プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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※時系列的にはB系列機が表に出る前、
かつ主だったR系列機がある程度出そろった頃です。


R-9A4“WAVE MASTER”

R-9A4“WAVE MASTER”

 

 

 

バイドとの闘争の中、異層次元戦闘機R機は爆発的に進化を続けていた。

R-9を起点として機体派生表はさながら系統樹のようになっていた。

もっとも兵器の種類が異様なスピードで増していくというのは、

戦闘中でも実験機を運用できるほど余裕があるか。

末期戦として一か八かの生き残りを掛けて、多様性を無理やりに求めているか。

どちらかである。

 

 

人類としては後者なのだが、Team R-TYPE的には多分に前者の成分が含まれていたというのは、

後の世の定説であった。

イロモノ機体はもう良いから、真面目に波動砲メインの機体を作れ!

という現場パイロットからの魂の叫びであった。

 

 

***

 

 

「という訳で、今回の開発は軍の開発局やオブザーバーの方を交えての会議になりました」

 

 

第一回波動砲主武装新規R機開発会議という長い名前の会議で、

そう説明するのはTeam R-TYPE開発班リーダーの一人であるジンジャーだ。

普通他所との折衝するような場面では課長級が表に立つものだが、

Team R-TYPEの開発課長でまとめ役にあるはずのレホスは、

開会の挨拶した直後に司会を部下であるジンジャーに押し付け、

自分は所用で抜けるという超難易度技を駆使して会議を脱出している。

意地でも関わらないつもりらしい。

 

 

レホス課長の傍若無人な振る舞いを目の当たりにして、

もともと底辺を彷徨っているTeam R-TYPEへの好意が、

奈落近くまで下がった状態で会議を無理やり引継された

一応常識派のジンジャーは引きつった顔で周囲を見回す。

 

 

オブザーバーとして参加しているパイロット上がりの技官は腕を組んで目を瞑っているし、

軍の開発局の課長は、ジンジャーのことを親の敵のように睨んでいる。

その他の軍側の人間も似たようなものだ。

対してTeam R-TYPE側はジンジャーと、基礎研究部門の変人研究員が一人だけ。

この会議をまとめるのは容易じゃない。と、ジンジャーは変な汗をかいた。

 

 

「ええと、今回の会議は新型R機の開発方針についての軍と我々Team R-TYPEの

意見のすり合わせの場として持たれた。……と聞いていますが、何かご意見は?」

「……開発局としては、フォースは確実性のある既存の物を望みます。

毎回毎回、違うものを出されて整備システムを見直すのは、た・い・へ・ん非効率的です」

「現場としては、高威力の対空レーザーと閉所で確実性のある反射、

対地レーザーについてはレディ・ラブから仕様を変更しないで欲しい。

現場では実戦を元に戦術を組む。仕様変更があれば血で購った戦術をまた一から立て直す必要がある。

いいかね。絶対に変えるな。手をつけるな」

「え、しかし、新規開発機なのだから新しい技術を……あ、いえ、なんでもないです」

 

 

ギロリ、と音さえ聞こえてきそうな鋭い眼光を受けて、口ごもるジンジャー。

Team R-TYPEにとって殺気を篭もった目線をシャットアウトすることなど容易いものだが、

ジンジャーはまだ良識と言ったものを捨て切れていない。

メインである波動砲や機体性能のオーダーを決める前に、釘を刺された格好となった。

開発方針を決定するための話し合いなのだが、今回の場ではかなり軍側が強く出てきている。

その態度には、そうとう鬱屈したものがある。

前回(レディ・ラブ)やその他の機体の経験から、Team R-TYPEに任せてはいけないと学習した訳だ。

 

 

「波動砲ですが、現場としてはスタンダード波動砲でお願いします」

「スタンダードだと決め手に弱いので、R-9Cの拡散波動砲やR-9Sのメガ波動砲も研究した……」

「スタンダードを強化して打撃力も向上させましょう。何より射程などの変更が無いのが重要です」

「しかし」

「開発局もスタンダードを押します」

 

 

気が弱いジンジャーは被せて言われると何も言い返せない。

外部とのコミュニケーション能力をまだ持ち合わせているとも言える。

そこを的確に付いた意見、もしくは脅しだった。

いつもTeam R-TYPEの威光を笠に現場の声をのらりくらりと無視し、機体を作り続ける研究者側だが、

その筆頭たるレホス課長が消えたので、若造(ジンジャー)に意見を押し込める気らしい。

ジンジャーとしても上司のレホスが行き成り無礼をして消えた手前、あまり無碍にも出来ない。

 

 

軍人はその官軍としての威光と実戦力を背景に発言力を増すが、

Team R-TYPEはその技術力と狂気を持って発言力とする。

未だ狂気に染まりきってないジンジャーに土台勝ち目は無かったのだ。

今回の力関係は軍側に軍配があがった。

 

 

***

 

 

ジンジャーが会議終了後、課長室を尋ねると、

緊急の所用で出張に出たはずのレホスが悠々と座っていた。

それどころか、先ほどまでの体格にぴったりの背広に黒の革靴のはずだったのが、

いつものくたくた白衣に、履き潰したサンダルという格好に変わっている。

もう、完全にリラックスムードのレホスの格好に脱力してジンジャーが言う。

 

 

