・TL-T “CHIRON”
散乱するメモリーチップ、所狭しと置かれた端末、大型の機器類、脱ぎ散らかした白衣。
完全に汚部屋であるが、そこここに散らばるアイテムが研究施設ですと主張していた。
その部屋の隅で、端末のキードードを叩く、気だるそうで無精ひげを生やした中肉中背の男と、
床に座り込みながら機器の調整をする、眼鏡を掛けた細身の男がいた。
首から下げたセキュリティカードにはそれぞれ、メイロー、フェオと書いてあった。
両方とも肩書は研究員……つまり下っ端だ。
彼らが無心に何かに没頭していると、突然扉が開き、白衣を着た血色の悪い男が入ってきた。
「やばい、皆聞いてくれ」
「うっ、班長。顔青い上に酒臭いぞ」
「どうしたー。二日酔いで、重要書類にゲロぶっ掛けたか?」
メイローが鼻を摘まみながら嫌な顔をすると、フェオもはやし立てる。
この3人がこの研究室の主である。
「いや、昨日の会議の後、軍部のお偉いさんと飲む事になったんだけど、
そこで昔のアニメーションについて、意気投合しちゃって…
そっから記憶無いんだが、さっき気が付いたら、この構想書もって、床で寝てた」
「ん~。人型R機構想書。人型ってお前いつの時代の……うわ、これ決済印付いてるぞ!」
「メイローそれ貸して。……マジだ、ありえねぇ。決済印ついたら仕様書だけでも作らなきゃやばいだろ」
「酔った勢いで、上に構想書出すとか班長やるな。それで意見が通るなら俺も次から決済は酒の席で取る」
ふざけたメイローとフェオが口々に言うと、リーダーであるブエノがひとしきり黙ったあと、二人に静かに問いかけた。
「俺……やっぱ人型の仕様書作らなきゃダメか?」
「そらだって決済印ついてるじゃん。引き戻しとか許されないだろ。
処理済だから、引き戻すなら相当上の人に頼まないと無理じゃね」
「……」
フェオが良い笑顔で止めを刺すと、二日酔いで青くなっている研究班長ブエノは沈み込むように倒れた。
***
「と、言うことで人型R機の検討会を行います」
リーダーブエノが3時間ほど放置されたあと勝手に復活し、唐突に二人に話しかけ始めた。
「唐突じゃない。なんで、ホワイトボード持ってきてんのさ」
「良い事に気がついたなフェオ。班長である俺が決済取ったので、この件は自動的にウチの班の連帯責任になります」
「ふざけんな、俺たち巻き込むな」
「聞こえんなぁ。大体お前ら俺すべてを押し付けて、面倒な会議欠席しやがったろ。その報いだ」
「酔った勢いで変な書類作って、挙句にゴーサインまで貰ってきたのは自分のミスだろー」
「だべっていても始まらん。さあ、方向性を決めるぞ。ブレインストーミングだ!
人型兵器といって想像するものを言え。メイローから交互に!」
強引に話を進める班長。とりあえず何でも良いから案を出させる事にしたようだ。
「無駄に足がある」
「機動兵器なのに超近接武装」
「センサー類は頭部につける」
「コックピットは胸部」
「精神論でリミッターが外れる」
「変形する」
「宇宙でチャンバラ」
「恥ずかしい二つ名がつく」
フェオとメイローは完全に適当に思いついたことを並べ立てていく。
そのいい加減差にブエノがまずキレる。
「誰がダメだしをしろと言った!しかもそれほとんど昔のアニメーションの事じゃねーか!」
「人型兵器なんて真面目に議論する馬鹿は居ないから。発想が偏るのは仕方が無い」
「お、じゃあ真面目に議論するの、俺ら世界初じゃね」
「もういいや、仕様書だして突っ返されれば終わるだろう。
とりあえず、議論だけ詰めるぞ。人型兵器を想像して。はいもう一回メイローから」
完全に彼らの頭は、もろもろの常識を考えて実現されないであろう案を上げて、
却下を食らってこの話をなかったことにする方向で定まっていた。
が、もちろんそんなことではやる気なんて出るわけがなく。
「軍人より素人のほうが操縦が上手い」
「軍人の方は後で訓練施設送りだな。何故か量産機より試作機の方が強い」
「むしろ本当の試作機は不具合の数が尋常じゃないんだがな。最後は愛でどうにかなる」
「ちょ…バイドに愛を説くのかよ。さすがメイロー。あ、設計者は父」
「フェオ…俺ら子供いないから無理だろ。家族…特に兄弟は裏切る」
「甘い。裏切るが、終盤に古巣に戻ってくる」
「裏切って戻ったら普通死刑だろ。むしろ固定武装を使わず殴る」
「一発でマニュピレータがイカレそうだな。無駄に感情的なAI」
「ギャルゲーの仮想人格インストールしとけ。必殺技が音声認証式」
「おい、波動砲撃つたびに叫ぶのかよ。物量には根性で勝つ」
