プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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R-9AD3“KING'S MIND”

R-9AD3“KING'S MIND”

 

 

 

辺境の小型基地らしき構造物。

本来は暗幕に星々が煌く宇宙空間が背景だが、今は無数の小型バイドが覆っている。

そこではチカチカと忙しない発光が見える。

 

 

どうやら赤いR機がミサイルを撃ちながら小型バイドを牽制しているらしい。

機首方向に青白い収束光が認められることから波動砲をチャージしているのが分る。

それに伴い、薄く発光する似姿が、1機、また1機と赤い機体の陰から現れて周囲に展開する。

赤い機体が基地壁面や構造体を掠めるように機動すると、その似姿も互いの位置を調整する。

赤いR機の機動に追従して一定距離を保つようなフォーメーションを取るそれは、

攻撃こそしないが、小型バイド程度なら接触時に破壊できるようだ。

 

 

しかし、レーザーも打たずミサイルのみでバイドに挑む赤い機体は次第に追い詰められていく。

青白い似姿を従えて、単機駆けの要領で地形を利用して逃げていたR機だったが、

とうとう袋小路に追い詰められ、機はバイドの群れに向き直る。

波動砲のMAXチャージを示す鋭いエネルギー収束光が見えた。そのとき似姿は4体まで増えていた。

バイドが一気に迫ってきたとき、赤い機体が波動エネルギーを留める力場を解放するのにあわせて、

似姿は一気に崩壊し、波動エネルギーとなり、直前まで迫っていた小型バイドの群れを蒸発させた。

 

 

***

 

 

「これが、この前使ったデコイ機プリンスダムのPR用の動画だ」

「映画の予告編みたいですね」

 

 

Team R-TYPE開発班班長ジンジャーとその部下ライラの言葉だ。

続けてダレスとライラが感想を述べる。

 

 

「よく撮れていますね。戦場とは思えない画質です」

「このためにミッドナイトアイを投入したかいがあったわね」

 

 

1/500のスローモーションにしても滑らかな、場違いな映像。実はこれは裏がある。

撮影のために並々ならぬ仕込みを行ったのはジンジャーが指揮するこの研究班なのだ。

 

 

様々な特権やコネを動員して、情報を操作し、防衛体制に関与した。

態々、一時防衛ラインでゲインズやタブロックといった強力な個体を含む群れを撃破し、

小型バイドのみで攻勢された群れのみを選別して、防衛ラインを素通りさせたのだ。

さらに撮影場所となる辺境基地(デコイ機が投入された)を確実に襲うように、

事前に機密物資として基地内に大量のバイドルゲンを運び込み、バイドを誘引した。

その物資も不自然にならない様に“エンジンの不具合”で寄港した輸送艦が持っていった。

 

 

もちろん、整備計画に裏から干渉して、R-9AD2プリンスダムが全機出撃できるよう、

基地ベテランパイロットの乗る他のR機がなるべく出撃できないように調整した。

当日、Team R-TYPE所属の撮影用のミッドナイトアイ機が、基地近く単独で巡航しており、

バイド襲撃の際に辺境基地に避難しようとしていたのだって抜かりは無い。

残念ながら、目撃者として軍や政府の有力者を基地に滞在させることは出来なかったが、まあいい。

研究の合間にTeam R-TYPEの様々な事務も経験してきたジンジャーにとって不可能ではないことだった。

……なまじ真面目だったので、他の無軌道研究員達のしわ寄せがいっていたという意味でもあるが。

 

 

様々な演出をした甲斐もあって、R-9などの他のR機を差し置いて、

R-9AD2プリンスダムはたった4機で襲ってきたバイドのおよそ8割を撃破するという戦果を挙げた。

これと同じ事をするにはアローヘッドなら3小隊15機体制くらいは必要になる。

数字の上では。

実際にはアローヘッドでもレーザーでの掃討が可能な雑魚ばかりなので、かなり盛った数字である。

 

 

そんな裏事情を知っている彼らとしては、このPR動画は作品だったのだ。

少しやりすぎた感はあるが、その分いい映像になった。

ジンジャーは今までの様々な苦労が無駄ではなく、自分の作品に活かせたと感動していたし、

部下のライラとダレスも、Team R-TYPEの容赦ない開発競争を見て、やる気を出した。

今、ジンジャー班は妙な高揚感に包まれていた。

 

 

「さて、これを持って、デコイ機を軍部に売り込んだのだが、お偉いさんには中々好評だった」

「お偉いさんって数字は見るけど、現場は余り見ませんからね」

「数字だって嘘ではないわ」

 

 

共犯者じみた笑みを浮かべて笑う三人。ジンジャーが笑ったまま続ける。

 

 

「さて、今日審議の結果が来たのだが、後継機であるR-9AD3の一般採用がほぼ内定した。

デコイ機能を増加して、他の性能はそのままということだが、もともとそのつもりだから問題ない」

「では開発ですね!」

 

 

