R-13T“ECHIDNA”
※今回の話もシリアス話です。
「R-13Aは英雄に成りそびれたのかな、いや英雄から墜ちたんですかねぇ」
裾の汚れた白衣とサンダルを身に着けた男が大きな独り言を発していると、
暫く前に部下になったヒラ研究員が部屋に入ってきて、レホスに話しかけてくる。
「レホスリーダー、クロス・ザ・ルビコンがケルベロスのフライトレコーダーを回収したことによって、
ケルベロスのアンカーフォースやライトニング波動砲の実戦データが手に入りました」
「後は、エキドナでライトニング波動砲と有線式フォースの有用性が確認されれば、
軍もそうそう否定できないはずだからねぇ」
「ケルベロスの再配備も出来ますね」
「ええ、にしても面白いデータだねぇ。これを見られるだけでTeam R-TYPEに入った意味があるってものだ」
「レホスリーダーは、もともと機械工学の専門では?」
「生物も良いよ。ウォーレリックにいたころから色々大学に聴講しにいってたからねぇ。
特にバイドは生物と機械の中間にあるような存在だから、両方楽しめてお得だよ」
満面の笑顔で語る、エキドナ開発班のリーダーとなったレホス。
端末を覗き込むもう一人の白衣は、Team R-TYPEの若手でこのたびレホスの下についた研究者だ。
彼らは今、有線式フォース試験機……もとい、ケルベロスのダウングレード機であるエキドナの開発をしている。
ダウングレード機としたのは、ケルベロスで生じた軍内部での不信を払拭するために、
お試し版で安全を確認するためだった。
一応、ケルベロスの開発中に同名の試作機が存在したので、対外的にはそれの再検証となっている。
これが成功すれば晴れてR-13系列機の再研究が行われる予定だ。
つまり、エキドナでこけることはR-13系列が抹消されることであるので、
レホスとその部下は、ルビコンの持ち帰った情報を元に、さらに検証を行っているのだった。
***
端末にはクロス・ザ・ルビコンのガンカメラと、途中まで随行した索敵機ミッドナイトアイの外部カメラの映像が映っていた。
母艦たるヘイムダル級戦艦から発艦し、戦闘宙域を横切る形で廃棄された研究施設へ向うルビコン。
ルビコンの任務は高バイド係数フォース実験の他にバイド汚染施設の偵察も担っている。
そのため、データが取れなくなるといったことが無い様に、場合によっては退却も認められていた。
物質も疎らな宇宙空間といえども、戦闘宙域は残骸などのデブリが多い。
その影に隠れて未だに太陽系に居残っている小型バイドも見かけられる。
まだ、人類の制宙域のはずだが、バイドの斥候のようなものだろうか。
突如後方から大出力レーザーが走り、小型バイドを消滅させる。
「なんですこれ、もしかして母艦の戦艦が撃ってきています?」
「どうやら、あの艦長さんはバイドの進出が気に入らないらしいですねぇ。
試験中だというのに。これだから軍人は……」
戦艦の射程から外れると、ルビコンは一路研究施設に進路を取った。
今回は高密度デブリ帯を抜けて、研究施設の入り口付近の調査を行う予定だった。
今研究中の異相次元に突入するためのエネルギーとして、旧実験設備を利用する案があったためだ。
ただし、事前に測定されたバイド係数からして、その廃棄された研究施設が、
パンドラの箱になっているのは疑いが無かったので、今回は内部には突入しない予定となっていた。
外部より調査を行い、突入路の候補を挙げることになっている。
「そろそろ研究施設付近に到着する所ですか。あと、15分くらいですか」
「一応早送りせずに見ましょう。しかし、ガンカメラの映像は見づらいですねぇ」
「さっき、ミッドナイトアイが被弾して撤退しましたからね。あの紙装甲が」
「別に良いんですよ紙だろうと。そもそも索敵機が護衛もつけずに最前線にいたり、
乱戦に巻き込まれたりしている事態は想定してないしぃ。運用の問題でしょう?」
「でもR-9Eて、試験で単機突入されられませんでしたっけ?」
「一応、機体データは必要だし、当時は護衛戦力なかったし、
そもそも私はその頃Team R-TYPEではなかったしぃ」
スネイル(黄)レーザーは防御には最適だが、攻勢には弱いといった弱点がある。
これに対して、R-13Aに搭載された、ターミネイトレーザーは攻勢に強い。
