プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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※ここからこのssの2話目に投稿してある「Rの系譜」の順序に従って書いています。
 なお、時系列は前後しますので各話前書きでアナウンスします。

※この話はオペレーション・ラストダンス(R-TYPE FINAL)発動後、
 Bシリーズ開発前の時系列です。


R-9A3“LADY LOVE”

R-9A3“LADY LOVE”

 

 

 

R機の代名詞ともいえるアローヘッドはOp.Last Dance時には、

すでに時代遅れになりつつあったが、現場では現役で使われている機体であった。

なぜなら、アローヘッドは初期のR機として伸代が十分にあり、内部構造も分りやすかった。

(当時はこれでも最新機能をこれでもかと詰め込んだ機体であった)

なので現場改造によって基礎性能を底上げしたり、

その素直な操作性から隊伍を組むことによる連携がしやすかった。

開発陣営で次期主力機があれこれ考えられる中、戦線を支える現場としては、

取り回しの効くアローヘッドこそがもっとも愛されていた。

 

 

が、さすがにすでに拡張性目いっぱいに改良されており、

これ以上は魔改造の域に踏み込むことになる。

そんな中でR-9直系後継機の開発が求められたのは言うまでもない話であった。

 

 

***

 

 

Team R-TYPEの課長室では課長のレホスと、研究班長の一人が面談していた。

二人とも向かい合って座っているのに、互いの顔を見ることはほとんどなく、

端末を覗き込み、画面に目を向けながら話をする。

普通なら失礼千万であるが、研究ジャンキーである彼らは礼儀など全く気にしない。

 

 

「これなんだけどぉ、君のところでお願いね。また軍部が難癖つけてきてさ。

ぶっちゃけアローヘッドの強化版、デルタの後継機を作ってということなんだけど、

まあ、君のやり方で良いよ。仕様書はそこのフォルダにあるのが全部だからぁ」

「機能はスタンダード一択、と。正直、あまり面白みの無い機体ですね」

「うん、面白みない分、実績を積むのに良いでしょ?」

 

 

レホスが上役とは思えないゆるい言葉で、適当に部下に仕事を振る。

彼は今、W系列機の機能調整で忙しく構っていられる暇が無かったのだ。

 

 

Team R-TYPEの行っている大規模計画”プロジェクトR”は、

とある目的のために、R機のあらゆる可能性を追求するのが目的なので、

このようなある意味保守的な改良はあまり興味が無いのだ。

しかし、人類が負けては元も子もないし、軍部との関係も維持したい。

現場の声に答える必要もあるだろう。という打算があった。

 

 

***

 

 

割り振られた研究室に戻り、軍からの要望書を読み込む班員達。

 

 

「つまり、アローヘッドをそのまま高性能にしろと」

「まあ、アローヘッドは基本設計が古い機体だし、

今の技術で新しい物を取り付けようとすれば、出来なくはないけれど……」

「既存技術の発展形ばかりで、つまらない機体だなぁ。ほとんどバランス調整しかやることないじゃないか」

 

 

けだるい空気が漂う午後。明らかにやる気の薄い白衣達はため息を付いた。

彼らは自分らの研究成果を機体に反映することに興奮を覚える変態的な人種なのだ。

更に後になると、研究のために機体を作るという本末転倒な暴挙が正当化される事からも、

Team R-TYPEの異常性がわかるだろう。

 

 

それに対して、現状で軍の求める物は……

・アローヘッドに共通した武装、またはその強化版

・既存システムを用いた操作性の上昇

・スタンダード波動砲の復活

・レーザーの強化

・万人に馴染みやすく、制式となるべき機体

 

 

「現場はデルタやウォーヘッドで我慢できなかったのかと」

「デルタの進化系がウォーヘッドだけれど結構仕様変更があったから、

デルタも実験的な要素が多くてアローヘッドの純粋な直系という感じでもないしなぁ」

「現場が欲しいのは、アローヘッドがそのまま新しくなったようなのだろう」

 

 

詰まらんなぁ、とぼやく研究員達。

単純なアッパーヴァージョンなので出来るには出来るのだ。

アローヘッドに慣れすぎたベテラン達は、操縦を体で覚えてしまっているため、

今更、違う機体への機種変更は困難である。

だが、ベテラン勢を総入れ替えすることもできないし、アローヘッドの現場改造も限度がある。

そのために、アローヘッドのアッパーバージョンとしてのR-9A3が求められているのだ。

 

 

