プロジェクトR!   作:ヒナヒナ

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R-9DV2“NORTHEN LIGHTS”

R-9DV2“NORTHEN LIGHTS”

 

 

 

 

「ティアーズシャワーの問題点……か」

 

 

バルカン機であるR-9DVティアーズシャワーを開発したDV班では、

軍部より回されてきたよく分らないアンケートだか意見書だかを眺めていた。

 

 

もともと、大本となるD系列からして機体性能はそのままに、

狙撃系波動砲の改良のみを追って進化してきた系列である。

正直、重量等の関係で機体性能自体は最新リニューアル版の量産型アローヘッドの方が良いくらいだ。

そんな現場の声に答えてティアーズシャワーではフォース、レーザーに改良を加えたのだが、

それが微妙に評判悪い。

 

 

「一人で悩んでいても効率が悪い。誰かに聞くべきだな」

 

 

白衣を着ていなかったら、軍人と間違えられそうなくらいの体型の男、

DV開発班の班長であるラヴィダが呟いた。

 

 

***

 

 

会議机には班員エルとトレン、班長のラヴィダが雁首をそろえて座っている。

 

 

「さて、今日のR-9DV2(仮)に向けた検討会を行う」

 

 

ラヴィダが前作ティアーズシャワーからでてきた意見をまとめる。

 

 

雑魚掃討用という波動砲コンセプトと実際性能の乖離

機体の扱いづらさ

ディフェンシヴフォース改に対する現場の不信感

“残忍”であること

 

 

机の上に足を乗せて不真面目に話を聞いていたエルと、腕を組んでいたトレンが感想を述べる。

 

 

「つまりは波動砲が原因ってことかな」

「エル、すべてがそうとは言い切れないのでは?」

「まあ、確かに波動砲を活かし切れなかったのが痛かったしなー」

 

 

当閉所突入支援として開発され、ともかく弾をばら撒いて敵を掃討するのが

R-9DVティアーズシャワーのコンセプトだった。

R-9DH系列の持続式圧縮波動砲、所謂“なぎ払いビーム”をバルカンで行えば、

雑魚を効率的に蹴散らせるのではないか?

そんな発想があったからバルカン機はDH系列から派生し、D番を付けることになったのだ。

 

 

しかし、ケチが付いたのは機体性能だ。

支援機ということでD系列は基本的に動きが鈍重だ。

それでも重いコンダクタさえ何とかなれば、機動性に期待がもてる。

そんなこんなで出来たのがR-9DVで、実際のカタログスペックも優秀だった。

 

 

「そうだよな。まさか機体に振り回されて、弾をばらけさせるための微調整が出来ないとは……」

「そりゃあ、スポーツカーのエンジンを軽自動車に載せたら街乗りには適さんよな」

 

 

エルの軽口にトレンが乗っかる。

そう、馬鹿でかくて重いR-9DHシリーズ用の主機や操作系統は、

その重さから解放された瞬間非常に扱いづらいものになっていた。

Team R-TYPEのむちゃぶりに慣れたテストパイロットならともかく、

一般パイロットでは機体のアンバランスさに付いていけない者が多数だった。

本来なら機軸を微調整しながらバルカン状の波動性光子弾をばら撒くはずだったR-9DVだが、

波動砲を撃っている途中にそんな機動をしようものなら事故必死で、

単純に前方にだけ波動粒子を集弾させる結果になった。

 

 

“掃討戦用”の売り文句に対して、全く反対の“デカ物専門”となってしまった訳だ。

 

 

ラヴィダが、バルカンについての意見を述べる。

 

 

「思ったのだが、コレを今から本来の雑魚掃討用に戻すのはどうかと思う。

それより、大型バイドに対する適正は非常に高いというデータもあるので、そこを伸ばしたい」

「じゃあ、機動性は捨てるの? 無いわぁ」

「そういうなエル、その代わりにDH系統のしたように発射時間と発射数を増加させる。

コレによってさらに大型バイドに対して強力な武器になるし、波動コンダクタの重量が増すから、

重量増でアンバランスは解消されるだろう。」

「班長の言うとおりだな。幸いバルカン型のコンダクタの径は増すが、長さはそれほどではないし、

なにより形状から冷却が容易だ。DH系列みたく背負う必要は無い」

 

 

最後は余り発言が無いトレンの意見だ。

意見が粗方出たと見たラヴィダが纏めに入る。

 

 

「よし、ではR-9DV2は光子バルカン装備強化型として、対大型バイド機として企画書を上げてみる。

もしダメだったら、フレームから考え直しとしようか」

 

 

***

 

 

課長室にノックしてから入るラヴィダ。

肩幅の広く体が大きい彼が部屋に入ると、妙に圧迫感がある。

それを迎えるのは細身でビジネスマンと前衛主義の入り混じった様な格好をしたレホスだ。

 

 

「以前から意見のあったR-9DV2ですが、光子バルカンはそのまま、ただし対大型バイド機

として開発したいと思っています」

「これが企画書ねぇ。……で、わざわざ期待外れだったDVシリーズを続ける理由は?」

「此方です。ティアーズシャワーの時点で下手な波動砲より強力ですが、

後継機のR-9DV2ノーザンライツでは2倍の発射数と発射時間を目指します」

「R-9DV2ノーザンライツ……オーロラねぇ。コレはコレでありかなぁ?