レホスはエキドナの武装案を考えながら、やはりR-13系列のレーザーを実装するべきと考えていた。
論議をしている間に、ガンカメラの映像は、研究施設の誘導灯の光を捕らえた。
レホスと若手らは端末を見やる。ここからが本題だからだ。
研究施設自体が画面に捉えられる。スラスターの噴出が画面端に見えた。
ルビコンは調査を行うために速度を落とし始めている。
徐々に近づいてくる研究施設。外面はそれほど荒廃していないようだ。
ルビコンは十分に距離を保って、軽く周囲を一周している。
探知機がバイド係数を感知して警告音が流れる。バイド係数もたいした事がないが、
パイロットは悪魔が外部に漏れるのを防ぐために排除するようだ。
研究施設の周囲の衛星施設で巣食うバイドを発見し、戦闘が始まった。
ルビコンの圧縮炸裂波動砲は小型バイドに対しては圧倒的に有利で、雑魚を蹴散らしていたが、
機首方面にいるバイド以外には効率が悪いようだった。誘導性が無いため、施設内装もかなり被弾している。
この小型施設では強化外壁が採用されているようだが、通常構造物で使用すれば施設自体が潰れかねない。
レホスは端末を眺めながら、またもや武装案を思い描き、やはりライトニング波動砲を実装すべきと思った。
粗方バイドを倒し、ルビコンが衛星施設そのものを破壊しようと施設中枢に波動砲を打ち込む。
バランスを崩して自壊するはずの施設が、爆発的な光に包まれる。
「来た。問題の箇所です」
「この研究施設何があったんだかねぇ。
まぁ、メイン施設から隔離されるくらいだからヤバメの物でだろうけど」
「どう考えてもバイド関係ですよね。あ、この時刻、複数地点の観測機で次元振動を確認しています」
「虚数次元のエネルギー爆発。物理的な威力はないけど、
R機分の次元の穴を開けるには十分でしょう。図らずも次元の壁を突破だねぇ」
ガンカメラの映像はホワイトアウトしたあと、今度は真っ暗になる。
光量の調整が上手くいっていないらしい。
30秒ほどしてようやくまともな映像を映し出す。
『暗黒の……森?』
今まで、ほとんど声を発せず、試験飛行に徹してきたパイロットの声が録音されていた。
確かに何も知らされずに見れば森のようだった。
バイドの肉腫であろう構造が、植物の幹のような物が連なっていて、上下は大樹の根のように見える
その黒い世界は、鬱蒼とした夜の森を思わせた。
真っ暗な森に燐光のようなものが飛び交い、儚げに周囲を照らす。
なるほど、パイロットの言うとおり、暗黒の森という表現がぴったりだった。
しかし、見るものが見れば違う感想を引き出す。
「リーダー、これです。サタニック・ラプソディ事件のときにバイドコアの作った異相次元」
「えぇ、デルタやアルバトロスの持ち帰ったガンカメラの映像と同じだねぇ」
「バイドコアが吹き飛んだときに、一緒に消滅したのかと思っていました」
「ふぅん、バイドコアが吹き飛んだ後も異相次元自体は存続したんだ。
まぁ、新しいコアが出来たという事なんでしょう」
ルビコンは暗がりを恐れるように、慎重に進む。
大量のバイドは現れず、大きな燐光のようなものが飛び出してきたり、
突然、幹のような構造が倒れてくる程度だ。
「以前確認された、あの鞭毛のようなもののついた小型バイドは現れませんね」
「データを見るにあれは、バイドコアの一部だったんでしょう。
それより、ここのバイドは攻撃性があまり顕著ではありませんねぇ」
「そういえば、攻撃されているというよりは元々こういう生態の場所にルビコンが飛び込んで行っている感じですね」
「コアが休眠しているからかもしれませんねぇ」
ルビコンは高いバイド反応に導かれるように一本の樹の元に辿り付いた。
『ケルベロス……?』
パイロットの呟きが録音されている。
R-13Aケルベロスとアンカーフォースがバイドの木の中に閉じ込められている様な光景が映っていた。
「ケルベロス、意外と変質していませんね。フォースも波動砲も健在のようです」
「いやぁ、外見はケルベロスですけれど中身はかなり違うね。
波動砲はライトニングの誘導性を失っているし、
フォースも暴走しているみたいにみえる」
「装甲キャノピーの中身は見たくないですね」
「そぅ? 僕は見てみたいんだけど」
