R-9ER2"UNCHAINED SILENCE"
目の前には、球状レドームが押しつぶされ、その他の補助ポッドがもげた状態の
R-9ERパワードサイレンスが鎮座ましましていた。
外部装甲が剥がれたレドームからは内部の繊細な機器が飛び出しており、
顎と呼ばれるコックピット前方に備え付けられた、データ受信補助システムもなくなっている。
コックピット部分も派手にひび割れていた。
「これ、よくパイロットが生きていたな」
「ほら、対人戦を睨んでいるから、外にバイドは居なかったんですよ」
白衣の研究者二人が呆れ顔で呟く。
この機を開発した第13斑のデーナーともうひとり若手だった。
二人とも何度目かになる自分の作品が大破されて戻ってくる状況に呆れを隠せない。
ちなみに、対人戦といってもストライキを起した小さな採掘所で使用されたものだった。
この鉱山はR機や艦艇の素材となるソルモナジウムを産出するが前線近くにあるため、
R機やバイド接近に備えて、準軍事用レーダーを備えていた。
まさに、R-9ERパワードサイレンスのジャミング性能実地試験にうってつけであった。
それに目を付けたTeam R-TYPEの横槍で、そこまで重要施設でもないのに、
鎮圧のためにパワードサイレンスとアローヘッド中隊という過剰戦力が送り込まれていた。
小型の辺境基地なら制圧可能な戦力である。攻撃は流石にしなかったが。
「鉱山の連中びびっただろうな。スト起していたらいきなりR機一個中隊とか」
「まあ、R-9ERの弱点を洗い出すためのテストだからね。中隊単位で隠せないと意味が無いし」
「で、そのテストで盛大に事故を起したと」
もうなんだかな。と言いながらも分析に入る二人。
R機を研究室に運ばせて、独自に被害調査を始めようとしたときに、
事故対策会議に出ていた彼らの班のリーダー、アルトマンが帰ってきた。
「いやーまいったまいった。軍のお偉いさんに怒られたよ」
「あ、会議どうしたんです?」
「いや、状況的にどう考えてもアローヘッド機の過失ですと言ったら、キレられた」
アルトマンから見てそれは当然の原因だったのだが、それで揉めたのは、
簡単に言うと縄張り意識の問題であった。
パワードサイレンスは試作機であり能力評価中なので、所属はTeam R-TYPEに属するし、
パイロットも一応軍人としての身分は持っているが、Team R-TYPEより出向している。
しかし、今回の作戦に同行させられた(どちらが主でどちらが従かは意見の分かれるところであるが)
アローヘッド中隊は軍に所属しているR機隊であり、パイロットも正規部隊の軍人である。
この状態で事故が起これば互いに相手を責めること間違いなしであった。
「まあ、俺達はパイロット連中に嫌われていますからね」
「前線の連絡員は相当気を病むらしいですね。この事故どういうことだったのですか?」
班員の二人が不満げにアルトマンに尋ねる。自分の作品を馬鹿にされてうれしい者は居ない。
「ああ、なんでもジャミング中にアローヘッドがパワードサイレンスを牽引して、
戦闘機動していたら、アローヘッドと衝突したらしい」
「支援機と戦闘機を一緒に考えるなよな……」
「で、進軍速度が低下するのを嫌ったアローヘッド中隊の隊長が、
機動力に劣るパワードサイレンスを牽引して進軍していて“普通に”停止したら
逆噴射が間に合わなかったパワードサイレンスが突っ込んだということだ」
「パワードサイレンスはジャミング中、ばれない様にスラスター類が最低限しか使えないから、
制動が利かなかったんですね」
パワードサイレンスはジャミング中非常に機動力が落ちる。
これは各種スラスター類がジャミング性能に影響を及ぼすためと、
機体制御に使うための容量を喰ってジャミング制御にも当てているためであるが、
もちろん、そんな理由は現場の人間に分からない。
仕様書もパイロット達が読むにしては、非常に煩雑に、分かりにくく書かれている。
Team R-TYPEが詳しく説明しようにも、R機の事となると箍がはずれるこの狂科学者らが、
べらべらと話し出すのを好ましく思う軍人は居らず、結果としてこの仕様は現場に伝わらなかった。
で、パワードサイレンスを牽引したアローヘッドがR機としては
“普通”の戦闘機動を行い、ジャミング制御のため機体性能が落ちていた
パワードサイレンスが止まりきれず、衝突事故を起こしたと言うのがこの事故の顛末であった。
この程度の任務はアローヘッド一個小隊でも可能
(1機でもいけるかもしれない)なところに、
横槍で、無駄に一個中隊を投入することになったばかりか、
お荷物を連れて行かなければならなかったアローヘッド隊の隊員の
精神状態も考慮すべきであろう。
「機体の所為じゃないじゃないか!」
「どちらかというと運用とか、組織上の問題のような……」
「ごもっとも。俺たち第13斑は軍のお偉いさん達の威光もあって
存続していられるから逆らえない。改良しなきゃならないな」
***
宛がわれた研究室に入り、改良案を詰めることにした。
いつもの通り、カフェイン増量コーヒーを入れて席に座るが、
デーナーは不満気であるのが見て取れ、それに対してアルトマンが呆れて突っ込みを入れる。
「……機嫌直せよ。というか、お前らジャミング機の構想を持ってきたとき、あまり乗り気じゃなかったじゃないか」
「リーダー、それでも自分の作品を貶されるのは嫌なんです」