ハイタッチをするライラとダレス。

その後の開発方針はもう決まっていたので、すぐさま改良案が検討された。

フォース、レーザー、ミサイルは据え置き。

改良はもちろんデコイ波動砲だ。今までは3ループのデコイ4機であったが、

更に推し進めて4ループのデコイ6機体制にすることに決まった。

 

 

「デコイの盾で押しつぶす感じですね」

「高エネルギー弾は通すけどな」

「波動砲単体の威力は下がるが関係ないな」

 

 

そんな会話もあったが、事前準備もしていたこともあって着実に開発は進む。

 

 

***

 

 

宇宙に沈みこむような深い青の機体色と、煌々と輝くオレンジのコックピットカラーは、

前作プリンスダムよりさらに目を引く警戒色だった。

R-9AD3キングス・マインド。王の名前を冠したデコイ機の最新型機だ。

 

 

お偉いさんに一般配備を約束されたキングス・マインドは件の新人達を始めとして、

幾つかの基地に配備された。

 

 

ここは太陽系辺境基地。以前のデコイ機がここで挙げた戦果を表して、簡単な除幕式が行われる。

もっとも戦時中なので、この式が終わったらすぐに戦闘や訓練に使われる。

そのため展示されている一機を除いて他はすでに武装もされており火が入っている状態である。

ちなみに件の新人達はすでにデコイ機信者となっており、新しい愛機が来たのに舞い上がり、

「牙持つ影を操る狂王」と、通常の精神状態なら赤面するような名前を付けて呼んでいた。

 

 

茶番だらけの式も滞りなく進み、このあとは新人達による慣熟飛行訓練が行われる予定だった。

しかし、式の終わり、リボンカットの段階になって、けたたましいサイレンが響きわたる。

軍関係者は普段の訓練からそのすぐさま迎撃のために立ち上がり、持ち場に走り出す。

式の出席者のゲストだけが取り残された。

 

 

「あれ、バイド接近警報?」

「……班長。これも仕込みですか?」

「いや、関係ない。不味いな、大型バイドが来たら事だぞ。アローヘッドの出撃を要請しよう」

 

 

そんな中、ダレスとライラがポカンとして、ジンジャーは苦い顔をした。

デコイ系列機が大型バイドとの相性が致命的に悪いのはシミュレーションを重ねた彼がもっとも知っている。

ジンジャーは基地司令の元に駆け込み、すぐさまアローヘッドの出撃を要請する。

 

 

「何を言っているのだね、ジンジャー班長。君らのゴリ押しで短期間に3機種が配備されたものだから、

もともとこの基地に配備されていたアローヘッドなどの機体は他の基地に持ってかれてしまったよ。

今あるのは新人達が乗ったキングス・マインドと。機種変更したばかりのベテランが乗るプリンスダムだけだ」

 

 

それを聞いて青ざめるジンジャー。

何かと面倒ごとを運んでくるTeam R-TYPEの疫病神との会話を打ち切った基地司令は、

邪魔するなとばかりに、指揮権に絡んでくるジンジャーを追い出し、迎撃体制を整えていく。

 

 

司令所を追い出されたジンジャーらは士官食堂で他の式典出席者とともに戦況を見守ることとなる。

そこでは基地の外部カメラで撮られた映像が投影されていた。

そこにはタブロックの大型ミサイルに翻弄されたところに、小型バイドにまとわりつかれたり、

ゲインズの凝縮波動砲でデコイごと打ちぬかれていく。

本来ならそれを防ぐためのチームワークであるのだが、単機になれすぎたパイロット達は

個別に応対し対処限界を超えて迫り来る物量に対応できない。

それをフォローすべきベテラン勢も慣れない機体。しかも、操作が煩雑でデコイを有用に使えない。

操作は煩雑で波動砲の性能は落ちているだけの機体では、どうにも対応できない。

ジンジャーらはデコイ機が撃墜されていく様子を、自分が呼んだお偉いさん達と見ることになった。

 

 

周辺基地からの応援が来た頃には、結局単機で前に出すぎたキングス・マインド各機は全滅。

ベテランの乗るプリンスダムもデコイ機能を捨てて善戦したが、

ロストかパイロットが無事でも機体は修繕不可能な状態だ。

戦闘後、この辺境基地に残っているのは式典用に展示されたキングス・マインドだけだった。

 

 

***

 

 

数日後、班長ジンジャーが査問会に召喚されている中、

研究室に戻っていたライラとダレスは、分析のために録画映像を見ていた。

二人とも脱力しきって活力はまったく感じられない。

なぜなら、デコイ機の弱点がこれでもかと露呈してしまったのだ。

これから手塩をかけて育てたこのデコイ機たちがどのように扱われるかは、火を見るより明らかだ。

 

 

「まるでハンプティダンプティね」

「マザーグースの童謡の? たしか卵のことだっけ?」

「王様のお馬を集めても、王様の家来を集めても、ハンプティを元には戻せない―。

俗説ではハンプティダンプティには“せむしの王様”って意味も有るらしいわよ」

 

 

最強の名はもう戻らない

 

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