B-5D “DIAMOND WEDDING”
プラチナハートの件は、政府を巻き込み、黒歴史として封印された。
(機体はTeam R-TYPE施設に封印され、慰霊碑としてはレプリカが展示されている)
しかし、その日Team R-TYPEの上層部は沸き立っていた。
待ちに待ったバイド装甲機シリーズの最終機の開発開始が発表されたのだ。
「レアメタル機って下っ端から見ると、武装を派手にするくらいしかやることないよね」
「上級職は楽しそうだな。色々実験を遣っているらしいぞ。俺達もやりたいなぁ」
「仕方ない。機密を持ち出されると俺達は触れられないからな。しかし、どんなことをやってるんだ?」
「なんでもー。バイド装甲の強度や特性を持たしたまま、バイド係数を極限まで下げているらしいわー」
「ラミは何故知っている?」
「それは“お願い”に弱そうな人に定期的にお話を聞きにいっているからよ」
班長クラスではまだ正確な情報が回っておらず、テンションが低いままだった。
***
一般研究員が使う培養槽に比べるとかなり大きなものが、実験室の真ん中に置かれている。
ここは特に危険なバイド系実験や、機密度の高い実験に使われる施設である。
規模こそ小さめだが、機材は遜色の無いものが揃っており実験に支障は無い。
その研究室に防護服を着た作業員が幾人も忙しそうに歩きまわり、作業をしている。
そして、白衣を着た研究者達は分厚い特殊防護アクリル壁の向こうから、マイクで指示を出している。
実験オペレータの声と研究者の指示が響く。
「バイド装甲最大強度を確認。条件を固定します」
「バイド素子吸着剤を投入しろ。数値読み上げ!」
「最高値23.43Bydo、係数下ります。23.13…23.01…22.96…」
「先ほどは急に下げすぎて失敗した。もう少し吸着剤投入量を下げろ」
「了解です」
培養槽に入れられた握りこぶし大の透明な結晶には、血管のようなものが纏わりついている。
作業員が培養槽の脇にある投入口に青紫の液体をセットして、安全装置を外してレバーを引く。
培養槽が薄い青紫に染まったかと思うと、浮き出ていた血管のようなものが、激しく脈動する。
そのうち結晶の輝きが失われる。表面に黒い膜が張っているのだ。
そして、ゆっくりと結晶の表面の黒い膜が剥離し始める。
ぼろぼろと黒い何かは培養槽の下部に堆積する。
暫くすると、先ほどの結晶より一回り小さい結晶が培養槽に浮かんでいた。
それはバイド素子を埋め込み更に低バイド係数に固定されたダイヤの塊だった。
「バイド係数0.36Bydo。安定状態です!」
「これで、低バイド係数装甲の完成だ」
「あとは、R機大のダイヤの結晶を精製するだけですね」
ウワッと沸き立つ実験指示室。
脇で見ていたレホス開発課長と開発部長は小声で話す。
「ここまでくれば、バイド係数を計測上は0にできるもの時間の問題ですねぇ」
「Bシリーズ開発で蓄積したバイド技術を用いてバイドの性質を取り込み、
レアメタル機で発展させたバイド係数を制御機構を用いるわ」
「これぞ、バイドによるバイドの制圧。ですね」
「バイドを制することができるのはバイドだけ、
これでProject R完遂に必要な素材は揃ったわ、その過程でOp.Last Danceも達成できるでしょう」
***
Team R-TYPEの研究員用のラウンジでは、多くの白衣達が好き好きに話している。
本来、軍の他の部署と共用で使っていたのだが、あまりにも研究員が部外秘を口にするために隔離された。
色々な情報を交換できるこの場所は多くの研究員の憩いの場だ。
たとえ、そこで語られるのが、被検体がどうのとか、バイド汚染がという内容であっても。
「誰か、次の装甲素材知ってる?」
「Cだって」
「炭素? なんで金、プラチナときて…まさかTeam R-TYPEの開発費がそこを尽きたのか!」
「そんなことあるわけないだろ。我々の財布は四次元ポ○ットで連合政府の財布と繋がっているようなものだからな」
「まあ、たしかにレアメタル素材とはいえ、たかが2機を開発しただけで政府が転覆するはずないだろう」
わいわいと集まって楽しそうに談笑する末端研究員達。
R機の巨大シリーズの総まとめが開発されると知って浮き足立っている。
今まで開発に関われなかった準研究員なども興奮している。
「通称はダイヤモンドウェディングだってよ」
「結婚式かよ。まあ、既存のR機とバイド装甲機の結婚といえなくもないが」
「ダイヤといえばアレだ。―バイドより人類に永遠の愛を―みたいな」
「いいなそれ、結婚式の指輪交換でR機型のダイヤを贈るとか。流行らそうぜ」
「その計画の根本的な問題は、我々Team R-TYPEでは結婚できる者がいないことだな」
その話を横で聞いていたのはフィエスタだった。
ラウンジで寛ぎながら、新しい機体の武装案を考えていた所だ。
飲み物を調達しにきた人型機開発班長のブエノも合流していた。
班長達ががやがやと新型機について話していると、同じく班長のラミがやってきた。
「みんな、ダイヤモンドウェディングについて新しい情報を持ってきたわよー。
