プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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⊿繋がりという事でパウアーマーです。



TP-2“POW Armor”

TP-2“POW Armor”

 

 

 

「諸君、我々Team R-TYPEの研究も実り、R-9の実戦投入は確実となった」

 

 

Team R-TYPEに与えられた会議室には白衣やら、ツナギやらを着たメンバーが揃っていた。

プロジェクトリーダーに代わってサブリーダーが進捗を報告する。

バイドミッションにあわせて、地球圏の技術の粋を結集して作った次元戦闘機R-9は、

不幸な事故など多くの試練を乗り越えて、無事に最終試験を潜り抜け、

対バイド戦の切り札として採用されることとなった。

その説明に今までの研究の成果が報われたと沸き立つTeam R-TYPE。

 

 

「今回皆にここに集まってもらったのは、この報告のためだけではない。研究4班議題を」

「はい。研究4班リーダーです。問題が上がりましたのはアイテムキャリアーです」

「アイテムキャリアーって、4斑が研究していた移動式コンテナか?」

「ええ、短期突入作戦ではR-9の武装やエネルギーを補給するための資材が必要になりますが、

速さが命の突入任務に補給部隊を従属させるわけにはいきません。

したがって、補給コンテナを配置することとなるのですが……」

「難航していると」

 

 

補給方法が確立しなくては、バイドミッションの成功は非常に難しくなる。

バイドに押される一方であった人類がやっと可能になったバイドを押し出せる作戦である、

これを成功させなければ地球圏に未来はない。そういう思いが研究員達の旨にはある。

Team R-TYPEは全員がこの欠点を補うべく、研究者が集まり色々な案が策定された。

 

 

***

 

 

・定点浮遊式

 

単純に補給物資を封入したコンテナをばら撒いて配置するだけのもの。

その場に浮いているだけで、特にアプローチをしない。

メリットとしては単価が安く、任務の邪魔にならないこと。

しかし、少しのルート変更で無用になるなど、只のコンテナと変わらないため却下。

 

 

・熱源誘導式

 

良くある追尾式のミサイルなどと同じように、R機を追尾する。

しかし、何らかの原因でこれらを破壊せずに無視すると、

ミサイルのようにアイテムキャリアーが後方から山と押し寄せ、

R機が追い立てられるような格好となったため失敗。

なお、複雑な行動ルーチンを組み込んだ物は、バイドを誘引してしまい、

バイド化の憂き目に遭った。

 

 

・有人式

 

比較的有望な案であったが、人間を搭乗させるとこれもバイドを強力に誘引し、

かなりの高確率でバイド化することと、敵地に送り込むことが困難なこと、

パイロットの回収がほぼ不可能であることから、見送られた。

 

 

これらの案を見た研究者達はうなり声を上げて、首を普ひねる。

 

 

「失敗、失敗、失敗…どうするんだこれ?」

「初めからフル装備っているのはダメか?」

「今までの調査からかなりの長距離ミッションになることが分かっている。

補助装備だってエネルギー喰うんだ。初めっから装備していたら肝心なときにガス欠になる」

「どこか中継基地を……」

「それを作るだけの時間も、維持する戦力もない。

木星圏要塞ゲイルロズも冥王星基地グリトニルも、

攻撃衛星アイギスもバイドの勢力圏だ」

「一定以上の複雑さを持ったデータは積極的にバイドを寄せ付けるからな」

 

 

こうして、最終的に採用されたのは徹底的に単純化された思考ルーチンに基づいて、

敵地に侵入し、回航するタイプの無人機だった。

 

 

閉所まで潜り込めるようにスラスターだけでなく脚部を取り付け、

内部の資材を保護するため、外圧に強い球体をベースにデザインする。

アイセンサー部分はR-9の武装で容易に壊れる様にする。

飛行経路は、プログラムを長くするとバイドを引きつけるため、

極限まで単純化し、基本的には一定距離進んだ後、回遊モードに入る程度となった。

最低限の武装した、名称はPOWER-UPアイテムのキャリアーということで、

POW Armorとなった。

 

