R’s museum ―ある日、雨上がり―
心地いい風が吹く、海を臨む丘の上。
遥か海の向こう側には南半球第一宇宙基地を遠景に見えており、景色も良い。
もはや住民が少なくなってしまったが、この周辺地域の家族連れの定番スポットとなっている。
海向こうの都市は、巨大な摩天楼が林立するかつての惑星首都とも言うべきもので、その衛星都市群は見渡す限り続く。対してこの周辺は軍事エリアだったこともあり、一見露出した構造物が少なく、逆に自然を憩うのに絶好であった。
今は月曜の昼下がり。それも雨上がりともあり人は少ないが、空気中の塵が洗い落とされ、雲の切れ間から漏れ出た陽光が葉の上の滴に反射してきらめいていた。誰がどう見ても平和な光景。
そんな風景を横目に、丘を巻く車道を進んでいくと、小高い丘の一つに建物が現れる。
芝生広場の広い庭園と、その先にある建物。ガラス覆われた玄関部を見れば博物館であることが分かる。
普段は人々が訪れるこの施設だが、施設の入り口には、本日休館日との表示があり、ガラス張りの向こうは薄暗い。
しかし、入り口の向こうのロビーでは、人々に最も良く知られたR機、R-9が展示されていた。デブリにも跳躍次元にも耐えられる塗装であるが、時間の流れには耐えられなかったのか、ちょうど人々が触る部分だけ塗装が剥げており地金が露出している様だった。武装についても展示用の形だけのものに変わっている。
開かない入口を眺めていてもしかたないと、回れ右して振り返ると、この施設の前庭である広い芝生広場。子供が遊ぶのかところどころは芝が剥げ、養生している個所もある。海鳥達が雨に打たれて濡れた羽を乾かすためか、柵にとまって日光を浴びている。長閑な光景だ。
そんな鳥達を横目に、潮風の中頑張って育とうとしている芝生を踏まないように避けて通ると、大理石製のタイルが地面に埋められており、そこが道となっているようだった。足元のタイルよく見るとR-9Aなどそれぞれ別々の刻印がされている。これ自体も博物館の展示物の様だ。
庭の真ん中まで来ると、そこには雨に濡れた銀色の記念碑が置かれていた。
それを見る。
そこに刻まれた栄光ある突入ミッション
そこに刻まれていない何千何万もの失敗
そして、かつての人とバイドとの生存競争の歴史が示されていた。
もう、海鳥は飛ぶことはない