R-9E2“OUL-LIGHT”
Team R-TYPE開発課長室では、第13研究班が雁首揃えて、課長席に企画書を出していた。
課長のレホスは企画書を興味なさ気に流し読みすると、その意図を確認する。
課長席の前に並ぶのは、以前ミッドナイトアイの改造を行ったアルトマン達だった。
軍部からの面倒な仕事を無理やり振られただけあって、彼らはTeam R-TYPEの非主流派なのだ。
「でぇ、無理やり改造なミッドナイトアイの変わりに、後続機を開発したいってことー?」
「「「はい」」」
「何でまた支援機なのさ」
「戦闘機は他の班でも考えられております」
レホスは書類を読む振りをしながら考える。
Op.Last Danceの目的自体には偵察機は必要ない。
このミッションを完遂するにはあらゆる困難が待ち受けていて、R機も壁に当たることが予想される。
その壁を乗り越えるR機を開発し、R戦闘機の可能性を余さず取り込んでゆくことが、
Team R-TYPEとしてのこの作戦の意義だ。
しかし、発展性のない技術であると後代に伝える盲腸技術としてはいいのかもしれない。
そして、Op.Last Danceの前哨戦として行われたミッドナイトアイによる強行偵察。
それは未帰還が前提の作戦であり、実際に機体が帰ってくることはなかったが膨大なデータを残した。
そのデータを元に、Op.Last Danceの進攻ルートが検討されている。
情報には精度が求められる。バイド情勢というデータが定期的に欲しい。
Rの系譜としては役目を終えているが、軍事的には意味がある。
そして、今後のデータ取りが目的と割り切れば、これも有用な研究かもしれない。
レホスはそこまで考えて、もう一度目の前の冴えない三十路男アルトマンの言葉を聞くことにした。
「で、どういうのを作りたいのさぁ」
「これをご覧下さい」
「“小群バイドによる状況不明の背後浸透”……亜空間潜行だろう?技術的には珍しいことじゃないし、
小型バイドの大きさで自由にやってのけるのは脅威だけれど、基地建材の特殊化で対応したよねぇ」
「ええ、しかし現場……特に前線基地守備隊の間では、壁をすり抜けてくるバイドとして問題となっています。
今は小さい群れでしか確認されていませんが、これからもそうだと言う保障はありません」
「まぁいいか。とりあえず捉えたバイド体の生態標本預けるから、亜空間潜行対策機をやってみてよ」
「はい、わかりました」
ぞろぞろと帰っていく白衣たち。
レホスは何箇所かに連絡を入れて、標本の移動を命令した。
ディスプレイ表示にRの系譜を呼び出して眺める。
機体番号で出来たその樹形図は未だ低木程度の高さしかなく、枝葉が茂るのはこの先のようだ。
「Project Rの役には立たないかもしれないけど、軍のご機嫌取りには使えるかもしれないしぃ。
上手く当たれば盲腸技術じゃなくて、パラダイムシフトが起こるかもしれないしね」
***
課長室を尋ねた日から、アルトマンら第13研究班は方々に散って情報収集を行っていた。
現場のパイロットや基地管制員、宇宙艦隊、軍開発局まで訪ね歩き、話を聞いている。
こういう泥臭いことを是とする研究斑なので周囲から浮き、変わり者扱いされるのだが、
一般にはこのような行動こそ、職人の鑑とされているのが皮肉だ。
ここからもTeam R-TYPEがいかに捻くれているかわかる。
捻くれ過ぎていて、いっそ一週廻って清清しいくらいだった。
そんな事をしながら第13研究班の班員会議が開かれた。技術方針の決定だ。
「さて、今までの調査から研究方針を決定する。開発意見を」
「はい。基地からのデータですが、亜空間潜行はバイドにとっても負担の大きい技術のようです。
亜空間潜行を行うのは大体において小型バイドで、しかも小規模群に限られます。
また、特殊建材や高エネルギー体、基地動力炉やR機などは透過できないようです」
「私からも。艦隊からの情報ですが、どうやら亜空間での行動はそうとうエネルギーを喰うらしく、
亜空間から現れたバイドは直ぐに捕食のような行動を示し、通常バイドよりも航続距離が短い模様です。
また、亜空間にいるバイドとR機などが近座標に入ると亜空間からバイドがはじき出される現象も報告されています」
「軍開発局では、かつて亜空間武装の試験を行っていたようです。
といっても亜空間潜行バイドを射撃する物ではなく、通常爆薬を機雷のように亜空間に潜ませて、
通常空間のバイドらの進路において置く性質のものです」
「どうなったんだそれ?」
「亜空間に送り込むことは成功したらしいのですが、不安定な亜空間で流されたり、消滅したりする。
要は欠陥兵器だそうです」
その後も、報告が続き1時間ほど経った所で、アルトマンがまとめに入る。
「うーん。亜空間潜行の問題は知らない間に戦線を抜かれることだな。