 

このパウアーマーはバイドからの攻撃を避けるために、

バイド素子を低活性状態にしたものが封入されている。

もちろん補給物資が汚染されないように、厳重に他の構造に接触しないように隔離された。

これによって、低速で回航するだけであれば、バイドからの攻撃を受けることは無いのだ。

バイド由来兵器であるフォースが積極的にバイドの攻撃を受けない現象を

ヒントに考案された苦肉の策だった。

 

 

パウアーマーの外装にはR機の攻撃に反応して全体が破壊されるように、

爆発物質が含まれている。

これは戦場に置いて悠長に補給していられないR機のために、

即時に補給物資を展開しなければならないからだ。

また、バイド素子を利用しているためにその処理には厳重かつ単純な

安全システムが採用され、バイド素子が内部構造に接触すると、

POWの動力が暴走させ、爆散する用にプログラムすることとなった。

 

 

***

 

 

検証不足での実戦投入は、劣勢時特有の事象である。

押し寄せるバイドを、投入したてのR-9でなんとかしている状態であるので、

しょうが無い面もある。

そんな理由で、Team R-TYPEを出たパウアーマーは、多量に戦線に放流した。

 

 

「なんとか生産まで漕ぎ着けたな」

「ええ、ただ……仮想実験でR機との衝突事故が絶えません」

「バイド化しているのかね」

「いえ、思考ルーチンの問題のようです」

「すでにバイドミッションの期限は迫っているし、これ以上の改良は無理だろう。

あとは、最精鋭部隊R-9大隊のパイロット達の腕に賭けよう」

「はい」

 

 

無人アイテムキャリアーの捨て身の支援によって、一機のR-9がバイドミッションを完遂し、

バイドミッションの隠れた功労者として認められることとなった。

しかし、その影で多数のR-9がパウアーマーの手によって葬られていった事は、

色々な事情で伏せられた。

 

 

***

 

 

バイドミッションが成功に終わった後、Team R-TYPEでは今まで先送りにしてきた

開発兵器の総反省会が行われていた。

 

 

「これより、バイドミッション総反省会を行う」

 

 

未だに浮かれた状態のままの研究員達が格納庫に集まっている。

普段は会議室や研究室での話し合いが主だが、

今回は実機を前にしての反省会ということとなった。

格納庫にはR-9Aや策敵機のR-9E、パウアーマーがならんでいる。

会議で、この作戦で明らかになった問題点や現場からの要望書を読み上げては、

簡単な検討を行ってゆく。そしてパウアーマーの番になったとき。

 

 

「作戦前も懸念されたことですが、

パウアーマーによるものと思われる事故が多数発生しています」

「アレ……か」

「ええ、アレです」

 

 

もちろん、R-9Aとパウアーマーの衝突事故の事である。

一応事前に想定されていたが、パイロット任せの解決案で、

開発を通したのだが、実際に頻発していた。

 

 

「今回のバイドミッションに投入されたR-9大隊30機の内、

3機がパウアーマーとの接触で、作戦遂行不能に陥っています」

「1/10かなかなか撃墜率が高いな。パウは」

「いっそR機を大型化してコンテナを廃したほうがよくないか?」

「しかし、大型化すれば被弾率も高くなるし、他にも問題が……」

「やはり、回遊式コンテナはダメかな」

「POWは本当に必要か? 補給が心配なら戦艦なんかを母艦として、

突っ込ませた方がよくないか?」

「POWの造形はいいんだが、ちょっと受けを狙いすぎじゃない?