「レホスリーダー容赦ないですね。自分が開発に関わった機体なのに」
馬鹿な話をしている内に、端末の映像は更に激しくなった。
狂ったように蠢くアンカーフォースと波動砲を連発してくるケルベロス。
対して、波動砲を回避しながら、ミサイルと波動砲をバイドの樹に叩き込むルビコン。
次第にバイドの樹も表面がボロボロになりケルベロス自体に損傷が及ぶ。
「R機といえども、バイド化が進むと耐久性も強化される様子ですねぇ」
「紙装甲のはずなのに」
「ふむ、ここらで新しい計画も出ることだし、バイド装甲というのも発想として面白そうだね」
「なんか汚染されそうな機体ですね。僕は聞かなかったことにします。
しかし、回避が優先される所為か、波動砲の命中率が悪いですね。ルビコン」
「ええ、波動砲の性質上、基本的に機首と同軸って決まっているからねぇ」
「ライトニング波動砲はやはり導入するべきですね」
「そうだねぇ、でも、他の原理で誘導性のある波動砲を
……いやいっそ分裂するというのも……」
「リーダー帰ってきてください」
「ああ、あとやっぱりフレキシブルフォースは防御性能に優れるけど、積極攻勢には向かないかぁ」
そんなことを話すうちに決着がついたようだった。
ルビコンの放った何十発目かの圧縮炸裂波動砲がバイドの木ごとケルベロスを砕いた。
機体に同調するようにフォースとケルベロスを結びつける光学チェーンが次々に弾け飛ぶ。
そして、アンカーフォースの光量が一気に上昇してゆき、再びガンカメラが真っ白になる。
重いものが倒れるような音が鳴り響き、最後に水滴が垂れるような音が録音された後、無音状態になった。
再び白い光に包まれ、映像が回復すると見覚えのある廃棄施設の外壁が映っていた。
パイロットが慌ててレーダーと機体状況をチェックする声が録音されている。
近くの友軍に交信する声も聞こえ、偵察を切り上げ、撤収することを命令する通信音声が聞き取れた。
そのとき、ルビコンの近くに漂っているデブリに気が付いたようだった。
パイロットは殆ど空になったミサイルサイロにそれを格納して、帰路に着いた。
「これが、今回の顛末ですね。ルビコンがケルベロスのブラックボックスを拾ってくれて助かりましたね。
でも、パイロットも剛毅ですよね。明らかにバイド素子の付着している物を回収するなんて」
「ああ、エキドナはR-13系列の将来を担った試作機だからねぇ。事故を起こすわけにはいかない。
だから、コックピット周りの対バイド処理がしっかりしているんだよねぇ」
「とりあえず、これを元にエキドナを?」
「ええ、だいたい方針は考えましたから、検証から入ろうか。
君も武装案を明日の午後までにまとめて来るように」
***
安全性を追求したエキドナの機体性能は、ケルベロスより一回り小さくまとめられた。
制式R機のコンペのために総力をつぎ込んだケルベロスはかなり余裕の無い作りとなっていた。
ワンオフ機体であったケルベロスとは違い、エキドナは量産もある程度睨んだ機体に仕上げることとなった。
フォースもケルベロスで採用されたアンカーではなく、同様の有線であるがバイド係数の低いチェーンフォース。
ライトニング波動砲も電気変換効率を意図的に落とし、波動エネルギー比率の高いものになっている。
異常に主機に負担をかけるレーザーも、ケルベロスのダウングレード版となった。
全力を出せない研究班は不満げであったが、レホスはR-13系列機の再研究のためと割り切り、推し進めた。
エキドナは軍の技術者やTeam R-TYPEの研究班、
さらにはウォーレリック社開発部門の派遣社員に見守られながら、試験飛行を終えた。
最先端ギリギリを作りたがる研究側に対して、信頼性を重視する現場から評価が高く、
この試験の成功を持って、地球連合軍はR-13系列開発の再推進を決定した。
ちなみに、本来はエキドナの試験直後にR-13Aの復活計画が立ち上げられる予定だったのだが、
予想外にも、再々度バイドの大規模来襲が発生し、別の計画が最優先となった。
いわゆる第三次バイドミッション、オペレーション・サードライトニングだった。
そのため、有線式フォースや電気式波動砲の実戦配備は優先順位の繰り下げを食らい、
ケルベロスの復活は、さらに数年待つはめになった。