R-9D2“MORNING STAR”
「班長、班長シューティングスター後継機の開発が始まったそうですよ」
「シューティングスター?」
「長距離精密射撃用ユニットR-9Dのことです。覚えていますか?」
「……ああ、あれね」
ジェニファーから報告を受けたナンブは一瞬何のことか分らなかったが、続く説明によって理解する。
ナンブが理解できなかったのは、開発研究から数年の月日が経っていたからだ。
ナンブもジェニファーもウォーヘッドの研究開発に取られてしまい、そちらの研究ばかりしていた。
「アレの評価見ました? “波動砲による狙撃能力は魅力的であるが安定性に欠き、威力の向上が必要”。
これって後継機を作れって事では?」
「そうだな。シューティングスターはもっとやれるだけの素地があるからな」
「やっちゃいます?」
「んーまあ、やってみるか」
***
研究室に集まったのは、班長ナンブと研究員のジェニファー、後から新しく班に加わったレイダーだった。
車座になった三人は、シューティングスターの設計データを引っ張り出してきて、
それぞれ赤いラインで多量の書き込みをしていた。
ナンブが設計図から目を上げ他の二人に問いかけた。
「新しい機体を作るに当たって、修正点を話し合おう。では先ずレイダーからだな」
「先ず、内部設計を一新するべきです。ウォーヘッド開発で周辺機器もかなり進みましたから」
「そうだな、全部は無理だが一部流用するだけで基礎能力の底上げ可能だ。だが、根本的な問題ではないな」
レイダーが述べたとおり、
図面も無い最新鋭機を半年で実用段階に引き上げろ(訓練も入るので実際には更に短い)
という鬼畜な要望を押し通した軍の所為で、
アローヘッドの中身を一新する勢いで最新R機の内部機構を開発した。
そして、開発リソースをつぎ込んだウォーヘッドは、結果的に見れば英雄機の仲間入りを果たし、
当代最強の座に着いたのだ……コストを考えなければ。
もちろん、その開発劇の中で諸所の機器も飛躍的にレベルアップしている
それを受けてジェニファーが発言する。
「ベースはシューティングスターの各部改良モデルで良いわね。肝心の狙撃だけど……」
「前回はグダグダした部分だな。結局技術的な問題から月~地球間狙撃はスペック上だけだったし、
今回こそは嘘偽り無く月~地球間の狙撃を実践で使用可能とすべきだな。
シューティングスターみたいに冷却が間に合わなくて、波動コンダクタ周辺が溶けるとか無しで」
班長のナンブが話を進めていると、ジェニファーは眉間に皺を寄せて黙っている。
「どうしたのです、ジェニファー先輩? 具合が悪いのですか?」
「いえ、ナンブ班長、狙撃性のことなのですけど、距離は据え置きで波動砲を長時間発射できませんか?」
「出来ませんかって言われれば、不可能を可能とするのがTeam R-TYPEなのだが……
距離を諦めたそれは、もはや狙撃機なのだろうか?」
「そうなのですが……ちょっと色々アイデアでそうなので考えて見ます」
歯切れの悪いジェニファーに後輩のレイダーが話しかける。
「あまり悩むと皺増えますよ……あ、すいません。え、レンチは勘弁してください!
いえ、そうじゃなくて、それだったら起案してみたらどうですって言いたかったんです」
「ジェニファーなら能力的に班長になれるだろうし、自分の企画として課長に上げてみたらどうだろう?」
備品のレンチをレイダーの座っていた椅子に振り下ろすジェニファーを見ながら、班長のナンブが助け舟をだす。
Team R-TYPEは徒弟性ではなく、完全なる能力主義だ。
若者であろうと、定年を超えていようと、人格が破綻していようと上に上れる。
しかも、必死に勉強して努力で才能を補う者と奇想天外な発想やインスピレーションを理論で追う者、
どちらが革新的な機体を作れるかというと、やっぱり後者であることが多いため、
Team R-TYPEのある基準以上の研究者は、一般的に狂人といわれることが多い。
「でも、ここD系列機の研究班ですし、抜け駆けする様で……」
「今すぐ居なくなられるのは困るけど、先に仕込んでおくのは良いのでは?
