B-5C “PLATINUM HEART”
かつて、人類はその進歩と宇宙への進出の証として、スペースコロニーを建造した。
研究用、商業用、軍事用そして居住用の仮の大地として。
宇宙は大いに賑わい、地球周辺宙域には多くのシリンダーが浮かべられた。
しかし、バイドの襲撃とともに一変した。
防衛力に欠け、なおかつ機械に統制されたソレは、簡単にバイドに侵蝕されたのだ。
遠方にあったコロニーは破棄され、地球近辺の物は、防衛の効率の面から、
特定の軌道や宙域に集められた。
そして、悲劇が起こる。
22世紀後半、バイドの攻撃によってコロニー“エバーグリーン”が地球に落とされる。
もちろん、駐留艦隊も応戦はしたが、多くの住民がエバーグリーンと運命をともにした。
大陸沿岸の海洋に落下したコロニーは、今なお墓標のようにその構造を海上に晒している。
この事件はバイドの恐怖を軍人だけでなく、民間人に知らしめ、人々に記憶される。
***
「で? そんなこと子供でも知っていますけど、何です突然」
「人が語っているときに話の腰を折るのではないよ。レクエルド」
「ていうか、そんなこと嬉しそうに語るなよ。バチあたりが」
「死んだ人間に何が出来るっていうのだね?」
「いえ、怖いのは生きている人間だから、部外者に知られたらまた、Team R-TYPEの常識が疑われる」
「そんなもの捨ててしまえ」
「はいはい、クアンド君もレクエルド君も、予算の話に戻ってきてー」
ここはレアメタル二号機の開発打合せをしている会議室で、
部屋に集まっているのは、各Bシリーズ開発班のリーダー達。
ラミ、クアンド、フィエスタ、ドン、レクエルドだ。
もう、ごちゃごちゃ話していて誰が何を話しているか分からない上に、
誰も他人の発言をあまり気にしていなかった。
前回、ゴールデンセレクションの開発を、外部の研究者に取られたのが悔しくて、
班長級の特別チームを組んだのだった。すでに大変面倒なことになっている。
第五世代バイド機のテーマはレアメタル。その元素としての特色を出す研究となっている。
すでにバイド装甲の素材はPt、つまりプラチナに決定しているため、開発の方向性を検討していた。
その議論の中で最大の問題となったのは、技術でも、リーダーシップでもない。
それは予算である。
「さて、若人たち。今年度予算は裏道を含めて使いきり、来年度の予算会議は終わっているので特別補正を勝ち取らなければならない」
「ドン、その話だけれど、なんで末端の私達が予算について悩まなきゃならないのかしら?」
「フィエスタちゃん、もちろん、レホス課長が私たちに面倒な予算関係を丸投げしたからよー」
「ともかく、名目を立てないとならないのではないかな」
「しかしクアンド、難しいぞ。バイド装甲機を開発しているとはいえないし、レアメタル機の存在もまだ公表していない」
「しかも前回ので、一部議員が過剰反応しているから。B-5Bの制作費を見て政府の腰が引けたらしいわ」
「いや、俺だって、あの額はびびるぞ。そういえば会計担当が胃潰瘍になったとかなんとか」
教授らがゴールデンセレクションでやりすぎた所為で、
地球連合議会はTeam R-TYPEの予算枠の拡大に慎重になっている。
今までは比較的好意的であった議員すらも弁護は不可能と言っているらしい。
そこに長い髪をかき上げながらラミが提案を出す。控えめだがはねつけられるとは考えていない自信が見える。
「一つ、手がないわけじゃないんだけどー」
「マジか!」
「なんだラミ君。もったいぶらずに言いたまえ」
「レクエルド君も、クアンド君も、落ち着いてー。この企画を利用したらどうかと思うのー」
「“エバーグリーン追悼記念碑事業”? 記念碑を適当に作って予算を掠め取るのか?」
「危険すぎるだろうそれは」
現在地球の海上にその屍を晒しているスペースコロニー“エバーグリーン”
その犠牲者を悼んで、地球連合政府は一大追悼イベントを打ち出した。
連合政府がいまだに続くバイドとの戦争による厭戦感情を払拭するために計画したものだ。
正直、戦争を倦んだからといってバイドが、手打ちにしてくれることなどありえないのだが、
世論は正義や論理だけで動いているわけではないという事だろう。
その計画には記念公園の整備や式典、そして記念碑など、目くらましのためかなりの額の予算が付いている。
「うん、だからー記念碑自体を飛ばしちゃえばいいのよー。バイド関連だから名目も立つしー」
「「「それはない」」」
ラミはレクエルド、フィエスタ、クアンドからうん臭い目で見られる。
しかし、最年長のドンが助け舟をだす。
「いやいや、建設的な意見を否定するものではないよ。他にいい意見がないなら検討してみたらどうかね」
そういってはいるが、少々投げやりなまとめ方だった。
***
その日の昼。
「地球連合政府会議場前広場?」
「そんな所に置きっぱなしにしたらR機としては使えない、どうする」
「いや、Ptならば腐食は気にしなくて済む。露天は問題じゃないのではないかな」
「そんな所ではおいそれと整備もできない。本当に飾り物になるぞ。てかバイド汚染」
「ふっふっふ。君は忘れているようだが、2ブロック先にTeam R-TYPEの関連施設がある。
地下を開発して作業用の設備を作ろう」
「さすがクアンド君、盗難防止ということにして人が近づけないようにしましょー?
