プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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R-9AD“ESCORT TIME”

R-9AD“ESCORT TIME”

 

 

 

R-9A4ウェーブマスター開発後、とある開発計画がひっそりとスタートした。

計画の名前は「デコイユニット装備機開発計画」。

本来のデコイユニットは有人支援型のPOWなどに装備されているバルーンと簡易AIを搭載したものである。

しかし、R機にはそんな嵩の張るものを搭載する余地はない。

ならば、R機固有の武装である波動砲で作ってしまったのがこの系列機である。

 

 

後の世で「要らないR機」上位争いに常に食い込むこととなる機体群であった。

 

 

***

 

 

課長室にいるのは、この部屋の主であるレホスと、

頬がこけて見るからにローレル指数が足りて居なさそうな体形の男性研究員だった。

 

 

「ジンジャー君、キミ痩せたよね? ひと皮剥けたというか物理的にも軽くなった?」

「ええ、お蔭様で15kg減です。課長もどうですか、板ばさみダイエット。効果抜群ですよ」

「んー僕が、軍とTeam R-TYPEの間に入っても痩せないんだよね。

でも、なぜか代わりに双方の担当者が痩せていくんだよねぇ」

「私とかですね?」

「キミとかだね」

 

 

最近性格が変わったともっぱらの噂の班長ジンジャーと、常にマイペースの課長レホスは

向き合ったままで、しばし課長室に笑いを響かせていた。

しかし、片方はうつろな笑いであり、もう片方は他意はなく楽しげだった。

どちらとも無く笑い終えると、ジンジャーは記憶媒体を取り出してレホスに渡す。

レホスが内蔵データを呼び出すと、そこに新しいR機の武装案とその概要が書かれていた。

 

 

「デコイユニット装備試作機ねぇ? 良い感じに狂った感じだけど、

ジンジャー君らしからぬイロモノを持ってきたね。君こんな発案してたっけ?」

「ええ、前回のウェーブマスターは評価こそ良いのですが、もうあれはこりごりです。

いい加減普通とは違った物を作りたくなりまして」

「『作りたく』ねぇ……。班長になっても普通のままだったから、ここには向かないかと思っていたけれど、

キミもやっとTeam R-TYPEに馴染んできたねぇ」

 

 

ありがとうございます、と微笑み返すジンジャーだがこけた頬と目のクマの所為で非常に怖い。

この怪しい笑みには、前回の開発で面倒な部分を全振りして逃げたレホスに対する

根深い恨みつらみも混じっているのかもしれない。

しかし、そこはジンジャーも大人であり、直接的な報復ではなく、

R機の研究に昇華されたナニかにすることにしたようだった。

 

 

「ところで、キミの研究班なんだけど、この前突然辞表を提出してきたんだよね。全員。一身上の理由だって」

「集団退職?」

「キミは珍しく常識人“だった”からね。班員も自然と普通のが集まるわけさぁ。

普通の人の下が良いです、って。で、そこに来てあの開発環境だからね」

 

 

折衝が付かず、軍からの強い要望という仕様変更に追いまくられる現場に耐え切れなくなって逃走したのだ。

Team R-TYPEからの離職者は機密遵守の誓約書を書かされた上で、その後の職なども制限される。

それでも、今回辞めた職員は、ヒラ研究員過ぎて重要機密には触れていなかったため、

(研究内容も波動砲メインの真っ当な機体だった)離職が許可されたのだ。

もっと機密にのめり込んでいたりすると、辞められないどころか、消される場合もある。

Team R-TYPE内では、彼らは研究者から被験者にバトンタッチさせられているというジョークがある。

そんなブラックな話がジョークとして話されるのは、離職者は、R機研究を道半ばで離脱した根性無しとして、

部署内で侮蔑されているからである。

辞めた班員は落伍者、ギリギリR-TYPE側に来られたジンジャーは狂化したといえる訳だ。

そんなことをつらつらと考えながら、ジンジャーは呟く。

 

 