「おまえら、これまとめて提出するんだぞ!少しは使えるのをだせ!」
「誰の所為だ!」
「班長も意見だせよー」
…
…
…
***
1時間後ぐったりとした三人。
ホワイトボードは文字で真っ黒になり、所々に丸や×がついている。
「なぁフェオ、俺たち一日かけてなにやってんだ」
「言うなよメイロー、班長、俺達帰って良い?」
「仕様書の確定まで帰さん。この案の中から怒られない程度で、実現不能と思われるものをチョイスする。そうすれば課長に書類を突っ返されて終りだ」
「もういいから、とっととやろうぜ」
「じゃあこれとか」
「これ無理過ぎて良いんじゃない」
「さすがにそれは開発課長に怒られるだろう」
「どうせマトモなのないだろ」
「あ、これ使える」
…
…
…
***
“課長 レホス”と書かれた研究室の執務机の前には、ブエノ班長が立っていた。
その対面の席には30代くらいの男。仕立てのいいシャツ、折り目正しいスラックス、ブランド物の靴下。
そしてその上から汚れた白衣を着て、履き潰したサンダルを履いている。
課長席に座っているから彼がレホスだろう。
レホスは仕様書と書かれた書類を見ている。
Team R-TYPE研究施設内では常に仕事がしやすいように、空調が作動しているはずであるが、
ブエノは汗をだらだらかいて、青い顔をしていた。
「ふうーん、で?これが仕様書?‘局所戦闘用人型R機について’ねぇ。」
「は、はい。その…これは…」
「可変機、背面スラスター、武装はビームサーベル・鞭・背負い式波動砲…」
「………」
「音声認証式コマンドってなんのため」
「え?あー、えーと、それは、あれです。今のR機のように全てパネル選択式にすると、手が足りなくなります。音声認証式にすれば、操作の簡略化に繋がります。」
「ふーん…」
「…(やばい)」
「この外付け集中センサードームっていうのは何さ?」
「今のシステムですと、センサー類に不備が生じた際に、
機体を分解してそれぞれのセンサーを取り出す必要があります。そこですげ替えが簡単な外部ユニットとして取り付けます(誰だよ頭付けろって言った奴)」
「これは何?」
「これはアレです。えーと…」
「こっちはどうすんの?」
「あー、あそこの技術を引っ張ってきて…」
「何これ?」
「うーあー…」
…
…
…
***
自分達の研究室で、寛いでいたメイローとフェオ。
そこに、息も絶え絶え帰ってきたのは彼らの班長だった。
「やっと終わった…」
「お、班長帰ってきたのか」
「班長、ドアの前に寝られると邪魔なんだけど。踏むよ」
「ふっふっふ…レホス課長の質問地獄に耐えたぞ」
「……これはもうダメだな。おいフェオ、班長はほっといて飲みに行こうぜ」
「えー、俺外嫌いだし。外でなくても、精製水に炭酸ガスを注入した奴で、エタノールを割ればいだろ」
「何だその不味そうな酒は。アルコールを摂取すればいいってものじゃないぞ」
「体に入れば同じ」
「ほう、ではそんなフェオ君にエタノールを直接注射してやろう」
「ちょ…ばか、注射器でかい。99%エタなんて死ぬから」
「大丈夫だって、実験用の特級試薬だから、変な不純物ないから」
「ホントに血管注射は洒落にならん。メイロー迫ってくんな」
平和なじゃれあいをした後、フェオとメイローは復活する気配の無い班長を残して帰って行った。
***
翌週。再び課長室。
課長のレホスと班長が再び向かい合っていた。
「あのレホス課長。なんですか?これ?」
「ん?命令書」
「…なんのです?」
「この前、君が持ってきた仕様書あったでしょ。ちゃんと上に上げといたから」
「……」
「顔が青いけど、どうしたのかなぁ。まさか課長である僕の頭越しに意見書を通した挙句に、できないとか言わないよねぇ?」
「い、いえ、そのもちろんです!」
「あ、君の班は人型R機開発班ということで専属にしたから。あの仕様書盛りだくさんだからねぇ。
一機じゃ盛り込めないだろう。系統化することになったから。計画書よろしく」
***
「スミマセン」
「こんのアホ班長っ!頭悪いぞ」
「人型R機開発班…うわぁ、マジかよ。俺らがやんのこれ」
班長が課長の部屋から戻ってきて10分後、
土下座する班長と、怒り狂うメイロー、ドン引きするフェオの姿があった。
その6ヵ月後…
人型可変機体のプロトタイプ
TL-T ケイロンが完成した。
前に別のssを書いている時に突発的にギャグが書きたくなって書いたものです。
今見るとかなりはっちゃけていますね。
もともと、見切り発車で書いていたので初期の方は順番がバラバラです。
後半はゲームシステム上の開発順に書いています。