・R-9DV“TEARS SHOWER”
「なあ、羨ましいよな。俺もあんな開発したかったさぁ。なんでうちはこんなところで作業ばかりなんだ。そう思わないか、トレン」
「目的語がないから分からん」
「人型兵器だよ。ヒ・ト・ガ・タ。機械が好きでここに来たんだけど、やっぱり戦闘機タイプじゃ燃えないよな。
ちゃんと二足歩行して、手にはビームサーベルかライフルを持ってさ」
「ああ、ブエノ班のやつらのことか」
「ブエノ班じゃなくて、名前も人型兵器開発班に変わったんだぜ。いいよな、憧れるさぁ。特命っぽい名前付きだし、研究室も広くなってるし」
「精密作業中だぞ、黙って作業できないのか。エル」
「あいつらがキャッキャウフフと人型の図面と戯れて、新型機を開発しているのに、
俺たちは、防護服着てバイド種子にエネルギーを食わせる作業なんて……研究者として間違ってる!」
「真面目にやれ。手元狂ったらバイド汚染だぞ」
そこは部外者立ち入り禁止と書かれたエリアで、
(そもそも、この研究区画自体、部外者が入れないので無意味な張り紙である)
フォースの元となる‘バイドの切れ端’からバイド種子を培養する施設だ。
様々な形をしたコントロールロッドがそこかしこに置いてあり、中には薄気味悪い色の溶液に漬けられているものもある。
フォースの元“バイド種子”と結びつく、シナプスツリーの原基を育てているのだ。
外部装甲が取り付けられていないコントロールロッドはなかなかにグロテスクだ。
そんな、一般人は頼まれたって立入りたくないエリアに居るのは、
防護服を着込んだ2人組だった。
まだ、直径1mくらいのバイド種子にエネルギーを注入しているのだ。
防護服ではっきりした体形や顔は分からないが、背の低い方がさっきからしゃべり倒している。
「くっそ、なんで、こんなことをやっているんだ俺は。ラヴィダは何処へ行ったんだ」
「班長は、班長会議に出ている。……このフォースで終りだ」
「おしトレン。こんな暑苦しい防護服を脱いで、空調の効いた研究室に行こうぜ」
「内部空調ついているから暑くないだろ」
「気持ちの問題だ!」
***
洗浄室でバイド汚染物質を取り除き、作業服を脱いできたエルとトレンの二人の研究員は、
自分たちの所属する研究室に入ると、すでに先客がいることに気がついた。
「あー、なんだラヴィダいるじゃんよ。なんだよ、サボりか? 班長会議はどうした」
「お疲れ、エル。バイド漏れ事故起きたんで途中で中止になった」
「バイド漏れ? ラヴィダ班長それは?」
「お、トレンもお疲れ様。新型機のフォースを開発していた班がやらかしたらしい。
まったく、誰も5番ドックには居ないからよいものを」
「5番にフォースなんてあったっけ? 特殊研究班の機体が調整中じゃなかったん?」
「そうなのか? でも大事は無いって言ってたから大丈夫じゃないかな」
二人より先に研究室にいたのは、白衣よりはラガーシャツが似合いそうな男だった。
肩幅があり、胸板も厚い、服で見えないが腹筋も6パックになっているのが容易に想像できる。
どうみてもアメフト選手といった外見で、タックルだけでここの研究員を制圧できそうだ。
ともすると徹夜上等の不健康な研究生活を送る者が多いTeam R-TYPEでは異色である。
彼、ラヴィダは学生時代はスポーツ一筋で、大学ではスカウトも来たほどだった。
しかし、在学中にバイド襲撃に遭い、人生が変わる。
試合中にバイドが来襲したのだ。
どんなに体を鍛えていてもバイドに侵蝕されれば肉塊になるだけ。
スタジアムを出て、キャンパス内を逃げ惑っていたところを、市警のR-11Bに助けられたのだ。
