R-101 “GRAND FINALE”
・Team R-TYPE部長室
「部長、R-100カーテンコールの報告書です」
「ご苦労様。これでR計画も完結ね」
「長かったですねぇ」
「人類の勝利の目処が立った所だし、惜しまれつつ、引くのが良いわね」
「そうですねぇ。これで後世への技術蓄積、研究開発マニュアルも出来ましたし」
内外から狂気典型として散々な言われ方をしてきたTeam R-TYPE。
内情を知っているレホスやバイレシートは、それも一面の事実と否定こそしないが、
自分たちの研究成果を自慢したい気持ちは当然にある。
幕引きとして最高潮の今組織を解散することは、Rの歴史に燦然と残る事だろう。
「ところでレホス課長? あなた、次は何処へ行くの?」
「僕は古巣のウォーレリック社に席を確保しました。他の人らはどうです?」
「部長級は軍事産業に全員天下り先を確保しているし、他の課長級も大体ね。
あなたの所の一般研究員は?」
「あの辺りは他の仕事したこと無いから、どうなんでしょうねぇ?
我々は怖がられていますからね。まだ、Team R-TYPEにいるつもりのようですが」
既に部長室もダンボールが積み上げられ、引越し準備に余念が無い。
Team R-TYPEの上級職は既に天下りの準備が終わっている。
ちなみに大量の機密書類は新設されるR機の博物館に、
半永久的に保管されることとなっている。
「まぁ、若いしどうにかするでしょう。では部長、またどこかで」
***
木星圏にあるTeam R-TYPEの研究施設では、ヒラ研究員や班長が数人集まって、
ラウンジで井戸端会議をしている。その顔にあるのは焦りだ。
「やばいよ。今日課長室行ったらなんかダンボールだらけだったんだけど」
「天下り? もうなの? 俺もうちょっと猶予があると思ってたのに」
「来年で解散ね。とか言われかねないぞ。早く再就職先見つけないと」
「でも俺達R機開発する以外に何が出来る?売り込める材料なんてないぞ」
顔を突き合わせて切実な噂話をしていた彼らは、顔を青くして沈黙する。
仕事はキツイがクビなどとは無縁の研究生活をしていたため、
一般でいう、リストラの恐怖やスキルアップという観念が無かったのだ。
正確にはクビになるべき人員は、そっとTeam R-TYPEの闇に消えていた。
「俺達のPRに役立つ成果を今から立ち上げるか」
「さすがに無理じゃないか?」
「俺達の技術力を一般企業にも示せるような物を開発するとか……!」
「Rの技術で……掘削機とかか?」
そこまで、黙っていた研究員が一言。
「いや、俺たちTeam R-TYPEだぞ。R機を作らなくってどうするんだ!」
がやがやとしていた雰囲気が一変、しんと静まり返る。
何か妙に確信的なその男の声に、周囲も飲まれてしまう。
焦った雰囲気すら一瞬でかき飛び、自信のようなものが満ち始める。
「そ、そうだよな。掘削機とか浮気している場合じゃないよな」
「R機でレース艇作ろうかとか考えてたけど、俺ら作れるのはやっぱりR機だよな」
「最後のR機。俺たちの好きにできる!」
わいわいと今度は何か希望に溢れた表情で盛り上がる白衣。
そのまま、色々な案が溢れてくる。
深夜テンションのようなそのままの発案が詰め込まれるR-101。
そのまま、話をまとめると、最高のR機をつくりそれを異次元に飛ばすといった内容になった。
ボイジャーのゴールデンレコードよろしく人類の歴史を込めたデータを載せ、
数々の観測機を仕込み、最高速で次元の歪みに突入させ、その挙動を観察する。
といったかつて人類が宇宙に憧憬を持っていた頃の探査機のようなものを作ろうとしていた。
「よっし、未来までぶっ飛びそうなR機作ろうぜ!」
バイドの殲滅を目前に、Team R-TYPEにも場違いな希望が満ち溢れていた。
予算に関してもB-5Dのときに余り気味であった隠し研究資金を使い切ることになった。
