・R-9A2“DELTA”
R-9A2デルタは制式配備されたR-9Aの後任を担うべく開発されたR機である。
R-9Aアローヘッドの全長16mに比べて、デルタは9m程度と異常なまでの小型化に成功し、
試験機でありながら、実戦―サタニック・ラプソディ―に投入され、
戦果を挙げた事態の収束に成果を挙げることとなる機体である。
フォースエネルギー放出による広域破壊武装、ニュークリアカタストロフィーを装備しており、
単機突入作戦に特化した機体だ。
この後、R-9Aの直系かつ、サタニック・ラプソディ事件の収束を担った機体として、
膨大な後続機が開発されることになる機体である。
***
バイドミッション前はTeam R-TYPEの全員がここに集まって意見交換を行った物だが、
今は、デルタ班、アルバトロス班、ケルベロス班の3班に分かれてしまったため、がらがらだ。
アルバトロス班と、ケルベロス班になった研究者が、それぞれ別の研究施設に移っているためだ。
現在この基地に居るのはデルタ班のメンバーであり、広くなったラウンジや共同スペースを自由に使っている。
壁には書き込みだらけのアローヘッドの設計図やら、気合の入った図面やらが張ってある。
デルタはバイドミッションを成功に導いた英雄機アローヘッドの正統後続機とあって、
軍からの期待もかなり大きかった。
要は現場から上げられた要望がデルタに一手に集まってきたのだ。
後年のTeam R-TYPEであれば無視できる程度の圧力だが、
現在のTeam R-TYPEの実績は英雄機とはいえ、ほとんどアローヘッドとPOWアーマーのみ。
軍からの要望を突っぱねるだけの発言力はまだ無かった。
しかも、次期主力機を決定するためにコンペティションを行うこととなってしまった。
Team R-TYPEが半政府関連組織とはいえ、主力兵器の開発を
Team R-TYPEに一手にまかせるのは危険と踏んだ一派がいたらしい。
もちろん、これを快く思わないTeam R-TYPE上層部はアローヘッドでの功績を武器に交渉し、
コンペに参加する3機のうち2機で民間企業との共同開発を行い、
アローヘッドの後続機であるR-9A2は純粋にTeam R-TYPEで開発することを認めさせた。
「で? 軍からの要望は?」
「波動砲はスタンダードなものであること。フォース性能はR-9と同等またはそれ以上のものであること。
機動性、攻撃力がR-9に劣らないこと。航続距離はR-9の150%以上とすること…などなど」
「もう開発の方向性は決まったようなものじゃないか。自由は何処へいった?」
「独自色出したいのだけど」
「無理。それよりコンペで負けたら事だぞ」
「一応、上が掛け合って3機ともTeam R-TYPEの血は入れて在るから。いきなり捨てられることはないよ」
「いや、まかり間違ってRX-10やR-13が制式になれば、
Team R-TYPEはフォースだけ作っていろという事になりかねん」
「フォースも面白いけど、俺はやっぱりR機が作りたいよ」
「しかし、なんだこのハンデ付きレースは」
非常にテンションが低い開発室だった。
軍の横槍によって士気が大幅に下った状態になっていた。
もともとはバイドに対抗する兵器を作るという目的のもと、
アローヘッドの開発に邁進してきて、一種の完成形たるものを作り上げた。
Team R-TYPEには、R機は自分達が1から作り上げたといっていい自負があった。
しかし、バイドの脅威が去っていないこともあり、そうそうに後続機の開発が命令されたのだが、
なまじアローヘッドの性能が使いやすい機体であったため、
現場から、仕様変更するなという意見がもりもり出てきたのだ。
「…そうはいっても、そのまま各部の改良をしただけの機体を新型として出すのは、
開発者としての沽券に関わる。軍の出した条件の中でどれだけ盛り込めるかが勝負だ」
「一応、試案では大気圏での運用を考え、小型・軽量化を推進している」
「小型化か…そうだな。出力はそのままでコンパクト路線ならいけるな」
「しかし、影薄いよなあ」
「正統発展機だからな。仕方が無い部分もある」
「「「「……はぁ」」」」
この時の苦い経験が、Rの系譜に異常なまでのバリエーションを持たせる遠因となったことは、
まだ誰も知らなかった。
***
ある日、デルタ班がフォースについての打ち合わせをしてるが、
デルタ開発班に与えられた会議室は定員割れしていた。
30人ゆうに入れる会議室に白衣が6人。
居心地が悪いのか、部屋の隅のほうに固まって座っていた。
「……スタンダードフォース一択か」
「しょうがない。指定がはいったんだから」
「はぁ。せめてコンダクタだけでも小型化しよう」
デルタの9mという全長にあわせるためにコンダクタを改良することにした。
フォースコンダクタの回路図を眺めるメンバー。
「とりあえず、短縮回路を作ってみてシミュレーション上で走らせて問題を抽出しようか」
「そうだな、隣に演算用端末もあるし、もう会議室でやればいいか」
カタカタとそれぞれが端末を叩く音だけが響く。
割り振られた部位に新しい部品を適用し、形状の最適化をし、容積を減らしては、
