アローヘッドということで時代が遡っています。
オペレーション・ラストダンス(R-TYPE FINAL)開始時点の話です。
R-9A“ARROW HEAD”
真夏の昼下がり、地球にある南半球第一宇宙基地では大型作戦に向けてちゃくちゃくと準備が進められていた。
地球連合の威信を掛けた一大作戦“Op. Last Dance”が今日始動するのだ。
今日をバイド打倒の記念日にするため、軍人を始めとしてみなが張り切っている。
「小官も明日決行されるラストダンス作戦の事は知っています。
バイド討伐作戦の先陣を切るのはパイロットとして、非常に名誉なことだと思っています」
R機隊の戦闘用スーツを着込んだパイロットが白衣の研究員と
フライトジャケットを羽織った上官らしき佐官と話をしていた。
場所はR機の発着デッキで、三人の周りでは整備員たちが忙しそうに行き来する。
良く見ればパイロットの胸にはエースを示すワッペンが取り付けられており、
彼が歴戦の強兵であることが見て取れる。
彼らは、この後予定されている作戦の関係者であり、この作戦のメインパイロットとなる中尉、
その上司で基地防衛部隊の第二R機隊隊長である少佐、そしてTeam R-TYPEの研究員である。
「で・す・が・し・か・し、なんで機体がアローヘッドなんです! 何十年前の機体ですか!」
「何が不満なんです? R-9は第一次バイドミッション以降マイナーチェンジもしていますし、
そもそも、あなたが搭乗する機体は先月に工廠を出たばかりの新品ですよ」
怒りを耐えきれず吼える中尉に対して、淡々と応じる白衣の男。
おそらく白衣の男は質問に対して正直に対応しているのだろうが、
傍目には完全に煽っているように見える。
その場を納めようとしているのか、中尉の上官であるフライトジャケットの少佐が述べる。
「中尉、君の言いたいことはとても、とても良く分かるが、これは決定事項なのだ。
これは上の決定であり、君の搭乗機体や日程などは全て決定済みとなっている。
最高の成果を求められる作戦であるが、私は君の腕ならばバイド中枢まで到達できると確信している」
いきり立つ中尉と無自覚に煽る研究員、そして、それを宥める少佐。
彼らの横にはトリコロールのカラーリングが美しい、R-9Aアローヘッドが整備を受けている。
機体デザインが優秀であるためか、まったく古さは感じられない。
が、戦力としてみると、第一次バイドミッションから今まで戦線を張ってきた機体だけあって、
信頼性はあるが正直、力不足は否めない。
その名機R-9Aアローヘッドを横目で見ながら中尉が続ける。
「隊長! 俺の言いたいのは機体性能の所為で死にたくないとか、そういうことではないのです。
自分もパイロットの腕には自信がありますし、何よりもR-9は良い機体です。
ですが、なんでフルチューンしたR-9Aがあるのに、従来型のR-9Aで出撃なのですか!」
デッキの奥には同じく整備を受けているR-9Aアローへッドが見えている。
ラストダンス作戦に投入されるR-9Aと同名の機体であるが、
見るものが見ればまったく別物であることがうかがえる。
まず主機は入れ替えられており、波動砲もスタンダード波動砲のそれではなく、
R-9/0ラグナロクのハイパードライブシステムを一部流用した連射の効くものに置き換わっている。
よく見るとミサイルサイロの部分にはよく分からない射出機構も増えていた。
何よりの変更点は耐久性だ。新しい層状装甲材を利用した重装甲となっていて、
バイド汚染部を剥離させながら戦闘できるため、多少の汚染はものともしない。
