B-5B “GOLDEN SELECTION”
電子音が響く実験施設内に、金属スクラップに肉塊が付いてるような何かが浮いているシリンダー。
金属部分にまで血管の様な筋が浮き立ち、腫瘍の様なできものが一つ二つと出現する。
その時突然、シリンダーの中で溶液がブクブクと泡立ち、一気に体積を増していく。
「バイド係数、目標値を越えています。なお上昇します」
「っち、また失敗か」
「教授、波動砲でフッ飛ばしましょう」
シリンダー型の培養槽の中で、膨張するように蠢いていた金属片が、青白い光に消し飛ばされる。
内部には何も残らない。
シリンダー内部は自動的に冷却が行われ、操作盤の計器がレッドランプからグリーンランプに変わる。
アームが伸びてきて、金属片がシリンダーの中央に固定され、
続いて、霧状の物体が塗布される……バイド素子だ。
「次は設定264だな。まったく、毎回毎回吹き飛ばすのも面倒だな」
「それにしても何kg分の金を宇宙の塵にしたのでしょうね?」
「この実験では50gのシートをつかっているから、単純計算で13kgだな。あくまでこの実験では」
「インゴットですね。指輪が何個作れたかしら」
「これだから女は。アレだけの有用性がある元素をただの装身具にするとは」
「まあでも、稀少価値のある元素を、身近な形で保持しておくことに意味はありますよね」
「ふむ、いざと言うときの為の資金源としてならまだ分かる」
「ええ、月収3ヶ月分の指輪って、きっと離婚したときのための生活費のために在るんだと私思うんです」
「ふむ、なるほど収入が半減する元配偶者に対する福利厚生か。君はなかなか鋭い」
「ありがとうございます」
ずれた会話をしているのは、このBシリーズ第五世代機の開発を割り振られた教授と助手だった。
本来ならばTeam R-TYPE開発班から意見を募り、開発が任されるのだが、
今回はTeam R-TYPE研究顧問となっている男に開発が任された。
バイド装甲機のバリエーションとして第5世代機はレアメタルを装甲にすることが決定したのだが、
レアメタルが多量に使用されるという特殊性のため、外部の目が厳しくならざるを得なかった。
さしものTeam R-TYPEも異様な額の見積書(基礎研究段階)から、地球連合政府の目をそらすことは出来なかった。
なので、Team R-TYPE上層部は、この開発に外部でも知名度のある「教授」をあてがうこととした。
「教授」は50代の白髪のいかにもな博士スタイルで、人好きのする顔をしている。
助手は女性で、20代後半の可も不可もないあまり目立たない顔をしている。
一見すると、普通の大学の研究室の光景であるが、
ここではバイドを培養し、純金シートを始めとした資材だけで普通の人間の年収以上の材料を1日で消費している。
まともな神経では勤まらない研究だ。
「ふむこれで終りかな。助手くん、有用な設定をピックアップしておきなさい」
「いい加減に名前を覚えてください教授」
***
「ふむ、つまり鋳造中からバイド素子を混ぜ込むのが、もっとも適切かね」
「ええ、他の段階だとムラが出来て、低バイド係数に収まらないんです」
「専用の溶鉱炉を作らないといけないな」
「耐バイド素子仕様の溶鉱炉ですね。金は融点低いから炉の性能は低くても大丈夫ですね」
「ただし、温度の設定をコンマ2桁で出来るようにしないとならないから、最新の物を使用する」
「小型溶鉱炉から、作らなきゃですねー。採算合うのかしら?」
「合わなくていいのだよ。ところでテスト機は何機製造予定だったかな」
「テスト用に3機です」
「まぁ、その3機以外に作ることもあるまい」
「いいですねー。Team R-TYPEの直轄はお金があって」
「まったく研究には金がかかるからな」
そういいながら、食堂で一番値段の安いラーメンをすする二人。
昼下がりの食堂はすでに人もまばらで、ほとんどはコーヒーを啜りながら、
シフトを終えて、午後の談笑をしている様な人員だ。
食堂職員も混雑する時間が終わり片付けにはいっている。
教授と助手の胸にはTeam R-TYPEの文字。
その名札は軍部限定で、人を寄せ付けないお守りの様な効果を発揮する。
今もお守りはその効力を発して、彼らの半径5mに近づく猛者はいない。
周囲にはポッカリ穴が開いて異様な空気だが、
二人は何も気にせずラーメンのスープを飲み干す。
Team R-TYPEの関係者には、何事にも動じない精神力が必要不可欠なのだ。
***
教授と助手はあくる日もそのまた次の日もバイド関連施設に篭もりきり、
Team R-TYPEの豊富な研究施設環境を利用しつくさんと、実験に次ぐ実験を繰り広げていた。
彼らはバイド装甲機における誘導体の研究をクリアし、会計課の悲鳴を聞きながら試験機の製作を行っていた。
「教授ー。重すぎて設備のアームが折れそうです」
「なんたって金だからね。装甲を薄くしよう」
「教授ー。装甲が柔らかすぎて用を成しません」
「いや、実際の戦闘では当たったらほぼアウトだし、いっそ極限まで薄くしよう」
「教授ー。装甲を薄くしすぎてザイオング慣性制御システムを切ると機体が崩壊します」
「バイドの力を持ってしても装甲5mmは難しかったか。よし内部のスリムアップを図ろう」
「教授ー。内部を軽量化したら、打撃力がダメダメ。本末転倒です」
「ふむ、この系統は多彩な攻撃が肝だからな。装甲とのバランスをとろう」
「教授ー。会計課からこれ以上特殊予算使うなら首くくるしかないって言われました」
「勿体無い。検体として貢献するべきだ。彼にすぐにここに来るように伝えなさい」
「教授ー」
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「教授―。試作機のロールアウト日が決まりました」
「お疲れ様。いやー長い仕事だったね」
「そうですね。主に溶鉱炉が出来るのを待つのが」
「それはそうだ。使い捨て設備とはいえ、バイド関連なら手を抜くわけにはいかないからね」
「でも、その無駄な時間のお陰でフォースも力作になりましたし、塞翁が馬というやつですね」
「ゴールドフォースかね。費用は掛かったがなかなか面白い物になったね」
「セクシーダイナマイトの疑似質量変換の応用でフォースの性質があそこまで変わるとは発見ですね」
「じゃあ助手くん。全部資料をまとめておいてね」
教授は役目が終わったとばかりに資料を投げ出して、新しい研究テーマを考え始め、
助手は満更でもなさそうな顔をして、毒づきながらも資料をまとめ上げた。
Team R-TYPE上層部はBシリーズの最終系統の第一作が順調に進んでいることに喜び、
末端研究員は、面白そうな研究に自分達が関われなかったことを悔しがっている。
そして、査察官は半分以上が機密保持のため黒塗になった書類の山を見せられて顔を引きつらせ、
会計課は実験資材の請求書の額を見て、自分の乱視を心配したり、頭を心配したり、
タイプミスであることを期待したりしながら書類を精査し、矛盾が無いことを確かめると、
胃を抑えながら事務を行い、その日は早退していった。
フォースなどの作成に一部の人間の暴走があったが、
さまざまな人を巻き込みながら順調に形作られていく。
***
「完成だね。助手くん」
「ええ。博士」
出来上がったのはB-5Bゴールデンセレクション。
後日、政府の予算修正会議で、膨れ上がった使途不明金や機密費の多さに、怒号が飛び交った。