TW-1“DUCKBILL”
R-9開発段階で派生した、アイテムキャリアーの初期型機。
自走式コンテナとして開発された機体だが、あとから開発された、
汎用無人アイテムキャリアーであるPOW Armorに押されて、
今では全くの不要となっている。
唯一の利点は地上を走行するため、衝突事故が滅多に起きないことくらいだった。
POWが制式となってからはもっぱら倉庫の肥やしとなっている。
それに目を光らせる集団がいた。
POWを魔改造した整備班であった。
彼らは今、POWの素晴らしさをパイロットや開発者に説きながら、
仕事の間は、R-9などの整備作業に勤しんでいる。
その粘着質な愛情はTeam R-TYPEをして「狂信者」と言わしめたほどだった。
ただし、倫理というものを全く考慮しようとしないTeam R-TYPEと違い、
彼らの興味は機体だけであったため、周囲は人的実害を被ることはまず無かった。
軍もその活動を認識していながら、整備の士気があがるならと半ば黙認している状態である。
ちなみにパイロットからは腕はいいが変な拘りを持った一団と見られている。
開発者も整備員も、その職種自体がすでに変人の巣窟と思われているので、
本人達にしてみれば、大した違いは無かったのだった。
「整備班長、本日の整備は終わりました」
「POW No.3と26が脚部がいかれているようだったが、どうした?」
「3号は部品が寿命なので交換。26号は関節にデブリを噛んでいたようです」
「R-9AやR-9E他の整備班は終わっているな。よし、仕事終りだ」
「班長……今日もやります? エタノールは用意しました」
「ああ、何時もの場所で。今日はちゃんとした飲用酒もあるからな」
姦しい金属音の合間に、そんな受け答えが交わされていた。
R機研究施設を兼ねた大型の宇宙基地の格納庫で、
年かさの班長と、白髪の少し混じった男が言葉を交わし笑うと、
周囲にいる油まみれのツナギを着た整備員達もにやりと口元を歪ませる。
皆急いで工具をメンテナンスして片付けると、何処からとも無く、コップや氷、ツマミを搬入する。
そして、整備員達は整備用具入れの脇にある休憩室に飲み込まれていった。
***
「今日も安全に整備が終わった事に、乾杯!」
年かさの男が音頭を取ると、ワラワラと乾杯の声が響く。
暫く、今日一日の仕事を労う声が飛び交う。
高価ではないが、久々に飲用の酒を飲んで、話が弾む。
いつもは機器補充用のエタノール(精密機器の動作に影響があるので不純物はほぼない)
を、ジュースや水で割って酒盛りをしているのだが、今日は違う。
そのうちに全員アルコールが頭にまで回っていい気分になってきた。
「あいつも可哀想ですよね。ダックビル。自走コンテナは完全にお役御免ですからね」
「自走コンテナを使うと思われるのは戦車くらいだけど、
戦車が活躍するような所だと殆ど輸送車で事足りてしまうから意味無いんだよ」
「そういえば、なんで自走型のコンテナなんて作ったんですかね?」
「ああ、お前は最近入ったんだっけか。あれはPOW型キャリアーが無い頃の物だ。
第一次ミッション前はPOW無かったし、そもそも自動操縦システムが貧弱だったから、
狭所で三次元運送できなかったんだ。それでダックビルは地形の複雑な渓谷などで運用されたんだが、
POWの自動操縦機能が拡張されてから、完全にPOWに活躍の場を奪われた。
全状況型キャリアーPOWと低コストのローテク輸送車の間に挟まれて、
活躍の機会が殆どない。だからどっちつかずの“ダックビル”(カモノハシ)だ」
「なんか可哀想な奴ですね」
年長の整備員が10代の整備員に不遇の支援機の話をしているのを、
なんとなく周囲の人間が聞く。それを聞いた全員が、しんみりしてしまった。
実際POWの前に配備されていたダックビルは、どこの基地でも格納庫の奥で腐っていた。
場所によってはバラされて整備用車両の部品取りに回されている。
R機のような日の当たる世界でなくとも、なんとかしてやりたいという気分にさせられた。
「……なんとかしてやりたいですね」
「しかし、地上機というのがネックだ。限定的な不整地での活動ならともかく、他はPOWで事足りる」
「なんか腐るだけの機械ってなんだか、こう、不憫というか」
それをきいた整備員達は皆で、ダックビルの運用法を考え始めた。
はっきり言って整備員のすることではないが、
POWを有人戦闘機に仕上げたという自信がそれをさせていた。
だが、すぐに行き詰る。
タッグビル唯一の利点は重力下における不正地踏破性と
物資の積み下ろし用のマニュピレータが装備されている点だった。
このマニュピレータで前線に物資を下ろし、再び後方に戻る。
POWとは違い使い捨てではなく補給地と前線を往復する機体なのだ。
全員が首をかしげ、頭を捻って考えた結果。
整備用の汎用工作機として運用してみたらどうかという案だった。
防衛戦とあれば戦地で整備することも考えなくてはならない。
地上戦ではどこかの平地を臨時の集積地にして、整備や補給を行うことも考えられる。
その時にクレーンなど重機では作業効率が悪い。そこにマニュピレータを備えた汎用工作機があれば、
作業効率が上がり、より早く戦場へR機を繰り出せる。という状況を考えついた。
「整備がメインで使うなら、汎用性の高い通信代価手段を付けたいな。
通信機を持ってる相手だけでなく、光信号みたく生身の人間にも分かる奴」
「ああ、戦場で整備することもありえるもんな。