建物を縫うように現れてバイドを一気に消滅させた白い機体は、眩しかった。
消防士に救われた子供が憧れるように、大病が完治した患者が医者に憧れるように、
彼はR機に憧れ、猛勉強した。脳筋な部活にいた彼だが、猛勉強の末に望みを叶える。
なぜか、研究職としてTeam R-TYPEに入ったのだ。
友人達は明らかに入る場所を間違えていると感じ『何故パイロットにならなかった』と言ったが、
本人は天職であると考えていた。
実際、真面目な性格で、仕事が丁寧なので基礎研究には適性がある。
ちなみに彼のチームメイトは士官学校に行ったらしいが、こっちが正しい道だろう。
そんな筋肉ダルマにタメ口で話しかけるのは、この研究室で一番小さいエルだった。
「そうそう、ラヴィダ、人型開発班来てたん? 今、新型やってんだよね? アスク…アスクレなんとか」
「アスクレピオス」
「そうそう、それ。トレンよく知ってるな。さすが雑学マニア、でもインプットだけじゃなくアウトプットもしないと本当に無駄になるぞ。…で、ラヴィダどうなん?」
「来てたけど、なんか人型開発班の班長、げっそりして血色悪かったぞ。鬼気迫るというか話しかけられる雰囲気じゃなかったな」
「くぅぅ、俺も人型やりたいな。そうだラヴィダ。俺らも人型の企画立ち上げよう。ラヴィダも好きだろ、そういうの」
「んーまあ、個人とすれば確かに心に来るものはあるが、趣味で機体を開発するのはな。それに同じコンセプトで2系統開発しても意味無いだろう」
「たしかに二番煎じはカッコ悪けど。いや、でも人型のコンセプトを変えて……」
諦めきれない人型機への希望を言い募るエルに、ラヴィダは班長としてばっさり切る。
トレンはあまり会話に参加せずにコーヒーを淹れている。
「諦めろ。そういえば、種子0143の調子は?」
「あー元気元気。今日もエネルギーガブ飲みだったさぁ」
「よし、そろそろこの試験も終りだな。エル、トレンそろそろ昼だ食事に行こう」
ラヴィダはそう言うと、食堂に向かう。エルとトレンも後に続いた。
***
肉体労働者向けの量の多い料理に挑戦するには、研究者の基礎代謝ではつらい。
山盛りのポテトの乗ったバーガープレートを前にエルとトレンがゲンナリしてつついている。
がたいのいいラヴィダはすでにプレートの大半を胃の中に収めている。
「ラヴィダ。なんでそんなに食べれるんだよ。俺このポテトの山だけでお腹いっぱい。
フレンチフライを腹いっぱいに食べるのが、子供の頃の夢だったけどコレは無い」
「夢…叶ってよかったな」
「嫌味かトレン」
「エル、食べきれないならせめてバーガーとサラダを食べろ。ポテトだけじゃ栄養が偏るぞ」
マッチョ体形のラヴィダは軽々とバーガープレートを平らげていく。
普通、白衣は大きめに作られているのだが、パッツンパッツンだ。
190cm超の身長に、ぴっちりサイズになっている白衣。
捲られた袖から見える筋の波打つ腕。首も太い。
明らかに異様だ。
「トレン、バーガーあげる」
「押し付けるな」
「なんで、わざわざチーズバーガーなんだよ」
「エルは小食すぎる。トレンもだ」
「ラヴィダがおかしい。なんであの量食べられるんだよ。肉体労働万歳の軍人用サイズだろ」
ゲイルロズの食堂のうちの一つで食事を取る3人。
ここのTeam R-TYPEはゲイルロズに間借りしているため、
食堂、購買などの施設は一般軍人と共有のものを利用している。
しかし、3人が座っている席の周囲は微妙に空席だ。
別に食堂が空いているわけじゃない。
なぜか?