「課長。酷いじゃないですか」

「あんな会議でたくないしぃ。そもそも軍から無理やり突っ込んできた会議でしょ?」

「それでも、居なくなるなら居なくなるで、一言いってくださいよ。あの後針のむしろだったのですよ」

「良い経験だったね。

ジンジャー君もそろそろTeam R-TYPEの流儀を身に着けないとここではやっていけないよぉ」

 

 

で、今回の要望書は? と手を差し出すレホスに、ジンジャーは記憶媒体を渡す。

レホスはそのカードを端末にセットしデータを呼び出すと、一気に読む。

 

 

「機体ベースはR-9A系列、武装はスタンダード波動砲強化型、レーザーシステムは従来強化型、

スタンダードフォース改装備。ミサイルは従来どおり追尾、誘導に爆雷。えらく具体的だね」

「ええ、相当品はダメだそうです」

「つまり全面的に軍の意向が通ったというわけだ」

「すみません」

 

 

頭を垂れるジンジャーだが、レホスは特に気にした風でもなく続ける。

 

 

「いや、良いんじゃない? これで軍というか、現場の気を抜けるし」

「例のR-9W系列に対する不満ですか?」

「いや、これから不満が溜まるだろうから今のうちにね」

 

 

悪名高き試験管機R-9Wワイズマンよりも不穏な機体を、企画中ということであろうか。

ジンジャーはそう考えて、また次回会議でバッシングを浴びるのかと憂鬱になる。

 

 

「それより、君が指揮とって、ちゃんとやってね」

「開発自体はスタンダード波動砲を改良することくらいので、簡単なのですが、

バランス調整は、あの調子ではちょっとやそっとでは納得してくれないかもしれません」

「君に一任するから、お願いねぇ」

「……ですよね」

 

 

とぼとぼと課長室を辞するジンジャーの後姿は煤けていた。

 

 

***

 

 

「ジンジャー班長。コックピットが違うようだが?」

「従来型のコックピットシステムはサイバーコネクトを採用した新式に全面的に切り替えられます」

「それは要望書と違うので戻してください」

「……わかりました」

 

 

「ジンジャー班長。波動砲はどうだね」

「はい、ループを重ねることでスタンダードⅡより威力をあげました。

副産物として波動砲の投射時間が多少延びましたが……」

「いや、チャージ時間は途中で打ち切れるから構わないが、投射時間はそのままで頼む」

「でも、コンダクターに負担が……いえ、なんでもないです、わかりました」

 

 

「ジンジャー班長。ビットだが、シャドウ、ラウンドに加えてR-9D系列のシールドタイプは付かないか?」

「今からつけるとなると、全部取り外して設計からもう一度することに」

「迎撃型で配備するとやはりシールド型の方が、生存率が上がって良いのだけれど……」

「……わかりました」

 

 

「ジンジャー班長。塗装だが……ピンクだけはやめてくれ」

「一応、公募だったのですが、アレ」

「いや、カラーリングだけはアローヘッドに倣ってくれ、士気に関わる。これは本気だ」

「はぁ、別に構いませんが」

 

 

「ジンジャー班長。愛称案だが」

「アローヘッドⅣ(まんま)、アローフェザー(捻りが無い)、バイドデストロイヤー(なにかの技名か?)、

ヴァリエイト・リル(たしかバーチャルアイドルの名前だ)……!」

「どうだね。現役パイロット案なのだが」

「……もう少し、広く募集しましょう。いえ、決定に関しては軍にも相談しますから」

 

 

「ジンジャー班長――」

 

 

***

 

 

結局名称は軍上層部に投げた。現場からの文句が付かないからだ。

ちなみに「波動を極めし者」という意味で、ウェーブマスターという名前が可決された。

R-9A4ウェーブマスターが完成、現場に配備されると、その素直な操作性、なじみのあるフォースにビット、

特性はそのままに威力のみ増したスタンダード波動砲Ⅲという武装が受けて、現場から絶賛された。

 

 

「終わった」

 

 

ジンジャーとしては「完成した」というよりは、正に「終わった」という感想だった。

Team R-TYPEと軍の両方に板ばさみになった開発班長。

神経をすり減らす開発環境は、また一人の研究員を狂気に染めていく。

 

 

「もう、こんな折衝ばかりの開発はごめんだ。次は絶対に作りたいものを作ってやる……!」

 

 

***

 

 

この後、Team R-TYPEの開発方針と軍の要望はことごとく食い違っていき、

B系列機の開発に至っては、両者の仲は危険なまでに冷えきる。

それでもTeam R-TYPEが存続したのは、戦時中という特殊事情と、

上からの圧力、技術力と開発能力があってこそのことだった。

 

 

軍側は汎用機としてそこそこ使える画一化された機体を欲し、

Team R-TYPE側は特殊用途や実験的なR機を作り、尖った性能の機体送り出していった。

なぜならTeam R-TYPEの、オペレーション・ラストダンスの目的は、

究極互換機の開発と、それによるバイドとの完全決着であり、

各種機能を取り込んだ完成形としての究極互換機を作るのに没頭していた為だ。

 

 

軍、Team R-TYPE両者とも、求めるところは「どこでもなんにでも対応できる機」だった。

今持てる汎用性と、完全なる互換性。

両者の求めるものは、そんなに違うものではなかったのだが。

 

 

Team R-TYPEと軍との関係が平常化するのは、R-99ラストダンサー完成後。

Team R-TYPEが解散する直前のことだった。

 


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