大丈夫よ巨大だから遠目でも目立つわ。これだけ目立つ機体は今までに無いでしょうねー」
適当にホワイトボードに書きなぐった完成予想図には、
巨大な台座に鎮座したPOWアーマーを人々が取り囲み
まるで巨大な偶像を礼拝するような図が描かれていた。
完全に悪ふざけの類である。全員頭が膿んでいたのだろう。
***
翌日
彼らはまだ話し合っていた。そして誰も追悼イベント乗っ取り計画に異を唱えないばかりか、
それなりにやる気になってきてしまっている。
「R機型にしたら議員とかの良識派に殺されません?」
「良識派って、相対的に我々Team R-TYPEが悪みたいだな」
「まあ、民間のイメージとしては正しいのでは?」
「まあそんなに遠くは無いわねー。で、形状だけどーPOW型にしてはどう?」
「ハァ? POW型? サイバーノヴァとかか、あの形状はどうなんだ?」
「いいわね、POWは支援機で、一般的にも知名度が高いから」
POWアーマーはR-9並に知名度の高い機体の一つだ。
R機のイメージアップを図るために、軍の広報部が癒し系イメージキャラクタとして起用し、
映画を作ったり、試乗会(機密部は取り外したので箱だけ)を開いたりとキャンペーンを張ったためだ。
軍の映像処理技術や、ひっそりと実際の戦闘映像を織り交ぜた映画は子供達に受けが良かった。
ついでに大きなお友達にはもっと受けが良かった。
結果として、民間受けも悪くなかったが、
副次的効果として軍内部にディープなファンを形成することとなった。
その一方で、現場のパイロット達からは、『嫌死系』だの『対R機用自律兵器』などと言われていた。
無人機のPOWアーマーは補給機、敵地使い捨て様アイテムキャリアーとして運用されていたが、
初期型に搭載されていたAIの思考ルーチンから、あたかも自機の進路を妨害するような機動を行い、
R機との衝突事故が相次いでいたためだ。
***
翌々日
「まあ、活躍する必要なんて無いんだよ。我々としては作りたいだけで」
「レクエルド、本音過ぎる。口に出すな」
「それが、真理だの。我々は作る。軍が使う」
「そうだな、ただ基本的にバイド討伐に使用することはないな」
「空飛ぶ慰霊碑…なんか素敵ねー。戦死者名簿を載せてバイド討伐とかかしらー」
「…遺族からクレームくるぞ。でも、いっそ突き抜けた方がいいか」
「そうだね…もういっそ、やるところまでやって、反論できない所まで突っ切ろうか」
本気で馬鹿をやり始めた研究者達を誰も止めるものはいない。
開発部長バイレシートや、課長のレホスやTeam R-TYPE上層部は
すでに究極互換機についての方針整備で忙しかったし、下の研究員はほとんど悪乗りしている。
外部からは機密のベールで覆い隠されていた。
そして、悲劇は喜劇となる。
***
とある議会答弁
「“エバーグリーン追悼記念碑事業”について意見があります」
「軍務大臣。答弁を」
「はい、これにつきましては、一大事業としあの悲劇を二度と忘れることの無い様にするといった。
コンセプトのもと軍部主催で企画検討を行いました。
えー、なお、慰霊碑の建造には一部軍の特殊技術が用いられているため、くわしくはお答えできません」
「なぜ、平和を願う慰霊碑が戦闘機の格好をしているのですか」
「バイドとの決別を表すためです。あとPOWは支援機です。戦闘機ではありません」
「内部に推進機構らしきものが備えられているのは何故でしょう?」
「バイドの脅威が去った後、犠牲者達の名簿を再び宇宙に還すためです」
「なぜ、プラチナ製ということにしたのですか。アルミや他の合金ではいけないのですか?」
「軍事機密のため答えられません」
「なぜ、それに特別会計の1/3が必要なのかね。そもそも、補助費になぜ軍事費が。」
「ぐ、軍事機密のため答えられません。」
「Team R-TYPEの関与が噂されているが、真偽の程は?」
「その、軍事機密のため答えられません」
「バイド検知機が反応したという話の真偽はどうなのです?」
「軍事機密のため答えられません。……私の個人的見解では、Team R-TYPEの研究施設が近くにあるのでそのせいではないかと」
「住民の目撃情報で、除幕式の前日に慰霊碑が空を飛んでいたという通報が寄せられているのだが?」
「………。軍事機密のため答えられません」
軍務大臣のクビとともに、B-5Cが飛立つ。
経緯はともかくこれがマジ設定と言うことが怖い