答えは彼らが白衣だからだ。
ゲイルロズで白衣を着るのは軍医か、研究員だ。
お世話になることの多い医師は、みな顔を覚えているし、大概彼らの白衣はきれいだ。
医務室で見たことなくて、汚れた白衣を着ている連中は、Team R-TYPE。
平和を愛する基地要員にとって絶対に関わってはならない要注意人物達なのだ。
曰く、Team R-TYPEでは試作機でバイドの群の中に叩き込まれる。
曰く、Team R-TYPEでは犯罪者や浮浪者が輸送されている。
曰く、Team R-TYPEの研究員と目が合ったら、異動命令が来た。
曰く、Team R-TYPE研究区画の近くの通路を一人で歩いてはいけない。
曰く、Team R-TYPE行きは拷問代わり…
など…
だいたいは都市伝説の様な噂話なのだが、総括すると「狂科学者集団」というのが一般的な評価だ。
何をおいても白衣に近づくべからず。ゲイルロズの不文律だ。
奇妙なぴっちり白衣マッチョが目の前に居れば尚更だ。
………
しかし、Team R-TYPEの研究員という人種は、基本空気を読まない。
警戒心を伴った無関心が漂う食堂で、彼らは今日も食事を取っている。
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昼食を終えると研究室に戻り、備え付けの席について班会議を始める3人。
ホワイトボードが引っ張り出される。
「今回のテーマはなんだラヴィダ班長」
「トレン、やる気あるな。俺はもう気持ち悪くてダメ…」
「エル、だからフレンチフライだけじゃなくサラダを食べろと…
まあ、フォースの評価試験は直に終わるから、次の研究課題を選定する」
「マジで!次は基礎研究じゃなくてちゃんと開発しようぜ。俺がんばるから」
「エル、現金だな」
膨れた腹を抱えて、机に伏していたエルが突然元気になると、
トレンとラヴィダは呆れる。
「ただし、人型はNG。すでに研究班が立ち上がっているからな」
「けち、それを取ったら何も残らないだろう」
「けちで結構。すでにメイン系列機には専属開発班がつけられているから、
開発なら独自案を提出するのが望ましい。もしくはフォース、波動砲の技術検証などとなるな」
「エルじゃないが、フォース、波動砲の研究は別班の範疇だろう。我々は開発を行うべきだと思う」
ふて腐れたエルに、ラヴィダとトレンは慣れたもので、二人で研究計画を進めていく。
しばらく話をつめた後、ラヴィダが大筋を切り出す。そこになんとか意見を挟みこみたいエルが起きだす。
「方針を決定しよう。現在のR機に無いもの、欠点はなんだ」
「浪漫に決まって……」
「却下」
「じゃあ変形機構を」
「目的を先に述べろ」
「大型バイド殲滅のために必殺技を」
「なんのための波動砲だ」
「サーベルを……」
「単純にバイド切っても増えるだけだろ」
「あとは……」
エルが意見を出してラヴィダが切る。切る。切る。
5分ほど続けた後、今まで黙っていたトレンが発言する。
「対小型バイド用の攻撃方法が少ないことが問題ではないだろうか」
真面目な意見にラヴィダがエルを放って、議論を開始する。
「それは必要か? 基本的に小型バイドは固定武装のレールガンで十分撃破できるだろ」
「トレンの意見は聞くのかよ」
「突入戦では、四方から狙われる」
「ああ、確かに小型機に波動砲を使用するのは効率が悪いし、実際小型機の群に飲まれるパイロットも多いな」
「固定武装はレールガンだけだからな。数で押されたらそらー飲まれるさー。オプションも通常はミサイル、フォースくらいだしー。ビットはエース専用だろー」
「フォースシュート中、R機の武装は非常に限られる。レーザーはフォースなしに撃てないし、
ビットは予算上ほとんどの場合つけられない。ミサイルは発射スピードが遅いから手数が明らかに足りない」
「人型ー、ビームサーベルー、可変機ー…」
二人の会話の合間合間にエルが言葉を挟むが、見事に無視される。
「だから、波動砲をバルカン式にするのはどうだろう」
「波動砲をあえてばらすか。面白い案だなトレン。バイドの群を突破するための支援機として有用かもしれんな」
