TP-1 “SCOPE DUCK”
南半球第一宇宙基地の近郊にあるTeam R-TYPEのオフィス。
といっても研究ではなくTeam R-TYPEの中でも事務方の中枢である。
昔は研究区もあったのだが、フォースの危険性から居住区などとは隔離されたため、
このオフィスではもっぱら予算計画や、研究方針の決定、軍部や政府との調整が行われている。
事務屋が多いのだが、Team R-TYPEの権力中枢でもあり、
Team R-TYPEが半独立組織として自由な裁量を振るう上で、必要不可欠な部門だった。
そのオフィスの一角で、スーツを着た男性と白衣を着た若い男が話し合っている。
「たしか僕は学会に寄ったのですが、なぜ呼び出しを?」
「ちょうどいい機会だったからな。研究屋は没頭すると連絡も取れなくなるし。
……見せたいのはこれらだ。軍の開発局の連中と整備が作った」
「R機……型戦車? こっちは自走式支援機? いったい開発局や整備はどうしたのです?
整備は元々そのケがあったとしても、開発局までイカれたのですか?」
写真やデータを見せてくる上役とデータを見比べて呆れ顔をする白衣の男。
白衣の男がデータの詳細を見ながら沈黙をしていると。
上役がこれらの機体について断片的に話し出した。
「流行っている……ですか?」
「これらの特徴は、R機であること、ローコスト、既存の機体からの改造であること、
そして重要なのが局地戦用であることだ」
「なるほど、TW-1ダックビルは整備が前線に出るような非正規戦を睨んでいるし、
TW-2キウイ・ベリィも陸戦用ですね」
「支援機で局地戦用。これが今のトレンドらしい」
「その様子ですと、我々も乗ってみるとか?」
「その通り。我々Team R-TYPEが軍の開発局や整備に負けるわけにはいかない」
そっとため息をつく白衣の男。自分に振られたこの件が回避不可能であると悟って、
自分の開発室に帰って案を検討します。とだけ返答し、その場を辞した。
***
「初めから作る予算は下りないな」
「ああ、ローコストが前提条件だからな。既存の機体を改造するということにしておこう。
まぁ、徹底したコスト削減に挑戦してみるのも一興だがな」
「既存の機体……。何かいいのあるか?」
「TP-1はどうです? POWの前案の索敵機ですが、企画だけで計画が倒れたので、
機体番号だけで実際には存在しません。これなら好き勝手に出来ます」
「それでいこう。いかにTP-1をローコスト機に仕上げるかの挑戦だ!」
コストを気にしない研究を続けてきたTeam R-TYPEでは目新しい条件に思えた。
彼らから見れば、ローコストという条件は、パズルのような感覚だったのだ。
しかも、欠番の機体とあって結構好き勝手にできるらしい。
ちなみにTP-1はダックビルから派生した索敵機として計画されたが、
索敵機としては同時期にR-9Aアローヘッドをベースに開発され、
早期警戒システムを装備したR-9Eミッドナイトアイが非常に優秀であったため、
計画倒れに終わり、幻の機体として機体番号だけが残っている。
TP-1を弄り倒して、趣味……もとい、技術開発のために開発するのだ。
その後のコンセプトを検討したところ、局地戦用の安価な索敵機ということに落ち着いた。
ミッドナイトアイは本来管制機であり、その情報処理能力のために高価な機体である。
しかし、実際には強行偵察任務に出ることが多く、未帰還率が高い。
パイロットの間で紙装甲と呼ばれる原因はこのあたりにある。
実際にはR-9Aアローヘッドの系譜であるR-9系列機の耐久性などは大体同じなのだが、
ミッドナイトアイは武装の貧弱さからバイドに囲まれることが多く、良く撃墜されるはめになる。
(R-9系でも後年開発されることとなるR-9DP系列パイルバンカーシリーズなどは別格)
これは運用上の問題であるが、前線偵察に向いた廉価な機体が無いというのがそもそもの問題である。
と、そのようにTeam R-TYPEは理論展開し、開発枠を獲得した。
