プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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R-9ER“POWERED SILENCE”

R-9ER“POWERED SILENCE”

 

 

 

「対人戦を睨んで……ということですか?」

 

 

Team R-TYPEの開発課長室で課長レホスの前に立つのは

E系列機の開発を行っている第13班リーダー、アルトマンだった。

R-9E3スイートルナの最終調整後に課長室に呼び出しを受けたのだ。

アルトマンは呼び出される様なことをした記憶は無いし、

そもそもTeam R-TYPEの主流派では、E系列はあまり注目されていないはず。

そんな事を考ながら課長室に来たのだった。

 

 

「対人っていうのには少し語弊があるんだけどー、どちらかというと対R機ってことかな」

「対R機……治安維持ということですか?」

「通常の治安維持自体は各都市が行うからねぇ、通常外ってことで」

「公安関係ですか」

「そう、R機は高価な兵器だけど、これだけR機が普及すれば外に流れる機体だってあるからぁ、

それを使った重大犯罪だって起こりえるって事だよね」

 

 

もっともらしい理由であったが、本当の所は軍の考えだった。

軍でも大多数は強化され続けるR機を、人類の剣として頼もしく考えていたが、

一部では、R機が主流となれば何時の日か人類自身にその切っ先が向けられるのではないか。

バイドに取り込まれた機体だけでなく、バイドがいなくなれば人類同士で争い始めるかもしれない。

そんな危惧があった。

 

 

対バイド戦ということで、挙国一致体制が取られ市民の不満度も抑えられているが、

バイドという重石がなくなればクーデターだってありえる。それほど人類は消耗している。

その想像は有史以来の人類の歴史を考えれば、むしろ必然とさえ言える。

そう考える軍人や政治家のグループもいた。

 

 

彼らはそういった事態に備えて、

対バイド戦にはあまり必要ないともいえる情報撹乱戦法を作りたかった。

対人類戦では情報戦や搦め手といった手段が有効だからだ。

これ情報戦機を作っておけば、対人類戦という有事でも連合軍・政府は優位に立てる。

バイド戦の最中であり余力も殆ど無いのだが、こういったものは必要になってから作っても遅い。

なので、余力の許す程度、つまり既存機の改良開発と言う形が取られた。

 

 

「オーダーはE系列を基礎とした電子戦機ですか」

「ええ、対バイド戦の影響で殆ど陽の目を見ない研究ですから進んでいないのですよぉ」

「分かりました。とりあえず持ち帰って班で揉んで見ます」

 

 

***

 

 

「とうワケなんだが」

 

 

13班はR-9E3スイートルナの完成を持ってちょっと浮かれていたのだが、

リーダーからのいきなりの召集で白衣も着ないままに、集まっていた。

アルトマンは会議室を借り出して13班の班員に説明を行った。意見を募るためだ。

 

 

「いままでのは実益優先といった感じでしたが、今回はなんかドロドロしていますね」

「でも軍部から正式な依頼だから、ただやりませんって訳にも行かない。少なくとも明確な理由が必要だ。

でもうちの班は妙に軍部寄りになってしまっているから、そういう意味でも断り辛い」

「ですよね。軍の開発局とか行っても、なんかうちの班だけ身内みたいな扱いになっていますものね」

 

 

デーナーがアルトマンに開発方針を聞き、愚痴をこぼす。

第13斑は日陰者でも良いからと、今まで権力などから離れて研究してきたのが、

ここに来て突然陰謀渦巻く依頼が飛んできた。正直不安が大きい。

Team R-TYPEとしては自分達の利益になら無い開発要請を、

戦力外の13班に振っていたのであったが、

13斑はE系列機の改良を通して、現場や軍の開発局に出入りしていたため、

13班と軍の間に謎の連帯感が生まれていた。

Team R-TYPEの中では話が分かる(まともな会話が出来る)連中というわけだ。

こうなってしまえば話も断りづらい。

今回の話だってTeam R-TYPE上層部経由で話が来たが、

軍としては13班決めうちで話を持って来たに決まっている。

アルトマンは断れそうにないと、内心でため息を付くと、話を元に戻して意見を募った。

 