それをさらに発展させ、各機関のバックアップが各所にとりつけられており、
重要区画以外の被弾ならば戦闘が続けられるようになっている。
外見ことアローヘッドであるが、正直アローヘッドの皮を被った完全なる別物である。
「まあ、なんだ、その、私も中尉にアレを渡してやれればとは思うのだが、命令でな……」
「最新鋭の装備を施した機体を眠らせて、最終作戦に従来型を投入するなんて、
上の連中やTeam R-TYPEは何を考えているのです!」
パイロットである中尉の怒りを受けて、少佐は歯切れ悪く答える。
彼は部下の言葉をもっともだと思っており、需要な作戦ならばフルチューン機体を使うべきだろう。
しかし、上からの命令で基地に残るはずの少佐が、そのフルチューンR-9Aのパイロットに指名され、
ラストダンス作戦の主役としてバイド中枢に突っ込む中尉が従来型のR-9Aのパイロットに決まってしまった。
この作戦の技術サポートとして来たTeam R-TYPEの男は、
軍の命令書を持って彼と彼の部下の乗機を念押しに指定した。
軍人であるかぎり上からの命令は絶対だ。
いきり立つ中尉を他所に、整備員たちは興味津々で作業を続けている。
照り付ける夏の日差しこそ入っては来ないが、半開放系となっているデッキは結構な暑さだ。
立っているだけでじっとりと汗が出てくる。
今開放されている射出口からは潮の香りも漂ってくる。
上着を脱いで、開放部でごろりと横になれたら常夏気分だろう。
そんな長閑な昼下がりにこの現実では、少佐も現実逃避もしたくなる。
「ともかく、明日の出撃に備えて、今日はもう休め。中尉。
研究班長殿も彼を送り出すからには、整備と協力して調整を完璧にして欲しい。
彼は私の自慢の部下なんだ」
少佐が無理やりまとめて、この言い争いを終わらせようとする。
少佐自身も納得はしていなかったが、これ以上は有益ではないと考えているのだろう。
中尉も今までに散々繰り返された埒の明かない議論に徒労感を感じていた。
彼とて軍人となって長い、軍が時折理不尽な命令を出す組織であるとわかっている。
沸き上がる不満を抱えたまま、作戦に望みたくないので、誰かにぶつける結果となったのだ。
しかし、理不尽に対する怒りと現実の不条理さが釣りあったところで、
クールダウンし、この益のない話を終わらせる方向に進むことにした。
「しかたありません。小官も軍人です。命令であれば仕方がないが、あのR-9Aのスぺックさえあれば……」
「聞きたいですか? 聞きたいですか! あれのスペックはですね!」
「いや研究班長殿……」
なんだかんだで大人として不満を飲み込んで話を打ち切ろうとする中尉と
間を取り持とうとする少佐の努力を全く無視して、白衣の男が勝手にしゃべりだす。
Team R-TYPEが狂人揃いで、研究の事になると目の前が見えなくなるのは知っていたが、
空気が読めないこと甚だしい。
少佐と中尉の視線は自然と強くなり、白衣の男の眉間を射抜く。
しかし、現状Team R-TYPEから派遣されているこの男に楯突くのは如何にも拙い。
軍上層部や政府にとても大きな影響力を持つ組織がバックにいるのだ。
中尉は、“隊長には悪いが、嫌み程度は言わして貰う”とばかりに口を開いた。
一応、中尉は沸騰寸前の頭で考えつくギリギリの敬語で白衣の男にイヤミを吐く。
「ほう、研究班長殿。あのR-9Aがどれだけ素晴らしいのか
小官も後学のためにお聞きしたいものですな。なぜそれが作戦に用いられなかったのかを含めて」
「聞きたいですか!? 是非Team R-TYPEの技術の粋を聞いて下さい!