小規模群でも挟みうちにされればそこから戦線が崩壊する」
「実際にいくつかのポイントで被害を出しています。R機は後方からの攻撃に弱いですからね」
「亜空間潜行するバイドとは嫌らしいですね。
R機でもカタパルトやブースターで亜空間潜行は出来ましたけど、任意の地点で自由自在にとなると、難しい」
「今までの報告から不意打ちさえ食らわなければ、対処方があるって事は分かった。
攻撃力はなくてもいいから、亜空間を探査できるセンサーが必要だ」
「今まではカンとか言っていましたね。なんとなくバイドの数が少なすぎるから身構えていたとか」
「カンじゃ困る。センサーで座標を特定しないと」
色々と案が出ては消えて行くといった事を繰り返し、30分くらい経過した頃。
「軍開発局でやっていた機雷みたいなのを利用して、亜空間でソナーみたいに出来ないか?」
「あー、亜空間で音波は伝わらないので何らかの別のエネルギーによる探査方式が必要になりますが」
「それだったら、低位エネルギーを発信する爆薬のような物を作りましょう」
軍の開発局に聞取りに行った男が説明をする。
軍で開発失敗した亜空間機雷は、通常爆薬を用いた物であったが、
その中で通常空間に微弱な影響をもたらす失敗作があったという情報だった。
それを応用して、亜空間の索敵が可能ではないかというのだ。
亜空間に低位エネルギーを発するソナーブイのようなものを設置し、通常空間でその余波を受け取る。
その情報を解析すれば、アクティブソナーのように亜空間にいるのかいないのかを探知できるのではないかと。
亜空間と通常空間はある面では密接に寄り添い、ある面では全く隔離されている。
通常空間で発射した通常実弾や波動砲、レーザーは浅亜空間に影響を及ぼさない。
ある種の電波は、通常空間から亜空間に一方的に流れていたりもする。
亜空間の方が順位の低く不安定な空間であるため、高位空間である通常空間から情報が流れるのだ。
しかし、逆に亜空間は不安定かつ低位なので、亜空間から通常空間はまず情報を手に入れられない。
入ってみるまではどうなっているのか分からないというのが常識だった。
開発局では失敗作扱いされたが、亜空間から通常空間に影響を及ぼすエネルギーがあるのなら、
亜空間の情報を通常空間に持ってくることが可能になるのだ。
Team R-TYPE第13開発斑の研究員達は喰いついた。
その場で直ぐにR-9E2(仮)は亜空間ソナー(仮)の搭載機として開発することになっていた。
といっても、まだ機体開発許可が降りていないので、まずはソナーの研究を始めることを決めた。
***
2週間後の課長室。部屋の内装は機能的であり、仕事場といった風で、
部屋の主の着る糊の利いたシャツやスラックスも合っている。
その分、レホス課長のくたくたで汚れの目立つ白衣と踵の潰れかけたサンダルが悪目立ちしている。
デスクの前に立っているのは、今日は13斑のリーダーアルトマンだ。
「でぇ、亜空間ソナーができたと。ソナーブイ形式じゃなくて、ソナー弾なんだね」
「はい。ソナーは初期爆発で亜空間入りし、次の爆発で亜空間内をエネルギーが駆け巡って、
その一部が通常空間に漏れ出ます。それを検知・情報処理することによって、
亜空間潜行している一定の大きさの物体であれば、探知可能であるとの結論が出ました」
「実験に付き合った、巡視艦隊からお叱りの意見書が入っているんだけど」
「……実験に失敗はつき物です」
目をそらすアルトマン。
亜空間ソナーの実験中に炸薬量を多く見積もりすぎ、
通常空間に響いた余波で巡視艦隊の人員を昏倒させたのだ。
亜空間から通常空間への情報は基本的に微弱なエネルギーであるが、
一部は音波の形を取り、範囲内にいる人間の耳に直接届く。
実験に協力してソナー弾を打ち上げた巡視艇では、至近でその影響を受け、
防ぎようの無い爆音によって前後不覚に陥る乗組員が続出したのだった。
「まあいいや、R-9E2として亜空間ソナー装備機として開発してねぇ」
「はい。実は、もう素案ができていまして……」
「我慢が出来ない子がいるなぁ。まあいいや。そっちの書類頂戴」
「これです。R-9Eの強行偵察型を基礎としています。武装の強化は余りしていませんが、
レドームを改良し、亜空間ソナーの情報の解析機能を持たせています。装甲は……フォースに頑張ってもらいます」
「ふーん。まあ、強行型ベースならあまり心配は無いか。名前は?」
「R-9E2アウルライトです」
***
アウルライトは亜空間潜行バイドに苦慮していた軍部によって早急に配備されたが、
その亜空間ソナー弾によって、アウルライトは爆音機として知れ渡るようになり、
味方機から、いなきゃ困るけど近づきたくないR機として知られることとなる。
印象が薄すぎてTACTICSネタに走りました。