R-9AD2“PRINCEDOM”
「ジンジャー班長、マジぱないわね」
「うーん、課長はもうアレだけど、班長級の人もやっぱり何処かおかしいんだな」
研究室の机に突っ伏して、ジンジャーの鬼気迫る折衝や、研究姿勢についてを評価しているのは、
エスコートタイムの開発研究時から、班長ジンジャーの研究室に新たに配属された
男女ひと組の若手、ダレスとライラであった。
課長レホスの「活きが良いほうが良いでしょ」という謎の配慮からだが、
一応、若いだけあって体力もあるのか、研究ラッシュになんとか付いてきていた。
「ライラ、俺、先輩たちからは、ジンジャー班長はまともな人だって聞いたんだけど」
「Team R-TYPEと外では『まとも』の意味が間逆だっていうのも良く聞く話よ」
そんなことを呟きながら、食べそこなった昼食の代わりに流動食を無理やり流し込んでいた二人は、
ドアの開く音に反応してダレスとライラは起き上がる。
部屋に入ってきたのは最近やっと吹っ切れたと噂の班長のジンジャーだ。
「さて、デコイ試験機エスコートタイムの調整も終わったことだし、実戦配備型の開発に移ろう。報告」
「はい、エスコートタイムの評価は辺境域でのテストの結果から出しました。手元の端末を見てください」
「戦果としてはまあまあだし、試験機ということを考慮すれば、かなり良い線なんじゃないか?」
「うーん、でも班長、あの機体こんな評価がでるようには思えないのですが?」
「確かに何でだ?」
新人2人が首をひねる中、ジンジャーが説明を入れる。
***
エスコートタイムの評価にはカラクリがある。
試作機エスコートタイム用に開発された操縦システムが特殊すぎたため、
アローヘッドに慣れた既存のパイロット達は操縦が困難だったのだ。
なので、覚えの良い若手の下にそのすべてが配備(押し付けたとも言う)されたのだ。
それだけ見れば失敗フラグだが、それすらも乗り越えてエスコートタイムは愛用された。
なぜなら……
専用機 :他の先輩パイロットが乗りたがらないので実質的な意味で
少数試作機:さすがに試作機から大量生産するほど狂ってはいない
操縦が困難:W系列の反省から通常の操縦システムを使ったので、操作が複雑化した
特殊機 :誰がどう見ても変態的発想で作られた機体である
これらの単語が歳若いパイロットの心をくすぐったためだ。
英雄思考の高い若手パイロット達はこの中二心くすぐる専用機を、事のほか愛した。
中には整備員に混じって、愛機に雑巾がけまでする者まで出る始末だった。
寝る間を惜しんで訓練を続けるほど入れ込めば、上達も早いのも頷ける。
しかも、訓練で最も時間を取られ、熟練が必要とされるチームワークが必要ないのだ。
雑魚バイドを相手取るのには、まあ向いている機体なので、無双感も得られる。
積極的に戦場に飛び込む者が増え、戦果を押し上げる要因になった。
それだけなら、逸って死ぬのが常なのだが、先輩達が、裏方でフォローに回ったため生存率も良かった。
先輩も流石にこの変な機体を若いのに押し付けたという後ろめたさを持っていたので、放置はしにくかったのだ。
このような妙な連鎖反応もあって、エスコートタイムは開発段階で不当に高く評価されてしまった。
***
「というわけで、デコイ機は続投することになった」
「ジンジャー班長、詐欺くさいです」
ライラが言うが、吹っ切れたジンジャーは気にしない。完全にTeam R-TYPEの色に染まっていた。
しかし、そこは班員も慣れたもので、こんなものかと直ぐに頭を切り替える。
研究室のディスプレイには、僚機ガンカメラによるエスコートタイムの戦闘の様子が流れている。
ジンジャーはホワイトボードの前に移動すると、正式版改良案と書き殴った。
「さて、前回ダレスとライラは作業から入ってもらったが、“今回”は検討からだ。意見は忌憚なく」
「では、さすがにデコイ2機では打撃力不足です。これでは破壊判定のあるビットです」
「手数が勝負の機体なので、波動砲の威力よりも、数を上げた方が良いかと」
部下二人の言葉にジンジャーが言う。
「やっぱりか。でもこれ色々容量食うから、デコイの数を増やすと、他は据え置きなんだ」
「デコイ以外はレディ・ラブ仕様のままってことですね」
「標準仕様はウェーブマスターで極めましたし、その他に埋もれるよりは尖った方が良いのでは?」
「そうかな? ……そうだな」
自分と同じ方向性の意見が出る事に少し安心して方針を決定するジンジャー。
吹っ切れたのはたしかだが、根はまだ優柔不断らしい。
結果として、R-9AD2の仕様は、レディラブやエスコートタイムと同じく、
スタンダードフォース改に、各種ノーマルレーザー改良型、ミサイルは追尾、誘導と爆雷、
そして波動砲はスタンダード波動砲なのに3ループとなった。
これはデコイがエネルギーサーキットのループ時のエネルギーに由来するものなので、
デコイを増やすために、態々ループ数を増やしたことによるものである。
しかし、威力の向上には全く寄与していないどころか、実際にはデコイ生成に
エネルギーの一部が食われるため、個々の波動砲威力は低下しているというものだった。
仕様が固まった、ジンジャーの研究班は開発を進めることにした。
すでに課長レホスよりシリーズ化の約束は取れているので、
出張中で不在のレホスに確認メールだけ送って、そのままR-9AD2の開発に向かった。
***
「配備環境?」
「そう、アレ使いにくいって一部を除いて現場で嫌われていてさ」
R-9AD2の大方の形が決まったころ、レホスが出張から帰ってきた。
課長室に呼び出されて聞かされたのは、機体を配備する場所が決まっていないということだった。
「では、前回のR-9ADでテスト機を配備した現場はどうでしょう?」
「あそこもベテラン勢からは嫌われているからね」
「テスト機パイロットに任せましょう。彼らならプリンスダムを大事にしてくれそうです」
「なにもうR-9AD2の名前決めたの?」
「デコイを大量に集めて、大規模集団を作るのを想像しまして公国(プリンスダム)と」
「キングダムでないあたり謙虚なのか判断に迷うね。 そうだね、評価が偏りそうだけど、前回の現場と同じでいいか」
どうせ、僕の作品じゃないし、とレホスが小さな声で言う。
「ただし、パイロットが少ないから開発は少なめにね」
***
R-9ADエスコートタイム同じ基地に配備されていくR-9AD2プリンスダム。
前作エスコートタイムがアローヘッド系の配色だったのに比べて、
プリンスダムは真っ赤な機体に群青色のコックピットカラーという、
外見だけとっても、すでに現場への配慮をすっぱりと止めた機体だった。
もちろん、ベテラン勢や運用側からは蛇蝎のごとく嫌われ、前回デコイ機を使った新人に割り振られる。
しかし、妨害されれば妨害されるほど燃え上がる恋もある。
愛機の評価を上げようとデコイ機パイロット達はバイド狩りに精を出していき、
デコイ制御による一斉射撃はやはり雑魚バイドには相性が良く、機体数の割には大いに戦果をあげる。
パイロットの一途な愛もあって、戦果は底上げされていく。
そして新人パイロットと、ベテランパイロットとの連携を不足させていくこととなる。