所詮R機の引き立て役だろう」

 

 

大きな声でワイワイ騒いでいたが、その反省をその後に活かすかと言えば、

そんなことはなかったという。

 

 

***

 

 

そんな、Team R-TYPEの研究員達が騒ぎ疲れてお開きになった後。

格納庫には明りが一つだけ灯っていた。

昼間からの騒がしさは何処へいったのか、今は小さな声でも良く響くほど静かだった。

R-9Aの台車に寄りかかって煙草をふかしている一人の老整備員と、

ワラワラと機体の影から出てくるツナギ姿の人影。

 

 

「親方。俺虚しいッス。俺達が魂を込めて整備したパウが馬鹿にされるなんて……」

「パウ達は身体を張って任務を果したのにあの言いようはないよな」

 

 

頭にバンダナを巻いた若い整備員が顔をくしゃくしゃにして言うと。

年かさの整備員が言葉を引き取る。

何処から沸いてきたのか、老整備員の周囲には、

いつの間にかツナギを着た整備員達が屯していた。

パウアーマーの整備を担当した整備員達である。

 

 

あの研究員達はパウの可愛さが分かっていないだの、

支援機あっての戦闘機だろうだの、

俺の整備したパウは全機帰ってこなかっただの、

今度は支援機じゃなくてR機の整備をやりたいだの……

 

 

整備員達は口々に愚痴を吐きはじめる。

その中で、黙って彼らの愚痴を聞いていた老整備員は、

煙草をもう一呑みすると、指先で火を揉消してから足元の空き缶に捨てる。

 

 

「お前らの仕事は愚痴ることじゃねぇだろ」

 

 

老整備員の声は決して大きくないが、煙で燻されて

ほど良くしわ枯れた声は不思議な存在感があった。

しかし、かっこよく決めていても、ツナギに縫い付けられた

パウのワッペンが色々と台無しにしている。

周囲の若い整備員達は少しバツの悪そうな顔をした後、そんな老整備員を仰ぐ。

そして、言われっぱなしで気がおさまらない整備員は、どうすればいいのか尋ねる。

老整備員は胸ポケットから新しい煙草を取り出すと、

火をつけ、肺深まで最初の煙を吸い込んでから話す。

 

 

「俺達の仕事は、作戦の成功率を少しでも上げるように整備をすることだろう」

「しかし、整備が出来ても、あいつらの決めたコンセプト以上の事はできません」

「普通の整備は機体の性能を100%引き出すことだ。

しかし、俺達はプロの整備だ。120%を引き出せる整備をしろ!」

「120%ですか?」

「前に言ったとおり、俺はこの作戦を最後に身を引くが、お前らは次もある」

 

 

老整備員は煙草を消すと、後は任せたと言って格納庫を出て行った。

残された若手らは名残惜しそうにその後姿を見送った後、

ポツリポツリと話始める。

 

 

「親方の言葉、パウの機体性能以上の事をできる様にしろってことだよな?」

「俺らのパウが性能以上にできる整備ってなんだ」

「とはいっても、あの条件下でできる最高の整備をしたぞ。これ以上何を?」

「前提条件に縛られているから120%にならないんじゃないか?」

「……なあ、パウアーマーの1号機はまだ残っていたよな」

「ああ、確か保管用……何かやるのか?」

 

 

年かさの整備員が誰とも無く質問をする。何かを思いついたようだった。

そしてボロボロになった仕様書を捲り、ある項を指し示す。

それを見ていた周囲の整備員は、彼が何をするかを察知した。

 

 

整備員達の目が暗がりで光り、工具を手に立ち上がる。

誰かが走って青写真を持ってくる。

イイ笑顔の男達が格納庫の奥に向っていく。

年かさの男が呟く。

 

 

「誰がパウでバイドを殲滅してはいけないと決めた?」

 

 

この夜以降、R-9の予備部品が消えたり、

一部の(POW教に入信させられた)Team R-TYPE研究員が、

怪しげなフォースや波動砲を作っていたりするのが目撃されている。

 

 

そして、一年後。

新規制式R機コンペティションが開かれるはずの基地では、

R-9A2、RX-10、R-13Aのカタパルトの後ろに隠れるようにもう一機……

 

 

後に整備員の反乱と呼ばれる事件であった。

 

 

 

 

 

 




時々、POWはこっちを見えていて
突っ込んで来ているんじゃないかと思うことがあります。

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