棚ぼたって奴? まあいいさぁ、これも尖らせた方が面白そうだし研究に入って良いよ」

 

 

データと企画書とを見比べながらレホスは気の無い返事を返すが、

いつもの事なので、ラヴィダはそんなに気にしない。

目の前の課長は責任を取るのは嫌いだが、有用な物は見逃さない研究者としての嗅覚に

優れていることを知っているのだ。

 

 

一礼して、課長室を出ようとしたラヴィダにレホスが声を投げかける。

 

 

「実は、ティアーズシャワーのあの話が漏れちゃって、上層部からどうにかしろって言われてさぁ。

面倒だけど、それっぽい言い訳を流してみたんだけどー。

誤魔化すのって結構疲れるからぁ、今回は“あーゆーの”は無しにしてね」

 

 

***

 

 

とある基地での怪談話

 

 

R-9DV系列機の話って聞いたことあるかって?

そりゃお前有名な話だろう

なんだ、お前は聞いたこと無いのか?

ああ、知らない顔だし最近この基地に来たんだろ?

当りか! まあ、退屈はさせないから聞いていけよ

 

 

ほら「R-9DVやR-9DV2の光子バルカンは残忍である」と言われているじゃん?

そうそう、それだよ。ティアーズシャワーとかノーザンライツとかいうR機

それってさ、みんなに「何で残忍なんだ?」って聞くと、何か納得できない顔して

「多量の弾によって形状を留めないほどに破壊されるのは、バイドであっても残忍な殺し方である」

ってのが理由だって答えるじゃん?

そう、なんだ、やっぱりお前も聞いたことあるんじゃねぇか

 

 

いや、それが実は違うんだよ。

 

 

俺の知り合いが友人に聞いた話だと、何でも、実験段階で事故があったって話なんだ。

そう、この基地に併設された開発施設でだ

それはもう悲惨な事故でさ。いや、バイド汚染じゃないよ

“R-9DVの光子バルカンの発射実験中に、ザイオング慣性制御システムがダウンし、

その連続的かつ激しい振動によって、テストパイロットが口に出すのも無残な形状で発見されたから”

ってことらしいぜ。

ほら連続波動砲発射テストって、ともかく規定回数撃ち終わるまでは、

緊急停止コードを入れないと止まらないらしくってさ。

死んだパイロットは試験官が異変に気づいて止めるまで、ずっとその振動でシェイクされていたらしい

それを見ちまった整備員はゲロ吐いて一週間寝込んだそうだ

で、「バルカン機は残忍だ」って話になったって

 

 

え? R機の事故なんてそんな物だろうって?

いやいや、なんでも死体じゃなくて、最早液体だったらしい

それが振動でシェイクされてブクブクに泡立ってコックピット中に赤い泡が広がっていたんだってさ

知り合いが言うには、ノーザンライツのコックピットカバーが赤いのはその所為だって

……いや、流石にそれは眉唾って言うか、俺を怖がらせようとして言ったんだと思うが

まあ、そんな噂があるんだよ

始めに話した一般的な噂ってのはTeam R-TYPEの奴らが、その失敗を隠そうとして、

ワザと流したカバーストーリーだって言うことだ

あいつらならやりかねんよな

 

 

それより、この話の一番怖いのはこれからだぜ?

 

 

実はな、この話を聞いた奴には、3日以内にTeam R-TYPEが訪ねてくるって話だ

そいつらに、バルカン機の話を聞かれて、普通に言われている方の話をすれば問題ない

でも、今、話した本当の話の方を聞いたことを言っちまうと……もう分るだろう?

俺にこの話をしてくれた知り合いの友人は、挨拶も無く突然いなくなっちまったってよ

知り合いの方は俺以外には話していないらしいから、生きているけどな

さあ? ここは実験施設があるから、実験体としてTeam R-TYPEに連れてかれるんじゃね?

 

 

じゃあ、お前さんも気をつけろよ

白衣の奴らに呼び止められないようにな

え? まだ話をしたいって? いやあ、モテル男は辛いね!

俺は予備パイロットだから、このシミュレーターあたりにいつも居るさ

この話は、ここの整備の一人が話してくれたんだ

 

 

そういえば、お前どこの所属なんだ?


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