あれは試作機なので正式な名称はありませんが、R-9Aの耐久性を高めたタイプです」
怒りで語尾の震える中尉や、その場の空気をまったく読み取らず、
白衣の男が自らの研究成果を嬉々として語り出す。
周囲では整備員たちが中尉らの怒りを感じて、話が聞こえる範囲で距離をとっている。
「耐久性……私は基地防衛用と聞いているが」
「防衛戦では撃たれれば爆発するような機体では困りますからね。
この装甲は新式の層状になっていてバイド汚染すら……」
R機は絶大な機動性と攻撃力の代わりに、全くといっていいほど耐久性が無い。
さらに始末の悪いことに、単機突入作戦時や新型機は機密保持のため、
戦闘続行不能状態になるとレコーダー類を残して自爆装置が作動するようになっている。
旧世紀大戦時の航空機の渾名をとって、ワンショットライターならぬワンショットボムだ。
などとパイロットから皮肉られる始末だ。
そのR機の弱点の一つを克服したと白衣の男は語り続ける。
「……と言う訳なのですが、ただし、重量や燃費の問題で航続飛行距離が非常に短くなりまして、
単機突入なんてもってのほか、要撃にしか使えないのですよ」
「なんだその片手落ちは、そもそもR-9型にする意味あったのか?」
「その方が格好いいでしょ?」
「「……」」
中尉がボソッともらした突っ込みに対して、
趣味と言い切り、はっはっはといっそさわやかな笑い声を上げる研究者。
中尉と少佐は、夏の日差しも凍結する絶対零度の視線を目の前の白衣に投げかける。
研究者は全く意に介さず、そのまま自慢げにスペックを口から垂れ流す。
軍人二人は目の前の白衣の男を居ないものとして、無視し二人で話し出す。
せめてもの抵抗に、彼ら二人だけで深刻そうな空気を作り出して。
「隊長、俺はこの任務が決死任務のようなものであると思っています」
「……すまんな」
「いえ、パイロットになったときから、ある程度覚悟はしていました。
しかし正直に言って、作戦に成功しても生きて帰ってこられる可能性は低いでしょう」
「……」
「ひとつ、お願いがあるのです」
「家族のことか? 心配するな」
「いえ、小官は天涯孤独ですから問題ありません」
白衣の男がべらべらと機体スペックを垂れ流す傍らで、
シリアスな表情で言葉を交わす、上司と部下。
二つの空気が水と油の様に混じりあわずにその場にたまる。
整備員達は遠巻きに整備をする振りをしながら、聞き耳を立てている。
「ただ……」
「ただ?」
「後生ですので、後生ですので! 最後にあのクソ白衣を殴らせてください!」
「……私は何も聞いていないが、作戦前に拳を傷めるなよ」
「小官もパイロットですから、その辺のさじ加減は分かっています」
アイコンタクトをして分かれる二人。
パイロットの中尉は先ほどとは打って変って、非常にいい笑顔で研究者に近づいていった。
少佐はその凶笑を見ないようにしながら、整備員やその辺りにいた人員を引き連れて、
デッキ近くにあるミーティングルームに消えていった。
ミーティングルームは完全ではないが防音仕様であり、
今から起こる不幸な事故について何も聞かないで済むだろう。
少佐らの背後では中尉が指の骨をポキポキとならしながら、
未だに研究自慢を続けるTeam R-TYPE研究員に近づいていった。
***
『システムチェック完了、パイロットバイタル正常』
『駐留艦隊艦載R機部隊、進路上のバイドの80%を排除』
『1番カタパルト、ロック解除。発進可能』
『基地指令、R-9A射出準備完了しました。定刻になります』
『本時刻をもってオペレーション・ラストダンスの開始とする』
『R-9Aアローヘッド発進します』
『10、9、8、…』
今、この基地の関心を一身に集めているパイロット。その上司である少佐は
基地防衛隊の隊長として、スクランブルに備えて新しい愛機となったR-9Aの通信機から、
部下の出征の様子を聞いていた。
士気を高めるためか、司令部の音声もオープン回線で周囲に発信しているようだ。
恐らく他の部隊員達も自機でこのオープン通信を聞いているに違いない。
『3、2、1……Let’s Go!』
そのアナウンスとともに一機のアローヘッドが蒼穹の彼方に消えていった。
残された隊員達は潮の香りのする基地で彼を見送った。
***
英雄が旅立った後の基地のデッキには、
顔に白い布袋を被せられた巨大なテルテル坊主が、梁に腰から吊るされていた。
その布地には赤黒い染みが点々と飛んでおり、時折もぞもぞと動いていた。
その朝は雲ひとつ無い抜けるような晴天であった。
***
『こちら南半球第一基地管制塔。強力な未確認バイドの接近を確認。基地防衛隊は全機出撃してください』