ほら、シューティングスターの時、先に起案と通しておけって言ったのは君だろう?」
「分りました。では先ほどの案は派生系列とし別途起案します」
「では、R-9D2は狙撃距離、精度を高める方向で良いか?」
こうしてD系列開発の傍ら、DH系列開発の種が播かれた。
***
R-9Dシューティングスターは白色の装甲を剥かれて、整備台に乗っている。
コックピット下部から異様に伸びる波動砲コンダクタが異彩を放っている。
それを見上げる様にして今回初参加のレイダーが発言する。
「シューティングスターって結構中がスカスカなのですね?」
「冷却機構が出力不足だったから、波動コンダクタと冷却機周辺が異常加熱する。
で、空間を開けることで無理やり何とかしているんだ」
「古い機体だから各機関の小型化もされていないからっていうのもあるわね」
ナンブとジェニファーが懐かしそうに話す。
実際、シューティングスターの用途は、究極的には波動砲による砲台なのだ。
開発は譲歩しなかったが、限られた予算で数を揃えるために、
アローヘッドの部品を多量に流用し、高価な部品は極力使っていない。
塗装すらアローヘッドの基本色と同じにした。冷却機と波動コンダクタなど例外はあるが。
「単純な試算では内容量は85%くらい小型化できそうですね」
「それだけあれば3ループか4ループ位の圧縮回路は組めそうだな」
「冷却機が大型化するのと、精密射撃用の機材を詰めるので、3ループが限界ですね」
そんなことを良いながら、端末の中に青写真をくみ上げていく三人。
第二次バイドミッションも終了し、急な開発に追われていないため、
なんとも、ゆったり和気藹々としたものだった。
***
数時間して、意見が出尽くしたころ、班長のナンブは新しい機体案を
データ上でくみ上げて見ることにした。
「全長よりコンダクタが長いってどういうことだ」
「それより、後ろのバーニアがなんかアレですね」
「うーん、波動砲って実砲身が無いのが特徴ですけど、これって最早砲身ですよね」
圧縮波動砲Ⅱの狙撃性を高めるために加えられた色々な仕様。
コックピットより突き出した波動コンダクタ
狙撃時の姿勢制御のため、後部に増設された4つのリアアームバーニア
シューティングスターより継承した、シールドの様な照準用のディスク・レドーム
対して、機体性能そのものは据え置き。
もっとも、内部部品は新たな物に改められているが、それによって生じた余裕は、
すべて狙撃用の機能に吸い上げられ、機体性能はシューティングスターから全く変わっていない。
「うーん、尖りすぎたか。予算が多めに出るなら内部ももっと弄って高性能にしてみるか」
「でも特殊用途機ですし尖って何ぼです。それに予算は取り合いですから最初に盛っておかないとでませんよ」
「狙撃砲にR機が付いた感じですか?」
ナンブ、ジェニファー、レイダーが微妙な感想を述べる。
慌てたように、ナンブが自分の作品を擁護する
「いや、だってほら、月-地球間距離で連続狙撃が可能だし、
高機動が向かないって言っても、巡行速はアローヘッドと同じだし、
それでも接近された時のためにR-9Dと同じディフェンシヴフォースもつけるし」
「ディフェンシヴフォースって……」
ディフェンシヴフォースはTeam R-TYPE基礎研究班のフォース改良計画によって生み出されたフォースで、
その名の通り、防御に秀でているフォース……という事になっている。
何らかの理由でミサイル、波動砲が使えない自体を想定し、
接近されても機体を守れるだけの性能を持ったフォースを目指したのだが、
実際には、接近戦を考慮しすぎたため、最高火力を出すには密着状態が必要という
バランスの悪いフォースになっている。
もっとも、利点としてはバイド係数が低めで、安定しているため、
廉価で、利用しやすいといったメリットもある。
デメリットの方が大きいため、今のところシューティングスターのD系列しか用いられていないが。
「ま、まあ、課長に出してみるか」
「じゃあ、OKがでるまでの間、私は新規案をまとめています。レイダーも手伝って」
「あ、はい」
***
D系列研究班の研究室には二通の開発書類が並んでいる。
一つは超射程機R-9D2“モーニングスター”
もう一つは、持続式波動砲のR-9DH(仮)
「ええと、私もまさか班長の計画と私の計画が同時にGOサインがでるなんて思わなくてですね」
「分かってるさ、計画書を書いておけっていったの俺だし。でに、これR-9DHの方が予算多いって……!
俺の狙撃機が……D系列が開発打ち切りってどういうこと? どうしてこうなった?」
そんな会話もあったがR-9D2モーニングスターの試作が着手され、
その後にR-9DH開発班が発足する運びとなった。
班長のナンブは事あるごとに「開発中止なんて気にしていない、全然気にしてない!」と
言い続けていたが、明らかに意気消沈していた。
ちなみにR-9D2は、結局、波動砲以外の機体性能は据え置きだった。