「退職って彼らは普通に退職できると思っているのでしょうか?」

「まあ、常識って怖いよね? ここで常識が通じるはず無いのに」

 

 

レホスは足を組んで、ジンジャーに笑いかけた。

その思考はすでに居なくなってしまった研究員ではなく、

手元の新規R機の計画書に向かっている。

 

 

「うん、本来なら正式書類でてからGOサイン出すんだけれど、

この機体コンセプトは全く新しいものだからねぇ、開発前提で進めて良いよ。

プロジェクトRの推進にも役に立つかも知れないしぃ」

「分かりました」

「試験機だからねぇ。仕様書だけは君がまとめれば良いよ。書類が揃ったら活きの良さそうな人員を見繕うから」

「書類が揃ったら? ということは、これ、ひとりで?」

「そ、キミ、もう折衝は嫌だと言っていたし、他人を気にしなくても良いから楽でしょ?」

 

 

いやぁ、良いことしたなぁ。とレホスは自画自賛をする。

その顔はぜんぜん悪びれていない。

 

 

「レホス課長、冗談ですよね?」

「あー、もちろん、辞めてもいいんだよ?」

「いえ……、やります。期限は一ヵ月後でよろしいですね?」

「うん、一ヶ月半あげようと思っていたんだけどー、キミがそう言うなら一ヵ月後でいいよ」

「……はい」

 

 

空元気からの無駄気合によって自ら墓穴を掘り、要らない制限を掛けてしまった事に気づく。

肩を下げて課長室を出て行くジンジャーの背中は、やはり煤けて見えた。

 

 

***

 

 

その後、自らの研究室に篭もり自分で課した期限に間に合わせるため、

ジンジャーの研究室は暫く電気が消えることは無かった。

しかし、一人しかいないはずの室内から話し声が途切れることは無かった。

 

 

「前回は散々文句を言いやがって、現場パイロット共が。

フォースは癖が無いの、機動は素直に、波動砲も直線軌道じゃないと連携できない?

連携、連携、連携……そんなに連携したりしたいなら、一人で小隊を組めば良いんだ。

デコイで隊伍を組めるようにしてやるさ。基幹が自分なんだから文句は無いだろう。

一人小隊を可能にしてあげるんだからこれは現場の声に沿った開発に違いない!

前回あれだけ我侭を言っていたのだから、此方の我侭に付き合ってもらっても罰は当たらないはず。

むしろ、この新しい境地、デコイ機の素晴らしい世界にエスコートしてやればいいさ。

ん? エスコート? なかなか良い響きだな。シリーズ化前提だし一機目の試験機は

デコイ世界へのエスコート役に違いない。仮題でこれを開発名称にして置こう……。

そういえば、あいつら「R機といえばアローヘッドカラーだ」とか散々ほざいていたからな。

うん、現場の声は大切だ。装甲形状とカラーリングはアローヘッドを意識した、

ブルーコックピットでホワイト系、赤のさし色にしておこう。これで掴みはOK。

アローヘッドが一番とか言っていたし、パイロット連中にも受けが良いはず。

さて、肝心のデコイギミックだが、デコイ発生には波動砲のエネルギーサーキットを使おう。

サーキットループ時のエネルギーを外に出力して保持していけばいい。

コンダクターを改良して、虚数空間のエネルギーを複数個所で保持できるようにして、

R機型を取らせてデコイにして、解放時は波動エネルギーに戻して発射だ。

ついでに防御機構も兼ねられるように、半分実次元に顕現させてみよう。

でもこの出力だと精々2機分が限界か。まあ、試作機だし欲張ることは無い。

波動砲コンダクターの改良は、こうなって……」

 

 

ぶつぶつと呪文のように何かを呟きながら、ひたすら何時間も何日もひたすら動かずに

コンソールを叩くジンジャーはどこからどう見てもTeam R-TYPEの研究員だった。

 

 

こうして、W系列機やB系列機とは別の意味で、悪名高きデコイシリーズの一機目

R-9AD“エスコートタイム”が開発された。

 

 

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