なんでも、ダイヤモンドを使ったバイド装甲機なんだけど、低バイド係数に抑えて開発するらしいわー」
「ほー、それで? 正直そこまではみんな想像の範疇だろ」
「うん、それで色々面倒な性質があるらしくて、それを詰めて機体の形にするのが、私たちに降ってくる仕事らしいわー」
突然上から降ってきた面白そうな仕事に、研究員たちは喜び勇み、歓声が上がる。
研究ラウンジから少し離れた場所にある軍人達のラウンジでは、
遠くから響いてくるTeam R-TYPEの狂人達が挙げる声を聞いて、
またあいつ等が何かしたのか、という雰囲気がラウンジに充満し、微妙な雰囲気が充満する。
双方のラウンジでは憶測が飛び交うが、その方向性はまったく逆方向のものだった。
***
それからしばらくして、正式にR機研究各班に研究命令が降りてきた。
ラミが言っていたとおり、ダイヤモンド製のバイド装甲を使い、低バイド係数の機体を作ること。
「どうせだから武装もド派手にしようぜ!」
「レクエルド君、テンション下るんじゃなかったのか?」
「それとこれは別。実際新しい機体を開発できるとなればテンションが上がる。それが俺達だろ」
「まぁ、嬉しいけど」
「波動砲をキラッキラにして、プリズムリズム砲とかどうよ。」
「レーザーも壮麗な物にしましょう。結婚式の特殊効果とかであるやつ」
「フォースも形状を改良して、ダイヤっぽくしよう」
班長会議の場で、フライング気味に武装を研究を行っていた班長らが話している。
そこに、装甲素材について詳しい性質を調査していたドンから報告が入る。
いつも淡々と研究しているが、深刻そうな面持ちで周囲もなにかと向き直る。
「実は調査研究の結果、少々面倒な性質が分かった」
「え……それは開発計画の変更が必要になることか? 武装関係とかフライングしてたのだが」
「君たちクアンド班の武装は問題ないと思うのだが、装甲というかフレームが問題だ」
「具体的には?」
フライングスタートに定評のあるレクエルドがやや引き気味に聞く。
「実はな、ダイヤモンドをバイド装甲化した場合に限った性質のようなのだが、
ある程度の大きさの塊でないと低バイド係数にならない様だ」
「それってどういうわけ?」
「装甲材にバイド素子が入り込む事でバイドの性質が備わる訳だが、
低バイド係数の場合、ある一定の法則にバイド則り素子を入れ込むのだが、
それを実現するのにある程度の大きさが必要なわけだな」
低バイド係数にするというのは、極少ないバイド素子を効果的に配置するということなのだが、
素材に効果的にバイド素子が入れ込むための法則について、
まさに魔術的というべき法則性が成り立っていることはTeam R-TYPEでも班長クラスまでの秘密事項とされた。
そして、ドンが言うにはその魔法陣というべきバイド素子の構造を再現するのに、
一定の大きさが必要であるとの事だった。
「そうねー、ドン班長の説明だと、今までのR機フレームにバイド素子を付属させて、
フレーム自体もバイド装甲化させるっていう手法が取り辛いわねー」
「どうする? 我々武装班はこのまま派手さを求めた方針で行こうかと思うが、肝心の機体ができないとな」
ラミが問題提起を引き継ぐと、クアンドが少し不安げな様子で聞き返す。
おそらく自分たちの波動砲研究を無駄にしたくないためだ。
ドンがこれからの開発方針案を提案する。
「仕方ない。形状を工夫しよう」
「それが大きさの縛りの性で無理なのでは?」
「いや、R機の装甲形状を弄る。今まではどうせ低バイド係数だからと思って、
装甲材をパーツ分けして、ステレオタイプとも呼べるR機型にしようと思っていたが、
装甲を一枚板で作れるように形状を変更する」
R機の形状にこだわるのは主に現場の軍人らであるので、
Team R-TYPEだらけのこの会議の場では特に問題とならず、ドンの案が可決された。
そして、そのまま開発は進んでいった。
***
結局、大暴走した下っ端達の武装の魔改造と、迷走したダイヤモンド装甲を合わせて、
B-5D ダイヤモンドウェディングは完成した。
形状は当初ノーマルなR機型になる予定であったが、装甲材の大きさの関係で、
透明な装甲材がコックピットや各補助翼を飲み込むような形状になっており、
それは硬質な素材ながら、軟質なバイドに飲み込まれたR機を思わせる。
まさに、バイドとR機の融合の合言葉通り、バイド素材を使ってR機を作ったのだ。
バイド装甲機の最後を飾るこの機体の開発・製作費用を見て、
病院から退院したばかりの会計担当は、再び手術で残った胃がよじれるのを感じた。
書類にはR-9Kの720倍もの額が示されていたのだ。
R機大のダイヤモンドを作るため、Cを加熱圧縮するのに使われたり、
その研究段階で天然のダイヤが使われたためと書類に書いてあるが、
そんなこと会計担当が知る由もない。
いい加減にキレた会計担当が、書類をそのまま政府に提出すると、
なにかの間違いかそのまま審査を通ってしまった。
会計監査があることを思い出し、会計担当は監査官に怯える日々をすごす羽目になった。
黒歴史が入っていた話なので、だいぶ改稿入っています。