 

「どうだろう。電子戦機能の拡張が主題なのだが」

「本格的なAWACSを作りたいのですね」

「ミッドナイトアイ、アウルライト、スイートルナは情報収集にのみ特化されているから、

それに対して、情報撹乱などの支援機能の拡張を図る方向でしょう」

「そうなのだが、どうしたものかな」

「こういう技術ってイタチごっこですよね」

 

 

班員の言葉にため息を付くアルトマン。

電子戦では味方を有利に、敵を不利に、それぞれ手を加える必要がある。

無差別でいいのなら、通信その他の機能を妨害するジャミングブイでも浮かべれば事足りる。

しかし、それでは困る。

それでバイドの群れの統率は乱せるだろうが、そんな物を人類の制宙圏に大量に浮かべれば、

人類は自分達の宇宙を飛行することも困難になってしまう。

なので、敵味方を識別して選択的に効果を発揮する機能が求められる。

だが、選択的というのはすり抜ける手段が存在すると言うことに他ならない。

つまり、技術上のイタチごっこが始まるのだ。

 

 

「ふう。ため息ばかり付いていてもしかたない。具体的な方法を詰めよう」

「そうですね。この場合、仮想敵はE系列機ということでしょうか」

「そうだな、敵もR機で索敵している状態で、それを撹乱する状況がもっともありえるな。

あとは、基地レーダーや戦艦の索敵網も仮想的になるな」

「R機はある種の電波の反射波を捕らえます。これを無くすだけでもかなり良くなるのでは」

「ステルスか。衝突事故が増えそうだな」

「イタチごっこだし、これくらい軍部でもやるだろう。もっと根本的な案は?」

 

 

R機は衝突事故(主にPOWアーマーとの)が絶えないため、

故意にレーダーには映りやすくしてある。

バイドは同じく電波の反射を捉えるが、若干だが生体反応や敵意といった、

どうやって感知しているのかよく分からないものに反応する。

物量で壁のごとく押し寄せるバイドには、レーダーに対するステルス性というのは

あまり効果的とは言えない。

それくらいなら事故を減らしたり、救助の助けになるために

盛大レーダーに映るR機の方が都合がいい。

 

 

ステルス機は、レーダー波の反射を極力抑えるための材質塗料などを使用し、

レーダー波に捕まっても相手の方に反射しないように、角ばったデザインをとることが多い。

R機にそれなりの愛着を持つアルトマンとしては、

カクカクのデザインのR機は作りたくなかった。

それに、周囲の機体も覆い隠すのには自身だけがステルス機であっても意味が無い。

 

 

「ジャミングでレーダーを欺瞞するですかね」

「それって機体数は誤魔化せるかもしれませんが、そこに居るってことはバレバレになりますよ」

「センサー類さえ誤魔化せば、いないことに出来るんですが」

 

 

R機は高速戦闘を行うため、パイロットは肉眼確認ではなく、内部コンピュータで処理された模擬映像を見ている。

肉眼だと、処理が追いつかず直ぐに事故を起こす為、マルチセンサーで捉えた情報を、

視覚的に処理をしてディスプレイに(後には網膜や脳内視覚野に直接)投影するのだ。

機体側のセンサーさえ騙せれば、光学情報は殆ど気にしなくてもいいということになる。

 

 

「アクティブステルスですかね。逆位相の電波をぶつけて波を消すんです」

「チャフはどうでしょう」

「シンプルが一番対処しづらいです。妨害電波ですね」

 

 

ワイワイと案を上げる一同。

アクティブステルスは周波数、振幅、偏波、角度が同じで逆位相の電波を

打ち返すことにより反射波を相殺して、そこに居ないことにしてレーダーから隠れるもの。

しかし、ほぼ自機にのみ有効な手段で、僚機がいると非常に計算が煩雑になるため、却下された。

 

 