通信設備がイカれた時のために、後方の整備員に合図を送りたいな」
「拡声器はどうですか。どうせバイドに意味なんて分からないでしょう?」
「戦場が地球だけとは限らないだろう。一口に地上戦といっても火星でもエウロパ表面でも地上はある。
ついでに言うと大気がなけりゃ音は届かんぞ」
「それだと結局狼煙みたいなのが一番信頼性高いことになる」
「狼煙はともかく視覚に訴えるタイプですか。それなら人間でも分かりますね」
「閃光弾みたいなのか。あ、でも閃光は戦場で飛び交っていて判別できないか」
「それと火薬系は誘爆が怖いのだが……」
「うーん、ここにある材料で考えると限界があるな……よし、同士に相談してみるか」
「同士? ああ、彼らか。予算も潤沢だし何とかしてくれるかも知れないな」
年かさの男は今までの案をまとめながら、格納庫を出てゆく。
彼の向う先は居住区ではなく、逆方面。
Team R-TYPEラボと書いてあった。
***
「つまり、人間にも感知可能な連絡手段が欲しいのですね」
「ああ、そうだ。一応此方でも案を出したのだが、整備の手に余る物が多くてな」
Team R-TYPEのラボ近くにある相談スペース隅で、油まみれの整備員と白衣の研究者が語り合うのは、
なかなか見られない光景だった。
なお、普段Team R-TYPEの施設のそばに人が寄りつかないため誤解されがちであるが、
ここまでは軍事関係者ならば入ってこられる。
「ええ、視覚的に訴えるというのは有りですね。人間、情報の7~8割りは視覚から入りますから。
しかし、戦闘状態でも一見でそれと分かる合図。派手な色で注意を引くしかないですね」
「ああ、複雑な情報は必要ないんだ。撤退の合図だとかそのあたりだから」
「ならばともかく派手にしましょう。……いっそ花火を積んだらどうです?」
「爆薬は入れたくない。弾薬を積んでいる事も多いし、積荷を含めて誘爆したら事だ」
整備区画の側で大爆発するダックビルを想像して、顔を顰める整備員。
「波動砲のガラクタが転がっているのでそれを使いましょうか。
一般には流せないし処理に困っていたのです。ついでに自衛機能も持たせられます」
「波動砲って……主機は合うのか?」
「ダックビルの主機はPOWと同型でしょう。問題は無いです。
R-9などのは単機突入にあわせて、信頼性を高めてあるのであの出力を喰うのですが、
もともと波動砲を数回撃つだけなら余裕があるのですよ。
波動砲出力の安定性は必要ないですから。
安全回路と出力の安定化に結構出力を取られていますからね。
良くいうリミッター機構みたいなものです」
「随分出力を無駄にしている回路だと思ったが、そんなに余裕を持たせていたのか」
R機は波動砲とフォースを主力としていて、どちらが欠けても任務遂行は難しくなる。
なので、メイン武装である波動砲には焼きつきや暴発を防ぐためにリミッター機構が取り付けられていた。
物理衝撃に反応しチャージしていたエネルギーを自動的に拡散させる機能や、過重チャージを避ける回路だ。
大筋を決め、続いて細かい話を詰め切った二人は頷き合って分かれた。
「では、俺達は最前線で動くように、足回りとマニュピレータを弄くる」
「ええ、では我々は波動砲とその他の部分ですね」
「ああ、任せた同士」
「ええ、我々はPOWを世間に広める同士ですから」
***
「どうしてこうなった……」
年かさの整備員が呟いた言葉は全員の心の声を代弁していた。
そこには、数ヶ月前にTeam R-TYPEに預けたダックビル……だったものがあった。
装甲や足回りこそ従来のままだが、波動砲用の機構が取り付けられ、
さらにはフォースコンダクタと思しきものが取り付けられていて、
その先端から少し離れたところを立方体の光跡を浮かべるフォースがゆったりと浮かんでいる。
ダメ押しで、天井から垂らされたスクリーンには波動砲の試射映像が映っている。
「……たーまやーって感じですね」
「カーニバル波動砲って、どうみても花火だな」
「なんでフォースが付いているんです。あとビットまで」
唖然として、据わった目でスクリーンを眺める整備員達の横で白衣の男が軽快に笑う。
「はっはっは。ちょっとやりすぎましたね。
R機って軍部が色々イチャモン付けてくるから意外と自由にできないのですよ。
こっちは自由研究ですから色々考えていたら楽しくなってしまって」
「で、こうなったと」
「ええ、一応改良ということなので、主機とか装甲、足回りは手をつけていませんよ」
整備員達は思いだした。
自分達は決められたスペックの中で最高のパフォーマンスを出すことが仕事であるが、
Team R-TYPEはスペック自体を弄くる連中であると。
「こうなったら我々も前に進むしかないな」
「いっそ改造しまくりましょう」
「短期間なら飛べるようにしましょうよ」
「マニュピレータの感度ももっと上げて、人とかを摘みあげられるようにしてみよう」
諦めと、無理やりな前向き思考のもと、明らかに本来の目的にはそぐわない自走コンテナが出来上がっていった。
この後、暴走しすぎたため軍部にこっぴどく叱られた整備班であったが、
Team R-TYPEの一部などから(ネジの緩んだ)同士として受け入れられるようになる。
この騒ぎの中、Team R-TYPEの一人が「マニュピレータ何かに使えないかな」と呟いていたり、
叱りに来たはずの軍の開発局の人間が「戦車もありだな」だなどと発言したのは、また別の話。
次は最後の台詞の人の話