえる
『皆さんが戦ってるとき、僕は部屋で縮こまってた! 一人だけ部屋に隠れて、見ないようにしてた! そんな僕なんか、僕なんか……………っ!』
「だから!」
兄ちゃんがドアに手をかけ、思いっきり引っ張る。
いつのまにか発動していた【鼓舞】の力で増した筋力によって、ドアは鍵を破壊しながら抉じ開けられる。
「だから、これからはお前も一緒だ、ギャスパー」
「僕らにはまだ、足りないものが多すぎる。君の力が、君の存在が必要なんだ」
「――――――」
泣き腫らした瞳に、光が映る。
「力を貸してくれ、ギャスパー・ヴラディ」
「僕らも君を支えるから、君にも僕らを支えて欲しい」
「「
「―――う、あ………」
「怖かったら俺を頼れ! なんたって俺は最強の龍を宿した、お前の先輩だからな! 先輩なんだからな!」
胸を張って、その胸に拳を叩きつける兄ちゃん。
「僕だって、同級生なんだから、いつだって!」
真似をする僕。
「あぁぁ、ぁぁぁぁあ………」
ぽろぽろと、ギャスパーくんの赤い双眸から涙が溢れる。
「なんだったら、お前の力なんかとっとと上回って、停められねぇようにしてやるよ!」
「そーだそーだ! 引きこもりなんかに負けないかんね!」
「うぁぁぁぁぁぁあああああ!!」
僕らの言葉に、とうとう耐えきれなくなったギャスパーくんが大きな声で泣き出す。
けれどもその声は、最初に聞いた悲しみの声ではなく、
「ここに、ぼく、ここにいてもいいんですね!」
「おう!」
「めいわく、かけるかもしれないのに!」
「構わない!」
「うぇぇええぇええん!!」
喜びに満ちた、これから立ち上がるための涙だった。
◆◆◆◆◆◆
「はい、お茶」
「あ、ありがとう………ハルトくん」
「呼び捨てで良いよ。僕もそうする。ギャスパー」
「う、うん。ありがとう、ハルト」
泣き止んだギャスパーにお茶を渡して、僕は椅子に座る。
「ね、ねえハルト」
「うん?」
「それ、あの、先ぱ………」
「うん?
僕が座っているのは、先ほど泣き止んだばかりのギャスパーに、時間を止めたら女の子のおっぱい揉み放題とかバカを抜かした兵藤とかいうイッスー。
「性欲とかは男子だから仕方ないしよくわかるけども、いくらなんでもそれは最低だよ、イッスー兄ちゃん」
「うるせぇ! 朱乃さんとか小猫ちゃんとかと仲の良いお前に言われたかねぇぞハル!」
「はっ、アーシアさんとかグレモリー先輩と同居してる人に言われたくありませんー! 浮気だ変態め!」
「あだだだだ!!」
やっぱりバカを抜かす兄ちゃんに座った状態でその腕を捻り上げてると、ギャスパーがそれを見て笑う。
「先輩とハルトって仲良いんだね」
「まあ、幼馴染みだしね」
「あだだだだだだ! 折れる、折れるぅぅ!」
「そうなんだ」
「かれこれ十年くらいの付き合いになるかな?」
「これちょっとダメなやつ! ハル、ハルー!」
流石にうるさいので兄ちゃんの腕を離す。
「折れるかと思った………」
ゼーハー、と呼吸を乱す兄ちゃんの上になおも座り続けていると、ガチャリと扉が開く。
「ギャスパーくんの笑い声、外まで聞こえてたよ。凄いねもう彼と打ち解け……………」
そう言って入ってきたのは、ホモ………ホモの木場先輩だった。
彼は僕と、僕に座られている兄ちゃんを見て固まる。そしてその鼻から一筋の赤い液体を垂らし、
「ず、ズルいじゃないかイッセーくん! 羨ましい!」
「うっせぇ! なら変わるか木場ぁ!」
「喜んで!」
「やめて!? 僕を売らないで!?」
一瞬にしてその場はカオスに包まれたのは、言うまでも無いだろう。
因みに、
「ふぁぁぁぁ………段ボール、落ち着くぅぅ……」
段ボールに入り混み、持ち手の穴から赤い瞳だけを覗かせるヴァンパイア。
それを見て、僕は崩れ落ちる。
「ま、マトモだと………ギャスパーは女装以外マトモだと思ってたのにぃ!」
「諦めろ、女装の時点でマトモじゃない」
「 」
あ、木場先輩は出血多量で気絶したから廊下に捨てておいた。
「……………そうだ!」
不意にポンッと手を叩いた兄ちゃんは、部室にあった紙袋を手に取り、二つの穴を開ける。
「ギャスパー、ちょっと出てきてみ」
「え? はい」
ひょこ、と首だけを器用に段ボールから出すギャスパー。やたらと慣れてる。
「そんなに人と目を合わせるのが嫌なら、ほれ」
兄ちゃんはその紙袋をギャスパーに被せる。
「こ、これは―――」
薄暗い旧校舎、羽を生やして飛ぶ段ボールと、そこから紙袋を被って赤い目だけを覗かせる謎の生命体!
「どうですか、似合います~?」
そう言ってふよふよと羽を使って近付いてくる。
な、なんだこれは………B級パニック映画のクリーチャーか!?
「あ、なんかこれすっごく落ち着きます……僕にピッタリかもです」
「お、おう」
「君は凄いやつだよ」
「ほ、本当に? これを被ってれば、僕もグレモリー眷属としてハクがつくかも」
……………なんか、類は友を呼ぶと言うか、なんと言うか、これで良いのかグレモリー眷属。
いや、今回は多分に僕らのせいだけれども。ごめんなさいグレモリー先輩。
気を取り直していきます。
※人物紹介に『ギャスパー・ヴラディ』を追加しました