チャフはレーダー波を乱反射する物体を撒き散らしレーダーを撹乱するもの。

何処に居るのかは分からないが、その辺りに何かいる(いた)のは露見するため、

緊急時以外では使いにくいとして却下。

あと、地球上では直ぐに地表に落下し処理にも困らないチャフだが、

宇宙空間では無限に拡散していくため、自軍の勢力圏で播くのは非常に嫌がられる。

 

 

普通に妨害電波を発して、レーダーをノイズの海に沈めてしまう方法が採用された。

機体はあまりいじっていないほうが使いやすいと言うことで、

R-9E3スイートルナを基礎として用いることにした。

 

「形状ですがどうしましょう? レドームはそのままですか?」

「機器を積み込む必要があるのだが、どう考えても容積足りないから

レドーム内にもって行くしかないな」

「この機材だと円盤形じゃとても足りません。増槽みたいなのつけます?」

「ジャミングポットをぶら下げてという感じで」

 

 

***

 

 

13班のリーダーアルトマンは軍との最終打ち合わせに出ていた。

軍部の技官や高級士官から仕様について一問一答のようなものが行われている。

 

 

「電子保護された味方機は敵からどう映るのか?」

「ロックオンした自機周囲の味方機を電子ノイズに包むことで

外部からは索敵不可能領域として認識されます。つまりレーダー上では見えません」

「ノイズの中では味方機もレーダーが効かなくなり、目を奪われるのでは?」

「親となるこの機体R-9ERからデータを送信してもらい外部を見ることが出来ます。

ただしリアルタイムで膨大なデータをやり取りするので、その間R-9ERは行動が制限されます」

「具体的には?」

「背面スラスターのバックファイヤなどは他のセンサー類に観測されやすいので、

基本的にはザイオング慣性制御システムのみを使用して飛ぶことになります」

「隠密行動というわけか」

 

 

不穏な構想の機体とあって、軍のお偉方が主に性能について追求してくるが、

現場代表となっている尉官からも要望が付いた。

 

 

「形状として、現場からはこれ以上増槽のような機構を増やして欲しくないという意見が出ている」

「それについては問題を持ち帰り検討します」

 

 

***

 

 

「それで、形状についてダメだしされたわけですね」

「たしかにジャミングポットを4つもぶらさげたら邪魔そうですよね」

 

 

デーナーともう一人が胃を摩っているアルトマンを慰めるように言う。

冴えない風貌だが真面目に見えるアルトマンの説明により、

軍からは大筋OKがでたが、形状についてだけ駄目出しされたのだ。

苦し紛れに取り付けたジャミングポットをオミットしろという意見だった。

 

 

「いや只でさえバランスの悪いR-9E系列だから、これ以上弄りたくないのに」

 

 

アルトマンの泣きが入る。

R-9ER(案)はミッドナイトアイの側面と後部に銀色のタンクが計4つついている。

明らかに無理やり増やしましたといった体だった。

アルトマンがあれやこれやと考えていると、デーナーがそれに答える。

 

 

「容量が足りない。さすがにウォーヘッドみたいにエンジェルパックにするわけにはいかないし……」

「そもそもコックピット埋めても容積たりませんよ」

「いっそジャミング関係の機器をまとめてしまうのはどうでしょう?」

 

 

デーナーの意見に一瞬疑問符を浮かべる一同。

 

 

「どこにつけるんだ、それ?」

「もちろんレドームに……こんな感じ。ほら支柱もいらなくなったしいいじゃないですか」

 

 

ジャミング機材の容積を収めるために球状に膨れ上がったレドームが、

半ば機体にめり込むような感じで配置されている。

カタツムリみたいな形状になったR機が書かれていた。

しかし、アルトマンやデーナーはやけくそ気味で、他の班員も引き気味だ。

 

 

「なんかあれだけど……機体バランスは第一案よりいいし、これで掛けてみようか」

 

 

この第三次修正第二案は、なぜか軍部の審査と、開発課長レホスの審査を通ってしまい、

何故これが通ったのか? とアルトマンが頭を抱えながら開発する事になる。

 


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