***
「ローコスト、ローコスト。大元はダックビルを使うしかないですね。R型フレームは高いし」
「ラウンドキャノピーも取っ払っちゃいましょうよ。旧式の操縦席で十分でしょう?」
「戦闘用マルチセンサーも要らないですね。使い潰す予定の現地索敵なら、
データ収集も光学、赤外線、バイドセンサーで十分でしょう。ターレット型でいいですよ」
既存の機体、既存の技術でどこまで、安価に新機体を作り出せるか。
このくらいの悪条件なら鼻で笑い飛ばして、喜ぶようなマゾっ気が無くてはTeam R-TYPEではない。
高価なラウンドキャノピーやコックピットを廃し、それに付属する計器類や操縦システムも切る。
そうなれば必然とローテクなカプセル型のキャノピーとなった。
「ミッドナイトアイとの差別化に二脚式にしませんか。やっぱり二脚メカも作ってみたいです。
牽引トレーラーであるゲイツは四脚ですが、あれの脚は局地向きです。
あの構造を参考にすれば開発も簡単ですしコストも浮きます」
「ゲイツってモリッツGを牽引していた奴だっけ? 」
端末にR-9A2デルタやR-13Aケルベロスと追いかけっこをしているゲイツの映像が映る。
アングルからしてRX-10アルバトロスのカメラの映像だろう。
他の末端には基礎設計図やらなんやらが映し出される。
白衣の開発者の一人が逆関節の脚部案をサラサラと書く。
そうして、Team R-TYPE本気のローテク機体は出来上がっていく。
***
「硝煙の匂いがしそうな機体ですね」
「どういう意味だ?」
「なんか前世紀的な感じを受けるので」
「ああ、ターレットスコープの所為だな。通常R機の外部センサーは小型だし、
マルチセンサー化しているからな。しかし、火薬式の武装は付いてないぞ」
コックピットの前部に取り付けられた回転式の外部センサーを指す。
ダックビルではR機型のラウンドキャノピーがあった場所は、
POWの様に球状に丸められており、むき出しのセンサーが円盤の上に3つ取り付けられている。
小さな駆動音がして三つのセンサーが切り替わるようになっていた。
「うーん、量産機っぽくなると思ったが、ローコストというよりはローテクって感じだな」
「キャノピーは開きっぱなしか?」
「いや、そもそも無人なんだ。有人タイプにしたければ、裏側に操縦席もつけるが」
「光学スコープって……必要か? 望遠レンズとか骨董品のような気がするぞ」
「要は余り部品で出来たやつだからな」
機体から骨組みも露わな逆関節の付いた2本の脚部が伸びており地上機として走行できることを示している。
ターレットという前時代染みた代物は、資材庫の在庫一掃セールを利用したものだ。
また、POWアーマーやダックビルを思わせる球状の装甲を持っているが、
基本的には無人機を想定しているので、計測機器類に保護機構は無い。
最低限の機能のみを備えたTP-1は無骨な外見に収まった。
ただし、無駄が無いという意味ではなく、無駄の塊の様な機体なのであるが。
「なんか、デジャヴを感じる機体だな」
「ダックビルの装甲をそのまま流用だからじゃないですか?」
「いや、もっとなんか、こう面構えが何かに似ている」
「面構え? あのターレットスコープがゲイツの砲台にそっくりなのですかね」
「……そうかな。なんか違うような気がするが、まあどうでもいいや」
***
TP-1スコープダックが完成したが、あまりに特異な設計思想と、
そのあまりにもインパクトのある形状から話のネタとしてもてはやされたが、
歩行型の偵察機が活躍する場面など限られ、鉄くずと呼ばれる羽目になった。
やはり必要性ではなく、流行りという浮ついた根拠で始められた開発は、
Team R-TYPEでは驚異的な低価格を誇ったが、如何せん活躍の場がなく、
再び歴史の闇に葬り去られ、無かったことにされた。
あらゆる研究が暴走するTeam R-TYPE
ここはバイド戦役が産み落とした22世紀のアウシュビッツ
B-1Dの機体に染みついた波動の残り香に惹かれて、海鳥達が集まってくる。
次回「夕暮れ」
黄昏に飲む地球の水は苦い