「どうせ、僕はオリジナリティの無い2流研究者ですよー…」
「障害物の少ない宇宙空間の支援ではR-9D系列の長距離精密射撃機が有用だが、突入作戦時に閉所で使うには取り回しにくいと思う」
「威力は無くとも手数を増やす方針か。もっと詰めればアリだろうな」
「ラヴィダもトレンも無視しやがって、それでも仲間か」
「火線を集中すれば、大型バイドにも対抗できるように調整してはどうだろう」
「よし、それでレホス課長に上げよう」
会話を終えた二人は、それぞれの分担を割り振っていく。
机の上に「の」の字を書いてふてくされるエルを置いて、ラヴィダとトレンが書類を片手に部屋を出ていった。
***
【課長室】
「ふーん、バルカン式波動砲ねぇ」
「はい、閉所突入支援に特化したR機です」
ラヴィダが課長席に企画書を提出して説明している。
課長のレホスは、清潔感のあるワイシャツに、落ち着いた色のスラックスと靴下。
そして全てをぶち壊す汚い白衣と、かかとの潰れたサンダルを履いて席に座っている。
何時も通りだ。
「どっかの誰かさんみたく、遊んでるのかと思ったけど意外と真面目な内容だねぇ」
「どっかの誰か? …はい、実地検証はまだですが、支援機があれば突入時の事故も減少するかと」
「裏づけ資料もある…と、そうだね。ここの所データも取れないうちにR機を壊してくれるお馬鹿軍人さんが多いからねぇ」
書類から目を上げずに、資料を読み続けるレホス。
口調はふざけているが、書類を読んでいる表情は真面目だ。
「現在開発されている波動砲は特殊化、高威力化が進みチャージ時間も増加しています。
データを見るともっとも事故率が高いのは波動砲発射後で、発射後に迎撃態勢が取れずに、
バイドに落とされる例が多いのです。この新型を支援機として用いれば突入の際の突破率も上がると考えています」
「大型バイドに対する効果は?」
「火線を集中することで、スタンダード型の波動砲に匹敵する威力はでます。
ただ、一発一発の威力は大きく無いので、貫通能力には乏しいですが」
「よろしい。では上に上げておくから、詳しく説明できるようにしておいてねぇ」
「わかりました」
「あ、でも、この内容なら支援機じゃもったいないから、一応単独運用も視野に入れてね」
「はい」
レホスは書類の入った記憶媒体から、データを携帯型端末に移すと、開発許可処理を行って開発Goサインを出した。
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カチカチカチカチ
一人残された研究室。すねたエルが机に突っ伏して、
手元にあるノック式のボールペンを弄くりながら、呟いている。
「くっそー。ラヴィダもバルカン機なんて企画とって来て、浪漫って物が…」
カチカチカチカチカチカチカチカチカチ
「トレンの奴も、言ったもん勝ちってか? 俺も次のために考えておけばいいのか」
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ
「人型は2番煎じだからダメだし、波動砲は粗方改良されたし…熱い企画は…」
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ
「でもしょうがないのかなー。俺、器用貧乏だからなーオリジナリティ無いし」
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ
「んー…ん?」
カチ。
「これって…」
カチリ。
「ふふふふ…。熱い企画あるじゃないさぁ」
椅子を倒して立ち上がり、不気味に笑うエル。
そのまま、ボールペンを掲げて叫ぶ。
「パァーイルッバンカァァァーーーー!!! これに決めた!」
***
3ヵ月後
光子バルカン装備型R機
R-9DV ティアーズ・シャワー完成
派生系統機、帯電式パイルバンカーテスト機の開発がひそかに始まる。
個人的に結構黒歴史感が強い話。
当時の文を見ると地の文を書かずに会話でのごり押しが目立ちます。
多少改稿していますが、やっぱりごり押し。