隣室のシミュレータで問題を抽出する地味な作業が続く。
誰とも無くボソりと呟く。
「連絡文書見てると他の班の連中楽しそうですよね」
「RX-10はテンタクルフォース、R-13Aはアンカーフォースっていうのを作るらしいぞ」
「いいな。制限無しだろ」
「R機は監修くらいだから、実質、フォースに全力投球だしな」
「用事があって、バイド素子実験室にいったら皆楽しそうだったよ」
「いいなー」
カタカタカタカタ……
***
また、ある日は武装についての会議がもたれていた。
過疎なので基本全員出席である。
デルタ開発班に与えられたいつもの会議室。
心なしか、壁に貼ってあるR-9Aの設計図も傾いている気がする。
ホワイトボードにはフォースの絵が描いてあった
「今日はサブ武装の検討を行う」
「っていっても、フォースがアレじゃあレーザーだって変わらないだろう」
「ミサイル、ビットも変えるなっていわれているし」
「はぁ、また小型化する日々か」
すでに何も言わずに端末に向う6人。
ため息と入力音だけが響く会議室。
カタカタカタカタ…
***
そのまたある日、今度は波動砲の改良であるが、やっとまともに研究できそうな、
議題がでてきたので、研究員らの顔も幾分マシになっている。
デルタ開発班に与えられたミーティングルーム。
ホワイトボードには「DELTAのDはDown sizingのD」などと書かれている。
ヤケクソ度合いが上がっている。今までの研究でよほど鬱憤がたまっていたのだろう。
「さて、今日は波動砲の方針について決定しよう」
「何故会議を開いたし。すでに軍からの要求でスタンダード波動砲に決定なんだろう?」
「何時もどおり小型化か?」
そういっても今までのことから、士気は見事に最低ライン上を這いずっている。
期限を決められれば、やることはやるが、まったく効率が悪くなる。
彼らはアローヘッド開発の熱気のある現場を知っているだけに、この研究には不満だらけだ。
「なあ、こんな仕事ならココにいる意味が無いよな」
「言うなよ。毎回アローヘッドのときのように刺激的にはいかないさ」
「ぐだぐだ言っていてもしょうがない、それで、波動砲は裏技を使おうと思っているのだが」
「裏技?」
一人がいきなり振ってきた不穏な話題に残りの5人は怪訝な顔をする。
しかし、このところの刺激不足に陥っていた5人は、その話を聞くことにした。
こんな所に部外者がいるはずもないのだが、そこに居た白衣達は顔を寄せて、声をひそめる。
「波動エネルギーのループだ」
「以前、基礎技術班が発表していたやつか」
「そうだ。同じサーキットを利用して波動エネルギーを多重に圧縮すれば、
高威力の波動砲が撃てるってやつだ」
「それは知っている。たしかスタンダード波動砲だと威力と少し径が大きくなるのだったか」
「たしか今は2ループまでだけど、将来的にはもっと圧縮できる可能性があるんだったな」
案を出した男が席を立って、ホワイトボードを引っ張り出して、やる気の無い落書きを消す。
すぐにフリーハンドで簡略された波動砲の概念図を書き表した。
他の人員もやる気が出てきたようで、
それぞれ分担して良く知っているスタンダード波動砲の簡易図を手際よく書く。
「ここで、横道にそれるのだが、アローヘッドには間に合わなかったが、
拡散波動砲が開発されているのは知っているだろ。あの構造は少しの改造でスタンダードを打てるんだ」
男は、図の一部にぐりぐりと丸をつけ、その部分に赤ペンで少し修正を加える。
図の上ではたいした違いは無いのだが、開発班の人員は目に見えて興奮してきている。
「単ループではスタンダードを、2ループでは拡散波動砲を撃つようにするってことか」
「ああ、高エネルギー時だけ拡散波動砲の回路にエネルギーが流れるようにするんだ。
これによって一機で打ち分けが出来る」
「スタンダードと拡散波動砲なら破壊力はピカイチだ。
他の2機は威力より掃討能力を優先するらしいが」
「突破力が無ければRじゃない。…俺達がR機の見本を見せてやるのもいいかもな」
「面白そうだな。よしやろうか!」
今までと打って変わって研究者としての矜持を取り戻した彼らは、勢い良く動き出した。
明らかに自分達の研究物しか見えていない。
後に狂科学者、腐れ開発チームと呼ばれる彼らの鱗片であった。
***
そこにあったのは一見するとR-9Aアローヘッドであったが、
細部は更に洗練され、波動砲のコンダクタ周りが少々複雑になっている。
しかし、アローヘッドと比べると2/3のサイズになっており、相対的にフォースが大きく見える。
R-9A2“DELTA”は今、他の2機の試作機とともにデッキに並んでいる。
名目上は試作機であるのだが、すでに実戦投入が決定している。
コンペの準備をしている間に軍から緊急の連絡があったのだ。
不測の事故が起きたため、試作機を全機、実戦投入する決定が為されたらしい。
軍は兵器の暴走事故といっていたが、上層部からの情報ではどうやらバイド関連らしい。
自分達が手がけた機体が英雄となるところを想像し、Team R-TYPEはほくそ笑んだ。