四葉はやってはいけないあることをした。
それは、最強の魔法師を人工的に作ること。
というのは、四葉の直系や傍系の者に対する建前。
四葉の極一部しか知らない、本人ですら知らない本当の理由は、『四葉の罪の象徴』であり、世界を破壊し得る力を持って生まれた司波達也の魔法を抑え込むために生み出された『完全調整体』である司波深雪が抑え込めなかった時の最後の切り札を作ること。
遺伝情報を持つ人工的なゲノムを四葉深夜の細胞に組み込み、人工的に魔法師を生み出すことに成功する。
司波達也と司波深雪の一学年下の弟として。
名前は司波香月。
香月は圧倒的なまでにサイオン保有量が多かった。
当たり前である。
香月は司波深夜の息子でもあり、人工的に作ったゲノムは魔法師が持っていれば最強のように作られたのだから。
司波兄妹とは別々に育てられた。
生まれたときから戦闘技術を学ばされた。
四葉の兵器として。
香月には戦うことだけが生きる理由であった。
そのためには命懸けの訓練もした。
人もたくさん殺した。
だけど仕方ないと自分で自分に言い聞かせる。
戦うために生まれてきたのだからと。これが自分の運命なのだと。
しかし、心の中は四葉に対して抱く感情は一つだけだった。
ただ憎い。
自分を化け物にしたことが。
自分を作ったことが。
そして12歳の時、司波深夜が亡くなり、司波達郎の計らいにより香月は司波兄弟のもとに送られた。
司波達也も司波深雪も弟がいることは聞かされていた。
しかし、一度も会ったことがなかった。
だが、二人とも快く香月を受け入れた。
実の弟なのだ。嫌がるはずもない。
あるいは達也は香月の境遇をを自分に重ねたのかもしれない。達也もまた四葉の『人造魔法師実験』の被験者で、無理やり魔法師にされ、そして心の無い人間にされたのだから。
だが、香月はそうではなかった。
彼は悲しく辛そうに言った。
「僕は、生まれてきてはだめだったんです。達也様と深雪様の弟として生まれてくるはずではなかった心のない人工人間です。心のない人間の皮を被った化け物です。そんな僕を達也様と深雪様は受け入れるべきではありません。こんな化け物を……」
深雪は香月の言葉を聞いて涙を流し、香月を抱きしめた。
「辛く苦しかったでしょうね。でも、もう大丈夫よ。あなたはお兄様と私の本当の兄弟よ。化け物なんかではないわ。あなたはこうして私達の弟として生まれてきた。あなたは望まなかったかもしれない。だけど私はあなたが私とそしてお兄様の弟として生まれてきて、本当に嬉しいわ。ありがとう。だから自分を化け物と罵らないで。自分を責めないで。それに心がないことはないわ。とても悲しそうだもの」
さらに続けて達也が言う。
「香月、お前は大事な俺達の弟だ。例え四葉がお前を戦闘兵器だと言ってもそんなこと気にするな。お前はお前だ。俺と深雪の実の弟だ。俺は『人造魔法師実験』の影響で衝動がたった一つを除いて欠落しているんだ。その一つというのが兄妹愛。俺は今まで深雪だけが大切だと思えるんだと思っていた。だがそれは違った。俺は香月、お前のことも大切だと思えている。皮肉だと言わざるを得ないが、それがお前が俺たちの紛れもない弟だと証明している。香月、泣きたいならば泣けばいい。俺達がお前を支えてやる」
そう言って達也は香月とそして深雪の頭を優しく撫でた。
「ありがとう………ございます…………」
震えた声でそう言ったのだった。
これは達也と深雪が国立魔法大学付属第一高校に入学する3年前のことである。