Team R-TYPEも一応分っていたため、真面目にアローヘッドの強化版戦闘機を作り上げていった。

まあ、方向性は明白だし、仕様変更は出来ない。殆ど基礎設計は出来上がっているようなものだ。

あとは内部スペースと、量産性を元に武装などの調整を行うだけなので、

粛々と設計、開発が続けられた。

 

 

***

 

 

そこには外部装甲が無い機械部品むき出しの状態のR-9A3予定機があった。

すでに強力になったスタンダード波動砲のデバイスや、ビット、フォース、

少しだけ新しくなったレーザーシステム、パイロットシートが設置されている。

その前に佇む白衣3人。

 

 

ここまでの工程は最新式の機関をR機フレーム内に配置し、そのバランス調整を行うといった、

開発研究というよりはある意味作業であった。

だが完成寸前のここにきて、突然難題が持ち上がった。

研究員の一人がふとした一言が切欠だった。

 

 

「馴染みやすいって何だ?」

「そりゃあ、パイロットが一般的に好意を持ちやすい……って何だろう?」

 

 

何の気なしに、放たれた疑問であったが、その言葉はTeam R-TYPEの面々には重すぎた。

基本的に社会不適格者で構成されているこの研究開発機関において、

”一般”であるとか、”普通”であるとかいう言葉はとても難解で、

ある意味哲学的ともいえる議題だった。

彼らには普通が分らなかった。というよりは彼らの普通と一般人の普通が食い違いすぎている。

ある意味自分が普通でないと分っているだけでも御の字だろう。

 

 

「パイロットの支持を得やすい機体ってこと? 」

「うーん、POWが一部から人気なのは知っているけれど、そういうことじゃないだろうし……」

「じゃあアローヘッドみたいな?

アレだってロールアウト時は工作機みたいだと色々叩かれたらしいし、どういうことだ?」

 

 

割と本気で頭を悩ます各人。

機体性能的にはどうでもいい事なのだが、軍からの要望書では、下線を引いて強調してある。

無視するのは不味かろう。

 

 

Team R-TYPEは放っておくととんでもない物を作る。と、理解した軍からの抵抗だった。

強調しておけば、さすがに多少なりとも考慮した機体を作るだろうと。

しかし、0に何を掛けても0なのだ。彼らには常識がない。

うんうん、唸っていた班員であるが、班長が終止符を打った。

 

 

「よし、俺達では考えても分らない事が分った」

「知ってるよ。だからどうするかを考えているんだろう」

「うん、だから分るだろう人間に決めてもらおう」

「うん?」

 

 

そして、結論としてでてきたのは丸投げだった。

 

 

***

 

 

 

 

○緊急公募○

 

 

新規R型異相次元戦闘機のデザイン募集!

大賞受賞者の作品はTeam R-TYPEが3D化、実機配備されます。

その他副賞として、フォース模型をプレゼントするよ!

みんな、たくさん送ってね!

 

 

*応募条件

 ・内部フレームを元に正面、側面からの装甲形状、カラーリングが分るように書いてね!

 ・キャノピーはラウンド型

 ・スラスター、各コンダクターデバイスの変更は出来ないよ。

 ・大きさは……

 

 

***

 

 

後に「Rゆにっとぬり絵」と呼ばれた、この公募ポスターと応募チラシは、

各地の公的機関に置かれ、イベントで配布されることとなった。

軍の高官がそれを発見して、公共の場で罵詈雑言を撒き散らすほど激怒したが、

すでに方々から投稿があったことと、回収費用が組めなかったため、そのまま継続されることとなった。

 

 

Team R-TYPE上層部、軍広報担当などが中心となった会議で、受賞作品が選出された。

 

 

デルタに類似しており、R機の戦闘力を損なわない形状

R機らしく白をメインカラーに、赤いさし色

婦女子からも受けが良さそうな、桃色のコックピットカラー

アローヘッドを意識した、ハートに矢というマーキング

 

 

一般公募にあった“レディ・ラブ”と名付けられた機体案が大賞を受賞した。

後のインタビューで受賞者が歌手であることが判明し、

その芸名から「へ○る号」というあだ名を付けられることになる。

 

 

ちなみに、肝心のパイロットからの評価は、

機体性能は素直、癖が無くて使いやすいという意見以上に

「他人の目線が気になる」

「家族には見せられない」

「ぼくが悪かったですアローヘッドで我慢します」

 

 

といった泣き言が寄せられ、機体性能の割にイマイチ人気のない機体で終わることとなった。

 

 


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