「まあ、愛着を持つのは良いことだよな。で、その可愛い子の改良のために、問題を抽出しよう」
よく分らない概念図が書かれたホワイトボードを引っ張り出してきて、
やいのやいのと、意見を挙げていく13斑。
多くの意見がでてホワイトボードが黒くなるが、更に時間をかけて内容を絞っていく。
数時間後にボードにまとめられた事項は。
・機体機動性能:ジャミング中にスラスター類は使用できない
・ジャミング性能:ジャミング可能空間が狭く、密集隊形が衝突の原因になる
・通信性能:周辺部隊とのコンタクトが悪い
・組織の問題:Team R-TYPEと軍現場との交流の不備、機体データの周知(上層部に具申)
「どんなもんでしょうか?」
「組織の問題はどうにもならないから、上に挙げておくよ。
どうせパワードサイレンスだけの問題じゃないし」
「リーダー、機動性能は上げることはできても、
ジャミング中の機動性能はどうにもならないです。
近距離でのスラスター噴射はジャミングを阻害するから、
ザイオング慣性制御システムで動かないとですね」
バツ印で、ホワイトボードの項目を潰していく開発班。最後に残ったのは。
「結局、ジャミング性能とデータリンクの向上でお茶を濁すしかないか」
はあ、とため息とともに言うアルトマン。
「まあ、もともと問題あったしね。スペック上は大隊規模の隠蔽が出来ると言っても、
実践ではきっと半分以下だしな」
「あの狭いジャミング空間に30機がひしめいた状態で作戦行動をしたら、
絶対に接触事故を起こしますよ。R機で玉突き事故とか笑えません」
大隊(R機30機程度)規模を隠せる性能はあるのだが、
作戦中に綺麗に隊伍を組んでいられるとも限らず、
実際の性能は中隊を隠すのがせいぜいだ。
今回の実験では中隊ですら事故を起した。
なので、空間的な余裕を作り運用しやすくすることになった。
「ジャミングレドームに収まらないが、外付けパーツを取っ付けよう」
「今回は純粋な改良過ぎてなんか……」
「衝突が起こると困るから周囲の機体が近付きすぎない様に相手のシステムを取れる様にしよう」
「強化通信システムを使ってデータリンクシステムの強化やればいい」
「レドームにそんな隙間ないし、外付けもあまりゴテゴテは困るぞ」
***
新しいジャミング機(後の正式名称では早期警戒球形レドーム装備武装強化型)は、棘の生えた蝸牛だった。
コックピットの後ろ機体中央部にめり込むように設置されたレドームは、旧来どおりであるが、
球状レドームから左右に突き出すような棘(実際にはジャミング波の増幅装置であるが)が、
付属して、独特の形状を更に奇形にするのに一役買っている。
また、コックピット先端の“顎”に丸い瘤と“メット”の様な覆いがついた形状も独特となった。
データリンクシステムの強化のために増設された通信、解析機器を取り付けたのだが、
場所が無くコックピット近くに取り付けられる場所を探したらこうなったのだ。
“角付きメット”で送受信したデータを、“顎”の解析機器に送り処理しているのだ。
一応、もともとパワードサイレンスにもその部分に補助機器が付いてきたのだが、
それらが肥大して、結構な存在感を放っている。
その試作機を見上げる白衣ら。
「さあ、完成だ。これで評価がよければ武装案も組み込もう」
「後は軍パイロットと一緒に演習をしてもらえばいいですね」
***
見通しの悪い宇宙空間。
この宙域は、ソルモナジウム鉱床を産する小規模天体が渦巻く場所であり、
採掘しやすい大き目の天体には鉱山が設置されている。
しかし、バイドの脅威から近いことや、労働環境が劣悪であることから
反乱一歩手前レベルの活動やストが横行していた。
なので、辺境警備隊(2線級の中古R機隊)が治安維持活動を行っている。
あまりに環境が酷くなれば上に直談判し、その結果派手にやり過ぎてはシメられ、
ある意味、ギリギリのラインで働いてきた鉱山労働者達。
……しかし、今日は勝手が違った。
『総員、配置に付いたか』
『αリーダー了解』
『βリーダー了解』
『λリーダー了解』
……
『此方、“セイレーン”ジャミングは良好。微速前進します』
『“セイレーン”、今回は大丈夫だろうな?』
『新型ですし物理的に接触しなければ問題ありません。
ジャミング性能試験とし採掘施設レーダーを周回した後、
作戦通り、作業エリア直近でジャミングを解除します』
そんなやり取りがあったのは、
R-9ER2のジャミング実地試験会場となった宇宙鉱山。
最近、労働者がちょっと調子に乗っていると言うことで、
潜入試験も兼ねてR機大隊規模で乗り込むことになったのだ。
『こちら“セイレーン”。エリア上空ですジャミング解除まであと10秒……』
小型採掘施設で待遇改善の抗議活動を行っていた100人程度の従業員は、
口を開けてポカンとしていた。
突然、接近警報もなく、R機の大隊が採掘所上空に現れたからだ。
***
この小鉱山で抗議活動を起した機械技師達らは全員、
さらに厳しい太陽系内の大型鉱山に送られて鉱山労働に従事することになる。
そして、技師らはこの日のトラウマを払拭するため、
R機どころか艦艇にも対抗できる武装(名目上は屈折式掘削レーザー)を持った
超大型掘削機を作り上げるのだが、それはまた別の話。
ミヒャエルさんに部隊を消し飛ばされたのは作者だけじゃないはず