そして、この研究計画が企画された時点で、上位研究陣がすでに退職していたため、
研究に不案内な事務管理職が許可を出すことになる。
彼らはTeam R-TYPEじみた狂気がないことに安心していた。
その後の結果も知らずに。
***
基礎フレームに重要部品が取り付けられただけの状態のR機を囲んで白衣達が相談する。
従来のR機に比べ、後部スラスター付近が肥大しており、
コックピットも小さめでR機の特徴であるラウンド型ではあるが、
胴体に比べて小さく鉤鼻のような形状をしている。
「後ろがゴッツイな」
「次元の壁を突破するための速度を稼ぐために、カーテンコールに搭載した主機を串形にした。
操作性が犠牲になったがともかく速い。最高速がどれくらいでるのか未知数だ」
「なんだその曖昧な表現は」
「エンジンの試運転も満足に出来ていない」
すでにTeam R-TYPE専用の実験施設の多くは閉鎖されていたため、
残った小さなラボや実験機材(しかし、物自体は最新鋭機器)を使ってR-101を作り上げた。
R-99やR-100のように究極互換機であることを基本としているので、
武装やビット、フォース研究せず、彼らは淡々と何かに取り付かれたように、
自分たちの最後の機体であるR-101を組み上げていく。
ともかく機体性能を追求していたので、乏しい人員、設備でもギリギリ何とかなっていた。
「あと一応、戦闘機なので互換武装機能は取り付けている」
「武装って要るか? デッドウエイトになるのではないか」
「キャノピー形状も防弾性を犠牲にしてR-99より抵抗を減らしている」
「浅亜空間潜行能力も備えているので、次元の壁を突破する助けになれば良いが」
Team R-TYPE発の技術である小型機の浅亜空間潜行技術であるが、
犯罪に悪用される恐れがあったため、小型機関についてはブラックボックス化していたが、
重要施設への亜空間潜行対策壁の導入が進んだことを背景に民間に技術を渡すことが決定されている。
バイドとの生存戦争が下火になり、一部ではあるが星間移民やクルーズが計画されだしたため、
軍事技術の内、民間に転用しやすい技術から、徐々に公開し始めている。
「できた。今までの次元の歪みを利用した異相次元航行でなく、
自由に次元の壁を突破できる機体だ」
「かっこ悪りぃけど、昔の探査機みたいでこれはこれでありかな」
「なんというか、これ飛ばして、観測して、Team R-TYPEも本当に終わりなんだな」
ずんぐりむっくりな形状となっており、R機など兵器特有のある種の美しさが損なわれている。
主犯はもちろん串型エンジンとその冷却装置である。
なにか後夜祭の終わりのような、侘しいような泣きたいような雰囲気で、
Team R-TYPE最後の研究員たちはじっとたたずんでいた。
「そうだ、名前はどうする。最後の最後だ、かっこいい名前がいいな」
「めでたしめでたしで終わらせたいし、グランドフィナーレはどうだ?」
「いいねそれ」
***
観測機材などでコックピットブロックまで満載されたR-101。
それが、冥王星軌道上でエンジンを温めている。
次元の壁を突破して、新しい世界、バイドの居ない世界を覗く為に、
最後の安全装置が外されて飛び立っていく。
すぐに肉眼で見えない距離に飛び立つR-101。
R-101に満載された観測機器が送ってくるデータが順調なフライトを伝えてくる。
そして、戦闘機として積んでいたスタンダード波動砲をチャージし、
時空の壁を打ち破るために、最大チャージの波動砲を放った。
冥王星宙域の観測カメラからは空間全てが発光したかのような閃光の中が映り、
音声ログのないデータを見ていた彼らは、ガラスの砕けるような音を聞いた気がした。
CONGRATULATIONS!
前バージョンは調子に乗りすぎて黒歴史、
ほぼ書き下ろしになります。
なお、ここで一度中締めを挟んだ後、
次の機体はR-9Aアローヘッドとなります。